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天使の加護と聖痕の力  作者: 上の下のなんつーか中目黒
第1章 異世界漫遊編
4/11

第4話 討伐隊への志願

 (……騒がしいですね……)


 アイリスが言う通り、今日のギルドは何か騒がしい様子だ。


 五月蝿いのも騒がしいのも好きじゃないんだ、帰らせてもらおう。


 「お前確かこの間Dランクに上がった兄ちゃんだよな?」


 「何の事か分からない」


 「ちょっ?!おいおい帰ろうとすんなよ!Dランクに上がった兄ちゃんだってのは分かってんだよ」


 「はぁ……だったら何だって言うんだ?」


 「そんなイライラすんなよ!取り敢えず俺はダンダってんだ。兄ちゃんに頼みたい事があんだよ」


 ダンダってんだ?ラッパーかこいつは?


 「聞く義理が無い」


 「冷てぇ…冷た過ぎるだろおい?!氷結の魔女も震え上がる位の冷たさだぜ」


 「例えが分からん、出直せ」


 「嘘嘘嘘!!もう変な事言わないから話だけでも聞いてくれよ!」


 「飯だな、飯を奢るなら聞いてやろう」


 (……鬼ですね……)


 等価交換だ。

 飯なら妥当だろ?


 (……話しを聞くだけで食事をせびるなんて·····……)


 「飯か…分かった、後で御馳走するから話し聞いてくれよ、な?!」


 「とっとと話せ」


 「ひでぇ!!まっ、まぁ良いよ。話すよ」


 「あぁ、急げ」


 「ぐっ……あのさ、今日めちゃくちゃギルドが混んでるのは分かるよな?その原因が魔物の異常繁殖何だよ。たまーに魔素が濃くなるとこの現象が起きるんだけど、今回もそれなんだよ。それでさ、討伐隊を編成して今から向かうんだけど、Dランク以上の冒険者で、かつ2人以上のパーティー限定何だよ!!だからさ、俺とパーティー組んでよ兄ちゃん!」


 「よし、帰るわ」


 「何故ぇ?!話し聞いてた?聞いてたよね?もしかして聞こえて無かったとか?」


 「聞こえていた、だが何故俺がお前と組まねばならん。他の奴と組めば良いだろ?」


 「へへへ……誰も俺なんかと組んでくれないからさ。」


 ダンダは寂しそうに言った。

 俺がへこませたみたいだから、止めろその顔。


 「急に落ち込むの止めろ、対応に困る。それと、何で誰も組んでくれないんだ?」


 (……まさか理由を聞いてあげるなんて、優しい所も有るんですね……)


 アイリスは驚いているようだが、俺にだって人を想う心位有るわコラ。


 「兄ちゃんから見て俺ってどんな感じ?」


 「いきなり何だ?」


 「良いからさ、見た目だけで俺を判断してよ」


 「チビ、ヒョロヒョロ、弱そう、臭そう」


 (……顔はそこそこイケメンですね……)


 「臭くはねーよ!!でもさ、そうなんだよね。この見た目が災いして誰も俺何かとパーティー組んでくれないんだよ」


 「実際はどうなんだ?それなりには戦えるのか?」


 「一応Dランクでは有るからね、弱くは無いと思うよ。でも強くは無い………俺はこれからなんだよ………」


 ダンダは悔しそうに歯を噛み締めていた。


 「人にどう思われようが気にするな、お前はお前だ。どう足掻いてもお前以外にはなれないんだからな。周りに言われた言葉に一々反応していたらそれだけで時間の無駄だ。成りたい自分に成れるように努力出来る人間だけが大成する。大体見た目だけで人を判断する様な奴等は二流だ。二流はそんな事でしか自分の価値を見い出せない可哀想な生き物だからな」


 「…………それでも俺は見返したい、だから今回の討伐隊に加わりたいんだ!」


 「俺のいい話をサクッと切り捨てるとはなかなかいい度胸だな」


 (……ほらほら、怒っちゃ駄目ですよ。大人気ないですね……)


 まるで俺が悪いみたいな言い方止めろ。


 このやり取りにもそろそろ飽きてきた事だし、さてどうするかな。


 「そうだな、飯を3日分だ。3日分奢ると言うのならお前とパーティーを組んでやる」


 「そんな事で良いのか?!奢るよ奢る奢る!」


 「不味い飯だった場合は、お前をシャドウウルフ達の餌にするからな」


 「あい………」


 ダンダの顔から血の気が引いている様だったが、気にする事では無い。

 ちょっとした冗談を言っただけだからな、


 (……アスカ様の顔で言ったら冗談になりませんよ、相手が子供なら親が出てくるレベルですよ?……)


 俺の顔のディスをたまに挟むのを止めろ!


