第17話 ロイの依頼
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「ううん……ここは……?」
盗賊から逃げ出してきたところを俺達が助けた男が、目を覚ました。
今は盗賊と戦った日の翌日の夜。
あの後、俺たちは全身血まみれだったので近くの川で水を被って血を落としてからローリアの冒険者ギルドに事のあらましを報告した。その情報はすぐさま騎士団に伝えられたらしく、明日には討伐隊が編成されるようだが、もう奴等は逃げているかもしれない。
俺たちはそのまま宿へと戻り、鳥の羽休め亭の俺の部屋を二人部屋に移して、その片方のベッドに助けた彼を寝かせていた。矢に射ぬかれた脚には良く効くと評判の薬草の軟膏を塗り包帯を巻いたら出血は止まっていたので、そう遅くないうちに目を覚ますだろうとは思っていた。俺は眠れる気がしなかったので、せめて助けた命を見ていれば少しは殺人の罪悪感や気持ち悪さを忘れられる気がしたのでこうして起きるまで見守っていたのだった。
「ここはローリアの鳥の羽休め亭という宿です。脚の具合は大丈夫ですか?」
「そうか、君が助けてくれたのか。脚は痛むが動きはするようだ」
男は上半身を起こしてこちらを見る。
「そうですか。助けたのは俺だけではありません。今仲間を呼んできますね」
そういって、宿の別の部屋にいたアレクとリザを連れてくる。
☆
「改めて、私の名前はロイだ。危ないところを救ってもらったこと、礼を言わせてもらうよ」
そう言って、ロイはベッドの縁に腰かけて頭を下げる。俺達もそれぞれ自己紹介をする。
「ところで、私の他に鎧を身に付けた者が二人いたはずだが、彼らは……」
「申し訳ありません、彼らを助けることは僕たちの実力では叶いませんでした」
ロイが盗賊から逃げ出す時間を稼ぐために囮を務めた二人の鎧の男。彼らを十人以上を相手に時間を稼いでいたが、それを助け出すほどの力は俺達にはなかった。どうしようもなかったとはいえ、正直悔しい。
「いや、いいんだ。君らには感謝こそすれど非難などしようものもない。彼らは彼らの矜持を貫いただけで、気に病むことはない。責を負うべきは彼らが仕えたこの私なのだから」
「そう言っていただけると助かります。ところで差し支えなければあなたの身分について伺っても?」
「私は……そうだな、大きな商会の頭取の息子とでも思っていてくれればいいよ」
完全に嘘ですねわかります。
昨日あの鎧の人達はロイのこと殿下って呼んでたじゃん!
いやまあ俺の知らないところで商会の頭取の息子を殿下と呼ぶ風習があるのかもしれないけどさ。普通の国なら不敬罪だからねそれ。
つまり常識的に考えると、どこかの国の王子だけどそれを言いたくない事情があるということだろうな。
「君達は冒険者なのかな」
「そうです、Gランクですが」
「Gランクで盗賊を退けるとは大したものだね。子供だと侮ってはいけないようだ。ふむ、君らに頼むか……」
ロイは思案げに手を顎に当てる。
「君らの信頼できる冒険者を紹介してくれないだろうか。私は北西大陸のライト王国を目指していてね、そこまで護衛がほしいんだ。出来れば北西大陸語が話せると助かるんだけれど」
"ライト王国"
その言葉に俺の心がざわつく。
俺の今世での故郷のある国。そして俺の幼馴染み達がいる国でもある。これまで個人的に調べてはいたのだが俺の両親の手掛かりもこのフィアット王国ではろくに手に入らなかったことからすると、ライト王国にいるのかもしれない。
いずれは行くべきかとは思っていたが、こういう形でくるか。
「僕は、ライト王国出身なんです。ですから、僕が護衛の依頼を受けたいのですが」
「おいアル!」
「アルさん、ライト王国ってすごく遠いんですよ!」
アレクとリザがこちらを向いて驚きの表情を浮かべる。
「アルブレヒト君といったかな。君はまだGランクだろう。僕はわけあってここから先は命を狙われる恐れがある。そんな護衛の依頼が君にできるのかな」
「それはわかりませんが、北西大陸出身の冒険者はおそらくローリアにはほとんどいません。ここは低ランク冒険者の街ですから、高ランク冒険者は商人などに雇われて訪れるだけです」
「なるほど、それなら命の恩人でもある君が一番信用できるということかな」
ロイは面白そうに笑う。それに対してアレクとリザは突然の展開に戸惑っている。
「なあアル、お前いっちまうのか?」
「私とお兄ちゃんはまだここを離れるつもりはないのですが……」
「アレク、リザ、すみません。いつかはライト王国へ行かないとと思っていたんです。この機会を逃したら次にいつ行けるかわからないですし、僕はこの依頼を受けようと思います」
「そっか、アルがそこまで決心してるなら何を言っても仕方ないんだろうな」
「アルさん……」
二人は寂しそうな顔を浮かべる。
「ではアルブレヒト君、護衛の依頼を頼もうかな。ただ今の私は一文無しでね、報酬はライト王国についてからとなってしまうんだ。これもほかの冒険者に依頼を出しづらい理由なんだけれど君はこの条件でも構わないかな」
「ええ、手持ちのお金が無さそうなのはわかっていましたから。それと俺のことはアルでいいですよ」
「わかった、アル君と呼ばせてもらうよ。できれば君も敬語はやめて普通に話してもらえると助かるんだけど」
「それは……」
「君とはもっと親しく話したいし、故あって私はなるべく庶民を装いたいから対等に話してくれた方が依頼の上で助かるんだよ」
「それでしたら……わかった。普通に話させてもらうよ」
そう言うと、ロイは白い歯を見せて笑った。
「おいアル、だったら俺たちとも対等に話してくれよ! スティーブだってずっと敬語で悲しいって言ってたぞ!」
「そうです、私もアルさんには敬語じゃなく話してほしいです」
アレクとリザが詰め寄ってくる。
「あ、そう……なんだ。うん、わかった、今までごめん。ちょっと人との距離感が苦手でさ。でもこれからは普通に話すよ」
そういって精一杯の笑顔を浮かべてみる。
「うわぁ、アルの笑顔、何かにちゃっとしてて気持ち悪いぞ!」
「アルさん笑うの下手ですよね……」
「え、今までそんなこと思ってたの!? 俺はもう笑わないことにする!」
「あははは」
「ふふふ」
笑う二人を見てたら、結局俺も笑ってしまった。
そんな俺たちを見てロイも笑っていた。
その後、宿の酒場で夜食を買ってきて部屋でロイも含めた皆で食べた。ロイの護衛依頼の出発は脚の傷が癒えてからということに決まり、それまで俺は旅の支度を進めることになった。明日からは忙しくなりそうだ。