やさしい味と力 中編2
「ここか…天皇殿は…」
「でも、開いてないよ。」
「おかしいな…中は明るいのに…!?」
「ちょっと、お待ちください。中の様子を見てきます。」
「あぁ、分かった。」
「失礼いたします。前坂光順です。」
「入れ。」
「はい。」
「光順、どうするのだ、あの件は。」
「申し訳ございません。何しろ、私をはじめ、宗教関係者が学校から追放される羽目になるとあの石原という者が言っていましたので、憂いでこのような行動に出てしまいました。」
「学校が我々と約束したのではないのか?」
「はい。しかし、教師ではこの追放運動を止めるのが困難だと大谷先生から聞きました。宗教委員は追放運動を鎮圧するために監視委員として作られたとも先生から聞きました。宗教委員は宗教関係者しか入れないので、宗教委員は恐ろしい場所だと言われ、今まで追放運動は行われなかったようです。しかし、我々の目を盗んで追放を企てている人間がいることが昨日、発覚しました。対策は練ろうとしましたが、今の力で鎮圧させる術が見つかりませんでした…」
「もはや、これまでかと思った矢先にあの剣が目に止まったのだな?」
「さようでございます。」
「しかし、他の者で手段を握る者はいなかったのか?」
「はい、いませんでした。我々の目に見えぬ力を発揮させる道具を持つ所は唯一ここでした。」
「分かった。光順、ここを通せ。」
「はっ、承知いたしました。」
あいつはまだなのか!?何分、ここで待たす気なんだ!?
「お待たせいたしました。どうぞ、中にお入りください。」
「よかった…ひぇっくちゅん!!」
「大丈夫か!?咲!」
「うん、これは花粉症だし。」
「まさか、風邪じゃないだろうな?」
「卓也、心配しすぎだよ!大丈夫、来る前の野宿した時よりずっとマシ!」
「そうだったな…」
「卓也君、咲さん!早くしてください!」
「あっ!ごめん!咲、早く行くぞ。」
「うん。」
あの御簾の先にあるのが聖武天皇の像か…
「左側の畳にお座りください。」
「それでは、先輩僧の皆様、大谷先生とその宗教関係者の生徒の皆様、これより話し合いを始めさせていただきます。」
「皆様、東大寺にようこそおいでくださいました。弟子僧の前坂光順から事を聞いています。この流れは避けられなかったと私は思います。私も今回の件について皆様と同感です。しかし、あれらは聖武天皇から奉納されたものです。ですから宮内庁からの許可が必要になってきます。皆様、どうかお引き取り願います。」
「ちょっと、待ってください!今回は私達だけでなくそちらの前坂光順自身にも関わる問題です!そちらの一人の僧侶の学舎を失わせることになります!それでもよろしいのでしょうか?」
「確かに、そういうことになります。しかし、あれは東大寺の宝なのです。」
「では、あの代替品はありますか?」
「いえ、ありません。」
「そんな……」
「勾玉はどうでしょうか?」
「駄目です。あれは、浮遊力で全部、力を使ってしまいます。」
「だけど、あの勾玉は、他の物と違いますよ。」
「たしかに、他の物より力は違います。しかし、こちらが使うと必要な力を得ないまま浮遊してしまい、バランスを崩して身が落下してしまいます。」
「では、やってみてください。」
「ちょっと待って!卓也、大丈夫なの?」
「大丈夫、ここで武装して、正体とか分かるけどここまでやらないと認めてもらえないからな…」
「では、まん中でどうぞ。」
「はい。オンアミリタテイゼイカラウンオンアミリタテイゼイカラウンオンアミリタテイゼイカラウン!」(パリーン)
「えっ!?嘘だろ!?自分たち…あんなに祈っているのに… 」
「見ての通りです。何しろ、こちらは荒ぶる神であり、荒ぶる仏であるダキニ様から力をいただいたのでこれだと補えません。」
「とうとう、長老より力が上の方が出てきましたか…では、側近の私と力試ししますか?」
「なぜですか?もしかして…現実が受け止められないとかあります?」
「よく、言っていただきましたね………」
「ちょっと!?何相手を怒らしてるの!?」
「現実を受け止めることは僧侶になる上で必要不可欠です。だけど、東大寺は現実を受け止める機会をつくることは立場上できない。だから、現実を受け止めることができない僧侶が出てきたと思います。だけど、現実を受け止めることができなければ人として前に進むことができないし、人を導くこともできません。力試しとか言っているのは単なる現実逃避にすぎません。」
「あなた、何様ですか!?」
「あなたがあまりにも現実逃避をするので言っているだけですが。なぜ、そんなにこちらの発言に口を出すのですか?現実逃避が本心だからじゃないですか?」
「どれだけ、相手をいじったら済むのですか!?ちょっと相手を見下していたりしませんか?」
「いいえ、全く。」
「なぜ、私の通りにならない…なぜだ…なぜだ…許さん!!!」
「やめんか!!」
へっ!?
