第14話 ダンジョンデビュー
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ローリアダンジョン。
旧都ローリアの南東に位置し、ローリアの街が出来たときには既にそこにあったという。人が周辺に住み始めて以来これまでに凶悪な魔物が出たという話は無く、騎士団により定期的に魔物が駆除され安定したダンジョンとして扱われている。さらにダンジョンの周りは分厚い壁に囲まれ、鉄で補強された巨大な門扉だけがダンジョンと外を繋いでいる。これはもちろんダンジョンから出てきた魔物を外に出さないための設備であり、門の開け締めや魔物が出てこないかの監視のための兵は常駐しているが、外から人が入る分にはなんら規制はない。
俺たちは眩しいエルフのヘレナと共に、そんなローリアダンジョンの前まで来ていた。囲壁の門を潜った先へ進めば、目の前には平地にぽっかりと穴が開いていて、そこから斜め下へと洞窟が伸びている。直径5メートル以上はあるかという大きな穴だが中には明かりがなく、先が見えない。某ゲームのダンジョンのアイコンとかのイメージから、入り口は丘とかに横向きにあると思ってたから予想外だった。そしてあの怒濤のような勢いにまみれたエルフに流されるまま来てしまったが未だに理由すら聞けていないため少し会話を試みる。
「あの、僕達はどうしてダンジョンに?」
「それはだって、やっぱり男の子なら強くなりたいでしょ? なら更身するために沢山殺さなきゃ」
「わ、私は女の子なんですけど……」
強くしてくれるためだったようです。このエルフ、事前の説明もこっちの承諾も一切気にしないスタイルなのだろう。そしてリザの反論もスルーして話を続け出す。
「騎士団の騎士なんかは結構強いでしょ。あれはね、魔物も善人も悪人も沢山殺してるからよ」
そう言ったとき若干顔に陰が差したような気がするが、ファイティングポーズをとりながら「シュッシュッ」とか言ってるので気のせいだったのかもしれない。
「まあ、とどのつまりさ、ダンジョンは更身にもってこいなのよね。というわけでこれから魔物をぶち殺しに行こうって話よ」
言うや否やヘレナは大きな輝く盾を左手に持ち、右手で剣を抜いて構えてダンジョンへ突っ込もうとし始めたので慌てて引き留める。
「あのそもそもダンジョンに僕たちみたいな一般人が入ってしまっても大丈夫なんですか?」
「んん? もしかして君たちはダンジョンについて全く知らないのかな?」
「そう、そうなんです! まずそこから始めてくれませんか!」
何とかして暴走を止めなくては。そしてついでにダンジョンについて聞いておこうではないか。なんといってもこの人めちゃくちゃベテランなのだから。
「ふむ、では中に入りながらダンジョンについて講義してやろう。安心しろ、中は暗いが私が話ながらランプを持ってやる」
そういって、すたすたとダンジョンに入っていってしまった。
☆★☆★☆★
「ダンジョンは不定期に自然と生成されるので、ある日突然現れたりもするのだ。そして生成されたダンジョンが古代地下遺跡を巻き込んで形成されるものが遺跡ダンジョンと呼ばれ、古代の魔道具を産出するため冒険者が集まるのだ」
ヘレナが後ろでランプをかざしながら講釈を垂れているのを聞きながら、目の前のスライムを斬りつける。スライムは大体アメーバをそのまま大きくしたようなもので、斬って体組織を分けてしまえばそれで死ぬ。攻撃方法もゆっくりのし掛かって補食しようとしてくるのみなのでぶっちゃけ弱い。異世界のスライムは実は厄介な敵なのだみたいな創作物を昔読んだことがあったけど、やっぱりスライムは弱かったね。
そしてヘレナは戦わないで話しているばかりだが、これは別に俺達を鍛えようとかそういうことではない。一度お手本を見せるとか言って戦ったのだがそれがまあ弱かったのだ。攻撃は当たらないわ敵は見失うわ。何故斬るときに目を瞑るのか。万年Eランクの理由がわかった気がした。
ただこれもわけがあるらしく、どうもエルフは近接戦闘が種族的に苦手らしい。
そして彼女は本来は精霊魔法というのを使うのがメインだったとか。精霊魔法は魔力を精霊に渡して魔法を使ってもらうというもので、自分で魔法を行使するより圧倒的に強いらしい。その上ヘレナは精霊が見えるという超々レアスキルを持っているようで、絶大な力を持っていたのだとか。それがどうしてこうなったのかと聞いてみれば、
「300年ぐらい前に差別にイラっとして神殿を精霊魔法でぶっ飛ばしたら魔力が無くなっちゃった」
とのこと。それは神罰というやつなのでは……?
とまあそんな話をしながら俺たちはダンジョンを進んでいった。ダンジョンはなだらかに地下へと下がっていく洞窟だった。そして魔物たちはダンジョン内にそれぞれ縄張りを作るようで、初めはスライムが、次にオオトカゲ、それからオオカミの魔物という順で出てきた。オオカミが少し強い程度で他は農民ですら倒せそうな雑魚ばかりなので少し肩透かしをくらいつつも安心していた。
と、オオカミをまた一匹片付けて先へ進んでいると周囲が少し明るくなった。よくよく見てみれば洞窟の壁が発光している。
「これは空気中の魔力の密度が濃いために、壁にある色々な鉱物に魔力が溜まり発光しているのだ」
ヘレナによれば、ダンジョンとはそもそも魔力を集めて魔物を生み出すためのものだが、魔力は地下へ行けば行くほど強くなり一定の濃度に達するとこういう風に発光するらしい。
「ん、おお! アレク、そこにある結晶を採ってみなさいな」
ヘレナが突然アレクに指示を出した。アレクは犬のごとく元気よくヘレナが指示した壁際にある結晶を採って戻ってきた。
「これは魔結晶だ。魔力がそのまま結晶化したもので、こういう魔力の密度の濃いダンジョンでしかとれない。これひとつで金貨一枚ぐらいはするぞ、ラッキーだったな」
「えっ! 金貨一枚……!」
リザがショックを受けている。そりゃそうだよね、俺らのレベルじゃ依頼で稼げるのは銀貨がいいところ。大銀貨さえ滅多に見ないのに、こんな結晶で金貨って言われたらショックもうけるだろうさ。
「魔結晶は魔道具なんかには必須だから需要は常にあるが、なかなか見付からないので高値で取引されてるのさ。大きいものだと金貨三十枚なんて値がついたこともあったな。だから魔結晶目当てで洞窟に潜る輩もいるが……滅多に見付からないよ。今回は運が良かった」
なるほどな。とはいえ、こんな美味しい話を見せられたらダンジョンに潜りまくるしかないじゃないか。こういうので味をしめて破産するパターンなのかもしれないが、そこにドリームがあったら掴みたいっ!
だってお金があればもっと良い宿に泊まって良いご飯を食べられるのだから!
考えまいと思っていたが、今泊まってる鳥の羽休め亭はどう見たって安い場末のモーテルだからな。あれは宿ではない。
だからこそ、ここで一攫千金を目指すのだ!
隣を見れば、リザも目が金貨になっている。
うむ、これは行くしかあるまい。
こうして、俺たちは更にダンジョンを捜索することを決意したのであった。