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同人ゴロ

久しぶりに小説家になろうに小説をあげる山田であった。

『ふううううううううううううううううー!」

山田は大きなため息をついて身震いした。怖かった。

久しぶりの小説家になろうへの投稿だった。

作品を見てくださっている皆さんへの申し訳ない気持、もうこのまま逃げ出してしまって、

二度と投稿サイトを見なければそれで楽になれるという弱い心。

とにかく、間があけばあくほど恐怖が膨らんでくる。

ここで勇気を出してかかないと、自分は二度と小説をかけなくなってしまうと山田は思った。

そこまでしてどうして、長い間書かなかった小説をもう一度書こうかと思ったかというと、それは、

もう何ヶ月も無言放置していた自分アカウントのツイッターにいまだにリツイートしてくださる読者様がいらっしゃる。

そのリツイート通知のメールがとどくたび「よし!もう一度書くぞ!」という勇気がわいてくる反面、

また前のように書けるだろうか、どの面だげて出て行くんだよ、いままでツイートしてくださった読者の皆様へ

散々不義理して!いや、このまま逃げたほうが不義理だろ!

という思いが頭の中でグルグル回転した。

そんな思いを他所に、投稿してみると、、皆さん、普通に何事もなかったかのように対応してくださった。

思わず、マジ泣きしてしまった。

ああ、自分は心の弱い人間なんだなあと山田は思った。

自分のヘタクソな小説の読者様に支えられ、山田は今日も職場に行く。

職場に行くと、鉄仮面のユーベルトートさんと目があう。仮面をかぶっているので、正確には目があったわけじゃないけどこっちを向いている。ユーベルトートは人差し指をたてて「シーッ」というポーズをとった。

何してるんだろう。職場につくと、最初にボスである阿保神やる夫師匠にご挨拶にいく。

「おはようございます」

すると阿保神はものすごい形相で山田をにらんだ。

「あ、ごめんなさい!」

山田は思わず謝る。

「あ?何謝ってんだ。何か謝るようなことしたのか」

「あ、いえ、その」

何か分からないがずいぶんと機嫌がわるい。

「ちょっと、こっち来な」

後ろからチーフアシスタントの朝比奈が山田の服の袖をひっぱる。

「何があったんすか?」

山田は小声で尋ねる。

「楽しみにしてたラノベが発売延期になったんだわ」

「え?そんな事で?」

「そんな事とか、やる夫っちの前で絶対言うなよ。やる夫っちのマブダチのイラスト描きが飛ばして延期になったんだからさ」

「え?飛ばしたって落としたってことですか?」

「違うよ、同人ゴロの言うこと間にうけててさ、飛ばし吹いて出版社に切られたんだわ」

「え?は?」

 山田が混乱していると黒の革手袋の大きな手がガッシリと山田の肩をつかむ。

「ちょっと表でようか」

ユーベルトートだった。

「え?なんすか、俺なにかやらかしちゃったですか?」

焦る山田の肩をつかんでユーベルトートは表に連れ出す。

「今回のラノベの表紙、彩木真さんだったんだわ」

「え?あのオンラインゲームバトルプロジェクトの戦車擬人化娘のデザインしてる人ですか?そりゃ、絵だけで売れる話じゃないですか!それを何で出版社が切るんですか」

「知り合いの同人ゴロが何か入れ知恵しちゃったみたいでさ、こんな安い値段で表紙描けるかってツイートしちゃったんだよね」

「ヤバイっすよ、誰か消すよう助言しなかったんですか?」

「いや、何人かDMしてすぐに消したんだけど、魚拓とられててさ、拡散されて出版社の目に触れたみたいだよ」

「うわっ、それは……でも、あれだけ人気の先生を安く使うなんて出版社もひどいですね」

「いや、表紙50万とか言い出したらどうする?お前、出版社なら払う?」

「え?なんですかその額」

「同人ゴロが彩木先生にそれが相場だって吹き込んだんだよ、それで彩木先生それを真に受けて切れちゃってね」

「そんな、今の出版不況でそんな額、ラノベの表紙に出せるわけないじゃないですか」

「でも、それが正規額なんだわ」

「は?どういう事ですか」

「本の表紙ってのは昔は著名な画家とかがキャンバスに描いていた。それを買い取りとなると、相場は50万だった。しかし、そんな額で買い取れるわけないから、表紙の使用料を支払うというシステムになったんだ。金額はピンきりで2万から10万くらいかな。そのかわり、二次使用するときは別途料金が発生する。まあ、表紙の二次使用することなんてまずないんだけどね。だけど、ラノベ業界はそんな金額払えない。だからパクシブから素人絵師をひっぱってきて安く使う。これを業界では使い捨てという。そういう相手の場合、買取でも使用料と同額の金額しか支払わない場合があるのさ」