 「ダンダ!それで俺はどうすれば良いんだ?」


 「あっ、うん。先ずは俺と一緒にカウンターまで行こう」


 ダンダに促されるままにカウンターへと向かうと、大量の冒険者が討伐隊に志願していた。


 「何でこんなにうじゃうじゃいるんだ?討伐隊に入ったら何か恩恵でもあるのか?」


 「報酬だよ報酬。参加するだけで500ルクス、そこから倒した魔物の魔石や討伐数に応じた報酬が有るから、Dランクでこれだけ稼げる依頼はそうそう無いってんだから皆飛びつくよ。俺は違うけどね」


 「稼げるのか、そりゃ馬鹿共は飛び付くな」


 (……周りをいきなり馬鹿呼ばわりするのはいただけないですね……)


 知った事か。


 「でもさ、危険も多いから避ける冒険者も結構いるよ。毎年何十人もこの依頼で亡くなってるからね」


 「そうか、だが問題無い。俺は強いからな、生半可な事では死なない」


 (……その自信は何処から来るんですか?まぁアスカ様が強くなる事でしたら私は大歓迎ですけどね。私が授けた力もきっと活躍するでしょうし……)


 声で分かる、コイツ本当に楽しそうだ。

 戦いが絡むと気分が高揚する天使ってどうなんだよ?


 「頼りにしてるよ兄ちゃん、俺も足引っ張らないように頑張るからさ」


 「引っ張るようなら置いていくだけだから気にしなくていいぞ」


 「ひでぇよ………」




 他愛も無いやり取りを繰り返しながら、二人で討伐隊への参加を志願した。

 何か聞かれるかと思ったが、何て事は無くすんなり通った。


 実際どんな魔物がいるのか、どれだけの規模なのか分からないってのは不安が無い訳じゃない。

 だが、弱気になるのは俺の性分じゃないんでね。

 適当に暴れさせて貰うさ。


 「東門に馬車を用意してある、準備が出来た奴から乗り込んでくれ」


 一人の冒険者の言葉に、他の冒険者は叫ぶ様に反応しギルドから出て行った。


 「何だあの厳ついハゲは?」


 「ハゲ?!そんな事言ったら駄目だっての!!あの人はモーガンさん、この街で唯一のAランク冒険者だってば」


 「ハゲの癖になかなかやるみたいだな」


 (……ハゲに恨みでもあるんですか?……)


 「中学の時の担任がツルッパゲでな、黒板に向かうと太陽の光が後頭部で反射して睡眠妨害されてたんだよ。それだけでも恨む理由になるだろ?」


 (……なりません、普通授業中は寝ません……)


 一般的にはそうかもしれないな、だが俺は違う。

 最も優先すべきは睡眠だ。

 それを邪魔されていたんだぞ?万死に値する程だ。


 (……そうですか……)


 反応が薄いと薄いで妙にイラッとするな。


 「兄ちゃん!何ブツブツ言ってんのさ。俺らも行くよ」


 ダンダに急かされてしまった。

 こいつも生意気になったもんだ。


 (……さっき知り合ったばかりなのに、昔から知ってるみたいな雰囲気醸し出すの止めて下さいよ……)




 アイリスのツッコミを軽くスルーして、東門へと足を進めた。

 門を出た所で数組の冒険者パーティーが馬車に乗り込もうとしていた。


 「おい見ろよアレ、モヤシのダンダだぜ。アイツも討伐隊に志願したのか?」


 数人の冒険者がダンダを指差し笑っている様だ。

 ダンダは視線を落とし、拳を震わせていた。


 「おい三下系ヤラレ役共、ダンダを馬鹿に出来る程強くないだろお前達も」


 「あぁん?なんだテメーは?」


 「さぁな、只の冒険者だ」


 「ちょっ?!何で兄ちゃんが挑発してんのさ」


 「ダンダの兄ちゃん?ギャハハハハ!兄弟揃ってモヤシじゃねーか!そんな体で戦場に出ても死ぬだけだぞ!ギャハハハハ!」


 よし、殺そう。


 (……いやいやいや、駄目ですよ何考えてるんですか?!……)


 「俺を馬鹿にしたんだぞ?殺るしか無いだろ」


 (……そんな事するよりも、討伐であの人達よりも結果を出して笑い者にする方がスッキリすると思いますよ。好きですよねそう言うの……)


 「ククク…あぁ、大好きだ。おいダンダ、一番だ!俺達が一番多く魔物を狩るぞ!」


 「えぇ?!そんな無茶苦茶な!」


 「なら黙って見てろ、俺は1人でもやるぞ」


 「うぅ……分かったよ!やってやるってんだ!」


 俺達の会話を聞いていたのか、馬鹿にしてい冒険者達が更に腹を抱えて笑い始めた。


 (……無視ですよ無視!相手のペースに飲まれたら負けです。既に勝負は始まっているんですからね……)


 何の勝負だよ?!




