第6話 【外伝】勇者が来た日
この話しは外伝です
アスカの前に召喚された勇者達が何をなすために呼ばれたのかと言う話です。
……はぁっ……はぁっ……はぁっ………
流石にきつくなって来たな。
目の前にいるドラゴンの攻撃を躱す事が手一杯で防戦一方になってしまっている。
何か打開策は無いだろうか。
思考を巡らせ、逆転の一手を捻り出すしかないと思っていた時だった。
「我は風を統べる者 古の誓約の元 我に仇なす者を退けたまえ エクレールテンペスト!!」
雷を帯びた風が渦を巻き、ドラゴン目掛けて突っ込んで行く。
竜巻をまともに受けたドラゴンは怯み、頭を下げた。
「遅れてごめんなさい竜馬 今がチャンスだよ」
「すまない春奈!! これで決める!! 」
俺は地面を蹴り、ドラゴンの頭目掛けて飛び上がる。
そのまま全身の力を振り絞り首を撥ねた。
「やったね竜馬、これでまた目標の一つをクリアだよ」
「これだけ苦戦したんだ、喜んで何ていられないよ。 それよりも健人と奏は無事かな?」
「向こうは向こうで頑張ってる筈だよ。 何より二人は強いし問題無いよ」
「それもそうか、あの二人が苦戦している姿何て想像出来ないしな」
思えば異世界に来てから長い時が過ぎたな。
あれは2ヶ月前だったか………
______今から2ヶ月______
「竜馬、何でまた授業を抜け出したんだ? 」
「え?アハハハ……暇で暇で…… それよりも健人まで付いてくる必要あったかい? 」
「ほっとくと学校に帰って来ないだろ竜馬は」
「いやー、そうかな? でも優等生の健人が俺なんかに付き合うのはあんまり良く無いと思うよ?」
「別に優等生になったつもりは無い、それに幼馴染に付き合ってるだけだ。 普通だろ?」
「健人って本当に変な奴だよね」
何時もの日常、何時もの他愛の無いやり取り。
素行が悪い俺を庇う優等生の幼馴染。
仲が良いかと聞かれたら分からないと答える。
仲が悪いかと聞かれたら有り得ないと答える。
そんな関係だ。
健人は本当に良い奴だ、こんな馬鹿な俺を見捨てずにずっと幼馴染みだと言い続けてくれている。
俺が悪ぶっているだけで、人の道を踏み外さないでいられるのはきっと健人のお陰なんだと思う。
これからもずっとこんな日々が続くだろう、そんな風に思っていた。
でも違った。
当たり前のように過ぎる日常はいきなり終わりを告げたんだ。
「アハハハハ、見てよ健人!女の子が浮いてるよ」
「映画の撮影か何かだろ?」
授業をサボり、街に遊びに出ていた俺達の前に現れたのは宙に浮く女の子だった。
「残念ですが映画の撮影じゃないんですよね」
「うわっ、話し掛けられた。 一体どう言う仕組みで浮いてるんだよ君は」
「仕組みですか……多分説明しても分からないと思いますので止めておきますね」
「竜馬はおかしいと思わないのか? 何で俺達だけが驚くだけで周りの奴等が反応しないのか」
「そう言えばそうだねっ。 何で皆無反応何だろ?」
「それはですね、貴方達以外の人間の時が止まっているからですよ」
「時が止まっている?」
俺は直ぐに辺りを見回した。
さっきまで賑わっていた街の中が静まり返っている。
人はいるんだ、だが微動だにしない。
呼吸をしているかさえ怪しい程に硬直していた。
「死んでる訳じゃないんだよね?」
「当たり前ですよ、殺す理由が有りませんし」
「なら何で俺達だけ動けるの? 何か理由が?」
「おっ、鋭いですね。 じつは貴方達二人にお願いがあり、天界から参りました天使のアイリスです」
「天使? ふざけてるのかな?」
「おふざけで時間を止めたりすると思いますか?」
今目の前で起こっている現実を理解する事を脳が拒んでる見たいだ。
俺より何倍も冷静で頭が良い健人でさえ、何をしたら良いのか分からないようでキョロキョロ辺りを見回している。
「なら天使さん、俺達へのお願いってのを教えてくれるかな」
「はい、それでは説明させてもらいますね」
