第1話 行ってやるよ異世界
週1更新を心掛けます。
長い作品になると思いますが、どうぞ宜しくお願いします。
何て言えば良いのだろうか。
今起きた事、現在起きている事、その二つの事柄を説明するには、俺の知識じゃ足りない様だ。
現代社会では、決してお目に掛かれないであろ鎧の騎士達。
豪勢な装飾が施されたマントを身に着けた白髪の紳士に、胸元がザックリと開き、中の果実が零れ落ちそうになっている女性達。
そんな奴等が今目の前にいる。
少し前に起きた現象さえ無ければ、きっと映画の撮影か何かだろうと言えたんだが。
俺は何時も通り授業をサボって屋上で寝ていた。
それだけなら普段と何ら変わりは無いだろう。
だが、普段の様にならなかったから今俺は混乱しているんだ。
頬を撫でる心地良い風、心に安らぎを与えてくれる小鳥の囀り。
そのまま重くなる瞼を閉じようとした時だった。
「授業中に外で寝るなんて悪い子ですね」
意味が分からなかった。
俺は誰もいない屋上で、今まさに眠りにつこうとしていた筈だ。
なのに何故目の前に女がいる?
まぁ、いるだけなら最悪許そうと思う。
だがそうじゃない、浮いているんだ。
女は俺の上で浮いている。
「何だよお前?何で浮いてんだよ?」
「一度に二つの質問は受け付けていませんよ」
「なら何でお前は浮いてるんだ?」
「それは私が天使みたいな者だからですよ」
ニコッと満面の笑みを浮かべながら女は言っている。
多分だが、相当頭がヤバイ奴なのかもしれない。
「ヤバイ奴ではありませんよ、失礼しちゃいますね」
「なっ?!お前?!」
「驚きました?驚きましたよね?良いんですよ、それが普通の反応ですからね」
「意味がわかんねーぞ……どうなってんだ」
「ふふふ、やっと子供らしい普通の反応をしてくれましたね」
「チッ!何なんだよマジでお前?天使?ちゃんと説明しろ」
「ハハハハ、すいませんすいません、ではちゃんと説明しますね。」
「早くしろ、俺は眠いんだよ」
そして、変な女は説明を始めた。
最近この世界の人間を数人程異世界って所に送る仕事があったらしいんだが、どうやら送った先で色々なトラブルに巻き込まれて大変な目に合ってるらしい。
だから遠まわしで良いからそいつ等の手助けをしてやってくれって話だった。
「何だそんな事か」
「はい〜そうなんです!良いですね?良いですよね?!」
「勿論断らせて貰う。そんな面倒な事出来るか」
「えぇっ?!困りますよ!!せっかく転生出来る器を持つ人を見つけたって言うのに!!」
「器?意味が分からん。俺は忙しいんだ」
「忙しいって寝ようてしてるだけじゃないですか……他の人で良いならそうしてますよ、ですけどね、転生出来る人はごく僅かしかいないんですよ。だから断られると非常に困るんです!」
「俺は困らんし、何より俺にメリットが無いだろ?」
「酷いっ?!ですが、メリットですか……何を求めますか?何が有れば良いんですか?」
まさか聞かれるとは思わなかったな。
最初から行くつもり何て無かったから、何となく言っただけなんだが。
しかし心が読める訳じゃないのかこの女は?
「そうだな……気持ち良く寝れるベッドに、旨い飯、俺を楽しませてくれる面白い物だな」
「ほうほう、そんな物で宜しければ異世界に行けば沢山有りますよ!気持ち良く寝れるベッド何かは場所を選びますが、異世界には沢山の大陸に様々な食材がありますので、食べ物は選り取りみどりです。勿論お金を稼がなくちゃ食べる事は出来ませんけどね。それと、楽しいと思いますよ異世界。地球……いえ、日本の様に安全が保証されている訳ではありませんからね。魔物もいますし、戦わなければ死ぬ事だって有ります。そんな世界が暇な訳無いじゃ無いですか」
「めちゃくちゃだなお前の言い分。だが興味が湧いてきたのも事実だな。暇はしなさそうだ」
「なら是非に!!」
「だが、このまま行って大丈夫なもんなのか?魔物だっているんだろ?それに、先に送られた奴等の手助けって何なんだよ」
「ご安心下さい!私が適当に力を授けますから。あみだくじ的なノリでピャッと決めちゃいますから安心して下さいね!それと、手助けと言ってもわざわざ探して助ける必要は無いですよ。困っている所に遭遇したりなんかした時に、ちょっとした助力をしてあげたら良いですから。基本は気ままに行動していて貰って結構ですよ」
「めちゃくちゃ緩いんだな、異世界転生って。しかし、適当に力を与えられんのはなかなかに不安だな」
「まぁ、貴方は勇者じゃないのでテンプレ的な力はさずけられませんしね。役に立たない力は渡さない様頑張るので安心して下さい」
勇者?勇者って言ったよな今?