 前の冒険者達を乗せた馬車が出発し、遂に俺達の番が回ってきた。


 「へへへ、緊張するぜ。だけど楽しみでもあるんだ!自分を試せるってさ」


 「死ぬ気でやれ、一番にならなければ死ぬのと同じ苦痛を与えてやる」


 「ひえぇ……何かめっちゃ怖いんですけどぉ」


 (……さっきの怒りをダンダさんにぶつけるのは止めましょうか?……)


 「チッ、すまん。さっきの奴等のせいでイライラしてな。だが、一番になるってのは本当だ。何が何でも一番多く狩るぞ」


 「やってやるさ!」


 ダンダに喝を入れ、たまに虐めながら目的地へと進んで行った。


 「しかしだ、よくよく考えたら何の魔物が異常繁殖してるのか、何処に出たのか、何の情報も入れずに来てしまったな」


 「それなら問題無いぜ!異常繁殖してんのは亜人系の魔物さ。ゴブリン・コボルト・オークって所かな。ハーピー何かがいたら厄介だったんだけどね、今回は見当たらなかったらしいぜ。場所はカーマ村の近くの草原さ、カーマ村ってのは美味い茶葉が取れるって有名な所らしいぜ」


 「その茶はそんなに有名なのか?」


 「質問そこかよ?!まぁ良いや、カーマ茶を王国への贈り物にする貴族がいるって話だ。それだけ有名って事だろ」


 「ほぅ、それは是非とも手に入れなければいけないな」


 (……アスカ様の変なスイッチが入る音が聞こえましたよ……)


 食に五月蝿いであろう貴族共が贈り物とする何て相当な代物だろう。

 これさそそられるぞ。


 「兄ちゃんめっちゃ怖い笑み浮かべてんだけど……」


 (……元々の悪人面に、更に拍車がかかってますね……)


 何とでも言えば言いさ、今俺は非常に機嫌が良いんだ。

 美味い茶か……楽しみだ。


 (……さっきまであれだけ腹を立ててた人とは思えませんよ全く……)




 「兄ちゃん!見えて来た!もう始まってるぜ」


 ダンダの言葉に視線を上げると、遠くの方で大量の魔物と冒険者達が戦っている姿が見えた。


 「なかなかの数だな」


 (……数百体はいますね……)


 「へへ…へへへ……やってやるぜ」


 ダンダは気合を入れているらしいが、体はぶるぶると震えていた。


 「おいビビリ、落ち着け」


 「誰がビビリだ!!」


 「震えは止まったか?」


 「あっ……うん。行ける」




 少しだけ遠くに馬車を止め、俺達は魔物の群れへと走り出した。


 最初に仕掛けたのはダンダだった。

 ナイフを二本抜き、器用な立ち回りを見せながらゴブリン達の首を一太刀で捌いて行く。


 俺もそれに続く様に剣を抜き、ゴブリンの首を次々に飛ばして行った。


 「やっぱ強いな兄ちゃん!俺の目に狂いは無かったぜ!」


 「お前も雑魚だが、なかなか良い動きをするな」


 「貶すか褒めるかどっちかにしてくれよ!」


 雑魚とは言ったが、ダンダの動きは本当に良いものだった。

 相手の攻撃を躱しながら懐に入り、流れる様な動作での攻撃。

 雑魚は雑魚だが、只の雑魚では無いようだ。


 「さぁ、もっとだ!もっと狩るぞ!」


 俺の言葉にダンダも気合を入れ直し、二人で魔物を狩りながらどんどん奥へと進んで行った。




 ゴブリン達の密集地帯を抜けると、コボルトやオークの姿も見えて来た。


 オークは醜悪な豚面に筋骨隆々な肉体、そして片手には大きな斧を携えていた。

 体長は2mはありそうな程に大きかった。


 ダンダはオークの攻撃を巧みに躱し、懐に入るとそのままナイフを突き立てた。


 「くそっ!!こいつめちゃくちゃ硬い!」


 ダンダの攻撃ではオークに傷1つ付けれなかった。


 「筋肉の薄い所を狙え!首の後ろ、脇の下、関節だ!通用するかは分からんがな!」


 俺の言葉に頷くと、ダンダは又オーク目掛けて走り出した。


 「さてと、俺も本気でやらないとな」


 (……サクッとやっちゃいましょー!……)


