第2話 奴隷に囲まれてたらもう奴隷ハーレムってことでいいよね
カーン…カーン…
あちらこちらから耳をつく甲高い金属音が響き渡る。
周囲に目をやれば、吊るされたランタンの明かりが剥き出しの岩肌とそれを支える木の枠組みを照らし出している。
うん、そうだね。ここは男の夢とロマンが詰まった皆大好きな坑道だね。
そんな中、俺は溢れ出す地下水を汲み出すという男気溢れる作業に従事して、とてもやりがいを感じています。
充実した労働をしたために額を流れる汗が目に入りそうなので、首にかけた手拭いで汗を拭きます。
ああ、輝いてるなぁ俺。
「オラァ!そこのガキがサボりくさってんじゃねぇぞコラボケカスがぁ!」
「ぐはぁっ」
汗をぬぐっていたら上司の方に熱の入った指導をされてしまいました! これは俺としたことが失敗してしまいました。
上司の皆さんは、部下が怠けてると棒のような何かで殴って教えてくれます。あれは座禅で使う警策のようなものでしょう。新人教育がしっかりしていますね。
おまけに、俺の首には周りの皆とお揃いの革製アクセサリーがついていて、南京錠のようなものでとめられています。これは日本でいうところのネクタイみたいなものでしょうか。皆と同じだと一体感が生まれますし、アットホームな職場といっていいのではないでしょうか。
って、そんなわけあるか!
はいどうもこんにちは。
階段から転落して死んでしまった後、異世界に転生した元大学清掃員さんです。
皆さんお分かりの通り、現在奴隷として鉱山で強制労働させられています。
どうしてこんなことになったのだろうか。
これには語るも涙聞くも涙の深い訳があるのだけど、働く手を休めると怖いおっさんに殴られるのでしっかりと地下水を汲み出しながら思い返してみよう。
そう、俺が初めて転生して生まれ落ちたのはアルカンド王国にあるソノレ村というところだった。
村人のほとんどは農民で、国の税制やら生活レベルを見るに文明は中世程度。後々わかったけれど、この国は割と良い治世だったようで暮らすに困るほどの重税はかかってなかったね。
これといった特徴もない貧しい村だけれど、住人は皆家族のようで暖かい雰囲気の場所という印象だった。
そこで俺は両親の愛情をたっぷり注がれてすくすくと育ったんだ。
両親は文字が書けなかったけれど元日本人としては文字が分からないのは落ち着かなかったし、異世界テンプレ的にも子供の頃から読み書きできるのが必要そうだから、3歳の頃に村長に頼んでしっかり習ったんだ。ちなみに、自動翻訳スキルとかはなかったよ!
ともあれ、3歳にして読み書きを覚えたら天才だなんだと騒がれたっけか。
読み書きを覚えてからは村に少しだけあった本を読んでみたり大人から話を聞いたりして、この世界に魔法があることはわかった。
そりゃもう喜んだね。異世界に魔法とくれば、転生者の活躍間違いなしだもの。
だけど、結局魔法の使い方はわからなかった。この世界の魔法使いの数は少なくて、魔法の使い方は魔法使い達が秘匿してるんだって。
だから魔法はとりあえず諦めて、戦い方を学ぼうと思ったわけだ。
聞けばこの世界には魔物が沢山いるって言うし、当然村人には戦える人もいたからね。けど、習ってみたらメイン武器は鍬だった…。
さらに期待してたスキルシステムやらレベルなんかも存在せず、これどうしたらいいんですかね…なんて思いながら7歳の誕生日を迎えた頃に転機は訪れたんだ。
結果から言えば、その日、村は魔物の襲撃を受けて壊滅した。
父も母も村長も、鍬術(?)を教えてくれたおっさんも皆魔物に食われたり連れ去られた。しかも、襲撃に来た魔物というのがなんと雑魚モンスター代表選手のゴブリンさん。成人男性より少し小さくて、醜い顔をした全身緑の皮膚の魔物だね。こん棒とか使うよ!
ゴブリンって普通に人間以上の力もあって強い上に集団で襲ってくるから恐ろしいね!
まあ、俺は何もできずに蹂躙されていく村の様子を見ていたら、ゴブリン達にこん棒でがっつり殴打されて…死んでしまった。
そう、死んでしまったのに今生きてるよね!
実はチートはありました!
気が付けば俺はまた見知らぬ天井を少しぼやけた視界を通して眺めていて、手足の自由はきかなくて…
前もこんなことあったね。
うん、「また」なんだ。すまない。仏の顔もって言うしね。
つまり俺は再転生しました!
