第18話 旅は道連れ
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「それじゃあ、二人とも今までありがとう!」
目の前のアレクとリザに別れを告げる。
ロイが目を覚まして護衛の依頼を引き受けることになってから一ヶ月が経った。
「アル、元気でな! またこっちに戻ってこいよ!」
「アルさんきっとまた会いましょう!」
二人も別れを惜しんで挨拶してくれる。今世では良い友ができて嬉しい。日本でもこんな良い友達いなかった気がするんだが。コミュ障で基本ぼっちだったからな。俺も二人にまた会おうと言いながら握手をする。握手ついでにリザが抱きついてきてびっくりしたが、震える手で抱きしめた。女の子に慣れてないことがバレないかハラハラしたが、リザはそんなことは特に気にした様子はなかった。俺のことは特に異性としては意識していないようだ。
「忘れ物はない? 冒険者ギルドは世界中のどこにでもある冒険者の味方だからね!」
ギルドの前で旅立ちの挨拶をしていたせいで受付のお姉さんも出てきてくれた。そして準備はこの一ヶ月を使ってしっかりとしたつもりだ。この間の魔結晶の売却金を使って度に必要な備品を買い揃えた。もちろん一級品は買えないが最低限の性能を持つものを買えたと思う。テントだって魔獣の皮と骨を使った軽いやつだし、ランプは雨の日でも火が消えない構造のものだ。残念ながら馬車や馬は買えなかった。というか中古の馬車一台で安くても金貨5枚とかするんだが。それから買ったときからすでにボロボロだった革鎧も買い換えた。硬い魔物の革を大胆に使った、中古だがとても良い物が格安だった。べったりと黒い染みが鎧の各所に付いていて、どうやら前の持ち主はこの鎧を買った直後に首を一撃で落とされたせいで死んで、鎧だけ中古市場に流れてきたらしい。大体のものは平気で使ってしまう冒険者たちも流石にこの縁起の悪さはいただけないようで格安な値段にまで下がってしまったんだとか。俺はそんなことは気にしないから買ってあげたよ。
とまあそんな具合に装備も旅の道具も揃えて、なおかつこの一ヶ月は鍛錬とランク上げにいそしんでいた。流石にFランクに上がることはできなかったがそれなりに依頼はこなせたしダンジョンにも何度も潜った。ただ魔結晶は前回採り尽くしてしまったようで見つからず、リザが本気で残念がっていた。あの子は大丈夫なんだろうか。
「アレク、リザ、二人とも私がいなくても鍛練を怠らずに、できればダンジョンへも潜るのよ?」
そしてこの人、伝説の万年Eランク冒険者ヘレナは何故かちゃっかり俺についてくることになった。理由を尋ねたら「楽しそうだから」とか言っていた。
「ヘレナさん、ここから西の国は差別が厳しいと聞きますが本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、それは全然平気よ。私はどこの国でもそこそこ名前が売れてるからそんなに差別されないし。それに、いざとなれば人間族に変身する魔法薬とかあるからね」
「ああ、じゃあもう付いてくるのをやめる理由はないんですね」
「ないわね」
うんわかった。この人が付いてくるのは確定だ。
ヘレナのことはもういいとして、その隣に立っているロイに目を向ける。
「ロイは脚の具合はどう?」
「ああ、お蔭様でだいぶよくなったよ。君たちの看病と、薬草の軟膏がよく効いたんだね」
「ポーションほどではないけどよく効くよね。血止めと痛み止めと化膿止めに加えて治癒促進の効能もある万能薬と言ってもいいと思う。旅に備えて少し多めに買っておいたから傷が痛んだら言ってね」
「ありがとう。さて、それじゃあ、そろそろいいかな?」
そういって、ロイは少しだけ真剣な顔をする。目で出発の時間だと語っている。この後俺達は乗合馬車で街道を西に進んでこのフィアット王国の首都エルフィアへ向かう予定だ。その乗合馬車の出発時間が差し迫っている。
「そうだね、そろそろ行こう。それじゃあ皆今までどうもありがとう。しばらくしたら必ずまたここに寄るからね!」
大きく手を振りながら馬車の停留所まで歩いていく。皆も手を振り返してくれて心が温かくなる。名残惜しいが通行の邪魔になるしいつまでもそうしているわけにもいかないので前を向く。ここからライト王国まで、陸路だとかなり急いでも半年、普通は一年近くかかるため、次にこのローリアを訪れるのは早くても二年後になるだろう。その頃もまだ皆変わらず元気にしていてくれるだろか。
☆
「はいよ、首都エルフィアまで一人銀貨2枚だよ」
停留所で乗合馬車の御者に三人分の銀貨6枚を払う。馬車は二頭立ての大きな物で、既に二十人ほどが乗っている。街道が整備されているから重い車体でも走れるのだろう。
「ロイ、この調子だと途中で路銀を稼がないといけないかもしれない」
「私がちゃんと前払いできなかったのがいけないんだ、途中で稼ぐのも仕方ないさ。それに時間的な余裕はある程度はあるからね」
「稼ぐならこの私も手伝うから安心してね」
俺達はそんな話をしながら馬車へと乗り込む。ちなみにロイはローブのフードを深めに被って顔を隠している。まあロイの身分はほぼわかっているし、こうやってお忍びで国に帰らないといけないというのは何か事情があるのだろう。
「それじゃ、出発するよー」
そんなことを考察していたら御者のおっさんが出発を告げると同時に馬に鞭を入れ馬車が動き出した。掛け声と出発のタイミングおかしくないか。
とまあ、そんなこんなで俺達の旅は始まったのだった。