天使アイリスの話しはこんな内容だった。
この世界とは違う別の世界で困っている人達がいる。
その人達はこの世界に住む人間に助けを求めている。
しかし、別の世界に行ける人間の数は少ない。
なぜ数が少ないかと言うと、大雑把に言えば異世界に適用出来る才能が有るか無いかと言う事らしい。
そして、俺と健人にはその才能が有った。
だから異世界に行ってその人達を助けて上げて欲しいとの事らしい。
「何か凄い壮大な内容だね、でも俺達は普通の人間だから誰かを助ける力なんて無いよ 」
「えぇ、今は無いでしょうね。 ですが異世界に勇者として召喚されれば様々な力に目覚めます。 そして鍛えればどんどん強くなっていきます」
「え?それってもしかして魔法とか使えたりするの?」
「そんなの当たり前じゃないですか、異世界ですよ。 魔法が無い異世界何て行きたくないですよね?」
「魔法か……行ってみたいな!」
「おい竜馬良く考えろ! この女が言っている事が全て本当だとは限らないぞ!」
「いえ、天使は嘘を付けませんので安心して下さい。 異世界には魔法が有り魔物がいます。 しかし貴方達が異世界に召喚されれば勇者になる為の力と素質、更にもう一つ特殊な力を与えられます」
「魔物か…怖いけど…怖いけどめちゃくちゃ楽しそうじゃん!! どうせこの世界にいたって俺は誰からも必要とされてないしな。 悪いけど俺は行くよ健人、今まで有難うな」
「ふざけるな! 何時も言い出したら絶対に折れない所を少しは直せ! それにな、竜馬が行くなら俺も行く。 俺がいないと直ぐに無茶して死んじゃいそうだからな」
「良いのか健人? 行きたくないんだろ?」
「行きたくはないけど仕方ないだろ、竜馬有る所に俺有りだ」
「二人共行って下さるんですね、なら早速送っちゃいます」
「「えっ?」」
次の瞬間眩い光に包まれ目を開けていられなくなった。
どれ位時間が経ったかは分からないが、俺は真っ暗な場所で目を覚ました。
俺の立つ場所から小さな光が一筋だけ道標の様に伸びている。
その光の筋を辿る様に歩いた。
真っ暗な中に一筋の光が有るだけ、普通なら不安や恐怖に押し潰されそうなものだけど、何故か俺の心は落ち着いていた。
それから数分間光を辿りながら歩いた。
すると徐々にだけどその光は大きくなっていた。
無心で歩き続けた、光のその先を目指して。
そして遂に光の出処に辿り着く事が出来た。
そこは薄らとだけ開いた扉だった。
俺はその扉に手を伸ばし、ゆっくりと開いた。
「あっ、いらっしゃいましたね最後の勇者様!」
「へ?」
扉を開いた瞬間に声を掛けられた。
声を掛けてきた人物は、燃えるように赤い髪、翡翠の様に澄んだ瞳、シルクの様な透き通る肌をした美しい女性だった。
「あわわわわ、いきなりすいません! 取り敢えず付いて来て頂けますか? 他の勇者様方もお待ちになっていますので」
訳が分からないまま、俺は美しい女性の後を付いて行った。
今は何も分からないのだから、従うしか無いよな。
女性は大きな扉の前で足を止めた。
「コチラですよ勇者様」
ニコッと笑いながら言う彼女に少しだけときめいたのは秘密だ。
「やっと来たか竜馬、遅かったな」
扉を開けた先に健人がいた。
どうやら俺より先に異世界に辿り付き、到着を待っていたらしい。
そして健人以外にも二人の女性が座っていた。
「さぁさぁ勇者様もコチラに来て座って下さいよ! 先ずは自己紹介からですよ!」
凄く楽しそうに仕切る彼女に言われるがまま、健人の隣の椅子に座った。
「先ず、私が勇者様達をこの世界に召喚したトルテス王国の巫女、ターニャ・ミリュヒスです。 色々聞きたい事が有ると思いますが、全員の自己紹介が終われば説明させて頂きますので」
トルテス王国?巫女?理由の分からない事が多すぎるけど、今は自己紹介が先かな。
「なら次は俺で良いかな。 俺の名前は石巻竜馬17歳、日本の千葉県から来たんだ。 宜しくね」
