武器庫に向かう途中に
武器庫に向かう途中も建物は揺れて壁に小さなヒビ、亀裂が生じていく。
「武器庫につく頃にはこの建物崩れんじゃね?」
冗談半分にダークさんはいうけれど、いつそうなってもおかしくない。
「…洒落になりませんよそれ」
「……わりぃ」
群れが来てるのに呑気だなぁもう……
……あれ?
その時ふと、疑問が浮かぶ。
…どうして群れに気付かなかったんだろう…?
謎憚獣の群れなんて普段は遭遇しない。
群れでこられたら遠目からでも分かり回避できる。
それがどうしてシェルター内に入られるまで気付かなかったか…
僕は寝てしまっていた。
けれど、ダークさんはシェルター外の監視カメラをみていたはず、大窓だってあった。
群れの接近に気づかないわけがない。
「どうして群れに気づかなかったんでしょう?」
武器庫に急ぎながらダークさんに問いを投げかけた。
「翼があったから空飛んできたんじゃね?」
まぁ、時たま目を離してたから、ずっと見てたわけじゃないけど。そう考えるのが普通だろ?と、言ってきた。
「なるほど…」
それなら気付かなかったのも仕方ないか…。
「じゃぁ空中戦の武器がいいですね。」
「だな。」
次の角を曲がれば武器庫はすぐ。
頭の中の建物内地図を辿り、そして角を曲がる。
と、角を曲がったとき、足元に何かがいた。
50㎝くらいの細長く、クネクネしたもの。
それが白い床にいた。
それの側には不自然な土くれがある。
どこから土なんて入ったんだろう?
それにこの生き物って…
「蛇?」
屈んでその蛇をみる。
が、僕は慌ててすぐに立ち上がった。
その蛇の頭は二つあって、背中にはまだクシャクシャの翼らしきものがあった。
「謎憚獣の子供か…!」
ダークさんがそう結論付けて、警戒し携帯している銃を抜き構える。
だが、その子供はまだ目が開いていないようで、警戒もせずただそこにいるだけだ。
「ダークさん子供を殺したらまずいです!」
銃口を子供に向けるダークに思わず叫ぶルーエン。
謎憚獣の子供を殺してしまうとその謎憚獣全体から報復があるのだ。
100体あまりの群れの子供を殺せばその群れから襲われる。
こんな話しをダークさんから聞いたことがある。
昔、まだ人がたくさんいた頃、一人の青年が一匹の謎憚獣の子供を殺した。
殺した理由は分からないが、ただ謎憚獣が恐ろしかったんだろう。
そして子供を殺された群れは怒り狂い、子供の命を奪った青年の国に押し寄せた。
謎憚獣の怒りたるや尋常ではなく、その国は一晩で滅んだ。
この子供の命を今ここで奪えば、どんな報復が来るか……。
考えただけで恐ろしい…。
「分かってる。
……なにもしてこない限り何もねぇよ。」
ダークは構えを解いてすぐに銃をバレッタにしまった。
そして子供を迂回して武器庫に急ぐ。
ダークの後ろを急ぎ足で追いながら、ちらっとルーエンは子供を振り返った。
(え…?)
子供の目は先程は開いていなかったはず。
だが、その開かれていなかった目をあけてルーエンを見ていた。
赤い4つの目と、ほんの一瞬眼があった。
ルーエンは目から逃げるように視線をまえに戻す。
(……今…)
一瞬。
目があったのは一瞬だったけれど、確かに何か聞こえた。
何をいっていたかはわからないけれど……
なんだか、話しかけられたような…。
「ついたぜ!」
ダークさんの声に現実に戻る。
目の前には重たそうな鉄の扉。
いつの間にか武器庫についていたらしい。
扉には光る点が9こ、3、3の正方形に並んでいる。
「パターン入力か。できるか?ルーエン」
「当然です。」
扉に近づき、指を滑らせ点と点を結んでいく。
ピーーーーッ!
【ロックが解除されました】
機械的な声が響き、パターン認証の音が鳴る。
それを聞いてダークさんは取っ手に手をかけてグッと引っ張った。
武器庫の中はとても薄暗い。
手探りで壁の灯りのスイッチを探すが見つからない。
灯りはないみたいだ。
灯りの熱による事故を防ぐ為だろう。
唯一室内を照らすのは、壁をくりぬいて取り付けられた窓から射し込む、僅かな日光しかない。
いくつも並ぶ棚には沢山の銃火器に刃物、爆弾らしき塊が陳列されていた。
電撃シールや電子剣もある。
その棚がズウゥゥゥン…、という地響きがするたびカタカタと震える。
「とりあえず、銃は持っとけ。」
ツカツカと棚に近づいてポイッと拳銃を僕に投げる。
って、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!!