「私の前でいさかいとは何事だ。私は平和を願って大仏を造ったのに僧侶がここまで堕落したとはけしからん。なんと心得る」
「聖武天皇、失礼いたしました。あれらは聖武天皇からの大切な宝物でしたので、なかなか他人に貸し出す勇気がありませんでした。」
「それは大分、失礼だ。相手はそちらを気を使って、丁寧な言葉で接してさらに証拠までそちらにはっきり見せているのにそれでも不満か!不満ならそれは単なる欲望だ!なぁ、長老。」
「はい…たしかに…我が身を省みぬ者は愚か者であります。また足りぬ足りぬと愚痴を言っている者も愚か者であります。」
「うっ………」
「石原、そなたに剣の使用を許可する。」
「えっ!?いいんですか?」
「あぁ、よい。」
「卓也、やったね!」
「あぁ、ありがたきお言葉頂戴いたしました。」
「ただ、長老からお願いしたいことがあります。」
「何でしょうか?」
「使う時、近くにいさせてもらえませんか?」
「なぜですか?」
「一応、宮内庁から許可を取った者と付き添うことが義務づけられています。役所には逆らえない、いいですよね?」
「分かりました。」
「気を使って…使ってくださいよ。」
「はい!では、実行するぞ、計画通りに。」
「うん!」
「でも、その前夜に弟子に作らせた晩ごはんはいかがですか?」
「長老様、いいのですか?」
「はい、食事の部屋にどうぞふぇっくしょん!!」
「長老、部屋へ。」
「あぁ、分かった…すまんな、年なもんで…」
「えー!?釜飯は?」
「文句は言うなよ!向こうは快く許可してくれただろ?」
「そうだけど…ちょっと来て。」
「何だよ!?イタタ!無理やり引っ張るなって!」
「咲さん?卓也君を連れてどこに?」
「ちょっと待ってて、すぐ戻るから。」
扱いが雑すぎるのはなんとかならんかな…
「で、結局、ここで何が言いたいんだ?」
「あーん」
「や・め・ろ!!こんなとこに不浄を呼び込むな!オンダキニサバハラギャテイソワカオンダキニサバハラギャテイソワカオンダキニサバハラギャテイソワカ」
「あーーーー!!!!」(シュン)
「全く…まだまだ修行が足りんな…自制心の修行が…」
「卓也君、咲さんは?」
「あっ!ごめん!浄化しすぎて一旦姿を消してしまった。」
「え!?」
「でも、大丈夫、数分後に元に戻るから。」
「もう、なんなの!?また、やったでしょ?」
「ほらな、戻っただろ?」
「はい…」
「すまん、お前の暴走防止のやつだ。それより、はやく夕飯会場に行くぞ。」 「えー!?さっきの納得いかないよ!」
「じゃあ、おいて行くぞ。孝、行くぞ。」
「あっ、はい…」
「あっ!待ってーーーーー!!」
「待ってて欲しかったら、ここまで来てみなよ。」
「よし、競争ね。止まって、一旦。」
「うん?」
「スタート!」
「うわっ!ヤベッ!逃げろー」
「絶対、追いつくからね!」
「やれやれ、どっちが先輩か後輩か分からないや…何歳だろね…まっ、いっか…こういう時だってあるさ、誰しも…ってもう上!?追いかけよう。おーい!!待ってくださーーーーい!!!」