 この天使ノリノリである。

 ったく気楽なもんだなお前は。


 (……アスカ様なら問題無く片付けてしまうでしょう?……)


 「当たり前だ」


 剣を突き立てる様に構え、姿勢を低く取る。

 爪先に力を入れ地面を蹴る様に前へと駆ける。


 勢いを殺さない様に最小限の動きでオークの攻撃を躱し、そのまま鳩尾へと剣を突き立てた。

 俺の剣は吸い込まれる様にオークの身体を貫き、そのまま絶命させた。


 「どうやら問題無くダメージは通るらしいな、ダンダは力が足りないのか?」


 (……客観的に考えてそうでしょうね、オークの装甲を突き破るだけの力に達していないんでしょう……)


 「だが見てみろ、問題無く倒せている様だぞ」


 ダンダの方を見ると、オークの背中に飛び乗り、後ろから首を一突きして倒していた。

 予想通り首への攻撃は通るみたいだな。


 「要は戦い方が重要って事だな、足りない力は知恵を使って補うしかない」


 (……ふふふ、やっぱりアスカ様って優しいですね……)


 「あ?五月蝿いぞコラ。ダンダにも頑張って貰わないと、あの糞冒険者共を笑い者に出来ないだろーが」


 (……ならそう言う事にしておきますね……)


 「チッ!何なんだよ」


 (……ほらほらアスカ様、次が来ますよ次が……)


 「分かってるっつの!!」


 次々に襲い来るオークとコボルトを一刀に斬り伏せ続けた。


 時間にして数分、数にして数十体を斬り伏せていた。


 「想像以上にすげーな兄ちゃん………俺の数倍は狩ってるじゃん」


 「俺は特別だからな、お前も俺位になれるよう努力しろ」


 「えっ?あっ…はい!」




 魔物の数が減って来た事で、辺りの緊張は少しづつ溶け始めていた。


 だがその時だ。


 「逃げろー!!やべーのがいるぞ!!早く逃げろ!!」


 遠くの方から誰かの叫び声が聞こえた。


 どうやら強い魔物が出たらしく逃げて来たらしい。


 「兄ちゃん、あれ確かCランクの冒険者だぞ」


 「それがどうした?」


 「Cランクの冒険者が逃げ出す様な魔物が出るなんて聞いてない」


 ダンダの顔が少し青ざめていた。


 「そうか、だが出たんなら仕方ない。倒すか」


 「って俺の話し聞いてた?!Cランクの冒険者が逃げ出す魔物だぜ!俺達Dランクが倒せる訳無いじゃん!」


 「俺をお前らの物差しで測るな、俺はそんな所にはいない」


 「いやいやいや!意味が分からないから!多分誰かが高位の冒険者を呼んで来てくれる筈だから待つしかないって 」


 五月蝿い奴だな、アイリス級の五月蝿さだぞ全く。


 「ってシカトして歩き出すの止めよーぜ!!」


 「はぁ……安心しろ、見に行くだけだから」


 (……そしてあわよくば倒しちゃうんですよね……)


 また楽しそうにしてやがるな。


 「あぁ…もう!!分かったよ、俺も付いてくから本当に見るだけだからな!!」


 「邪魔だけはするなよ?」


 「心配して付いて行く俺に対する扱いが酷すぎるんだが?!」




 何はともあれ、情けない冒険者が逃げて来た道を遡って行く事にした。


 (……せめて戦略的撤退て言ってあげましょうよ……)


 知った事か。


 足を進めて行くと、少しだが鼻を突くような腐臭が漂い始めた。

 その臭いは進めば進む程に濃くなっていった。


 そして俺達は臭いの元凶に行き着いた。


 「兄ちゃん……駄目だ……逃げよう」


 ダンダの声は震えていて、何を言っているのか上手く聞き取れない程だった。


 「この臭いデカイキモイ豚は何だ?只のオークとは違うみたいだが」


 「おっ…オーク……キング……オークキングだよ兄ちゃん!討伐ランクB指定のめちゃくちゃ危ない奴だ!俺達でどうにか出来る相手じゃない!!」


 「らしいぞアイギス、逃げた方が良いか?」


 (……そんな事を言いながら剣を抜くなんて、本当に天邪鬼ですね。やるのでしょう?……)


 「何故か知らんがな、少しだけワクワクしている自分がいるんだ。多分お前の病気が移ったんだな」


 (……病気とは酷い言い方ですね、流石に傷つきますよ?ですがまぁ、お気を付けて……)


