第5話 新たな力
宿に着くなり、ルミールに「風呂から出たら直ぐに飯を頼む」とだけ伝え直ぐに部屋に入った。
部屋に入るなり直ぐに行うのは湯を張る事。
風呂を入れている間に武器を降ろし、上着を脱いで少しだけ寛ぐ。
その時に頭の片隅にあった違和感に気付いた。
何か大事な事を忘れている気がする。
その違和感は徐々に大きくなって行き、そして思い出した。
「茶葉を貰っていない!!」
(……そこですかっ?!……)
くそっ、何で忘れていたんだ。
俺が最も優先すべき事柄はそこだっただろ。
(………違うと思いますけど……)
茶葉を貰い忘れた事で、精神に相当なダメージを受けてしまった。
この傷は長風呂で癒すしかないな。
(……普段から長風呂だと思うんですが……)
「さっきから一々ツッコミを入れるなよ」
(……だって暇なんですもん……)
「他にやる事無いのか?何だかんだで何時も俺を見てるだろ」
(……守護天使ってそう言う者ですからね……)
「守護天使か……そう言えば勇者達をこっちに送ったのはお前なんだろ? なら勇者達の守護天使はお前じゃないのか?」
(……送ったのは私ですが、勇者達を呼んだのはコチラの世界の人ですからね。 だから私が守護する必要は無いんですよ。 アスカ様の場合は、私が選び私が連れてきたので守護天使になる必要があるんです。 詳しく知りたいのでしたら後日きちんと説明させてもらいますよ?……)
「長くなりそうな話だな。 まぁ時間がある時にでも頼む。 まだ他に聞きたい事があるんだ」
(……聞きたい事ですか、何でしょうか?……)
「勇者ってのは今何処で何をしてるんだ?」
(……いきなりですね、まさか勇者達の事を聞いてくるなんて。 何処にいるのかは、今の私には分かりかねます。 しかし、最後に見た時には貴族のゴタゴタに巻き込まれていましたね ……)
「それは傑作だな。 それが俺を呼んだ理由か?」
(……まさか、違いますよ。 どうも私以外の者でコチラの世界に何人か連れて来ている者がいるんですよね。 何か企んでいる気がするんです、多分ですがね。 天使の勘って当たるんですよ、怖い位に………)
「それの対処をさせる為に連れて来たのか?」
(……まぁ大体はそんな感じですね。 ですが勇者達だけで何か起きた時に対応出来るのであればアスカ様に出張って頂く必要は有りませんので、頭の片隅にでも留めておいて頂ければ結構ですよ……)
「出来ない可能性の方が大きいから呼ばれた気がするがな」
(……ふふふ、流石に鋭いですね。 ですが今すぐにと言う訳では無いと思いますので……)
「一応は信用しておいてやる。 それとな、勇者ってのは強いのか?」
(……今の段階でしたらアスカ様など足元にも及ばない程に強いと思いますよ。 最初からステータスが高く、一通りの魔法を使える状態でこちらに来てますからね。 更にアスカ様に私が授けた様な能力もそれぞれ持ってますし……)
「勇者ってだけあって流石だな。 高いステータスに魔法、更にはチート能力か。 勇者達も【聖痕開放】みたいな力なのか?」
(……違いますよ、【聖痕開放】は私がアスカ様に直接授けた能力ですので、勇者達には元々決められた能力が与えられている筈です。 どんな能力かは聞かないで下さいね。 忘れちゃいましたから……)
気のせいだろうか、語尾にテヘペロって付いている気がするんだが。
本当に大事な事を良く忘れる奴だなコイツは。
天使ってのは全員こんな感じなのか?