「俺は大宮健人だ。 歳も住んでる所も竜馬と同じだ」
「わわわっ私は一ノ瀬春奈ですっ! 17歳ですっ! 島根県から来ました!」
「私は黒宮奏 歳はあんた達と同じで神奈川県から来たわ」
全員の自己紹介が終わった所で、ターニャが口を開いた。
「皆様これから宜しくお願いしますね、生活面のサポート等はコチラでしっかりとさせてもらいますので。 それでは勇者様方が気になっている話しの説明をさせて貰いますね」
そしてターニャは語り始めた。
今から1ヶ月前に遡る。
その日は年に一度の国を挙げてのお祭りだった。
様々な国から人が集まり、出し物や出店で賑わうらしい。
そしてこの祭りの一番の目玉は、各国の巫女が四人集まり行う国の未来を見る占いである。
その結果により、その年に自分達がどの様に動くかを決める大切な物である。
何年かに1回は良い結果が出ない時も有るらしいのだが、今回はそれとは比べ物にもならない程に不吉な結果が出た。
国を覆う闇、何れは大陸を飲み込む。
人々の心は闇に飲まれ、未来永劫光無き時代が訪れる。
それが今年の占いで出た結果らしい。
それを聞いた各国は直ちに対策会議を開いた。
何が起きるとも分からない恐怖に怯えるだけでは無く、それに対抗する為に画策する為の占いでもあるのだ。
そして一つの結論に至った。
数百年前にも一度世界は闇に飲み込まれ掛けた時代が有った。
大陸には魔物が溢れ返り、力無き者は死ぬ事しか出来ないそんな時代だったらしい。
その時にトルテス王国で行われた召喚により呼び出された者達がこの世界の闇を消し去るべく働いた。
強靭な肉体に強靭な精神、幾千もの魔法を有し、次々に魔物を打ち倒し最後には闇の根源である魔神を倒した。
その者達の勇気ある行動を称え、勇者と呼ばれるようになった。
もう一度勇者を召喚し、世界を救うべく働いてもらおうと、会議では決まった。
そして、一度勇者を召喚した実績のあるトルテス王国にて俺達の召喚は行われた。
何れ来る闇に対抗する為に。
「話しが壮大だね、驚きを通り越して面白くなっちゃったよ」
「テスト前の竜馬は何時も笑っているからそれと同じと言う事か」
いきなり攻撃するの止めて下さい健人さん。
「異世界行ったら何か楽しい事が有るかもしれないと思って来たのにさ、何かやばい事に巻き込まれた感じだね」
「うぅ〜どうしよう奏ちゃん」
「まぁ私達は勇者何だから何とかなるでしょ。 元々助けるつもりで来たのも事実だしね」
奏って子は俺達の今置かれている現状をしっかりと飲み込んでいるらしい。
強いな、あの子は。
「俺も頑張ろうと思うんだ、元の世界では何かを頑張る何て事しなかったからね。 こっちの世界の人を助ける為にやれるだけの事はやりたいと思う」
「竜馬がやるのなら俺も頑張らせてもらおう」
「有難う御座います!!急に呼んでおきながらこの様な大変なお願いをしているのに………」
「春奈もやるんだよっ!何かあったら私が守ってあげるからね」
「うぅ……頑張ります」
どうやら皆覚悟を決めた様だ。
「なら先ずは皆様ステータスをお開き下さい。
現状の皆様の力を把握しておく必要が有りますので」
ステータス?何でゲームで出てくる様なワードが?
もしかして本当にそんな物が存在するのか?
「あれ?皆様どうしました?」
「ステータスと言われても、見方も分からないし本当に有るのかどうかすら…」
「そうですか、皆様の世界にはステータスと言う概念が存在しないのですね。 でしたら先ずは頭にステータスと思い浮かべて下さい。 それで見れる筈です」
ターニャの言葉に半信半疑のまま、頭にステータスを思い浮かべた。
石巻 竜馬
Lv1
〈称号〉呼び出された勇者
HP 100/100
MP 80/80
AT 95
DF 100
AGL 90
DEX 85
INT 70
EXP 0/50
〈能力〉 上級火魔法 上級水魔法
【聖剣召喚Lv1】
見れた!
