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002:転生者は選べません

「まったく聞いていないわよ!」


 我が偉大なる戦女神ことエリーゼ様は、私が用意した神様印の御饅頭を頬張りながら憤慨しておられます。


「エリーゼ様。女神様とあろうものがはしたないですよ」

「うるさいわねセバス。勤務中の数少ない楽しみなのよ。少しぐらいいいじゃない」

「私は一向に構いませんが、お父君に見られましたらさぞかしお嘆きになられますでしょう」

「パ、パパは関係ないじゃない。まさかセバス、あなた告げ口するわけじゃないわよね」

「いえいえ。そのような不敬、このセバス断じて致しませんとお約束いたしましょう」

「分かればいいのよ」

「それで、ご機嫌斜めの原因を伺っても?」

「これよ!」


 神槍アストレアの矛先に書類と思われる神の束を渡される。

 私は「拝見いたします」と一言告げて、エリーゼ様から渡された書類に目を通した。

 書類の中身は先ほど転生したおっさんこと不動心司様のものであった。


「これは、不動様の人世記でございますね。これがいかがいたしましたでしょう?」

「いかがいたしましたでしょう? じゃないわよ。なんで、あんな不潔なおっさんが転生できちゃうわけ? 私の胸をジロジロと見て。気持ち悪いったらありゃしないわよ」

「お忘れかもしれませんが、そのような扇情的な服装を自ら来たエリーゼ様にも問題があると思いますが?」

「だって、あんな三十過ぎたギトギトのおっさんなんて今まで転生候補に挙がらなかったじゃないの。それが「間違えて殺しちゃったから、こいつも転生させちゃってよ♪」よ! あの糞神、いつかこの神槍で串刺しにしてくれるわ」

「上司の創世神様に向かってなんて事を仰っているのですか。また、お給金が減りますよ」

「ぐぬぬ」


 お気持ちは分からなくありませんが、あのおっさんが転生する事は数時間前にお伝えしたはず。資料もしっかり纏め上げてお渡ししたのに、この女神様は「あとで見るからそこに置いておいて」と言って結局一度も資料に目を通す事無くお勤めに入ってしまったのであった。


「ふわぁ」


 私が目の前にいるにも関わらず、エリーゼ様は口元を覆う事無く盛大に口を開けて欠伸をする。よくよく見てみると薄らと隈が出来ている。


「随分と眠そうですね。まさか、また昨晩もシュミレーション・バトル・ゲーム、SBGを遅くまでやっていなかったでしょうね」


 この女神様は転生課に配属されてからと言うものの、毎晩遅くまでゲームをやり続けているらしい。ご本人いわく、一日一回は戦わないと気が済まないらしく、メンテナンス日でゲームが出来なかった時は、それはもうよそ様に見せられないほどひどい有様であった。


「けど、昨日はレベル100まで行ったのよ。あそこまで行ったら、止めにやめられないじゃないの」

「あなた様は、立派な女神様なのですからお勤めを確りとこなして下さらないと困ります。本気で創世神様に言って、あなたのお給金を下げていただきますよ」

「やめて! それだけはやめて。今月は新しい鎧を買う予定なんだから。そんな事をしたら買えなくなっちゃうじゃないの」

「あなた様の戦闘狂いは些か目に余るものがあります。少しはご自愛していただきませんと」

「えー」

「よろしいですね!」

「わ、分かりました」


 まったく、こんなつまらない会話で休憩時間が終わってしまったではないですか。


「それでは、さっそくお仕事に入りましょう。こちらが、次の方の資料です」


 残っていた御饅頭を頬張り、私が用意した資料を受け取って内容を確認し始める。


「へー。今度は随分と若いのね」

「宗像修司、十一歳。何でも幼馴染の女の子を事故から守って、本人は頭部を強打して死亡とのことです」

「今日の中ではまともな死に方ね。……前のあれと比べると特にそう思うわ」


 まあ、前のおっさんの死因はテクノブレイクが原因って事になっていますからね。

 あのおっさんも、やりすぎて死んでしまったなんて夢にも思わなかっただろうな。


「それで、創世神はどこを選んだわけ?」

「創世神様が指定した世界は……。これは珍しいですね、ブリエンデルですよ」

「ブリエンデル? 確か魔神機が存在する世界よね」

「はい。地球で例えますと、人型巨大兵器が当たり前に存在する世界です。ご説明する場合は、アニメのロボットが存在する世界と言えばご納得頂けるでしょう」

「なるほどね」

「あと、この子の特権は既に創世神様がお決めになられているそうです」

「そうなの? 普段は転生者に委ねているのに、今回は珍しいわね」

「特権に関しての資料は同封されております魔法陣に記載されているようです。お渡しする前に、事前確認の程をお願いいたします」

「分かったわ。それじゃあ、ご本人を召喚するわね」

「その前に、エリーゼ様。そろそろ、いつもの鎧兜を着用されてはいかがでしょう」

「それもそうね」


 納得してくれたようで、エリーゼ様はいつもの鎧兜を着用する。

 鎧兜を着ると身が引き締まるらしく、僅かに猫背になっていた背筋も正され、先ほどまで感じなかった威厳の輝きを感じられるようになった。


「それではセバス。早速よろしくお願いいたします」

「畏まりました、エリーゼ様」


 準備が済んだのを確認して本日最後の転生者、宗像修司様の魂を呼び寄せる。

 この空間では私達神族が力を注げば、少ない時間であるが最後に宿していた肉体の姿に魂を象らせることが出来る。

 数秒後、肉体を象らせた宗像修司様を見やり、エリーゼ様は営業スマイルでお決まり文句を口にしたのであった。


「ようこそ、転生の間へ。一度目の人世、お疲れ様でした」

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