もしかして、先に送られた奴等って勇者なのか?
「はい、勇者ですよ」
「心読んだり読まなかったり何なんだよお前は!!」
「ちょっとー!!今更ですがお前お前って私にはアイリスって神様から貰った名前が有るんですよ!!ちゃんと名前で呼んでください」
お前は空気読んで下さい。
「自己紹介すらして無い癖にとんだ言い草だな。取り敢えず分かったよアイリス」
「そうでしたっけ?!失礼しました!それではちゃんと自己紹介させて貰いますね。私はアイリス、今から異世界に転生してもらう結城朱鳥様の守護天使をさせて貰う者です」
「ほう、全く意味が分からん」
「そんなッ?!まっ……まぁ取り敢えず、異世界に行く結城朱鳥様のサポーターの様な者ですね。呼んで下されば何時でもアドバイスさせて貰いますよー!」
「そうか、頑張れよ」
「何で人事何ですか〜!と!り!あ!え!ず!異世界には行って下さるんですね?」
「暇潰しと旨いもん巡りするには丁度良いかもしれないからな。行ってやるよ異世界って奴に」
「流石です朱鳥様!!それでは早速ですけど良いですかね?誰かに挨拶とかして行きますか?」
「するような相手はいない。直ぐにやってくれ」
「はいはい畏まりました〜」
そして今に至る訳だが。
何なんだよ此処は?
キラキラし過ぎていて居心地が悪過ぎる。
周りの奴等は、ジロジロと俺を見てきやがるし。
視線がムカつくんだよ、見んなよ。
(……コラコラ~異世界に着くなりメンチきるなんてまともな人間のする事じゃ無いですよ………)
「?!……この声はアイリス?」
(……はい!テレパス的な力で話し掛けてます。取り敢えず此処は王都の様ですね。転移先を間違えました……)
気のせいだろうか、今テヘペロて聞こえた気がした。
しかしやってくれたな、このアホ天使は本当に。
(……アホとは何ですかアホとは!!……)
「貴方はどなた様でしょうか?」
アホ天使とのやり取りをしていたら、誰かに声を掛けられた。
「ん?俺か?」
「はい、召喚の間が光に包まれたと聞いたので急いで来たんですが、まさか貴方は勇者様ですか?!」
何だこの展開は?
色々と不味い気がするな、とっとと弁解しておくか。
「いや、俺は勇者じゃない。暇潰しに異世界に来た一般人だ!」
(……他に言い様が無かったのですかね?……)
五月蝿い黙れ、俺は言葉足らずにランキングが有るなら世界トップ10に入れる自信がある程の逸材だぞ。
(……色々と残念な方だったんですね……)
「一般人?その様な方がこちらの世界に来るなんて異例だと思うんですけど……」
「そうか、だが有るんだから仕方無いだろう?それと長居するつもりは無いんだ。色々と迷惑を掛けたな」
「はぁ、構いませんが。しかし、暇潰しとは何をするつもりですか?」
「この世界の旨いものを食べ歩き、面白い事を見付け、沢山寝る事だ!」
「益々意味が分からないんですが、貴方が危険な方じゃないと言う事は理解出来ました」
口元を手で抑え、楽しそうに笑っている様だ。
「ふふっ、すいません。つい可笑しくて。私の名前はイルナシア、このグラシリアス王国の女王です。女王と言ってもなったばかりの新参者ですけどね」
「まさか女王とはな、敬った喋り方をした方が良いか?」
「いえ、異世界から来た方にその様な事を強要するつもりはありませんよ。出来ればですが、お名前を教えて貰っても宜しいですか?」
「悪いな、俺は結城朱鳥だ。アスカと呼んでくれ。」
「はい、アスカ様。それでこれからどちらに向かうおつもりですか?」
「決めてはいない。気の向くままに進むだけだな」
「本当に面白い方ですね、ふふふ」
「そう言えばイルナシア、此処は召喚の間と言ったな?なら俺以外にも誰か最近召喚されたか?」