(……いえいえ、私だけが特別優秀なだけですよ……)
笑えない冗談は犬も食わんぞ。
「アホな事言ってないで少しは思い出す努力をしたらどうだ?」
(……忘れてしまう位の能力ですからね、思い出す価値無いんじゃないでしょうかね……)
「勇者達を連れて来た奴が言って良い言葉じゃないだろ。 お前はなかなかに酷い奴だな」
(……アスカ様に言われたら終わりですよ……)
良かろう、ならば戦争だ。
(……人様の言葉を借りる何ていただけませんね……)
「くっ、全くお前って奴は。 まぁ勇者達の事は一旦忘れるとする。 後は俺の能力についてだ」
(……【聖痕開放】についてですか? それでしたら一度お話ししたと思いますが……)
「一応は説明を受けたが、詳しく聞いた訳じゃない。 それに今日【聖痕開放】のレベルが上がったんだが、能力のレベルが上がるとどうなるんだ?」
(……実際に見てもらった方が早いと思いますよ……)
説明する気無いのかコイツは。
仕方が無いので、俺は【聖痕開放】を頭に思い浮かべた。
【聖痕開放Lv2】
守護天使の聖痕を開放します
リプカの右手 消費MP50
バラスの左手 消費MP50
レビンの額 消費MP50
ホルスの眼 消費MP20
リプカとバラスの消費MPが上がっているな、それにレビンの額とホルスの眼と言う聖痕が新たに追加されている。
「新たに聖痕が追加されたのは嬉しく思うが、リプカとバラスの消費MPが上がっているのはどうしてだ?」
(……以前よりも強力になったからですよ、強い力にはそれなりの代償が発生しますからね。 どれ位強くなったかは分かりかねますが、消費MPが増えた事など気にならない位には強化されている筈です。 そして新しく目覚めた聖痕がレビンの額とホルスの眼ですか、良い引きですね……)
「強化ね……まぁ信用してやるよ。 実際この二つには何度も助けられているからな。 強くなっているのなら大歓迎だ。 後何なんだ良い引きってのは、これはお前が選んで与えてる訳じゃないのか?」
(……アスカ様に聖痕を授けたのは私ですが、どの聖痕がどのレベルで目覚めるか、どの程度の力なのかは分からないのですよ。 ですがレビンの額とホルスの眼は良いですよ!説明しますね、しちゃいますね! 先ずはレビンの額ですが、これは雷の力です。 強力な雷を額に集め、それを四方に展開して強力な結界と化します。 触れればダメージを受けるバリアですよ!!使い勝手が良い事この上無しです! そしてホルスの眼、これは真実を見通す力です。 生物や物をその眼で見る事によって、その者(物)の理の内を見透かします。 意味が分からないのであれば一度使ってみたら良いと思います。 攻撃系の能力では有りませんので……)
「長々と語りやがったな、しかもどれだけ楽しそうに語ってんだよ。 だが今回得た力は相当に有用そうだな。 雷に真実を見通す眼か……面白いな」
(……アスカ様こそ私に言えない位楽しそうですよ?……)
「くくっ、そうか…いや、そうだな。 新しい力を得るってのは悪い気がしないもんだ」
(……なら早速ですが、ホルスの眼を使ってみて下さい……)
アイリスに促されるままに、俺はホルスの目を使用した。
【ポムの木のテーブル】
ポムの木はノーブル地方に自生している木。
熱に強く、水分を含んだ状態で加工しても歪みにくい。
ん?頭に変な情報が流れ込んできたぞ。
咄嗟の事に驚いて、少しだけ変な声を出してしまった。
一体どう言う事だ?真実を見通すと言うのは相手や物の情報を見る事が出来るって事なのか?
俺は半信半疑のまま、今度はベッドに向けてホルスの目を使用した。
【憩いのベッド】
リューネ村で作られている大変貴重なベッド。
カシミヤーヌを惜しげも無く使用した枕と布団がセットで売られている。
その極上の手触りは一度使用すると忘れられなくなり、無いと寝れなくなってしまう程である。
うん、そうか。
予想は当たっていた様だ。
しかしこのベッドがまさかそれ程までに恐ろしい物だったとは。
(……既に宿屋の術中に嵌ってしまっていた訳ですね……)
「乗っかって来なくて良いんだよ! しかしこのホルスの眼、本当に良い物だな。 これを戦闘する相手に使えば、戦う前に情報を見る事が出来ると言う事だろ?」
(……はい、正しくその通りです。 それに骨董品等の偽物を見抜く事も出来ますよ……)
パチもんを掴まされなくなるのは良い事だな。
ホルスの眼、これから重宝しそうだな。
(……それよりもアスカ様、早くお風呂に入らなければせっかく湯を張ったのが無駄になってしまいますよ?……)
そうだった!
