病弱少年と機械人形
~3年後~
「暑い暑い暑い暑い暑いっっっ!!あ゛づい゛~!!
ここ夏期区域じゃねーの!?」
照りつける太陽と、快晴すぎる青空を睨み付けて叫ぶ。
叫びたくなる気持ちは充分分かる。
周りは見渡す限り赤茶色の砂漠、砂漠、砂漠だ。
「仕方ないですよ…ここは砂漠の街のシェルターですもん。
ほら、看板にデザートシティって書いてあるじゃないですか…」
暑さにイライラしてる青年の隣で、宥めるように少年がいった。
そして長い間砂と風に晒されて、文字がかすれた看板を指す。
だが、文句をいった当人はケッ!とまた不満を漏らし始める。
どうやら何を言っても逆効果らしい。
「元とはいえ、ここがシェルターだったならちゃんとした建物ぐらいあるだろ…。
テントじゃないやつ、一つくらいあってもいいだろ!」
ウガーッ!!と空に不満をぶちまける。
暑さでイライラが限界まできているようで、宥めてもダメそうだ。
確かに彼の言うように、周りには建物はない。
テントだったらしい残骸が散らばってるのみだ。
残骸以外には相変わらず、砂と風くらいだ。
困ったなぁ…。
少年はどうしたらいいかと空を見上げる。
そしてハッと気付いた。
そして確認するように、手をかざし、太陽を見て風を感じる。
……もしかしたら彼を落ち着かせられるかもしれない…。
そう思って少年は口を開いた。
「…この風や日光がプログラムならこのシェルター、電脳中枢が起動してますよね?
もしかしたら最低居住プログラムが生きてるかもしれませんよ?」
シェルターに入るまでは寒いくらいだったでしょう?と付け足す。
暑い暑いと騒いでいた彼はこの言葉を聞くなり、大人しくなった。
そして2、3秒置いてから言葉を紡ぐ。
「……考えてみりゃこの気候は自然のもんじゃねーよな…。
『廃街』ならもっと荒れてるべきだよな!」
目を輝かせて僕を見る。
「流石だなルーエン!
そうだよな、電脳中枢が生きてりゃこの天気なんとかなるよな!」
先程とはうって変わって元気になった。
彼は早く電脳中枢を見つけようと街の奥に走り出す。
ルーエンと呼ばれた少年はホッと胸を撫で下ろした。
なんとか彼を静かにできた。
後は電脳中枢を見つけるのみだ。
現在ではシェルターを見つけても、電脳中枢が壊れてしまっていることが多いのだ。
今回の生きているシェルターは久しぶりだなぁ。とルーエンは頭の中で思っていた。
「早くいこーぜ!街の中心部にいきゃあるだろうしさ!」
いつの間にかもう50mほど先にいる彼は、早く行こうとルーエンを急かす。
あれ、もうこんなに距離が…?
「ルーエン置いてくぞ~。」
そう言って更に先にいこうとする彼。
ルーエンは慌てて彼のところまで走った。
砂のせいで走りづらいうえに、砂にたまった熱が余計に体力を奪う。
「はぁ…はぁ…」
ダークさんの所につくと膝に手を乗せて下を向いてしまう。
呼吸がなかなか整わない。
たった50m…
たった50m走っただけで息が上がって足が少しふらついてしまう。
生まれつき体が弱い僕。
体力もなく、病気に対する免疫も弱い。
あぁ、自分のひ弱さに腹が立つ。
それでも、大丈夫かと悪戯めいた表情で問いかけてくる彼に、ルーエンは文句を言わずにはいられない。
「ダークさんひどいです。
僕が体力ないの知ってるじゃないですか…」
「え?そうだっけか?わりぃわりぃ忘れてた」
てへっと笑ってごまかそうとする。
そんな彼、ダークの笑顔にルーエンはため息をついた。
「機械人形の中でも一、二を争うほど記憶力がいい戦闘機械人形が忘れる?