「いえ、このグラシリアスはとても小さく、力を持たぬ国なので勇者様を召喚できるような力を持った召喚士は存在しません。この召喚の間は昔からある物なのですが、使った事は1度も無いようです」
この国に召喚された訳じゃ無いのか、勇者共は。
それはそれで有難いな、当分は気ままな旅が出来そうだ。
「そうか、わざわざすまなかったなイルナシア。それじゃそろそろ俺は行こうと思うんだが」
「ふふふ、構いませんよ。それよりも、何も持たずに出て行くのは流石に危険かと……」
「そう言うもんなのか?」
「弱いとは言え、グラシリアスの周りにも魔物は居ますからね。少しお待ちになってもらってもいいですか?」
イルナシアは騎士の一人を呼び、何かを耳打ちすると、騎士はいそいそと扉の向こうに走って行った。
暫くして戻って来た騎士の手には、短めの剣と小さな袋が握られていた。
「アスカ様、旅に出ると言うのでしたら、せめてこれくらいは持って行って下さいね」
騎士の手にあった荷物を受け取ると、それを俺に渡して来た。
「いや、初めたあった人間に何をしてるんだ?俺に恩を売っても何の得にもならんぞ」
「そうじゃありません、せっかく別の世界から来たんですもの、少しでもお役に立ちたいだけですよ」
嘘など付いていないんだろう、混じりっけのない真っ直ぐな瞳で俺を見るイルナシアに、ただ頷く事しか出来なかった。
「有難う、助かる。所で、ここから1番近い街は何処に有るんだ?」
「どういたしまして。 そうですね、城から出て1番近いのは城下町になりますが、別の街となりますと、北に歩いて1日程行けばユータリスと言う商業の発展した街がありますよ」
「そこに旨い飯屋と良い宿屋はあるのか?」
「沢山の商人や冒険者の方々がいますからね、選り取りみどりだと思いますよ」
「ふんふん、よしっそこに向かう。色々と有難うイルナシア」
「ふふふ、即決ですね。またグラシリアスに来る事が有れば是非顔を見せて下さいね」
「あぁ、約束だ。」
何故か知らないが、騎士や執事、変な貴族の連中までもが出てきて、賑やかに見送られた。
良く分からんが、この国は嫌いじゃない。
人が温かいのは良い事だ。
(……アスカ様、ちゃんと感謝しないといけませんよ、こんな良い国滅多にありませんからねこの世界には………)
今まで黙ってた癖に、急に喋るな心臓が止まるわコラ。
でもやっぱりそうなんだな、皆が皆、この国の女王の様に出来た人間じゃ無いと言う事か。
なら最初に此処に来れたのは不幸中の幸いって奴かもしれないな。
(……そうですよ、感謝して下さいね……)
黙ろうか?
城を出ると、城下町は直ぐだった。
本当にこの国は小さい様だ、城もそこまで大きくないし、城下町て言えばかなり賑わってるもんだと思ったがそうでも無い。
小さい出店の様な物がポツポツ並んでいる位だった。
だがこの国は笑顔が溢れていた、色々な柵に支配されているならこうはならないだろう。
やはりこの国の女王は相当にできた人物らしいな。
城下町に住む人の顔を眺めながら歩いていると、小さい門に辿り着いた。
「外に出るんですかね?」
門の前で槍を構えている小柄な男が話し掛けてきた。
「あぁ、そうだ。何か問題あるか?」
「いっいえっ!ありません!でも、魔物が出るので気を付けて下さいね」
「分かっているさ、わざわざすまないな」
「いえ!それでは良き旅を」
小柄な男は体中の力を振り絞って門を開けていた。
少し門が動くと休憩し、また押し始める、その行動を数回繰り返しやっと門が開いた。
開いた門の片隅で、真っ白に燃え尽きた男が横たわっていたが、労いの言葉は掛けずにスルーしておいた。
この国は大丈夫なんだろうか?