だけどこれが強いのかどうかが分からないな。
でも本当に見えるとは、これはテンション上がるな。
何より魔法が有る、本当に魔法が有る、使いたくて仕方ないぞ!
「竜馬も見えた見たいだな」
「健人も見えたの?どんな感じだった?」
大宮 健人
Lv1
〈称号〉付いて来た勇者
HP 150/150
MP 40/40
AT 90
DF 120
AGL 85
DEX 100
INT 60
EXP 0/50
〈能力〉 上級土魔法 上級風魔法
【魔剣召喚Lv1】
俺のとはステータスが違うな。
全員同じでは無いって事か。
しかし【魔剣召喚】か、めちゃくちゃ中二心を擽るな。
「竜馬が聖剣で俺が魔剣か、どう考えても逆だろ」
分かってる、分かってるけど言わないでくれ。
「お二人共レベル1でそれ程まで強いとは、想像異常ですね。 しかもいきなり上級魔法を身に付けているなんて……普通上級魔法を身につけようと思ったら、才能が有る者でも数年は掛かりますよ。 更に固有能力までお持ちとは、流石勇者様ですね」
どうやらあの天使さんの言っていた通りらしい。
俺達のステータスは通常では有り得ない位高く、そして強い魔法をいきなり有しているらしい。
しかし気になるのは固有能力だ。
「固有能力って?」
「固有能力と言うのはですね、他の誰も持っていない、そして努力等で習得する事の出来ない能力の事です。 所謂才能の一つみたいなものですね」
固有能力か、これが勇者に与えられる力の一つか。
凄い以外の言葉が出ないな。
「それでさ、君達もステータス見れた?」
「あぁ、私は見れたよ」
黒宮 奏
Lv1
〈称号〉遊びに来た勇者
HP 80/80
MP 100/100
AT 80
DF 85
AGL 135
DEX 100
INT 85
EXP 0/50
〈能力〉 上級火魔法 上級水魔法 上級土魔法
【時空門召喚Lv1】
「上級魔法が三つもあるね、しかも何か凄そうな固有能力まで。 もしかして奏ちゃんってめちゃくちゃ強い?」
「まだ戦った事なんて無いから分かんないよ。 それよりもまだなの春奈」
「みみみ見れましたぁ!」
一ノ瀬 春奈
Lv1
〈称号〉付いて来た勇者
HP 60/60
MP 160/160
AT 50
DF 45
AGL 80
DEX 75
INT 145
EXP 0/50
〈能力〉 上級火魔法 上級水魔法 上級土魔法
上級風魔法 上級光魔法 上級闇魔法
【精霊召喚Lv1】
「「「へっ?」」」
全員で声を揃えて驚いてしまった。
上級魔法が最初から六つも有るなんて有り得るのか?
ステータスが全体的な低めだが、魔法に関しては別格だな。
固有能力も何か凄そうだし、奏ちゃんも春奈ちゃんもちょっと凄すぎでしょ。
「びっくりするぐらい魔法特化だね、凄過ぎるよ」
「凄くは無いですよぉ」
春菜ちゃんは顔を真っ赤にしながら奏ちゃんの背中をバシバシと叩いていた。
その後おデコを何度も奏ちゃんに叩かれて、目には薄らと涙が浮かんでいた。
奏ちゃんは絶対に怒らせないようにしよう。
「これで皆様のステータス確認が終わりましたね。 実際予想していたステータスよりも遥かに高いので、早く事を運べそうです」
「何かやらす気なの?」
「無理強いをするつもりは有りませんが、勇者様達に強くなって貰う為に五つの試練を与えようと思います。 その五つの試練が終わる時、勇者様達は今の何倍も強くなっている筈です」
「そんな事か、なら悩む必要何て無いな。 俺はやるよ」
俺の言葉に皆も頷いていた。
この世界を救う為に強くならなくちゃ。
勇者として来たんだから、胸を張って勇者と名乗れるようになるんだ。
そして俺達は、四人で試練に望む事になった。
誤字があれば教えてください。