電脳中枢にて
砂と暑さに耐えながら歩いていく。
すると、ようやくルーエンの目にも建物が見えてきた。
「あ、僕にも見えました!建物!」
白っぽいドーム型の建物。
扉らしき四角い枠も見える。
「お、見えたか。
じゃぁ後ちょっとだな」
なにも見えなかったさっきより、目標が見えた今、俄然元気が出た。
なんだか足取りも軽くなった気がする。
それから数分もしないうちにドームについた。
ロックがかかっていないらしい扉は簡単に開き、中にすぐ入ることができた。
「涼しい…!」
ルーエンの口から自然とその言葉が漏れた。
中に入った瞬間ひんやりとした風が出迎えてくれたのだ。
「ここだけ空調がきいてたんだな~。
あ~やっと灼熱地獄から脱出できたぁ!」
ダークは心底嬉しそうにいうと、砂漠と言う名の地獄に繋がる扉を閉めた。
「人が住んでたみたいだな。
周りに部屋沢山あるし……。」
ダークのいう通り周りには沢山のドアがある。
電脳中枢の整備係、ドームの清掃係等々の住み込みの人達が住んでいたんだろう。
このドアの数がかつて人類が繁栄していたことを物語っている。
ダークはしばらく廊下を歩くと、近くの部屋のドアを開けた。
「失礼しますよ~っと、ま、誰もいねぇけど…」
そして部屋に入るとバスルームのドアを開けた。
バスルームは案外綺麗だ。
蛇口を捻ると冷えた水が出て浴槽にたまってきた。
シャワーのノズルも捻ると綺麗な水が出てくる。
それをみて彼はよし、と呟き、そして急に服を脱ぎ出した。
慌て視線をダークから逸らすルーエン。
「さぁて、鋼が熱いから冷まそっかな!!」
そんなルーエンをよそに、水飛沫をあげ、水の張られた浴槽にダークは勢い良く飛び込んだ。
ジュッと水が蒸発して、蒸気が立ち込める。
彼の鋼の体にこもっていた熱がさめていく。
「ルーエン、先に行って電脳中枢見てていーぞ!」
ルーエンは若干ひきった笑みではい。と答えそそくさと部屋から出た。
そして壁にもたれてため息をつく。
「いくら男同士でもダークさん……」
いくら熱かったからと言っても、一言言ってから脱いでほしい。
と静かに心のなかでダークに訴えたルーエンだった。
体を冷まし中のダークを部屋に残し、ルーエンは奥へと進む。
廊下を進む途中、部屋をいくつか開けていく。
何か探しているらしい。
6回目に開けたドアがお目当ての部屋らしく中に入った。
床には整備道具らしき物がところせましと置かれていて、壁には作業服が何着かかけてある。
整備士の部屋のようだ。
整備道具の間に見える床に足を下ろして中に進むと、奥に机があり、そこには書類が積み重なっていた。
乱雑に置かれた書類の一番上には、何度も何度も使われたらしいボロボロに痛んだ本があった。
「お借りしますね。」
そう断りをいれてから、その本といくつかの整備道具を持ち、部屋を後にする。
白いタイル張りの廊下を歩いていく。
ルーエン自身の足音を除けば、不気味なほど静かだ。
人の暖かさは分からないけれど、人がいないと建物はこんなにも寂しいのか…。
「静かすぎて怖い…」
そう呟くルーエンの小さな声が廊下に反響し、奥までずっと響いていく。
早くダークさん来てくれないかな…。
少し寂しいな…。
心細い気持ちのまま進んでいくと行き止まりになった。
「ここで廊下は終わりかぁ…」
寂しい時間が終わりホッとする。
中に入ればやることがある。
寂しさはいくらか紛れるはずだ。
行き止まりの壁には、パスコードを入力すると思われるパネルが一つ張られていた。
ルーエンは気を取り直して先程部屋から拝借してきた本を開き、なにやらページをめくり出した。
お目当てのページはすぐに見つかったらしく、ページをめくる手が止まった。
「長いパスワードですね…」
本は電脳中枢のマニュアルで、パスコードも書かれている。
ルーエンは、英数字と記号の混ざりあった複雑なパスワードをパネルに入力していく。
最後の文字を押すと、ピーッという電子音が鳴った。
壁が真ん中で裂け、両側に開いた。
開いた壁の向こう側は、いかにも機械という光景が広がっていた。
床や壁にビッシリ張り巡らされたコード。
そのコードの先には巨大なディスプレイがある。
