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第10話  ゴブリンリベンジ1

拙文ではありますが、ブックマークや感想、評価をいただけると励みや参考になるのでできたらお願いいたします。

また誤字脱字並びに気になる点等ありましたらご一報頂けると幸いです。

木窓の隙間から朝日が差し込み布団に光の線を描いている。表ではすっかり人々が活動し始めていて朝市も立っているのだろう、賑やかな声や物音が部屋まで届いてくる。そんな喧騒を聞いて俺は目を覚ます。

ベッドから起き上がると、凝り固まった体を解すように伸びをしてから思い返す。


 ランディ教官の筋肉学習を受けてから一月が経った。結局あの翌日にはアレクとリザにも講習を受けさせようとして俺まで一緒に受けるはめになった。だが手法の良し悪しはさておき教官の講習と演習は勉強になり、俺たちの依頼をこなすペースは上がった。その結果、昨日遂に見習いを卒業することができたのだが、それが受付のお姉さんから発表されるやいなや周りのモヒカン達がお祝いだといってギルドの酒場で酒盛りを始めたのだ。勿論俺達はその中心に置かれて夜遅くまで騒ぐこととなった。

 日本にいた頃からお酒は好きなんだけれど、さすがに今の十二歳の体じゃ大量に飲むこともできず何だか消化不良な気がするんだよなぁ。

 ただまあ、あのモヒカン達が意外と良い奴らだったというのがわかったのでこれからは仲良くしていけそうで何よりだ。

 そして今朝、普段は日が昇る前には起きて修行をしているのだが、昨日遅くまで騒いでいたせいで寝坊してしまって今に至るというわけだ。

 清掃員のときも農村にいたときも奴隷生活でもずっと早起きだから、早くに起きるのは苦手じゃないんだけどね。たまにはこんな日もいいかななんて。


 と、その辺りで伸びの後の脱力感に任せた回想を終わらせ、宿の食堂へ朝食を食べに行く。


「おはようアル!」

「アルさんおはようございます」


 食堂のテーブルを見ればアレクとリザが手を振っているので、俺もおはようと挨拶を返して席に座る。


「俺は今日もランディ教官と筋肉演習してくるぜ!」

「私もそうしようと思います」


 この二人はすっかりランディ教官を気に入ってしまったらしく、暇な日は教官と演習している。かく言う俺も頻繁に演習しているから他人のことは言えないが。そしてその演習でわかったのが、やっぱり俺の剣は十二歳の身体には重すぎるということだ。どうも剣に振り回されている感じがして隙ができる。特に小型の魔物を相手にするときにはやや厳しい。

 なので今日はもう少し軽い剣を探しに行くつもりだ。


「僕は少し武器を見に行こうかと思いますので今日は別行動ですね」

「おう、じゃあまたあとでな!」



 朝食を食べてから宿を出て大通りへと進むと、通りの両脇には露天が延々と先まで出店していて、野菜や果物などの生鮮食品やらパンや串焼き、丸焼きやらその他工芸品などなどが並んでいる。ローリアにきてもう一月以上が経つけれど、未だに露天は見ていて飽きない。

 露天を冷やかしながら大通りを進むと左手に教会が見えてくる。

 旧き唯一神テレジアを崇拝するテレジア教の教会。150年前の戦争以来、ローリアでは人間と亜人と魔族全ての融和を唱えるテレジア教が主流だからだろう、この教会が街で最も大きい。

 それに対して西側の大陸にある国においては新しき神ベイオールを崇拝するベイオール教が主流であり、人間こそが最も優れ亜人は人間の奴隷であり魔族は敵であるとの教義が浸透しているという。

 ただ、どうやらこの世界ではいずれの神も実際に存在するらしく、特にベイオールの加護とやらがあるとかないとか。まあ転生する際にすら会ってないぐらいだし俺には関係無さそうだから教会関係はスルーしている。今日も精緻な細工が施され幾つもの尖塔があり、天辺には大きな鐘を備え置くその外観だけを眺めて凄いなぁと思って終わりにしておこう。


 そうして教会を通りすぎた先にあるのが、ネコミミオネェがやっている武器屋。品揃えはそこそこだし最近では武器の手入れの仕方も教えてくれて重宝している。スキンヘッドにネコミミの姿で体をくねらせながら俺に怪しい視線を向けてくることにさえ目を瞑れば問題はない。そう、問題はないのだ。