 「さてと、一丁やるかな」


 俺の言葉にダンダの顔がどんどん青ざめていった。


 「お前は逃げて良いぞ、後はやっておくから」


 「ふふふふふざけんな!!兄ちゃんも逃げろよ!!馬鹿かよ!!」


 「この俺が馬鹿だと?よし分かった、後でお仕置きだ。それにな、相手に気付かれたぞ。これでもう逃げられん」


 「あーもうっ!!ちくしょう!!仲間置いて1人で逃げられるかよ!!」


 「逃げないのか?なかなか根性が有るみたいだが、邪魔だからどっかに隠れてろ」


 「くっ!分かったよ!絶対死ぬなよ馬鹿野郎!」


 「お前にお仕置きしないといけないからな、それに俺は強いからな。こんな豚にはやられない」


 とは言ったものの、どうしたもんかな。

 体長が普通のオークの1.5倍はありそうな感じだぞ。

 筋肉の付き方も異常だ、胸から肩にかけての筋肉が異常に隆起してやがる。


 持ってるのも斧じゃ無くて馬鹿デカイ大剣とはな。

 流石はオークキングと言った所か。

 だがしかし、臭過ぎるぞお前!

 その臭いのせいで威厳やそんなもんが全てパァだ。

 寧ろマイナスだ。


 俺はな、大嫌いなんだよ。

 不潔な奴と臭い奴がな!!


 最初から全開でいく、【聖痕開放】でとっととケリを付けるぞ。


 【聖痕開放Lv1】


 守護天使(アイリス)の聖痕を開放します


 リプカの右手 消費MP30

 バラスの左手 消費MP30


 リプカの右手を選択する。

 右手に蛇の様な痣が浮かび上がり、それらは熱を放ち、やがて炎へと姿を変えた。


 右手を前に突き出し力を開放する。

 炎の蛇はオークキングへと絡み付き、その肉を燃やし始めた。


 「何だ、呆気なかったな」


 (……残念ですが、まだ終わりでは無い様です……)


 「何?!」


 アイリスの言葉でもう一度オークキングへと視線を向けると、炎の蛇を自力で消し去っていた。

 その身体には少しの火傷がある程度で、大したダメージは通っていない様だ。


 「チートじゃなかったのかよこの力は」


 (……私が使えば一瞬で消し炭何ですけどね、威力はアスカ様の魔力と比例していますから……)


 「俺の魔力が低いのが悪いって訳か」


 (……あれ?怒ってますか?……)


 「怒ってねーよ、今倒し方を必死に考えてんだよ」


 だがオークキングはその暇を与えてくれるような相手では無かった。


 怒りの形相を浮かべ、大剣を振りかざしながらコチラに向かって突進して来た。

 デカイ図体からは考えられない程の速さだった。

 気付いた時には既にオークキングの大剣の射程内に入ってしまっていた。


 振りかざされる大剣は、風を巻き起こしながら俺に向かって来る。


 「クソがァ!!」


 罵声にも思える声をあげ、地面を転がり何とか躱す事が出来た。

 しかしその一撃がどれ程の威力を誇っているかは、地面を見れば一目瞭然だった。


 半径にして1m程の地面が抉られる様に吹き飛んでいた。


 「1発でも当たればお陀仏だな」


 (……不味いですね、逃げますか?……)


 「逃げるだと?ふざけるな。俺は1度口にした事は曲げない主義なんだよ」


 (……ですが打つ手なしですよ?……)


 「あるさ、打つ手ならある」


 (……【聖痕開放】以外でオークキングと戦う術なんて有りましたか?……)


 「【聖痕開放】以外なんて誰が言った?」


 (……はぁ、さっき通用しないのは確認したじゃないですか……)


 「したな、だが確認したのは表面だけだろ?もし内部から攻撃されたらどうなるだろうな」


 (……凄く悪い笑みを浮かべてますね、ですが試す価値はあるかもしれません……)


 「身体の中で氷の華が咲くってのはどんな気分なんだろうな?」


 (……私には分かりかねますが、決して良い気分では無いでしょうね。いや、寧ろ不快でしょうね……)


