2人の出会い
~ 3年前 ~
もう何十年も手入れされていない、荒廃した街。
ほぼ全てを機械が統制するこの世界では『荒廃する』というのは珍しい。
まぁ、荒廃するのが珍しいのは過去のお話で、『今』の世界の状況を見れば全く珍しくないのだけれど。
「電脳が死んじゃった街なんだ…」
ボソッと呟いて街に足を踏み入れる少年。
見た目は10代前半くらいか……
旅人のような格好だ。
黒いポーチを腰に巻きつけて、そのポーチからは短剣の柄が覗いている。
「…危ないかもしれないけど、今日はこのシェルターに泊まろうかな…」
誰にいうでもなく気弱そうに呟く。
服はボロボロで、顔色も悪く、相当疲れているらしい少年。
(この荒れた街でもいいから、休みたい…。)
休む場所を探そうと立ち止まって周りを見渡す。
その時、何かが背後で動いた。
少年はバッと振り返る。
…なにか分からないけれど、なにかいる。
否、アレがいる…。
危ないかもしれない。先程のこの言葉が今現実になろうとしていた。
アレだった場合……僕は……
刹那。
思考を邪魔する轟音と共に10mは越えるだろうという巨大な獣が現れた。
その巨体を支える四肢を、ドシン!と下ろす。
脚が下ろされた大地は抉れ砂が舞う。
口に収まりきらない、白く長く鋭い牙。
獣から発せられる熱気で周りがグニャリと歪む。
あぁ、予想が当たってしまった。
目の前のコレは先程思ったアレだったのだ。
「…どうしよう」
情けないことに震えが走り動けない。
動けたとしても、1人でコレに抵抗する術などない。
巨獣は地面に縫い付けられた少年を睨みつける。
そして口を開けて首をヌッと伸ばしてきた。
牙が少年の首に食い込み肌を裂く…そう思われた。
瞬間、巨獣の動きが止まる。
どうしたんだろう…困惑しながら止まった獣をみる。
と、獣は砂鉾を舞い上げ横に建物を崩しながら倒れた。
その後はピクリとも動かない。
何が、起きたんだろう…
安堵感と不安感が入り交じった表情で目の前の死骸をみる。
「危なかったなぁ!大丈夫か?」
急に声が聞こえた。
バッと声の聞こえてきた方角を見る。
誰かいる。
砂鉾のせいで人影は霞んで見えて背格好は分からない…。
声からすると若い男性だろうか…。
「ま、お前にあててないから大丈夫だろうけどっ!お前名前は?人間だろ?」
この場に不釣り合いなハキハキして軽い調子の声に、すっかり拍子抜けして僕は地面にへたり込んでしまった……。
これが、このお話の2人の出会い。