風呂だ風呂風呂。
今の俺の最優先事項で有り、至福の時間。
疲れを吹き飛ばすかの如く、長い間湯に浸かり続けた。
身体がふやけていく事すら心地良い。
日本人に生まれて良かった、今つくづくそう感じている所だ。
風呂から上がると直ぐに部屋から出て飯にした。
相も変わらずに美味い。
鶏肉を蒸して酢味噌の様なソースが掛かっている物がメインで出てきたが、鶏肉は口に入れただけで崩れる程に柔らかく蒸されていた。
酢味噌のソースも適度な酸味で食欲をそそる。
この美味さは一言では伝えきれない、まさに言葉に出来ない美味さだった。
「やはり此処の飯は美味いな。 ルミール、次も楽しみにしているぞ」
「ふふっ、アスカ様は本当に美味しそうに食事を召し上がって下さるので作りがいがあります。 次も満足して頂ける様頑張りますね」
「頼んだぞ」
ルミールに見送られながら部屋に戻り、一息ついた。
「そう言えばアイリス、もう一つ聞く事があったのを忘れていた」
(……何ですか?……)
「能力に【加護契約】ってのが増えてるんだが何なんだ?」
(……【加護契約】ですか? 申し訳有りませんが私にも分かりかねます。 何でしたらホルスの眼で見ては如何でしょうか?……)
「アイリスでも分からない事があるんだな。 ホルスの眼か…よし、早速だが見てみるか」
俺はステータスを開き、ホルスの眼を使用して【加護契約】を見てみた。
【加護契約】
守護天使以外の天使から加護を得る事が出来る。
但し、相手が自分の存在を認めなければ契約を行う事は出来ない。
加護契約のレベルが上がる度に一人づつ契約数が増えていく。
レベル1で1人、2で2人と言った具合に順々に増えて行く。
「ふむ、守護天使意外の加護か。 つまりアイリス以外の天使から聖痕を授けて貰える訳か」
俺の言葉にアイリスが少しだけ不機嫌な感じになった。
(……釈然としませんね。 何故ですかね、浮気されるみたいな気分です。 私の力だけでは不服と言った所ですか?……)
「俺が選んで得た能力じゃないんだぞ、変な怒りをぶつけて来るのを止めろ。 それにだ、戦う力だけならアイリスの聖痕だけで十分に今は満足している。 もしも契約するなら戦闘以外で役立つ物が良い」
(……今は十分ですか···今は、ね。……)
「ヒステリックを起こすな。 お前の授けた聖痕はまだまだ成長するんだろ? ならその力でオレを満足させ続けろ」
(……言ってくれますね。 全く問題無いですよっ! 私の力は最強ですからね!……)
何なんだコイツは。
大分大人びた事を言ったと思えば、しょうもない事で拗ねるし。
情緒不安定か?
(……だーれーが情緒不安定ですかっ!! 全く失礼しちゃいますね。 そんな事よりとっとと契約とやらをやったら良いじゃ無いですか!!……)
「ったく、面倒臭い奴だなお前は。 まぁ良い、とにかく使い勝手の良い力が欲しいんだよ俺は」
俺は意識を集中させ、【加護契約】を発動させた。
【加護契約】
契約可能な天使が4名います。
名簿の中から好きな天使を選んで下さい。
契約が失敗した場合は、もう一度別の天使を選んで下さい。
名前 天使ラシアス
〈特徴〉
猪突猛進、勇猛果敢、自らの肉体で苦難の道を突破する猛き者。
名前 天使リューネスカ
〈特徴〉
氾愛兼利、柔和温順、その愛で傷ついた者を優しく包み込む者。
名前 天使ファランクス
〈特徴〉
直往邁進、勇往邁進、一本槍の如く突き進む者。
名前 天使リュネス
〈特徴〉
雲散霧消、神出鬼没、何者にも縛られぬ者。
ん?何故特徴に四字熟語が使われているんだ?
しかも能力の説明を遠回しに伝えるとはどう言う事だよ。
「全員知り合いか?」
(……そうですね、知った顔では有ります……)
「ならコイツらがどんな力を持っているのか教えてくれ」
(……教えたいのは山々ですが、流石にカンニングの手伝いをするのはちょっと気が引けます……)
「カンニングじゃ無いだろ別に。 まぁ教えたく無いのなら別に構わん、自分で考えるだけだ」
(……なら最初からそうして下さいよ……)
さて、どうしたものかな。
言葉通りならラシアスは肉体強化の様な感じだろうな。
リューネスカは回復系と言った所か。
しかし後の二人は全く分からんぞ、槍だの縛られ無いだの意味が分からんぞ。
槍か……何か直線的な攻撃を仕掛ける物だろうか?
中距離攻撃?……いや、無いか。
縛られ無い、神出鬼没で雲散霧消……姿を眩ませる力か?
姿を消したり出来る力なら有用だが、そんな力あるんだろうか?