 「なら盛大に不快な気分にしてやろうじゃないか」


 意識をオークキングの動きに集中する。

 一瞬の隙を見付ける。

 一瞬の隙を付く。

 一撃だ、一撃で決める。


 俺が何を考えているかなど分からないオークキングは、またしても大剣を振りかざしながら突進して来た。


 一度見た動きだ、躱す事など造作も無い。


 振りかざされた大剣を身を翻しながら躱し、そのままオークキングの腕を蹴り上に飛ぶ。

 アホ面のまま口を開いて驚いているオークキングの口の中目掛けて左手を突っ込む。


 【聖痕開放Lv1】


 守護天使(アイリス)の聖痕を開放します


 リプカの右手 消費MP30

 バラスの左手 消費MP30


 そのままバラスの左手の力を開放した。


 氷の華が次々とオークキングの中で咲いていく。

 一つは目を突き破り咲いた。

 更に耳、鼻と咲き始める。


 俺はオークキングの口から手を抜き、距離を取って様子を伺った。

 バラスの左手を内部から食らったオークキングはピクリとも動かなくなり、そのまま膝から崩れ落ちる様に倒れた。


 万が一が有るかも知れない、俺はオークキングの首に剣を突き立て首を斬り飛ばした。


 「案外呆気なかったな」


 (……力が足りないのなら知恵で補え。さっき言っていた言葉を自ら体現しましたね……)


 「ふんっ!俺が弱い訳じゃないがな!」


 (……ふふっ、そうですね。アスカ様はお強いですよ……)


 コイツに言われると馬鹿にされている様で腹が立つな。




 「まじか………まじでやっちゃったよ!!すげー!!すげーよ兄ちゃん!!」


 「おぅダンダ、セイ!!」


 俺の華麗な正拳突きがダンダの鳩尾を打ち抜いた。


 「ぐぼぁっ!!なっ…何…をする…んだよ」


 ダンダは大量の涙と涎を撒き散らしながら叫んでいた。


 「ん?終わったらお仕置きすると言っただろう」


 「これ…が…お仕置き……かよ…」


 (……もう少し手加減してあげて下さいよ全く……)


 「大分手加減した筈なんだがな、おかしいぞ」


 (……さっきのオークキングとの戦いで相当レベルが上がったのかもしれないですね……)


 そう言う事か。

 実際ダンダへのお仕置きはこんな感じになる予定じゃ無かったんだがな。

 レベルが上がって加減が狂ってしまったのなら仕方無い。

 俺に非は無いだろう?悪いのはレベルだろう?


 (……責任転嫁する場所がおかしいですよ……)


 とにかくだ、オークキングを倒したんだ。

 これで、あの糞冒険者共に威張り倒してやる事が出来るな。


 アイツらの悔しがる顔を思い浮かべると何だか心が弾むな。


 (……色々歪んでますね……)


 「言い出したのはお前だからな、1番歪んでるのはお前だろ」


 (……それを言われると言い返せませんね……)


 「珍しく認めたな、何か起きるんじゃないか?」


 (……何が起きるかは分かりませんが、何かが凄いスピードでこちらに向かって来てるのは分かります……)


 淡々と何を言ってやがる。

 まだ何か有るってのか?流石に疲れたぞ俺も。




 「お前ら無事かっ?!」


 声の主はモーガンだった。

 額に汗を浮かべ、かなり急いで来たのが伝わって来た。


 「何の話だ?」


 「何のってお前、出ただろオークキングが。救援要請があって急いでこっちに来たんだぞ」


 「あぁ、それなら向こうで転がってるぞ」


 俺の指差す先で、首を斬り落とされたオークキングの死体が転がっている。


 「なっ?!誰がやったんだこれは?今回の討伐隊には最高でCランクの奴しかいなかった筈だぞ」


 「兄ちゃんがやったんだぜモーガンさん!いやー、めっちゃカッコよかったっすわ」


 「コイツがか?確か君は最近Dランクになったばかりの新人じゃなかったか?」


 新人だから何だと言うんだ?

 他の有象無象と一緒にされるとはな、頭に来るハゲだ。


 「俺が倒した、それ以外の何でも無い」


 「本当に君が……くくくっ、コイツは良い話しを聞いたぞ。期待のルーキーの誕生だ。ガハハハハハッ」


 モーガンは嬉しそうに笑っている。

 若干だがその笑い声は耳障りだったが、褒められているので我慢しておいた。


 「討伐ランクB何だろオークキングってのは。なら報酬は期待しても良いのか?」


 「いきなり報酬の話しか?!くくくっ、つくづく面白いな君は。 そうだな、今までの依頼の報酬とは比べ物にならないから楽しみにしておくと良いぞ」


 ほぅ、それは有難いな。

 これで更に美味い飯にありつけるって事か。


 「くくくっ、楽しみだなそいつは。 そう言えば魔物の殲滅は終わったのか?」


 「あぁ、さっき終わった所らしい。他の奴らは魔石の回収を始めてるから君達も急いだ方が良いぞ」


 「俺達が狩った魔物の魔石も横取りされるのか?」


 「その心配は無いぞ、そこにはきちんと倒した奴が魔石を回収するってルールがあるからな。 それを破ればギルドにいれなくなっちまう」


 「成程、まともな決まり事もちゃんとあるんだな。 ダンダ!急いで魔石を回収して帰るぞ。 俺は疲れたから早く風呂に浸かりたいんだ」


 「待ってよ兄ちゃん!そんな焦んなってぇ!!」




 俺達は急いで魔石を回収して、帰りの馬車に乗り込んだ。

 何故か分からないが帰りの馬車の中で他の冒険者達にチラチラ見られ、苛立ちを覚えた。


 言いたい事があるなら口に出せ、出さなければ何も伝わらないって事を知らんのかコイツらは。


 (……まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。 ひと仕事終えたんですから、周りなんて気にせずにまったりすれば良いんですよ……)


 アイリスがまともな事をまた言ったぞ?

