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機械仕掛けの魔法扉~科学世界と魔法の秘密~  作者: 幽魔ましろ
第3章 忘れられた森の魔女
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母なる樹

「は、ハヤブサが……」


「喋った……」


ルーエンとダークが交互に驚きの現象を語る。

と、少女はハヤブサに向き直りおもちゃを取り上げられた子供のように抗議した。



「兄さんどうして止めるのよ!」



「「兄さん!?」」


二人は兄という少女の言葉に目を丸くして同時に叫んだ。


「お前兄貴、鳥なの!?」


「そんなわけ無いでしょ!馬鹿なの!?」


真面目に兄は鳥なのかと聞いたダークに、怒って言い返す少女。

内容が内容だけにシュールな会話だ。


白銀(しろがね)の魔女。」


ハヤブサからたしなめるような口調の声が響く。

魔女と呼ばれ彼女は一瞬押し黙ったが、それでも食い下がった。


「兄さん!でも!」


柔らかい落ち着いた声が、優しく彼女の言葉を遮り宥める。


「愛しい妹よ、彼らと話をしよう。時間も場所もたっぷりあるのだから。」


少女はむぅ……と頬を少し膨らませ不服そうに承諾した。


「……分かりました。」


しぶしぶながら承知した少女に、ハヤブサの口から聞こえる声は微笑んだ。


「いい子だね。さぁ、お客様を案内してきておくれ。」


ハヤブサは二人に軽く頭を下げると、翼を広げ岩を踏みつけ空へ飛び立った。

風を斬って空をターンし、木を越え森の奥へ消えていく。

少女は暫くハヤブサの消えた空を見つめ、ため息をつくと近くの木を指差した。

指差された木は、ズズズッと右側によけた。

するとその後ろの木も左側によける。

そしてその後ろの木も。


こうして出来ていく木に囲まれた小道に少女は足を踏み出した。

そして少し二人の方に首を傾けて、とても不満そうにいった。


「……ついてきなさい。」


いうなり彼女は小道へ歩いていった。


ダークはルーエンをどうするんだ?と軽くこずいた。


素直に少女についていく義理はない。

だが、何か役に立つことを知っているかもしれない。

去るか、従うか、ダークは主の指示を仰ぐことにしたのだ。


ルーエンは迷っていた。

このままついていったらどうなるのか、何が待っているのか全く分からない。

予想さえつかない。

未知への恐怖が心を締め付けて、ルーエンは中々どうするか決めれずにいた。


「!」


その時手に持っていた禁書が震えた。

まるで自分がいるんだから大丈夫だと言わんばかりに、自分の存在を主張し震える禁書。


ルーエンは唇を引き締め、それに応えるように禁書を握りしめた。

そして一歩、小道に踏み出した。

そのまま少女の後をついていく。


「怖がりなくせに、変なところ向こう見ずなんだから全く。」


行動で示した主の決断に、ダークは呆れながらも楽しげに呟き、主の後を追った。


ルーエンの少し乱れた息遣い

三人それぞれの足音


それ以外は全くの無音。

鳥やリスなど森にいるであろう少動物の鳴き声も、木々の葉の囁きさえ聞こえない。

時折髪を揺らす風さえ、張り詰めているように静かに吹き抜けていく。


ルーエンは何となく後ろを振り向いた。

すると、後ろはダークの歩いた場所から、脇に避けていた木々が元の位置へ戻り、通ってきた道を塞いでいた。

後から誰かがきても追えないようにだろう。


他にも仲間が居ると思っているんでしょうか。


他に仲間がいたらどんなにいいか。そう思いながらルーエンは視線を前に戻した。

ひたすら小道を歩く。

途中、道が何本にも枝分かれする場所もあったが、少女は慣れているらしく迷いなく進んでいった。


歩き始めて10分は経った頃、小道を歩く間の緊張と沈黙に耐えられなくなったルーエンは、少女に話しかけた。


「……あの、さっき言っていた…魔女って?」


歩幅を合わせ少し早く歩いていたので、息が乱れ、途切れ途切れの言葉になる。

