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機械仕掛けの魔法扉~科学世界と魔法の秘密~  作者: 幽魔ましろ
第3章 忘れられた森の魔女
16/22

一向に着かない

「そろそろ着く頃なんだけどな……」


時刻は東の空が白み始める夜明け前。


どこまでも荒れ果て、枯れ木一本見当たらない荒野をダークは歩いていた。

彼は夜中休まず、未だに目覚めぬルーエンを背負って跳び続けていたのだ。


だがあまり跳び続けるとエネルギーが無くなってしまう。

エネルギー切れを防ぐために徒歩に切り替えていた。


歩いて移動しても問題ない。

もうすぐ目的のシェルターにつく頃だし、謎憚獣(アンノウン)はいないし、跳ぶよりも移動速度が落ちるだけ。

なのだが……


「建物の影一つ見えやしねぇってのはどういうことだよ……。」


疑問を通り越して諦めモードのダークはため息混じりに呟いた。

今まで移動してきた距離を考えればそろそろついてもおかしくないのだ。

それが全く着く様子がない。

むしろ……


「同じ場所をぐるぐるまわってる気がするんだよなどうも……」


辺りは荒野だ。

同じような景色が広がっているのは当たり前にしても……。


「この岩さっきもみたな……」


足を止めて前にある岩を見る。

かつて石像だったのだろうか、長い時が経ち風雨に晒されとても不格好になっていた。

多分、人の形だったのだろう。


そして人みたいな岩が荒野にいくつもあるわけ無い。

原理は分からないが、恐らく同じ場所をまわっているのだ。


「真っ直ぐ歩いてたはずなんだがなぁ~。」


足を止め一旦ルーエンを降ろし、岩にもたれさせる。

勿論起こさないようにそっと。

そしてセンサーを使い辺りの磁場を探るが……


「特別強い訳ではないな~。俺の機体(からだ)に問題はない、と。」


磁場の問題と言うわけではないらしい。


参った。


あー。と空を見上げ頭をかく。


「何がどうなったらループするんだぁ?」


延々と同じ場所を巡るわけにいかない。

そろそろ荒野の景色にも飽きた。

だがどうやって抜け出すか……


「……あ?」


空を見ていたダークの視界を小さな黒い塊が横切った。

すぐさま塊の動きを目で追う。


「鳥?いや、ハヤブサ?」


ダークの目が捉えた塊の正体はハヤブサだった。

AI(エーアイ)が目からの情報を分析する。


「同じ奴か?」


ハヤブサを見ながら呟く。

分析の結果、あの砂漠の街を飛んでいたハヤブサだったのだ。

なぜあのハヤブサがここにいるのか。


ハヤブサは大きくUターンすると、ルーエンの居る岩にとまった。

ダークはハヤブサに向き直り言う。


「羽休めにでも……」


ダークの言葉の途中、突如周りが歪む。


「きたのか?」


ダークが続きを言うと同時に、一瞬で辺りの風景が荒れ果てた大地から、緑豊かな森林へと変わった。


「…………ん?」


いきなり目の前に広がった緑に眼をぱちくりさせる。


どうなってんだ?

……そうだ!あの鳥!


停止していた思考から、ハヤブサのことを思い出し岩に目をやる。

当のハヤブサはちょうど翼を広げていた。


「おい!待て!」


砂漠で出会ったハヤブサがまた現れ、現れたかと思ったら周りが森に早変わり。

たまたま居合わせたって?

なわけない絶対にこのハヤブサ怪しい。


慌てて捕まえようと駆け出し手を伸ばす。

翼に彼の指が触れる寸前ハヤブサは羽ばたき、葉の天井を抜け空へ飛んだ。


負けじとハヤブサを追いかけ跳ぶがハヤブサの身軽さには勝てない。

相手はダークが追いつくと、ほぼ同時に急降下し加速して颯爽と飛び去ったのだ。


「ちっ……あの鳥畜生……」


舌打ちをして悔しそうに飛び去った空をみるダークだったが、すぐに下に降りた。

手がかりになりそうな鳥は居なくなった。

なら、現時点でできることをしなければ。


落ち着いて改めて周りを見ると、沢山の木の整列が目の前に展開されていた。

まだ日の出ていない薄暗い時間だが、不思議と気味が悪いとは感じない森だ。


彼のAI(エーアイ)がすぐさま周りの状況を調べ始める。

イチイやオーク、ナナカマド、ニワトコ……ザッと見てこんな種類の木々が枝を広げていた。

まるで自分達を囲むように茂っている。


センサーからの情報によれば、ダーク達がいるところは木々の間にある開けた場所のようだ。

よく見ればあの人型らしき元石像を中心に丸く開けている。


「なんだ?ここ……」


もう戸惑うしかない。

調べて分かったのは大した情報はないということだ。


さっきまで見渡す限り焦げ茶色一面だったよな?

