第15話 かまいたち事件その1
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あれから俺はぶっ続けで潜ろうとしたのだが、まさかのヘレナに窘められて地上へと戻ることになった。というのも、地上に出てみたら既に真っ暗でどうやら深夜に近い時間になっていて、ヘレナはそのことに気が付いていて俺を止めたようだ。ダンジョン内では時間の感覚があいまいになっていつの間にか集中力が切れ、それでミスを犯し命を落とす冒険者も多いとのこと。ダンジョン初心者がまず気を付けるべきことらしい。さらにダンジョン内での野営には特殊な魔道具か、かなりの慣れが必要だそうで今の俺たちにはダンジョン深部の探索は厳しいと言われた。
そこでこう思った。ならば魔物を殲滅しながら進んでいけば地上に戻っても、翌日潜るときにもっと早く潜れるのでは、と。殲滅しても深部の強い魔力によって生み出された強力な魔物が出てくるとかそういうことは無いらしく、この作戦にはヘレナも笑顔でオッケーを出してくれた。水は近くに泉があるし、食料はオオトカゲやらオオカミやらの肉が豊富に採れたので大して問題にならなかった。
そうして潜り続けること一週間。俺達は魔結晶を四つも見つけてしまった。その紫の輝きが金貨の輝きに見えたぜ。それと同時に、俺達の体にも変化が起きた。四つ目の魔結晶を手に入れてホクホク顔で寝床についた俺たちだが、その晩三人とも体に走る凄まじい激痛に襲われるという事態が起こったのだ。体中からメキメキと音がする程の軋みが走り、まるで自分の体が作り変えられるような恐怖と苦痛に結局一睡もできずに迎えた翌朝、へレナにそのことについて聞いてみれば
「ああ、それは更身したのね、思ったより早かったわ。うん、これで君達は所謂レベル1よ。おめでとう」
なんて普通に祝われたが、これが更身らしい。というかやっぱり更身のことレベルって呼ぶんだね、ファンタジー感出てますわ。
ともあれ、普通の冒険者なら一生に一度のそれをここで経験できるとは中々のペースではなかろうか。アレクやリザもそう思ったらしく笑みを浮かべながら
「俺たち一流冒険者に近づいたな!」
「これで私たちは更に稼げますね!」
などと騒いでいた。というかリザは魔結晶見てから急に金貨の魅力に取り付かれだしたね。そしてそんな彼らと一緒に、俺も浮かれた。だって実際動いてみてわかったけど、明らかに身体能力が向上しているのが実感できるレベルなのだから。と、そんな感じで浮かれてたら、
「レベル2に至るための二度目の更身は一度目の数百倍ほどの魔物の命を必要とするから頑張ってね!」
なんてヘレナの台詞に水を差されたが、まあいいさ。強くなったし、お金も稼げたしこれで喜ばなくてどうするというのか。
「ただ、ダンジョンは深くなればなるほど魔力が濃くなって魔結晶は増えるけど、それ比例するように産み出される魔物の強さも上がっていくわ。だから君達の実力としてはこの辺が限界じゃないかな」
ヘレナは引き際だと言っているのだろう。それに深くにいる強力な魔物が浅いところに出てくるなんて事故もあるみたいだし。加えてパンやランプの油など、用意してきた物資もなくなってきたので、俺達はローリアに帰ることにした。持ち帰った魔結晶と集めておいた魔物の素材をギルドで換金したらなんと金貨八枚を越える値になった。どうやら一つ大きくて純度の高いものがあったようだ。それをヘレナも含めた四人で分け合い一人当たり金貨二枚を超えるというとんでもない収支をたたき出した。俺達の普段の稼ぎは多くても一日銀貨三枚がいいところなので、今回のダンジョンだけで普段の一ヶ月の収入を軽く超えた。世の中には一攫千金を求めてひたすらダンジョンに潜る者もいると聞くが、今俺の手のひらの上で輝く黄金の硬貨を見ているとダンジョンの魅力に取り付かれるものが後を絶たないのも頷ける。隣のリザは取り付かれつつあるので後で元に戻しておかないとな。
