第1話 プロローグは短めにってそれ一番言われてるから
やあ、俺は29歳の大学清掃員!
毎日大学の備品整理や清掃をしながら充実したエブリデイを送ってるのさ。就活に失敗して絶望してたときにダメもとで母校の事務に相談したらこのとおり、素敵なサムシングに巡り会えたというわけだ。まあ、可愛い女子大生が挨拶してくれるとかそんなイベントすらなく学生は俺のこと無視してくるし、同僚とも大して仲良くはないが割とこの生活は気に入ってるよ、うん。
そんなマイホームとも言える大学で今日もテクニカルなモップ捌きを披露していたら、何だかキンキンした騒ぎ声が聞こえてきたぞ。
どうしたのかな、と思って声の方を見てみれば、制服姿の男女が集団で階段を登ってくるじゃないですか。そこで俺はピンときたね、ああ今日は学校見学なんだなってさ。わかるよ、大学を見学するのって未知の世界に入り込んだみたいで楽しいよね。
だからこそこう思うんだ。すわ、そんな彼らは俺の華麗なモップテクで歓迎してあげなくては、と。
早速得意のトリッキーな清掃員ステップで埃を飛ばさないように接近して、階下の彼らに素早くも丁寧なモッピングを披露して差し上げたのさ。
そうしたら初めは興味もなさそうに冷めた目を向けてくるだけだったのに、一瞬でこちらに目線が釘付けよ!
そうだよね、俺もビックリだもん。モップ振り回しながら清掃員が宙を舞ってたら目線も釘付けされちゃうよね。ちょっと張り切りすぎて清掃員ステップとモッピングが混線しちゃったんだ。まあつまり普通にモップに足がかかって転んだんだけどね。
そんなわけでさ、割と高めの階段の上から高校生たちの目の前に見事にダイブしちゃって…諦めた訳じゃないのに俺の人生はそこで試合終了してしまったんだ。
悔いのない人生…ではなかったなぁ。
☆★☆★☆★
気が付いたら、木製の天井が見えた。
だけど何となく視界がぼやけてる。
体も上手く動かないし声も思ったように出せない。
そんな俺の傍らには女の人がいて、優しそうな顔で何か喋ってるけれどそれもぼんやりしている。それに、聞いたことのない言葉みたいだ。
それから少しして、自分の手が動くようになったんで見てみれば紛うことなき赤ん坊の手。
そこで俺はすぐに察したね。ああ、これ異世界転生しちゃったんだなと。
だって、毎日転生しないかなーって思ってたんだもん。
死ぬ前は充実してるだなんだとほざいてたけど、やっぱり就活失敗からの清掃員なんて後悔だらけだったからね!
だからさ、今度の人生は後悔しないように生きよう!異世界転生ものの主人公みたいに!
大丈夫、異世界転生のテンプレは頭に叩き込んであるさ!
子供の頃から魔力拡張したりスキル取りまくったり奴隷ハーレム作ったりすればいいんだよね!?
さあ、早速やっていこうじゃないか。
あ、その前にお母さんおっぱい貰ってもいいですかね。
…なんて調子に乗ってたけれど、この後、俺は考えが非常に非常に甘かったことを知ることになるのであった。