門の先には少しだけ舗装された道の様な物と、草原が広がっていた。
日本ならば相当など田舎に匹敵するレベルの草原だと思う。
(……アスカ様、魔物が出ますから気を付けて下さいね……)
「気を付けろと言われてもな、剣の振り方も知らないぞ俺は」
(……先ずはステータスでも見たら如何ですか?……)
「ステータス?何だそれは」
(……ステータスが分からない?!ゲームとかした事無いんですかもしかして?!……)
「いや、有るには有るが、リアルでステータスを出すなんて考えた事無いからな」
(……まぁそうですよね、取り敢えずステータスって念じれば見れる筈ですよ……)
念じれば見れるね、取り敢えずやってみるか。
頭にステータスと思い浮かべて見た。
これと言って何も無く、普通に目の前に半透明のモニターの様な物が浮かび上がった。
結城 朱鳥
Lv1
〈称号〉暇人
HP 15/15
MP 35/35
AT 18
DF 10
AGL 20
DEX 15
INT 8
EXP 0/15
〈能力〉 聖痕開放Lv1
何だこれは、まんまゲームの世界じゃ無いか。
しかし称号の欄に明らかな悪意を感じる。
後で文句を言おう、そうしよう。
しかしだ、このパラメータが高いのかどうかも分からんが、この世界のレベル1の平均ってのはどんなもんなんだろうか?
そして一番分からないのが聖痕開放だ。
能力が分からない上に、横にレベル1って書いてあるのが更に謎を呼んでいる。
この能力は強くなっていくのか?
「おい、アイリス。取り敢えず色々と分からん、説明しろ」
(……凄く上から来てるのが納得いきませんけど仕方ありませんね……)
そしてアイリスの説明が始まった。
ステータスの見方はゲームと大体同じだったので問題は無かった。
気になっていたこの世界のレベル1の平均と言うのも、人それぞれだと言うのでいまいち要領を得なかったが、俺のパラメータは低くは無いと言う事なので許してやった。
そして一番気になっていたこれだ、【聖痕開放Lv1】名前を見るだけじゃ皆目検討もつかない。
(……ふふふ、それはですね!私がアスカ様の為にあみだクジで決めた所謂チート能力と言う奴ですよ!……)
「チートねぇ、詳しく教えろよ」
【聖痕開放】それは、俺の身体に刻まれた守護天使の力を開放するって物らしい。
これだけなら意味が分からないが、どうやらアイリスの使える能力の一部を使える様になると言う代物って事だ。
流石に、守護天使の力をそのまま行使すると、この世界のバランスを壊してしまうらしいので、ほんの一部と言う事らしい。
(……聞くより先ずは実践有るのみですよ!手頃な魔物を見付けてやっちゃいましょう!……)
この天使好戦的やしないかい?
まぁ良い、俺も早く知りたいのは事実だしな。
何てやり取りをしていたら、手頃な魔物が現れた。
ヤラセじゃねーよな、この流れ。
(……コボルトですね、レベルは3なのでお手頃ですよ。それでは【聖痕開放】と念じて下さい……)
言われるがままに、俺は【聖痕開放】と念じた。
すると目の前に、またしても半透明のモニターが浮かんで来た。
【聖痕開放Lv1】
守護天使の聖痕を開放します
リプカの右手 消費MP30
バラスの左手 消費MP30
ほぼMP使い切るじゃねーか!
とにかくやってみるか。
俺は意識を集中して、リプカの右手を使用した。
右手に異様な紋が浮かび始めた。
それらは熱を放ち、熱は炎へと姿を変えた。
「うおぉっ!何だこれ!やべぇ!火傷する!」
(……大丈夫ですよぉ!安心して下さい。それは私の力のほんのほんの一部ですから。それに、その炎でアスカ様が傷付く事はありませんよ、取り敢えずその手を魔物に向けて開放しちゃいましょう……)
アイリスが今どんな顔をしているか、見えていないが安易に想像はついた。
絶対に笑顔だわコイツ。
癪に触るが仕方ないか。
右手をコボルトに向け、右腕に渦のように纏わり付く炎を開放するイメージを浮かべる。
炎は蛇のような形に変わり、そのままコボルトに絡みつき塵に変えた。
「えげつないな、アイリスの力」
(……こんな物まだまだ序の口ですから期待していて下さいね……)
そう言う事じゃねーから……
(……あっ、アスカ様!魔物を倒したらきちんと魔石を回収して下さいね。この世界では魔物から取れる魔石を売れば良いお金になりますから……)
「へぇ、それは良い事を聞いたな。なら次の街に着くまでに少し稼ぐか」
(……MPが残って無いので、ここからはガチの奴ですよ!ファイトですアスカ様!……)
言われてみたらそうだった。
消費MPが多過ぎるってのは本当に難点だな。
使い所は良く考えなくてはいけないみたいだ。
次の街までの道中、一体どうなる事やら。
取り敢えず死なない程度に頑張りますかね。
誤字がありましたら教えてください。