ディスプレイの後ろには精密機械の塊が座っていた。
塊からはブウゥゥゥン…と、蜂の羽音のような低い音が聞こえてくる。
「やっぱり生きてた。」
予想通り電脳中枢がきちんと働いていたことに、ルーエンは安心して表情を緩ませる。
ただスリープモードになっているだけで、再起動させればすぐ動きそうだ。
ディスプレイの前にいき、手をかざすと、再起動アイコンが現れた。
再起動アイコンを押して、起動するのを待つ間、マニュアル本を軽くパラパラと目をとおす。
「…そろそろ、起動したかな…」
そう呟いてマニュアル本を閉じた。
起きて青色の画面になったディスプレイ。
先程マニュアル本を見て『覚えた』操作をしながら
街の基本設定を変えるためにディスプレイに数字と文字の羅列を入力していく。
ダークさんよりいい僕の長所なんて言ったらコレだろうか…。
なぜか僕は記憶力がよくて、1度見たもの、読んだもの、聞いたものは絶対忘れない。
チラッとみただけでも細部まで全て覚えられる。
なんでこんな妙な特技があるのか凄くナゾだ……。
「お、流石だな!」
半分まで入力し終わった時、不意に後ろからかかった声に振り向いた。
「俺よりお前の方が機械に慣れてるっつーのは、なんか複雑だな~」
部屋にあったらしいタオルで、濡れた髪をふきながらダークが立っていた。
ちょっと嫉妬する。
なんていいながら笑う。
「ダークさんだって機械は詳しいじゃないですか。
特にハッキングなんて僕より速いですし。」
「直接機械に俺を繋ぐんだからそりゃ速いさ。
でもお前は繋がなくても速いだろ?
そこが羨ましいんだよ。」
その言葉にルーエンは苦笑いしかできない。
機械人形の彼は言うまでもなく機械には相当詳しく、ハッキングはお手の物。
彼のAIを対象に直接結びつけ、対象の情報を読み取る。
あとはダークの意のままに対象を操れる。
だが彼は直接接続したら出来ることが、接続しないと全く出来ない。
なぜ出来ないか……
「ダークさんのメモリーに全て記憶させたら、大変なことになりますから……
こればっかりは仕方ないですよ。」
機械人形故の不便だろう。
ハッキングのやり方は対象によって微妙に違い、機械人形のメモリーにも限界がある。
そのやり方をいちいち記録していたら、メモリーがパンクしてしまうのだ。
そうならないためにダークのメモリーは、データを取得するだけで保存はしないようにできている。
だから繋げたらできることができないのだ。
「俺の機種がtype10だったらメモリーも、もちっと大容量だったんだろうけどなー。
ルーエン、俺のメンテナンスついでに機種変出来ねぇ?」
機種変更。
二人で旅を始めてからずっと言われている言葉だ。
type8のダークはずっと、一番新しいtype10になりたがっていた。
type8に比べて性能が飛躍的に向上しているのだと言う。
ちなみにtype9もあるが、type9は評判が悪く直ぐに製造ラインがストップしたそうだ。
「出来たらしますけど、type10のデータが残っているかどうか…」
ダークに返事をしながらたぶん残ってないよなぁ。
と心の中で呟く。
長く整備がされていなかった電脳中枢で、機械人形の更新データが残っている可能性は低いのだ。
機械人形より膨大なデータを保存しておける電脳中枢とは言え、同じように限界がある。
その為、情報量が容量を越える前に、特殊保護指定されていないデータは数十年で自動消去されるようになっている。
「いつもとおんなじこと言うんですけど……
基本の型のtype1はあると思いますけど、更新版のtype2~10はないと思います」
「一応調べてくれよ、駄目元なのはわかってるからさ~」
駄目元覚悟ですか…
内心、駄目元だという彼にため息をつく。
そして先程のやりかけだった設定を書き換える作業を再開した。
常人が見たら分からない数記号をスラスラと入力していく。
2、3分もたたないうちに書き換えが完了した。
そしてすぐ駄目元覚悟の機械人形更新システムを探す。
ディスプレイに表示された文字は、Hit0。
フォルダ一つ一つ丁寧に調べていくが…
やっぱりダメだった。
後ろで肩を落とした気配がして、ルーエンはまた苦笑いをしてしまった。