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天使の加護と聖痕の力  作者: 上の下のなんつーか中目黒
第1章 異世界漫遊編
9/11

第9話 ナタリーと【獣人化】

 「何処を見ている!後ろだナタリー!」


 「はっはいっ!」


 まさかゴブリン3体に翻弄されているとは、先が思いやられるな。


 「こいつで最後だ、気を抜くなよ!」


 俺の言葉に大きく頷くと、勢い良く駆け出して最後の一体を斬り伏せた。


 「うぅ、足ばかり引っ張って申し訳ありません……」


 「落ち込んでいる暇があったら何が悪かったのか考えろ、そしてそれを次に活かせ。 良いな?」


 「はいっ!次こそは!」


 (……ふふっ、やっぱり不思議ですね。 アスカ様が人に何かを教えている姿何て……)


 仕方ないだろ、このままだと本当にしょうもない死に方をしそうだからなコイツは。


 (……手の掛かる子程可愛いと言いますしね……)


 どこを取ったらこれが可愛いになるんだ?

 そんな者より優秀な奴の方がよっぽど良いぞ。


 街を出てから数回魔物との戦闘が有った。

 討伐指定ランクの高い者は俺が相手をして、たまに現れるゴブリンやコボルトはナタリーに戦わせているのだが、想像以上に酷い戦いっぷりに驚かされた。


 先ず根本的に、腰が引けていて戦う準備が出来ていない。

 心構えの無い奴が戦場に立つとこうなるんだと初めて知った。

 追い詰められれば変わってくれるかと思ったが、そんな単純なものでも無いようだ。


 「良いかナタリー、殺らなきゃやられるんだぞ。 殺られる前に殺るんだ。 最初から戦わない選択何て無いんだぞ」


 「はい、すいません。 次こそは絶対に」


 口では何とでも言えるんだがな、結果で表して貰えないと信用しないたちなんだよ俺は。


 そんなやり取りを繰り返しながら、1日目が終了した。


 少し高い丘のような所を(ねぐら)にして、魔除の香を焚いた。

 この香には魔物が嫌う臭いが含まれているらしく、10時間位なら魔物を近付けさせない事が出来るらしい。


 ナタリーは食事の準備を始め、職員は一日中馬車の(たずな)を握っていて疲れたのだろう、直ぐに横になっていた。


 「飯が出来たら呼んでくれ、少し離れているから」


 俺はナタリーに声を掛けて、その場から少し離れた原っぱに来た。


 「こんなのは俺らしく無いんだがな」


 腰から剣を抜いて、徐に振りかざした。


 「違うか……こうか?」


 また剣を振る。

 縦に振りかざす、横に薙ぎ払う、斜めに袈裟斬りにする。


 何度も何度も動きを確認する様に剣を振る。


 「ふぅ……こんな感じか」


 (……まさかアスカ様が自ら剣の訓練をするなんて驚きですよ……)


 「何時までもお前の力にばかり頼ってはいられないからな。 この身体でやれるだけの事をやろうとしているだけだ」


 (……立派ですね、ちょっと感動しちゃいました……)


 「感動?訳が分からん。 俺は自分の為にやっているだけだ」


 (……そう言う事にしておいてあげますね……)


 「何なんだお前は全く」


 アイリスが最近俺への扱いを変えてきている気がするのは気のせいか?

 舐められていると言うか、何かこう良い奴に無理矢理仕立てようとしていると言うか。


 「アスカ様ー!食事の用意が出来ましたよ」


 ナタリーに呼ばれ、丘の上に戻って来た。


 外で食べる飯など大した事無いだろうと考えていた俺が馬鹿だった。

 ナタリーが作ったそれは、そこらの飯屋で食べる物よりも遥かに美味かった。

 肉の切り方、火の通し方、調味料の使い方、全てが一流のそれだった。


 「美味い……いや、美味すぎる!」


 「本当ですかアスカ様?! 愛情込めて作ったかいが有りましたよ」


 「いやー、ナタリーさんの料理本当に美味しいですね」


 「何故お前まで食べてるんだ?」


 職員はさっと目を逸らして、更に残っている肉を口に放り込み寝たフリを始めた。


 「寝たフリか、良い度胸だな」


 (……まぁまぁ、食事は一緒に取った方が美味しいですから。 怒るのは止めてあげて下さいよ……)


 「はぁ、ったく何なんだ。 おい職員、良いからお前も食え」


 俺の言葉に職員は飛び起き、残っていた肉を美味しそうに頬張り始めた。

 コイツ飯の用意するの忘れて街を出たな。

 昼間も食ってる素振りすら無かったしな。


 「食料を忘れてきたならハッキリそう言え、腹を空かして倒れられたら誰が馬車を動かすんだ?」


 「うっ………すいません。 報酬にはキチンと色を付けておきますので」


 「あぁ、それで構わん。 だから次からはこんなミスをするなよ」


 俺の言葉に大きく頷くと、また肉にかぶりついた。

 よっぽど腹が減ってたんだなコイツ。




 食事を終えると直ぐに寝る事にした、明日もまた朝早くから出発するからな。


 全員が眠りに着いてからどれ位の時間が経ったかは分からないが、遠くの方から鉄を打ち付けるような音が聞こえて目を覚ました。


 「一体何なんだ、五月蝿いな」


 (……気にしなくて良いですよ、魔物とかじゃ無いですから……)


