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不可思議な出来事

「な、なに!?」


ドクンと脈打つような大地の揺れに、空気まで震えていた。

まるで大地が生きているかのような揺れ。


もう一度大きく大地が脈打つ。

奇妙なことにこんなに大地が大きく揺れたのに、自分も謎憚獣も全く揺れていない。


地震?

でも地震ならこんな揺れ方……


三度目の揺れ。

それは今までの揺れと違った。


「!?」


三度目の揺れと共に、ルーエンの砂に置かれた右手から純白の光が溢れたのだ。

光に驚くルーエンをよそに、真っ白な光は揺れを追うように大地を円状に駈けていく。

その光はルーエンからはもう見えないシェルターの外までかけていき、地平線に消えていった。


「今のは……」


何?と言い終わる前にルーエンを酷い疲労感と、全身が鉛になったような怠さが襲ってきた。

目の前の風景がぐにゃりと歪む。

座っているこの状態さえ辛い。


手をついて身体を支えていた腕には力が入らなくなり、身体が倒れてしまった。

瓦礫に身を預けてしまうと、瞼が重く下がってきた。

身体が、頭が、一刻も早くこの疲労から逃れたいと言っている。

だがここで気を失ったらどうなるか、言わなくても分かるだろう。


起きなくちゃ……


ルーエンはなんとか目を開けていようとした。

猛る異常な謎憚獣(アンノウン)はルーエンを見ていた。

目の前の獲物が逃げられる状態ではないことを知っているのだ。

ルーエンが力尽き、眠るのを待っている。


起きなくちゃ……

あぁ、でも眠い……

すごく疲れたくたくただ……

指一本動かせそうにない……


意識の抵抗も虚しく、瞼は下がり、ルーエンの意識は闇に沈み消えていった。


うつぶせに倒れた彼の近くには、ひとりでにページがめくれた禁書があった。

ルーエンをしとめようと狂った謎憚獣(アンノウン)が迫ってきた。

と、謎憚獣(アンノウン)に向けて禁書から蒼い光がほとばしり、光は謎憚獣(アンノウン)を覆った。

やがて光は砂漠の街全体に広がり街を包み込んだ。





一方、砂漠の街から離れた場所にある森の中。

黒いローブに身を包んだ一人の少女が、森の(おさ)たる大木の太い枝に立ち遠くを見つめていた。

見ている向きは砂漠の街がある方向だ。


「今のは……でも……」


少女は少し何かを考えてから枝から降りた。

ローブから漏れた銀髪が風になびき、夕陽を浴びて煌めく。

ふわっと羽が落ちるように軽やかに足を地面につける。

少女は足が着くなりすぐに森の奥に歩き始めた。


「……いえ、気のせいじゃないわ」


誰にいうでもなく、自分に確信を持って呟き、彼女は緑が生い茂る森の奥へ姿を消した。





【type8 戦闘機械人形(せんとうアンドロイド) 個体名称ダーク 起動準備 機械人形(アンドロイド)システム 機体 共に異常無し 自動起動します】


ウゥゥ……と小さな機械音が響きダークの水晶の瞳に光が灯った。

彼のAI(エーアイ)が働き意識が戻る。

彼は意識が戻るなり起き上がった。

彼の身体に乗っていた砂が流れ落ちる。


「ルーエン!?」


自分を直したと思われる主人の名を呼び辺りを見まわす。

だが声に答える者は見当たらない。


誰も居ない……?


強制停止したのはシステムの誤作動か?

……それはない。メンテナンスしたばっかだぞ。

ルーエンがそんなザルなメンテナンスするわけない。

なにか?稼働不能になっていたのが夢だったとでも言うのか?


ダークの頭はたちまち疑問符でいっぱいになった。


ルーエンでないなら誰が俺をなおしたんだ?

……とりあえずルーエンを探さねえと。


夜なのか辺りはすっかり暗くなっていた。

しかも自分の機械音を除けば不気味な程静かだ。


謎憚獣(アンノウン)は居なくなったのか?


謎憚獣(アンノウン)が居れば静寂が満ちているわけが無い。

ダークは状況を確かめるため立ち上がると上空に飛んだ。

空に足場を作り砂漠を見下ろす。


目を暗視モードに切り替え、センサーを作動させ眼下の物を探った。

謎憚獣(アンノウン)の熱反応がない。


逃げたのか?


謎憚獣(アンノウン)が去るのは獲物が居なくなった時だ。


「……喰われちまったなんてこわとないよな。」


ルーエンの熱反応を見つけようと足場から砂漠に降り、前方の上空目指して飛ぶ。

勿論辺りをセンサーと()で探しながらだ。


頼むから生きててくれよ(マスター)……。


地面に降りながら祈るような気持ちで主を探す。

砂漠に着地しまた飛ぶ。

それを何度も繰り返す。


随分吹き飛ばされたようだ。

電脳中枢(ベースエーアイ)の残骸さえ見当たらない。


センサーにも暗視モードにした()にも砂以外何も映らない。


「……」


と、何回目かに跳んで上空にきたとき、彼は足場を作り立った。

彼の目は下ではなく、前を見据えていた。

彼の進行方向前方に一羽のハヤブサが旋回していたのだ。


こんな砂漠にハヤブサ?