 これはきっと悪い事が起きる前兆だな。


 (……アスカ様は私を何だと思ってるんですかね?……)


 さぁな、未だに良く分からん。




 アイリスと会話をしていたら門が見えて来た。

 途中何度かダンダに視線を向けたが、相当疲れているらしく爆睡していた。


 「起きろダンダ!街に着いたぞ」


 「ふぇ?……えぇっ?!俺ずっと寝ちまってたのか?!」


 「五月蝿い黙れ」


 「やっぱひでぇ…………」


 テンションが著しく下がったダンダを連れて、ギルドへと向かう。

 道中何度か足を止めて、露天に出ている美味そうな物を食った。


 腹が減ると思考能力は低下するらしいからな、腹を常に満たしておかないと駄目だ。


 (……もっともらしい事言ってますが、単純にギルドに報告終わらせるまで我慢出来なかっただけですよね……)


 そうとも言うな。




 ギルドに着くと、昼過ぎのに来た時の様に賑わっていた。

 どうやら他の冒険者達も報酬の受け取りをしているらしい。


 五月蝿いのも人混みも嫌いな俺にとってさ最悪なシチュエーションだ。

 俺は帰りたい気持ちを無理やり押し殺し、自分達の番を待った。


 順番待ちをしている時だ、また奴等が声を掛けてきた。


 「おやぁ?これはこれはモヤシブラザーズじゃねーか。 どうだぁ?ゴブリンの一体位は狩れたか?キャハハハハハ」


 三下特有の馬鹿笑いが響き渡っているが、今の俺はそれ如きで腹を立てたりはしないんだよ。


 「あぁ、大した数は狩れなかったが俺達なりに頑張ったつもりだ」


 「頑張っただぁ?頑張るだけで魔物が倒せりゃ苦労しないっての!キャハハハハハ」


 馬鹿笑いが響き渡る中、俺達の順番が回ってきた。

 カウンターに着くなり、一気に袋の中の討伐部位と魔石を出した。

 出された物を見て、職員と三下冒険者共が黙ってしまった。


 「何を固まってるんだ?早くしろ」


 「はっ、はい!失礼しました。 直ぐに計算しますね。 ですがDランクの二人パーティーでこの数ですか……正直驚きです………」


 「これで驚くだと? ならこれを見たらどうなっちまうんだろうな?」


 俺は別の袋に入れておいた他の物より明らかに大きくて綺麗な魔石と討伐部位を出した。


 「へ?えっ…えー?!それってもしかして今回出たって噂のオークキングですか?!」


 「あぁ、そうだ。雑魚を狩るついでに狩って来た」


 ………おいおい嘘だろ?………

 ………モーガンさんが着いた時には既に他の冒険者に倒されてたって話だったがアイツらだったのか?!…………

 …………Dランクの冒険者がオークキングを狩るなんてありえねーぞ!………


 色々な所でそんな話し声が聞こえて来た。

 一々嘘を吐く必要なんて無いだろう屑が、他人の実力を認める事も出来んのか。


 「お前らー、少し五月蝿いぞ。 コイツがオークキングを倒したのは本当だ。 俺が証明する」


 その言葉を発したのはモーガンだった。

 周りの奴等はモーガンの言葉で直ぐに静かになった。

 三下冒険者共も抜が悪そうな顔をしながら俺達から離れていった。


 あぁ、堪らなく気持ちいいなコレ。


 (……楽しそうなアスカ様を見れて私も嬉しいです……)


 本気で言ってないだろそれ。


 「モーガンさんが証人ですか……凄過ぎます。 Dランクの冒険者がBランクの魔物を倒すなんてそうそう有る話じゃありませんよ?! 今私は歴史の証人になったんですね!! 感動です!!」


 「感動してる暇があったらとっとと済ませろ」


 「まぁまぁ兄ちゃん、アイツらに一泡吹かせてやれたんだからもう少し心にゆとりを持とうぜ」


 「黙っていたと思えばいきなり喋り出した内容がそれか、つまらん奴だな」


 「やっぱひでぇ!!」


 「ガハハハハハ!!やっぱり君は面白いな。 何か機会があれば一緒に仕事をしてみたいもんだ」


 「おっさんと仲良くする趣味は無いんでな、お断りさせてもらう」


 「モーガンさんに何言ってんだコラァ!!」


 ダンダが吠える様に言っているが、おっさんと仲良くする趣味は無いと伝えただけだぞ?