ルーエンの問いに少女では素っ気なく返した。


「話は家でよ。」


それ以外話してくれなかったので、ルーエンも諦めて何も言わずついていくことにした。

それからまた10分程経ち開けた場所に出た。

どうやらついたらしい。

明るい光に目をしかめるルーエン。

だが、しかめた目はすぐに見開かれた。


「わぁ……」


感嘆の声を漏らすルーエン。

ルーエンの見る先に、彼が今まで見たことがない、巨大な樹がそびえ立っていた。

巨体を支えるだけある巨木の根は、指が地面を掴むように地にめり込んでいた。

きっとこの下にも沢山の根が張っているんだろう。

ゴツゴツした太い幹の上を見れば、葉を所狭しと茂らせた立派な枝がいくつも腕を広げている。

永い時を生きてきたのだろうが、老木には見えぬほど樹は生き生きしている。


少女はその巨木に近づき、顔をあげて少し上の方の幹を見つめて言った。


「母なる樹よ、御身に入ることをお許し願えますか?」


すると、少女の見つめていた幹が波打ち皺がより、老婆の顔が現れた。

優しそうな老婆の顔は微笑み、しわがれた声で語った。


「お入り……我が愛し仔よ……」


それ合図に根本あたりの木肌が裂けていき、丸い穴が出来た。

それが幹の中への入り口だ。


少女はその入り口を通り、中に入ってから二人を振り返った。


「あたしの言った事を復唱して母なる樹に許しをもとめて。

あんた達を招き入れるかどうかは母なる樹が決めるわ。」


どうやら中に入るには、母なる樹とやらに許してもらうしかないようだ。

ルーエンは許されなかったらどうしようと思いながら、木肌の老婆を見上げ話しかけた。


「は、母なる樹よ、お、御身に入ることを、お許し願えますか?」


少女の言葉を真似て、震える言葉で話しかける。

声が震えたのは、樹が話しているという状況に、怖くもあったし、好奇心から興奮もしていたのだ。


老婆は幹にできた節の目でルーエンをみると、また微笑んでルーエンに語った。


「初めて……見る顔だねぇ……。」


そういうと老婆は、ほっほっほっと笑った、彼女の笑い声で空気が震える。


「お入り……我が愛し仔よ……。」


「あ、ありがとうございますっ……!」


ルーエンはほっとして中へパタパタと入っていった。

残ったのはダークだ。


「……母なる樹よ、御身に入ることをお許し願えますか。」


機械音の混じらぬ、人間の声と変わらない声で母なる樹に話しかける。

母なる樹はルーエンと同じようにダークを見下ろした。

ダークは臆する事なく真っ直ぐ見つめ返した。


「お前は……我が仔では…ないねぇ…」


老婆はダークに『我が仔ではない』と、そういった。

先程の優しい顔とは裏腹に厳しい表情でダークに問うた。


「お前は……敵かね……?」


巨木の葉がざわめく。

ダークの返答によってどうなるかが決まるようだ。

ダークは一度下を向き、ため息をついた。

そして毅然と老婆を見上げた。


「あんたらよっぽど機械人形(アンドロイド)が気に入らないらしいな。

……俺の主に害なす存在ならば、俺はあんたらの敵にならざるおえないな。

最もあんたらが俺を敵と判断する基準はしらねぇが。」


取り繕いもせず皮肉っぽい言い方をした彼。

暫しの張り詰めた沈黙のあと、老婆は豪快に笑い出した。

それこそ樹全体が激しく震えるほど。

ダークは何がおかしかったのかと、眉根を寄せ首を傾げた。


「なかなか、愉快な男だ……」


笑いながら語る老女。

機嫌を損ねてはいないらしい。


「お入り……無機なる者よ……」


ルーエンはホッとして表情を緩めた。

嫌みったらしく話し出した時はどうなるかと思ったのだ。

ダークはそんな主を見てニッと笑い、ガッツポーズをとった。


「どうも」


ダークも母なる樹に許され、無事に中に入った。


さて、どんな所かな?


彼は辺りを見回した。


「へぇ~……スゲェなぁ……」


そこ、母なる樹の中はダークの想像をいい意味で越えていた。




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