考えても分からんな、取り敢えずファランクスとリュネスは保留にしよう。
どんな力か全く見えて来ない者と契約するリスクを負う必要等無いからな。
ならラシアスとリューネスカの二択か。
今の俺に肉体強化は必要何だろうか?
もしかしたら違うかもしれないが、もし肉体強化だったとして、MPを消費してまで使う価値は有るか?
癒しの力、回復の能力なら相当に有用だぞ。
怪我をした時に回復出来るのであれば、生存確率を飛躍的に上げる事が出来る。
何より、怪我をしている者を治療して金をふんだくる事だって出来るかもしれん。
うん、そうだな。
リューネスカと契約してみるか。
もしかしたら断られるかもしれないしな、そうなったらラシアスにしよう。
俺は契約相手にリューネスカを選んだ。
【天使リューネスカ】お繋ぎします。
頭の中に聞き覚えのない機械的な声が響いた。
プルルルル……プルルルル……プルルルル……ガチャッ……
「はいもしもし〜リューネスカですよぉ〜」
「はぁ?」
「何ですか貴方はぁ〜天使をいきなり威圧するなんて恐ろし過ぎます〜」
「ちょっと待て、何なんだこれは?」
「はい?貴方が私に掛けてきたんですよ?」
「これは電話か?!」
「テレパス的な物じゃ無いですかねぇ〜、まさか人間から送られてくる日が来るなんて不思議ですぅ〜」
「訳が分からん、だがまぁ良い。 リューネスカと言ったな、お前は俺と契約してくれるのか?」
「契約ですかぁ? ふむふむ、そう言う事ですか。 加護を与えろって事ですね」
「あぁ、そう言う事だ」
「ん〜、与えても良いんですが一つ約束して下さい」
「何だ?」
「私の力を悪用したり、お金を稼ぐ為に使う様な事はしないと誓ってくれますかぁ〜? 約束を破れば天罰が下りますよ〜」
コイツ最初から俺の考えを知っていたんじゃないのか?
くそっ、金を稼ぐ方法が一つ減るが仕方ないか。
「分かった、約束しよう」
「は〜い、なら良いですよ〜。 私の加護を授けちゃいますね」
リューネスカの言葉を聞いた直後に、俺の指先が少しだけ光った様に見えた。
気のせいかもしれないがな。
「は〜い、加護授けました〜。 それでは頑張って下さいね〜アスカ様」
っ?!……俺はコイツに名前を名乗ってないぞ。
何で俺の名前を知ってやがるんだ?
俺が驚いている間にリューネスカとのテレパスは切れていた。
「一体何なんだアイツは」
(……終わったみたいですね、それでアイツとは誰の事何ですか?……)
食い気味にアイリスが聞いてきた。
何故だか凄い圧を感じる。
「リューネスカって奴だ、変な奴だった」
(……あーリューちゃんですか。 あの子抜けてる様に見えて物凄く頭が切れるんですよ……)
「変なヤツだと思っていたが、やはり只の変なヤツじゃなかったって事だな」
(……それでリューちゃんの加護で得た力は見たんですか?……)
「いや、まだだ。 今から確認してみる」
【聖痕開放Lv2】
守護天使の聖痕を開放します
リプカの右手 消費MP50
バラスの左手 消費MP50
レビンの額 消費MP50
ホルスの眼 消費MP20
契約天使の聖痕を開放します
キュアラスの指 消費MP150
ちゃんと増えてやがるな、キュアラスの指…どんな力か見てみるか。
俺はホルスの眼を使いキュアラスの指を見た。
キュアラスの指
天使リューネスカの癒しの力を宿した聖痕の力。
その指は触れたものの傷を癒す。
その指は触れたものの病を治す。
その指は触れたものの呪いを解く。
リューネスカ………お前凄い奴だったんだな。
「予想通り回復系の力みたいだな、回復以外にも効果があるみたいだからかなり有用だぞこれ」
(……アスカ様は殺られる前に殺るタイプなので余り活躍しない力だと思いますけどね……)
何故お前はリューネスカの力に対抗心を燃やしてるんだよ。
そもそも攻撃特化のアイリスと回復専門のリューネスカじゃ立ってるフィールドが違うだろ。
「はぁ、俺は疲れたから寝るぞ。 明日は色々試したい事が出来たからな。 起きたら直ぐにギルドに向かう」
(……はい、おやすみないアスカ様……)
ベッドに身体を投げ出し、眠りについた。
誤字が有りましたら教えてください。