 「なら何だと言うんだよ」


 俺はアイリスの言葉を無視して、音のする方へ確認に向かった。


 そこにいたのは剣を振るナタリーの姿が有った。

 木を魔物に見立て、何度も何度も斬り付けている。


 「こう言う事か」


 「お二人が寝た後に起き上がって、何をするのかと思ったらアレですよ。 昼間の事がよっぽど情けなかったんですね」


 まさかナタリーが1人で剣の訓練とはな。

 思ってもいなかったが、アイツは負けず嫌いな様だ。


 (……そうじゃないと思いますけどね、全くアスカ様は本当にニブチン何ですから····……)


 またか、またそれを言うか。

 一体俺の何処がニブチンだと言うんだ。


 この短いやり取りの中にそんな話しは一切無かった筈だぞ。


 (……全く、分からないなら無理に考えなくても結構ですよ……)


 大きな溜息をつきながらアイリスが言った。

 分からん、本当に分からん。


 「しかしな、あんな振り方じゃ訓練にならんだろ」


 全く仕方の無い奴だ。


 「おいっ!そんな振り方じゃ何の意味も無いぞ」


 「はぁ……はぁ……って?!えぇ?!どうしてアスカ様が?!」


 「変な音がして目が覚めた。 そうしたらナタリーが剣を振っていたんでな。 そんな事はどうでも良い、そんな振り方じゃ前と何ら変わらんぞ」


 「うぅ、すいません。 まさか起こしてしまうなんて……」


 「だから気にするなと言っているだろ! そんな事よりその剣の振り方をどうにかしろ」


 俺の言葉に頭を抱えて悩み始めた。

 そんな難しい事を言った覚えは無いんだがな。


 「全く…おいっ、俺に打ち込んでこい。 実践の中で教えてやる。 戦いの中で覚えるのが1番早いからな」


 「いやっ、そんなアスカ様の手を煩わせる様な事は」


 「この訓練で少しでも強くなってくれれば俺が楽になるんだよ。 これは将来への先行投資だ。 分かったら早く打ち込んで来い!!」


 ナタリーは嬉しそうに頷いた。

 そして剣を構え、勢い良く俺に斬りかかって来た。


 そうやって俺達の訓練は日が登るまで続いた。

 まさかこんなにも本気で人にものを教える日が来るなんて思って無かったぞ全く。


 本来の俺ならばナタリーをシカトして又眠りについていた筈だ。


 これはきっとアイリスのせいだな。

 あいつが見えない力で俺にこんな事をさせたに違いない。


 (……善行を自らの意思で行ったのがそんなに嫌ですかね? まさか私のせいにしてくるなんて……)


 五月蝿いっ、俺は断じてこんなキャラでは無いんだ。


 「しかしな、疲れきって寝てしまったぞナタリーが。 今から出発すると言うのに全く」


 仕方が無いので、ナタリーは荷物と一緒に馬車の後ろで寝かせておいた。


 「さぁ、とっとと街まで突っ切るぞ。 俺は早く風呂に浸かりたいからな」


 (……急ぐ理由はそこですか……)


 それ以外に無いだろ?

 他に理由を上げるなら、気持ちの良いベッドで寝たい位なもんだぞ。


 (……分かりました、もう何も言いません……)


 何を呆れてやがるんだコイツは。


 それからの道中は戦闘の連続だった。

 街から離れる度に強くなる魔物。

 それを1人で相手にするのはなかなか骨が折れた。

 一体一体の強さはたかが知れているが、何せ数が多い。

 群れと言って良い程の数を相手にし続けていると、流石に俺の体力も尽き始めた。


 「厄介だな、数が多過ぎる」


 (……そろそろMPも尽きそうですしね、結構やばいかもしれませんね……)


 「そんな事は俺が1番分かっている。 だが戦えるのは俺だけだ、弱音何ぞ吐いていられない」


 どうして毎回トラブルに事欠かないんだ?

 天使の加護じゃなくて呪を受けてる気分だ。


 (……それはちょっと人聞きが悪いですよ……)


 一々反応しなくて良いんだよ、ちょっとした愚痴何だからな。


 そんなやり取りをしている間にも魔物の群れの進行は続いている。


 「アスカさーん!!何とかして下さいー!」


 「分かってる!良いから黙ってろ!」


 考えろ、この状況を打破する一手を。

 しかし、いくら思考を巡らせてもその答えには辿り着かない。

 そんな切迫した時だった。


 「ん……んん、あれ?寝ちゃってました?!」


 まさかこんなタイミングで起きて来るとはな。


 「起きたようだな、だがもう少しそこにいろ。 

今は色々と立て込んでるからな」


 俺の言葉にナタリーは辺りを見渡し、驚愕の表情を浮かべている。


 「まさかアスカ様1人でずっと戦っていたんですか?!」


 「俺しか戦える奴がいないからな、仕方なくだが」


 そしてナタリーは頭を抱え始めた。

 寝ていた事を悔やんでいるのか、目の前の状況に絶望しているのか、果たしてどっちだろうな。


 「………やります」


 「ん?何だと?」


 「私もやりますっ!!」


 「いや、今のお前が相手に出来る相手じゃないぞ?」


 気でも動転しているのか?