 怒られる意味が分からない。


 (……そこは人として分かりましょうよ……)


 お前まで言うか。


 「気にするな!ガハハハハハ! 面白い新人を見れたからな、それだけで満足さ俺は」


 モーガンは笑いながら去って行った。

 その姿に他の冒険者達は次々に頭を下げ始めたら。

 どうやらモーガンは皆に慕われているようだ。

 俺は全然興味無いが。


 モーガンがギルドから出たタイミングと同じくして、報酬と買取の計算が終わったらしく職員が走って来た。


 「はぁはぁはぁ…んっ…はぁ。すいませんアスカさん、計算終わりました!」


 息を切らす程に急いでやるとは感心だな。


 (……そうさせたアスカ様がそれを言いますか……)


 息を切らす程急げとは言ってないがな。


 「それではこちらが討伐隊への参加報酬の500ルクスです。 それでこれが魔物の討伐報酬と魔石の買取額を合わせた物で、6000ルクスです」


 「6000だと?!そんなに有るのか?!」


 勿論この額は俺とダンダの討伐数と魔石の売却額を合わせた物だが、まさかここまで高いとは。


 「はい、オークキング一体の討伐報酬が2500。 そして魔石の買取額が500ですので、それだけで3000は有りますからね。」


 旨すぎるなオークキング、狩ったかいが有ったと言うものだ。

 二人で別けても3000ルクス、そして参加報酬の500を足せば3500か……これなら腹いっぱい美味いものが食えるな。


 「おいダンダ、これは山分けで良いんだろ? 早く3000ルクス持って行け」


 「えっ?!ちょっと待ってよ兄ちゃん!オークキングを倒したのは兄ちゃん何だから、その分の報酬は受け取れないってば!」


 「必要無い、元々報酬は最初から半分にするつもりだったんだからな。 何よりオークキングを狩ったのは気まぐれだ。 ウダウダ言わずに持って行け」


 「酷い奴だとばかり思ってたけどめちゃくちゃ良い奴じゃねーかよ!!」


 「オークキングの報酬分は3回の飯代で回収するから問題無い」


 「やっぱひでぇ!!」




 「あのぉ……楽しそうにしている所悪いのですが、アスカ様にお話があるんです」


 別に楽しそうにしてないだろ?

 これが楽しそうに見えたのなら、それ職員、お前がドMだからだ。


 「何だ?手短に話せ」


 「あっはい! 今回のオークキング討伐の件での功績を認められて、アスカ様のCランク昇格が決定しました」


 「はぁ?ついこの間上がったばかりだぞ、急すぎるだろ」


 「早いとは思いますが、上が決めた事ですので。 昇格が嫌だと言うのなら断る事も可能ですがどうしますか?」


 「ふっ、まぁ良い。 断る理由も無いしな。 Cランクに上げてもらおうか」


 俺はギルドカードを職員に渡し、前の様に石の上に掌を乗せた。


 結城(ゆうき) 朱鳥(あすか)


 Lv20


 〈称号〉暇人 獣キラー


 HP 400/400

 MP 450/450


 AT 205

 DF 180

 AGL 215

 DEX 190

 INT 180


 EXP 950/5000


 〈能力〉 聖痕(スティグマ)開放Lv2

 加護契約Lv1


 これはまたかなり成長したな。

 何より気になるのが【聖痕開放】のLvが2に上がっているのと、新たに【加護契約】っての増えてる事だ。

 何の能力かは後でアイリスに聞くとするか。


 「このステータスでオークキングを倒してしまうなんて……何か特殊な武術でも使うんですか?!」


 「さぁな、話す義理は無い」


 何故か職員はしょぼくれていた。

 それ程落ち込むような言葉を掛けたつもりは無かったんだがな。


 (……無意識で人を傷付けるなんて最早才能ですね……)


 五月蝿いぞコラ。




 とにかくだ、今日は疲れた。

 早く風呂に浸かって、肌触りの良い布団にくるまりたい。


 俺はダンダに後日飯を奢らせる約束を取り付けてから宿へと向かった。

 これだけ疲れた身体で入る風呂は気持ち良いだろうな。

 そんな事を考えながら心を弾ませていた。

誤字がありましたら教えて下さい。

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