彼女と俺の過去
朝4時、俺は起きた。今日は本堂の掃除当番だから、早速向かわなければならない。生活部屋は本堂と隣接して建っているが、セキュリティシステムを管理する場所が御守りを売っている受付になっているので外に一旦出ないといけない。セキュリティシステムを解除しておかないと、本堂に入った時にシステムに侵入者と勘違いされる。あれ?咲香が本堂から出てきた。
「おはよう、咲香。どうした?」
「ふわーん!!あのね!!」
「あのね?」
「ガブっ」
「ギャアーーーー!!!」
セキュリティシステムの説明忘れてた、話しとかな。
「なんなの!!あの警報器!!」
「ごめん!!あれ、防犯のためだから!本堂入る前に受付にあるシステムを解除して!」
「なんで言わないのよ!!怖かったじゃない!!おかげで耳、しっぽ丸出しになったよ!!」
「ごめん!!」
「分かったよ、今度から前もって言ってね!!」
「毒抜いて…」
「罰です!!」
「これ、全体にめぐったらどうなるんだ?」
「それはね、今のような現象が起きるのと、化け狐になる。」
「ええ、キツネの色って」
「まさか白だと思った!?違うよ!!黄金だよ!!それ聖なるキツネだけだよ!!」
「厄介なことになったな…」
「あんたの不注意よ!!原因は!!」
「油断大敵か…」
そういえば、こいつどこ出身だ?聞こうか。
「ところで、お前、どこから来たんだ?」
「あたしは、名前の通り藤井寺から来た。親二人とも交通事故で亡くして、名古屋の祖父母に預けられたけど、豊川の野道に捨てられてた。それで、そのあたりを徘徊してたある日キツネをあたしは見たの。それで、ついてこいみたいなしぐさされたからついていったの。そしたら行った先に狐の群れがいてそのさきには、三メートルもの狐がいたの。」
「三メートル!?聞いたことないぞ!そんな狐みたことないぞ!」
「うん、最初夢かと思った。でも、何度顔を叩いても変わらなかった。そしたら、その狐が豊川と呟いたの。それでなんの話か分からないままその狐にかまれた。しかも、首に。最初死ぬんかな?って思ったけどね、起きたらいつの間にかあたしが狐になってた。」
「それって、俺も。」
「ごめんね、そうなっちゃうのよ、ウイルスみたいなものだから。」
「どうすりゃいいんだ? 」
「分からない。でも、なんとかなるよ。あのね、世界が3つあるって知ってる?」
「ああ、霊界と人間界と無色界だろ?」
「そう、あたしたちはかまれることによって人間界と霊界の2つの世界に属するようになったんだよ。」「それは、三メートルの狐からか?」
「うん、そう。」
「なるほどな。で、お前はどうやってここまで来たんだ?」
「あたしが化ける練習している時に上に飛んだの。そして指先がここのほうに向いていたらしく、そのまま光みたいになってここまで飛ばされた。」
「そしたら、あの稲荷神社にか?」
「そう。それでしばらくそこで寝てた。そしたら、夢であんたが出てきて、神棚を寺で燃やそうとしたから襲ってかんだ。そしたら、夢からさめて、起きてみるとあんたをかんでた。」
「はーー!?どうやってそうなった!?」
「分からない、あたしにも。でも、神棚を寺で燃やすのはもうよしてよ。」
「分かった。」
「あんたは?」
「ずっとここだ。平凡だなって思ったら檀家から神棚を処理してほしいって頼まれたから、稲荷神社がある総本山の知恩院さんで燃やそうと思ったから引き受けた。そしたらお前が夢で出てきた。」
「なるほどね…」
「お前、ひとりで寂しくないのか?」
「えっ?」
「寂しくないのか?」
「いや、別に…」
「本当は寂しいんだろ?誰かにかまってほしかったんだろ?」
「えっ…うん。」
「こっちもそうだったな…」
「あんたは別に寂しくないでしょ!!」
「いや、周りの人間と俺は家庭環境が全く違った。だから、いつも仲間外れで落ちこぼれでひとりぼっちだった、いつでも。でも、お前がここに来てくれたから、俺はとても救われてるような気がする。」
「えっ…そうだったの?」
「ああ、だから、今、俺はお前に救われてる。そう、俺は思ってる。」
「あたし…あんたのこと…」
「無理に言わなくても…」
「ガブっ…好き…」
「えっ?…」
その時、はじめ、咲香のかみつきは痛さしか感じなかった。でも、その痛さは次第に温もりの痛さに変わっていった。最初のように痛いあまり叫ぶ声は全く出さなかった。いや、むしろ出せなかった。
「掃除手伝ってくれるか?」
「やだ…」
「そうだよな、やっぱり。俺が今日当番で明日がお前だもんな。」
「いや…やっぱり手伝う。」
「分かった…じゃあ、始めようか。」
「うん…」