 ゴブリンに振り回されている奴が倒せる相手じゃないのは考えるまでも無い事だ。

 それとも何か考えでもあるのか?


 「余り使いたく無いんですが………私には【獣人化】と言う力がありまして」


 【獣人化】か、前にステータスを見た時にそんな物が有ったな。

 だが使いたく無い力ってのはどう言う事だ?


 「その【獣人化】ってのをしたらどうなるんだ?」


 「一言で言えば身体能力が飛躍的に上がります。 それ以外に身体に起きる事があるんですが……見た目が毛深くなるんですっ!!」


 「ん?」


 「いやだから毛深くなるんですよっ!!考えられないですよね!!」


 「よし分かった、とっとと【獣人化】しろ」


 「そんなあっさりですか?! ですがアスカ様が言うのでしたら……」


 ナタリーが意識を集中し始めた。

 そして少しづつ身体に変化が現れ始める。


 腕に斑点模様が浮かび始め、頭からは獣の様な耳が生えた。

 口からは犬歯の様な物も見えている。

 更に尻尾まで生えてきた。


 最終的には、豹を擬人化させた様な見た目になっていた。


 「うぅ……やっぱりこの姿は好きじゃないです………」


 「そうか?俺は悪くないと思うぞ」


 俺の言葉にナタリーは尻尾を激しく振り始めた。


 「ほほほほ本当ですかー?! 私、頑張ります!!」


 そう言うと、凄まじい速度で魔物の群れへと突っ込んで行った。

 普段のナタリーからは考えられない速さ、俺のトップスピードよりも遥かに速かった。


 最初の魔物と接触する瞬間、刀を抜き一気に斬り伏せていた。

 そのままスピードを落す事無く次々に魔物を斬り伏せて行く。

 そこには昨日までゴブリンに振り回されていた弱い女の姿は無かった。


 速く、そして強い冒険者の姿があった。


 「ふっ……これなら一気に形成逆転出来そうだな」


 ナタリーが作った波を止める事無く俺も魔物達へ斬り掛かる。

 先程まで押されていたのが嘘の様に、俺達が作り出した波が魔物達を飲み込んでいった。


 そして数分後には、数十体いた魔物達が片手で数えられるまでに数を減らしていた。


 「ふぅ、これで最後か」


 最後の一体を倒し辺りを見渡すと、ナタリーがヘトヘトになりながら近付いて来た。


 「アスカ様ー!!私頑張りましたっ!」


 服を魔物の血で汚し、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら満面の笑みを浮かべるナタリーを見て、少しだけ笑いが込み上げてきたが、何とか耐えた。


 (……素直じゃ無いですね。 笑い返して上げれば良いのに……)


 出来るかそんな事、恥ずかしいだろ。


 だが今回ナタリーの働きが無ければ実際不味かった。

 今回のナタリーの働きは褒めるに価すると思う。


 「おい、ちょっとこっちに来い」


 俺は近くに来るようナタリーに行った。

 そうすると、ナタリーは不思議そうな顔をしながら近付いて来た。


 「何でしょうかアスカ様?」


 キョトンとした顔をしながら俺の顔を見上げるナタリーの頭に手を置き。


 「今回は良く頑張ったな、次も期待してるぞ」


 そう言って頭を撫でた。


 「ははははははいー!!命懸けで頑張ります!!」


 命はかけるな、死なれたら寝覚めが悪いだろ。


 「死なない程度に頑張ってくれたら良い、まだまだまだナタリーの手料理を食べたいからな」


 (……よく出来ました、頑張りましたねアスカ様。 ちゃーんとナタリーちゃんを褒めてあげれましたね……)


 おちょくってんのかお前は?


 「はっはい!美味しい料理を沢山作ります! そしてアスカ様を絶対に満足させてみせます!」


 「あぁ、楽しみにしているぞ」


 俺達は乗り越える事が出来た、魔物の群れをたった二人で倒すと言う山を。

 今回の事で又一つ学んだ事が有る。

 幾ら俺が強いと言っても、1人で出来る事など知れている。

 こんな事ではいけない。

 何が起きても1人で解決出来る、そんな男にならなければいけないのだから。

 誰かに頼らなければ事を成せない様では俺もまだまだだな。


 (……仲間何ですから頼っても問題ないでしょうに……)


 いいや駄目だ。

 そんな弱い奴等の仲間の絆で勝とうね、みたいなノリは好かん。

 俺はその様な連中みたいにはなりたくないんでな。


 足らないな、まだまだ俺には力が足りない。

 今後の事も有る、少し力を付ける為の努力をしなければいけないかも知れないな。

 努力は嫌いだが仕方なかろう。


 俺は新たな決意を胸に抱き、マリューシへ向け足を進め始めた。

誤字が有りましたら教えて下さい。

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