そのあとわかったのは、前回の転生とは全く違う場所に転生していたこと、そして生まれた日は前回ゴブリンに殺された日だったということだった。死んだ日に別の人として生まれ変わるってことは、死に戻りとかじゃないんだね。
一言で言うと使いづらい…。
知識は引き継げるけど、あまり役に立たない知識しかないよ。
というかこの再転生ってチート能力とかじゃなくてバグとか呪いの類いだよねきっと。
再転生した場所はアルカンド王国とは言葉も違ったし、また一から覚え直して異世界無双を目指したんだけど…結局何も得られず、10歳のときに流行り病で死んでしまった。
ナニコレ、魔物強いし病気治らないし…異世界怖い。
次の転生もその次の転生も、12歳を迎える前に死んでしまった。
この運のなさ的に本当に呪われてるのかと思ったけれど、この世界の人が成人できる確率から言うと少し運が悪い程度なのかもしれない。
この世界、多産多死が基本だからね。
そうして十三度も転生を繰り返したのに結局12歳を越えることができず村を出ることすら叶わなかったのだが、ついに、今世では2年前に生まれた町を出ることが出来た上に、先週12歳の誕生日を迎えたのでした!
奴隷としてだけれどね。
でも俺の今世での名前はかっこいいよ! アルブレヒトだからね!
奴隷アルブレヒト、うん、いいね。
奴隷だけどね!
いやでも年齢最高記録更新だし、今世は何かある気がするんだよなぁ。というか死ぬのは苦しいし悲しいからもう嫌なんだよね…。まあ当たり前のことなんだけどさ。
と、そんな回想を繰り広げているうちにどうやら鉱山は今日の創業を終えたらしい。鉱山の中は時間感覚が狂うが、外はもう夜なんだろう。
「オラァ、奴隷どもはさっさと引き上げて飯食って寝ろ!」
未だに指示を出してる偉そうなやつの地位がよくわからないけれど、とりあえず鉱山の所有者側の人間だと思われるので指示にしたがって地上に出ることにする。割とキビキビ動かないと殴られるから必死だよ!
ちなみに、奴隷は今までの転生でも一度あったから、今回は二度目だしもうベテランと言ってもいいのではないだろうか。死なないように上手く立ち振る舞えてると思う!
地上では奴隷用の堅くて酸っぱいパンと具のない冷めたスープが渡され、それをなるべく早く食べなくてはいけない。スープの器の数が少ないから使い回さないといけないんだって。
それにしてもパンが堅すぎてスープに浸してふやかさないと食べられたもんじゃないなぁ。
食事が終わったら小屋に年齢が近いもの同士で結構な人口密度になるまで詰め込まれる。狭いし臭いしで辛いけど奴隷だから仕方ないね。ちなみに、肉体労働だから男しかいないよ!
ただ、見張りに直接監視されないこの小屋のなかだけが、唯一気が休まるときでもある。
だからやっとここで奴隷達は同僚(?)との会話を始めるので少し小屋のなかは騒がしくなる。
そんな中で俺に近付いてくるやつの姿が見えた。
「ようアル。今日は一発入れられてたな!」
彼は同僚奴隷のスティーブくん。精神年齢的には俺が年上だから君づけでいいよね。彼は最近ここに連れられてきた奴隷で、確か俺の二つ上の14歳だったと思う。新米なのに誰にでもフレンドリーに絡んでくるいいやつだ。俺のことアルって呼んでくれるのも奴隷仲間では彼だけだし。 他の少年達は年上ばかりで、俺は見下されてるからね。仕方ないね。
というかこの鉱山では俺が最年少なのではなかろうかと最近になって気が付いた。
まあ若年層は入ってきても体力少ないから死んじゃう子も多いしね…
俺も一度目の奴隷のときは力尽きて死んじゃったし。
ともあれ、話しかけてくれたなら返事はしないとね!
コミュニケーションは大切だよ。こんな人口密度の中でいじめられたらそれこそ命に関わるし!
「スティーブさんこんばんは。今日は失敗してしまいました…。ところで、どうしましたか?」
年上には敬語、これやっとけばなんとかなる。
「お前は相変わらず話し方が固いな」
ダメかもしれない。
「まあいいや。それよりよ、今日はお前の故郷の話を聞かせてくれよ」
スティーブくんは俺のことが気になっている…というわけではなく、こんな奴隷生活だと娯楽なんてないわけで、外の世界の話を聞くのが数少ない楽しみの一つなんだよね。
だから語ってあげよう。俺の今世の出来事を。
そう思って、俺の今世へと思いを馳せる。