なんで急に緑一色になるんだ?

なんで?なんで?なんで?


「あああああ!もうわけわかんねぇ!!」


考えても分からない。

疑問と怒りを込め、声を張り上げ喚く。

と、木の葉の間から光が差してきた。

東の空が明るい。

どうやら夜が明けたようだ。


「ダーク…さん……?」


聞き慣れた寝ぼけた声が俺の名前を呼んだ。

声の主に目をやると岩の下に座っていたルーエンが起きていた。


「起こしたか?」


岩にもたれるのを止め、自力で座るとルーエンは眠そうに目をこすった。


「いえ、自然と起きました。……ダークさん大丈夫なのですか?」


大丈夫かと聴くと言うことは俺は壊れたと思ってたってことか?

俺はハンッと鼻で笑い、ひょいっとバク宙をして見せ言った。


「この軽やかな動きしてるのに説明が必要か?ま、数時間前は不調極まりなかったけど。」


一時的とはいえ壊れていたことは確かだ。


「誰か来たんですか?ダークさん、稼働不能になったのでしょう?」


うん、誰かになおしてもらったと考えるのが普通だよなぁ。


「なった。だが、気づいたら直って自動起動してた。」


自分でも訳が分からないが直っていたと伝えると、ルーエンは訝しげな表情で俺を見た。

まぁ、そうなりますよね、はい。


「冗談です?」


本気(マジ)


主の名に誓って嘘はついていないと付け加える。

主を欺かないという誓い、契約の言葉だ。

これを言うと機械人形(アンドロイド)は主に真実しか話せなくなる。

一種の防犯対策の機能だ。

ルーエンもそれは知っているので、ますます直った理由が分からないと言う顔をした。


「そんな顔すんなよ、俺でもなんで直ったかさっぱりわかんねぇんだから。」


俺もルーエンも黙ってしまい、居心地の悪い間が到来した。

この間俺嫌なんだよな。

ルーエンが立ち上がろうとすると、何かに気づいたようで、自分の服の内側に手を入れ何かを取り出した。

なんか四角い物。本っぽい物って……


「お前それなんで持ってんだ?」


ルーエンの取り出した物には見覚えがあった。

あの、テント下で見つけた禁書だ。


「持っていたわけでは、ないです。服の内ポケットに入ってました。入れた記憶は……ないのですが……」


不自然な間がある言葉で、ルーエンも少し戸惑っているようなのが分かった。

入れた覚えがないのに入ってたか……。って、ん?


「ポケット?」


「はい。」


いや待て、それはおかしい。


「その本最初からその大きさだったか?そもそもなんでそれをお前が知ってる?」


あの禁書は袋に入れたまま、今は瓦礫の下のはずだ。

ルーエンには見せてない。

しかもあの本、もっとでかかったはずなんだよな。


「え?あ、大きさはこれくらいでしたよ。

知っているのは逃げている途中、その……浮いてきたからです。」


「浮いてきたぁ?」


はぁ?

と俺は、頭大丈夫か?という言葉をぐっと飲み込んだ。


「はい。ダークさんとはぐれた後に。瓦礫の下から。」


嘘。じゃないよな。

嘘つくような子じゃないし。


「どういうことなんだー?」


頭をわしゃわしゃとかきむしる。

誰でもいいからこの状況を説明してくれ。

このさい石でもいいから、口が聞けるなら教えてくれ。


「……あの」


恐る恐る声をかけてきたのは石ではなく、俺のご主人サマ。


「どうした?トイレか?茂みでしてこいよ。」


若干イラついてるからかダークはかなり投げやりな返答をした。

勿論イラついている理由は、この現状が分からないから。だ。


「違います。

実はさっき、不思議なことが……」


ルーエンの台詞の途中で強く風が吹いた。


「あなた達!」


突如声が響き、空から女の子が黒いローブをはためかせ、降りてきた。

ふわっと裸足で地面に足をつける少女。

背丈は150cm弱ぐらいだろうか。


顔はフードと髪に隠れ見えないが、口元はかろうじて見える。

明らかに友好的ではなさそうだ。

横髪がフードから出ている。銀色だ。

太陽の光で眩しく煌めく銀髪に、二人は眼を細めた。


「あなた達、その本誰から盗んだの?」


少女は問いつめるように二人にそう言い放った。

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