慌てて手を伸ばして拳銃をキャッチして安全装置を確認する。
銃が暴れないように安全装置はしっかりかけられていた。
……だからといって
「いくら安全装置がついてるからって無造作過ぎませんか!?」
謎憚獣に聞こえてはまずいので、少し声のトーンを落として、投げて寄越すのは危ないでしょうと抗議する。
万が一安全装置が外れていたらどうする気だったのか…。
「暴発するような銃を保管する電脳中枢じゃないだろ。」
僕の言葉にシレッと答える。
それはそうですけれども!
と心のなかではまだ抗議していた。
でも僕がこれを口に出しても、何ら差し支えないとばかりにあしらわれるんだろうなぁ……。
結果が目に見えているのでルーエンは何にも言わなかった。
「努力はするけどさ。
俺がいつも守ってやれるとは限らねぇからな。
囲まれたとかだと対処しきれねぇし…」
続いて軽めの小型爆弾を僕に渡してくる。
もしもの時に僕を守る道具…。
「それはそうですけど……」
「危なくなったら爆弾を空に投げて爆破させてくれ。
すぐいくからさ。」
またもルーエンの言葉を流し、ダークは必要な道具を手早く選んで背負った。
「わ、わかりました…。」
分かったと言うしかないルーエン。
ダークは何事もなかったようによしっと頷いて、武器庫の出口に向かおうとする。
と、再び建物が大きく揺れた。
ヒビが大きく入り、天井の欠片がパラパラと落ちてくる。
「早く行こうぜ。
建物の下敷きになるのはごめんだろ?」
僕が返事をする前に、再び天井に強い衝撃が入った。
足元もゆれ少しよろめく。
天井のヒビがさらに大きく広がり、鉄骨の骨組みが顔をのぞかせる。
「ヤバイな、はし……」
走れ。
ダークさんが言い終わらないうちに天井が崩れた。
どうしよう…
こんな狭い室内では逃げれない。
瓦礫が落ちてくる一瞬の間に僕はそう思うことしかできない。。
ダークさんは焦る僕とは対照的で落ち着いていた。
「前門の虎、後門の狼ってか?」
なんて余裕そうに呟いた。
かと思ったら、僕を振り返って言う。
「フードかぶっとけ。」
ただそれだけ言うと、腕を僕の腰に回しで、さも当然のように僕を小脇に抱えた。
えええええええええ!?
慌て言われた通りにフードを掴んで深く被る。
それと同時にダークさんは、窓めがけ左足で踏み切り、右膝で武器庫の窓ガラスに蹴りをお見舞いした。
防弾ガラスより丈夫なガラスが砕け、天井の瓦礫とガラスの破片が舞う。
そして外と中を隔てるものがなくなった窓枠に足をかけて……
「よっ…とっ!!」
ダークさんは思いきり窓枠を蹴った。
窓枠からでるとそこから先は赤褐色の砂の海。
ダークさんはすぐそばの砂の上に降りると、もう一度高く跳躍した。
多分、倒壊しかけたドームから離れるために。
でも…。
「うわわわっ!!」
目が回る!
小脇に抱えられてるせいで目の前の景色がグルグル変わる。
僕はたまらずに目を閉じた。
が、目を閉じた程度で振り回される感が消えるわけでもない……つまりは…。
酔った……。
そんな僕などお構いなしに、少し離れた砂の上にダークさんは着地してクルリとドームに向き直る。
ついでに無造作に僕を降ろした。
……と、言うより落とされた。
と言った方がいいかもしれない。
「うっ…」
不安定な着地に、つい声が出てしまった。
どうしよう吐きそう…
「どうした?変な声がした気がしたんだけど?」
僕が酔ったなんて絶対分かっていない口調だ。
「ちょっと…酔いました…。」
「あ、配慮すんの忘れてたわ、すまん」
忘れてたんですか…。
吐き気をこらえてそれを言葉にする前に、急に大きな影がドームに差した。
鈍く重い地響き。
砂が震えてサラサラと流れる。
段々、ミシミシとドームに亀裂が入っていく。
そしてドームが崩れた。
それはほんの1、2秒の出来事。
ドームが崩れた影響で空気が大きく動き、もうもうと埃と砂煙を巻き上げる。
この崩れようだと電脳もろとも壊れてしまっただろう。
ダークはヒューと口笛を吹いた。
「あっぶね~!あとちょっとで下敷きになるとこだったな!」
そうですね。
そう答えを返そうとしたとき、先程と同じでまたもや言葉に出来なかった。
「……うわっ!」
けれど、言おうとした言葉とは違う言葉が出てきた。
突如、吹き付けてきた熱風。
電脳中枢が壊れた影響でシェルター内の気温が変わったせいだろうか?
いや、それだけでこんな熱さはこないはず。
では何?
答えはすぐに目の前に現れた。
瓦礫を背に、半身に砂を纏った巨大な蛇がいた。
熱風は、蛇によって巻き上げられた砂に貯められていた熱……。
「やれやれ…外に出れたと思ったらコレかよ…」
ダークさんが武器庫から持ってきた電子剣を抜いて構える。
「つくづく運が悪りぃなぁ…」
僕ら二人の前に、謎憚獣が二つの鎌首をもたげていたのだった。