「ああ、その同人なんとかって人の言うこと先生が真に受けて切れちゃったんですね、そりゃ50万を5万とか言われたら切れますわな」

「芸術家って世間知らずな人が多いからね。」

「おい!」

ユーベルトートの後ろで阿保神が声をあらげる。

ユーベルトートは子うさぎが跳ねるようにびくんと飛び上がった。

「何、入れ知恵してんだ、あ?」

「す、すいません、先生、事情を説明しないと山田も将来ラノベ作家になりたいそうなので」

「そんな事情なんて知らなくていいんだよ、売れれば金なんていくらでもあとからついてくる。金がついてくる前に

出版社につっかかったら切られるだけだから、余計な知恵はつけんな」

「すいません」

ユーベルトートは深々と頭をさげた。

 阿保神は山田の前に進む。

「おい」

「はい」

「作家ってのはな、出版社から信用を買うんだ。大手出版社から依頼された時はいくら安くても仕事を請けろ。だが、この業界、名前も聞いたことねえ有象無象が無料で仕事させようとしてくる。これは断れ。タダでも仕事していいのは、名の通った大手相手だけだ。大手から本が出れば、それが自分の知名度になる。最初は金を望むな。知名度を買うと思え。だから、作家は最初、赤字が出ても連載やろうとするんだよ。よく、プロの作家が安い仕事を請け負うのはそれが理由だ。だが、もう一度言う。名前も聞いたことがねえようなところが名前が売れるからいいよねとか言ったら、絶対に断れ。そんなところの仕事したって名前は売れねえ。絵の相場は安いのだとカラー一枚2万円が相場だ。5万とか10万ってのは、ファンがついてる作家な。たとえ50万支払っても500万利益が出るなら出版社は喜んで50万払う。実際、そいつの絵でどれだけ本が売れるかってことだよ、相場なんてあってねえようなもんだ。小説もそう。ただ、殺されても無料で仕事は受けるな、それがプロってもんだ」

阿保神は山田をにらみつけながらそう言うと、仕事場にもどっていった。

山田は身震いした。

「おやおや、しぼられたようだね」

そこに朝比奈が様子を見に来る。

「やる夫っちはさびしいんだよ、せっかく漫画家を夢見て一緒に努力した仲間がこんな事で、干されるのがさ。

なんでも世話焼いてくれるからって、同人ゴロなんかに作家は絶対たよっちゃいけない。中に人を挟めば挟むほど、揉めるもとだし、そんな作家の上前ハネるような奴はクズしかいねえからね。話しを聞いていいのは、何か物が作れる人だけさ。同人で世話になってる先輩のためにイラスト一枚描いてあげるとかはいいんだよ。とにかく信用しちゃいけないのは、何も自分で作り出せないくせに、作家にたかってくる奴。宮島駿先生とか足塚茂虫先生とか、頭オカシイといわれつつも人がついてくるのは、惚れた弱みさね。どんなに偏屈で口が悪くて、性格がわるくても、物を作り出す人間がトップに立つべきなんだよ、この業界はよ。作品に惚れた弱みでついて行ったら後悔はしない。いいかい、甘い事いって作家を孤立させ、他に頼る処をなくした上で作家を安くつかうのが同人ゴロの手口だ。あんたも文章書きだからって油断しちゃいけないよ、いいかい。」

 朝比奈は眉間に深いシワをよせてそういった。

「は、はい」

 山田は思わず生唾を飲んだ。

プロ作家が安い値段で仕事を請け負う心境や業界のことを教えてもらって、山田は緊張しつつも嬉しかった。

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