ありえないでしょう…」
「ククッ…まぁ、そういうなって♪」
彼は全く悪いなどと思っていないような表情でケラケラ笑っていた。
ダークにからかわれながら砂の中を歩いていく。
吹き荒れる風が砂を巻き上げ、その砂が目にはいってきた。
「うぅ…この砂うっとうしい……。」
砂嵐の砂塵で僕は長く目を開けていられないし、足元は足を掬われやすい砂。
そのせいで歩みも遅くなる。
機械人形のダークさんは目は開けているけれど、歩くスピードは僕と同じくらいだ。
僕と違って砂塵の視界妨害でも、砂に足をとられるでもない。
では何故僕並みに歩みが遅いか…
「ダークさん大丈夫ですか?」
ルーエンが問いかける。
それにダークは少しだるそうに返事を返した。
「大丈夫だ…システム障害起こすくらいの熱じゃねーから…
つっても暑いことに、変わりないけどな……」
なるべく明るい口調のダークさんだけど、途切れ途切れの声が辛いことを物語っている。
僕以上にダークさんに熱は辛い…
騒ぐ元気があったさっきの方が、マシな状態だったかもしれない…。
辛い元凶。
全ては戦闘用に丈夫に作られた機械人形の体が災いしていた。
水晶の瞳とラバーシートの肌を除き
合金繊維の髪、しなやかな鋼の人工筋肉、同じく鋼の骨、神経代わりの銅線を包んだコード。
機械人形の体のほとんどが金属でできている。
いくらラバーシートで鋼を覆っていると言っても、熱気を完全に遮断できるわけではない。
水が土に染み込むようにじわりじわりと、熱はラバーシートを通り抜け鋼に蓄えられる。
貯まった熱は今度はラバーシートに邪魔されて外には逃げられない。
熱がラバーシートに潜る
↓
鋼に熱がこもる
↓
ラバーシートから熱が逃げられない
↓
熱がラバーシートに潜る
この一方的な熱の悪循環の繰り返し。
外から冷やさない限り、熱は貯まっていく一方なのだ。
中心部に水があればいいな…。
そうすればダークさんの体を冷ませる。
「うわ、わわっ!!」
そんなことを考えていたら砂に足がとられた。
体制を立て直す暇もない。
目の前に地面が迫ってくる!
熱い砂に激突する寸前、ガシッと力強い腕が腰にまわされ、僕を支えてくれた。
「大丈夫か?」
振り向くとダークさんが僕を掴んでいてくれた。
「大丈夫です…。
すいません僕の不注意で…。」
いいっていいってと、ニッと笑う。
「具合悪かったら言えよ?
お前病弱なんだからさ。」
自分も辛い状態なのに体調を気遣ってくれる。
普段意地悪なくせになんだかんだで優しい。
「あ…ルーエンあれじゃね?
正面に入り口的な扉あるし…。」
唐突に止まり、まっすぐ前を指差すダーク。
だが……
「ダークさんがいうんならあるんでしょうけど…。
僕には何も見えないです。」
砂が舞うなかで目を開けてダークの言うあれ、を探す。
けれど前には砂丘しか見えない。
「あれ、肉眼じゃまだ見えねーの?
あんなにはっきり見えんのに~?」
あんなにと言われても見えないのだから分からない。
「人間の視力は機械人形に比べれば酷く悪いんですよ…」
ダークの目にはルーエンには見えない建物がはっきり見えているらしい。
ルーエンにはどう頑張っても、ダークに見えているものは見えはしないが……。
「人間の目不便だな~。…ま、安心しろよ。
代わりに俺がちゃーんとみててやっからさ!」
任せろっ!と笑みを見せる。
ダークさんが笑うと機械人形と接している気がしない。
機械らしい姿じゃないというのもあるけれど
一番は笑顔が安心するからだと思う。
「頼りにしてますダークさん。」
ぎこちなく口角を上げて、ダークさんに笑い返してみた。
ダークさんは意外そうに僕をみたあと、すぐにニッと笑った。
頼もしくて優しいなぁ。
ルーエンは心からそう思った。
もし今から兄弟が貰えるなら、ダークさんを兄さんに欲しいな。
僕の母親と父親は僕の物心ついたときには居なかった。
だからどう頑張っても今から兄弟なんて無理だけれど……。
でも、想像するだけならタダだからありでしょう?
本当に兄弟だったらどうだろうと想像した。
いたずら好きで、いざというとき頼りになる兄さん。
なんだかおかしくなって、ルーエンはダークにバレないように一人微笑んだ。