そんな風にギルドの受け付け前ではしゃいでいたら、受付のお姉さんがやってきた。
「あなたたち、しばらく見ないと思ったら随分稼いできたわね。さすが伝説のEランクの指導といったところかしら」
「こいつらが必死になって頑張った成果だよ。私は大したことはしていない」
「ヘレナさんは本当になにもしてないですよね」
「なっ! 魔物の弱点からダンジョンでの注意点まで事細かにアドバイスしてあげたでしょ!」
「あーそれ自分で言わなければカッコ良かったのにな!」
アレクの突っ込みに俺達が笑うとヘレナは悔しそうに手を握って「ぐぬぬ……」と言ったきり黙ってしまった。
「楽しそうなところ悪いんだけど、ちょっと依頼を受けてくれないかしら」
そんな俺たちに受付のお姉さんは真面目な顔で話してくる。
「お姉さん、どうかしたんですか……?」
「ああ、そんな深刻な問題ではないんだけれど他のパーティーが二度失敗してる依頼があってね」
リザが心配そうに尋ねたのでお姉さんは軽く笑顔を作って詳細を説明してくれた。
それによると、どうやらここ二週間ほど城壁外の農作物が切り裂かれるという事件が頻発しているらしい。そこでギルドに犯人探しの依頼が来てまずそれを引き受けた冒険者は犯人を見つけることができず、さらに次に受けた冒険者も手掛かりすら掴むことができなかったとのこと。危険はないのでFランクの依頼とされているが、二パーティーが失敗した難易度となるともう受け手がいなくて困っているらしく、そんなときに帰ってきた俺達に白羽の矢が立ったということだ。
「そんな難しい依頼、僕たちだけでできますかね?」
「今回は事情も事情だから、不達成でもペナルティはなしになっているし出来れば受けてほしいのだけど」
美人のお姉さんが困った顔をすると破壊力が凄い。何でもいうこと聞いてあげたくなっちゃう。
「まあ待ちなさいな、その依頼は私も手伝うわ。きっと力になれるはずよ」
「ヘレナさんも手伝ってくれるのですか?」
「ええ、乗り掛かった船だし、ここで見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪いからね」
「それはまあ心強いですが」
「そうでしょうそうでしょう! 私は頼れる先輩冒険者なんだから!」
そういって、それほど豊かではない胸を張るヘレナ。
結局依頼は受けることになったが、今日はもうすぐ日も落ちるので調査は翌日からとなった。
所持金が一気に増えた俺たちは街へ打ち上げに繰り出そうという話になったのだが、ヘレナは何か用があるとどこかへいってしまった。しかたないので俺とアレクとリザの三人で鳥の羽休め亭よりはちゃんとした酒場へ行って食事と酒に舌鼓を打った。
「こ、このお肉美味しいですぅ……」
「こっちの揚げ物もエールに合って最高だぜ!」
「バターがこんなに…」
今まで宿の酒場で塩味のスープと薄いシチューしか食べてこなかったので、普通の料理にとても感動した。
その辺の魔獣と違い厚切りなのに柔らかいステーキも、鳥のフライも、野菜とキノコのバター炒めも、これまで十三度も転生してるのに初めて見たかもしれない。極貧の農村やら奴隷やらの生活しかしてこなかったが、これがこの世界の普通の食事だったのか……。
その後もムール貝のようなもののワイン蒸しや魚のソテーなどを平らげて、俺たちはすっかり満足して宿へと帰っていった。お値段しめて銀貨六枚と大銅貨三枚だったがその価値はあったといえるだろう。なお宿は変えるのが面倒なので結局鳥の羽休め亭のままである。
満腹ですっかり俺たちは眠くなり、すぐに解散して各々部屋へと戻っていった。
しかし、農作物を切り裂くって……まるでかまいたちだな。鎌持ったイタチが暴れてたりはしないよな……。
そんなことを考えながら眠りについた。