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機械仕掛けの魔法扉~科学世界と魔法の秘密~  作者: 幽魔ましろ
第3章 忘れられた森の魔女
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怒られ怒って

「え?」


僕の他にも『人』が居たんだ。

そんな感動に似た感情は、唐突に突きつけられた盗んだと言うトゲトゲしい言葉に黙らされてしまった。

戸惑うルーエンの声に、少女はさらに強く問い詰める。


「その本よ。」


少女はまるで盗みの動かぬ証拠だとばかりに僕の持つ本を指した。

彼女の態度にダークさんが少しムッとして言い返す。


「これは砂漠の街で俺が見つけたんだ。盗人呼ばわりされる覚えはないな。」


少女はフンッと鼻で笑った。


「見つけた?盗んだの間違いでしょ?」


強気な少女に、ダークの声が若干嫌味っぽくなってきた。


「そりゃ確かに元は他人(ひと)のもんだったろうけど。

所有権は随分前に消失してるだろ。言うなればこれは盗品じゃなく拾得物だな。」


「作り話は結構よ。」


「は?」


あ、これはダメだ。

マズい方向に話が進む。


「あの、どういうことか説明し……」


「この本を持っていた人はどこ?」


ルーエンがマズい流れを変えるため、話を整理しようと口をはさむが少女に遮られてしまった。


「何の話だ?」


「しらばっくれるのはもう結構よって言ったでしょ?」


少女は腰に手を当て、聞き飽きたとばかりに背後の木に寄りかかり言った。


「だから何の話だ!話がみえねーよ!」


ああ、ダークさんが怒っちゃった。


「ダークさん落ち着……」


「そう、あくまで知らないと言うのね。大方この本の力をみて奪ったんでしょうけど。

残念だったわね、人間にはそれは使えないのよ。」


完全に僕は蚊帳の外だ。


「会話しろよせめて!」


話を聞いてくださいせめて……


「あの止めて……」


「会話しろよはこっちの台詞。知らないというなら強行手段に出るわ。」


「お前頭おかしいんじゃねぇの?」


全く僕の声は二人の耳には入っていないらしい。


無視し続けられるという状況に、ルーエンの中で怒りと、『何か』がざわめいた。


……ねぇ、この扱いは酷くないですか?

僕も当事者ですよ?


「不愉快極まりないわ。」


「俺も不愉快だ。」


落ち着いて下さいって……


「消えてもらうわ」


「へぇ?女1人で俺に適うとでも?」


止めて下さいって……


「力量差も分からないの?哀れだわ……」


「てめぇこそ身の程を弁えろ。ガキが……」


さっきから何度も何度も言ってるのに……


「決まり、あなたは死刑よ。」


少女がダークに向かい手をかざす。


「てめぇは銃死刑だ。」


ダークは銃を抜き銃口を向ける。

睨み合う二人。


そろいもそろって人の話を聞かないし……


怒りを抑え俯くルーエンの足元に、風が渦巻いたことに当のルーエンも、二人も気づかない。


「後悔するがいいわ。」


流石の僕でも……


「後悔すんのはてめぇだ。」


怒りますよ?


二人が同時に攻撃を仕掛けるその直前。

ルーエンの中の『何か』がはじけた。

そしてルーエンの手に持っている、騒ぎの元の禁書が輝き、手をすり抜け空中でひとりでに開いた。


「いい加減にしてください!!」


ルーエン自身もビックリするほどの大声が出た。

その声量に二人も思わず黙り、動きを止めた。


三人とも驚いて何も話さない、ほんの数瞬の沈黙の間が流れる。


と、ルーエンの足元に渦巻いていた風が二人の足元へ移動した。


禁書から柔らかい光が溢れ地面に零れる。

零れた光は地を滑り二人の元に渦巻く風に合流し、光は円となった。


「まさか……」


少女は光る禁書と円を見て、有り得ないという表情(かお)をし呟いた。

その間にも光の円は、光の糸を各所から伸ばし円内に複雑な模様を描いていく。


光の糸が全て中心に集まったとき、二人の足元に魔法陣が完成した。

そして少女の魔法陣から光が放たれ、光が輪となり彼女の両手足を拘束した。


「キャッ!」


バランスがとれなくなった少女は、短い悲鳴を上げしりもちをついた。


「おぉ!?」


ダークの驚いた声の後、銃が勢いよく回転しルーエンの元に落ちてきた。

ダークの魔法陣から放たれた光が銃を弾き飛ばしたのだ。


ルーエンの怒りはどこへやら、足元の銃を見ながら今起こった出来事に呆然としていた。


ダークも困惑し、足元の魔法陣をみていた。


だが、二人より、戸惑い呆然としていたのは少女の方だった。

少女は信じられないという目でルーエンを見た。




「あなた……魔法使いなの……?」




魔法使いなの?

唐突に投げかけられた質問にルーエンの思考は一瞬止まった。


「え?」


また、訪れた数秒の間。

その数秒間で二人の足元の魔法陣と少女に巻き付いた光の輪が霧のように消えていった。

禁書の光も収まり、禁書はまたひとりでに閉じ、地面にゆっくりと降りた。


手足が自由になった少女はゆっくりと立ち上がり、しばしルーエンを眺めた後、噛みつくように掴みかかった。


右手でルーエンの胸ぐらを掴み、少女は裏切り者!というように言葉を吐き捨てた。


「あなた!どうして『こんなやつ』と居て平気なのよ!」


何故胸ぐらを女の子に掴まれた挙げ句、こんな非難がましく責められるんだろう。

そして少女のいう意味が分からない。


「こ、こんなやつって……?」


少女に恐怖心ができたらしいルーエンの声は若干震えていた。


「こいつよ!人モドキ!」


胸ぐらを掴んだまま左手でダークを指す。


人モドキ。酷い言いようだなぁ……。


……ん?


「ダークさんが人ではないと分かったんですか?」


一目じゃ中々、外見も中身も人に似せ精巧に作られた機械人形(アンドロイド)を人ではないと見抜くことは難しいのだ。


「こんな『嫌な気』を放ってる奴が人モドキ以外に居るわけ無いでしょ!」


嫌な気?


「嫌な気とか、人モドキって何だよ!失礼なガキだな!」


聞き捨てならなかったらしくダークは少女に詰め寄り食ってかかった。


「お人形は黙ってなさい!あたしはこの子と話してるの!」


わあ、手が着けられないなこの二人。


ルーエンはもう怒る気にもならなかった。

怒るだけ無駄だと考えたらしい。

ついでに怒りと一緒に恐怖心も早々に去った。


「てめぇが黙れ!てか、俺の(マスター)から手ぇ離せ!」


(マスター)!?」


素っ頓狂な声で叫ぶ少女。


耳が痛い……。


甲高い声にルーエンは眉を寄せ手で耳を塞いだ。


「信っじらんない!どうして魔法使いが機械野郎なんかの(あるじ)に!」


「なんだとこの黒女……」


その時ダークと少女を仲裁するように二人の間に、フッと銀色の羽が一枚舞い降りてきた。

空からハヤブサが現れ颯爽とルーエンの近くの岩にとまり羽を畳む。


「あのハヤブサ!」


ハヤブサをみてダークが声を上げる。

ダークが何度も目にしたあのハヤブサだ。


「あっ……」


少女が驚いた顔をする。

どうやら少女もハヤブサを知っているらしい。

ハヤブサは二人を見てくちばしを開く。


「おやめなさい。」


落ち着いた青年の声がハヤブサから響いた。


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