 なので早速店内へ足を向け相談してみる


「もう少し取り回しの良い剣がほしいねぇ。予算は大丈夫なの?」

「Gランクになって少しは稼げそうなので、大銀貨三枚までなら出せます」

「うーん、それだとちょーっと厳しいんだけど…」


 ネコミミオネェはそう言いながら体をくねらせ、口に指を当てるポーズをとる。なるべく見ないようにする。見なければ何も居ないのと同じだ。


「仕方ないわねぇ、アルちゃんは常連さんだし少しサービスしちゃおうかな☆ これなんてどうかしら?」


 そう言って取り出したのはショートソードとロングソードの間くらいの長さの剣。刃の幅も今使っている剣より小さく、それでいて両刃だし、柄は両手持ちも出来そうな造りだ。


「凄くいい剣ですね! 本当に大銀貨三枚でいいんですか?」

「正直に言うと仕入値は割ってないから大丈夫よん。ただ前に売った剣より軽いから、最初は思ったより刃が入らないと思うわぁ。そこだけは気を付けてね」

「ありがとうございます! 気を付けますね」

「やだ、可愛いわぁ」

「……」


 背筋に走る言い知れぬ寒気に、俺は足早に立ち去ろうとするとネコミミオネェが声をかけてくる。


「ちょっと待ってぇ。最近、この辺りで盗賊の被害がでてるらしいの。そんなことあまり普段はないから、アルちゃんも注意してね」

「わかりました、ありがとうございますね!」


 そうしてやっと武器屋から出ることができた。新しい剣は今までの剣の横に差して二本差しのような感じにする。ちょっと重くて重心が片寄りそうな気がするが気合いで頑張る。

 しかし盗賊か…

 この辺りは治安がいいと言うのは本当で、これまで一度も盗賊が出たなんて話は聞かなかったが。遂に出たかという感じだな。

 ただ、今はまだとてもじゃないが敵いそうにないので、できるだけ遭遇しないようにしよう。


 その後、新しく買った剣を慣らしにギルドへ足を運び、アレクとリザと合流して一緒に訓練をした。

 そこで次の依頼はどうするのかという話になったので、最近盗賊が出ているという話を伝えておく。


「盗賊なんて怖いですね…」

「盗賊ぐらい俺達なら倒せるんじゃないか!」

「お兄ちゃんは少し黙ってて」


 アレクとリザ兄妹は相変わらずだな。

 と、そこへ受付のお姉さんが加わってくる。


「盗賊の話が本当ならしばらくはローリアから離れない方が良いかもしれないわね。Fランクには近場の村からの依頼なんかもあるけれど…貴方たちはそういうのは少し控えた方がいいかも」

「やっぱりそうですか…」


 これは少し次の昇格は遅れるかもしれないなぁ。なんて思ってたらお姉さんが続きを話しだした。


「実はローリアから三時間ぐらい歩いたところにある森にジャイアントイノシシの巣があることがわかってね。本当なら騎士団が討伐に向かうんだけれど盗賊の捜索をするからって、かわりにギルドに依頼が来てるのよ。だからギルドで討伐隊を編成する話になっていてね。森なら街道から離れてるから盗賊にも遭遇しない上にジャイアントイノシシは単体ならFランクでも倒せるし、ただ参加するだけでも銀貨一枚の報酬だから良かったら参加してみない?」


 教官の筋肉講習によれば、ジャイアントイノシシは肉も毛皮も牙も比較的高値で売れるので実入りのいい魔獣だという。そして参加だけで銀貨一枚。何だか話が上手すぎるような気もするけれど…何でもかんでも疑ってかかったら良くないのかねぇ。


「その依頼に何か危険はないんですか?」

「うん、そうなのよね。森には他にゴブリンとフォールンオオカミっていう魔獣がいるのよ。ゴブリンはほとんど狩り尽くされて滅多に姿を見ないんだけれど、フォールンオオカミはまだ多少いてね。単体ならFランクなんだけど群れるとEランク指定されてて…それが少し不安なのよ」

「オオカミにゴブリン…」


 そのとき俺はEランク相当のオオカミよりもゴブリンの名前を聞いて背筋に寒気が走ってしまった。

 何度目かの前世で俺が殺された魔物。村人が、家族が、そして自分が殺された瞬間は今もはっきりと思い出せる。平和に暮らしていた街にある日突然やってきては破壊と暴虐の限りを尽くしていった奴ら。今の俺なら勝てるはず、そう思っても震えが、指先の痺れが消えない。

 だけど今回の依頼は受けないという手はない。こんなに美味しい依頼は滅多にないのだから。それにゴブリンに遭遇する確率は低いみたいだし、それに討伐隊には他の冒険者だって加わるはず。だから何も問題はないはず、大丈夫。そう自分に言い聞かせる。


 すると、周りにいたモヒカン達が寄ってくる


「おうおう、不安そうな顔しちゃって。その依頼には俺達も行くから心配すんなって! 何て言ったって俺はEランクだからな、ガキンチョは後ろをついてくればただの安全なピクニックだ。ほら元気出せ!」


 そう言ってモヒカンこと黒革のハザンは俺の背中をバシンバシンと叩いてくる。結構痛い。

 ただ、初めはこの人DQNぽいし苦手だったけど…実は面倒見もいいし、こうして味方になってくれると意外と頼りがいがあるな。何だか少し元気が出てきた。よし、やってみるか!


「この依頼やってみようと思うんですが、アレクとリザはどうですか?」

「もちろん俺もやるぜ!」

「私もやりますよ」


 二人とも笑顔で応えてくれて本当に頼もしい。


「なら討伐隊には三人とも参加で手続きしておくわね。出発は明後日よ、しっかり準備しておいてね」

「「「はい!」」」


 俺達は三人揃って返事をして、ギルドを後にしたのだった。

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