砂漠には生息していないはず……。

そもそも数時間前に謎憚獣(アンノウン)がいた場所に動物がのこのこ来るか?


警戒してハヤブサを睨む。

一応センサーでハヤブサを調べる。


……特に変わった所はない。


無視して前に進もうと思ったが、ダークはどうしてもハヤブサが気になった。


何故なら旋回しながら明らかにこちらを見ているのだ。

見ているのは珍しくないとしても


こいつの眼、ハヤブサっつーより……


眼が気になりハヤブサに近づこうとしてみるとハヤブサは急降下した。

急降下して上がった速度を保ち、上昇してダークの目の前を横切り、夜の闇に飛び去った。


「なんだありゃ……」


ハヤブサを見送りながら呟く。


とりあえずまぁいいか。


そう思い直しまた砂漠に降り跳ぶ。

それを繰り返し、やっと残骸が見えてきて、同時に目当ての物を見つけた。


「居た」


上空に足場を作り、辺りを探るセンサーに人の熱反応が映る。

暗視している目にも瓦礫の間に仰向けに倒れているルーエンが映った。


「怪我は、見たとこ無いみてぇだけど……。」


すぐさまルーエンの元に降りる。

着地するとセンサーでルーエンの体調を調べた。

呼吸、脈拍異常無し。

傷も擦り傷があちこちにある程度で大したことはない。


「気を失っただけか……」


良かった。

……いや、よくない。

俺は俺の役目を果たしてない。


「大変な時に主を守れずに何が良かっただよ。」


機械人形(アンドロイド)失格だ。

自分に舌打ちをすると、ダークはルーエンの肩を揺らした。


「ルーエン」


さっぱり起きる気配はない。

何、呑気に寝てんだよ……。


「寝ぼすけ、起きろコラ。」


軽くぺちぺちと頬を叩くが、起きない。

いつもならこれくらいで起きるはずなのだが……。


「仕方ねーな……。」


ため息をつき、ルーエンの身体を背中に乗せる。


その時、ダークは気付かなかった。

見えない位置にあの本、禁書が隠れていたのだ。

ルーエンのそばにあったはずなのだが……。


そのことを知らないダークは何食わぬ顔で、ルーエンの腕を自分の肩にひっかけしっかり足を持つという、おんぶスタイルでルーエンを背負っていた。


ルーエンの寝息が耳元で聞こえる。

生きてる。そう改めて確認した。

生きていて安堵したが、一つの疑問が頭に居座っていた。


獲物(ルーエン)がまだ生きているのになぜ謎憚獣(アンノウン)が居ないのか。

謎憚獣(アンノウン)とは人間を捕食していたはずだ。

その謎憚獣(アンノウン)が、この場にたった一人しか居ない人間を食わず、見逃すなんてことがあるだろうか。


他はさておき、あの図体がでかくて、本能むき出しで、身内にでさえ攻撃をしかけた、馬鹿力の謎憚獣(アンノウン)が食わないなんてことあるのか?

そもそもあいつは何だったんだ?

全く、意味不明なことばかり立て続きに起きる。


「この世界は狂ってんのか?まぁ、謎憚獣(アンノウン)が居る時点で狂ってんだけどさ。」


独り言を呟き、思考をパッと切り替える。

今あれのことを考えても仕方ないからだ。


「さぁ!一カ所に長居は無用だな。」


ルーエンをしっかり背負ったことを確認すると、謎憚獣(アンノウン)が壊した壁へ先ほどのように跳びながら向かう。

揺れは少ないし、歩きよりこっちの方が早い。

さてどこに行くか。


「確か東にちっさいシェルターがあったはず。

……電脳中枢(ベースエーアイ)は死んでるだろうけど。」


だけどそこ以外近場にもうシェルターないしな。そこいくしかねーか。


月明かりの中彼は跳び、やがて崩れた壁に辿り着いた。

シェルターの外は見渡す限り、ひび割れた地面とゴツゴツした岩が続く荒野が広がっていた。


「見晴らしがよくて何よりだな。」


皮肉を言いながら跳ぶ。

東を目指して。





そのころ、無人となった砂漠の街にはダークが存在に気付かなかった、あの本が残されていた。

今度は本は起き上がるわけでも、浮くわけでもなく、ただ大人しくそこにいた。

だが本は段々と形がぼやけ、まるで霧のように夜気に溶けていった。

後にはただ、静寂が満ちる闇の中、砂と残骸が在るのみだった。





招かれざる客[完]

第2章はこれにて完結です!


ここまで読んでいただきありがとうございます!


次の第3章ではついに女の子が、初ヒロインが登場します!

そして数々の魔法達も。

魔法との出逢いは2人の抱く疑問を解決してくれるのでしょうか。


これからもよろしくお願いします!

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