枷色紅葉
『はにゃ?いま、なにか爆発音ちっくな日常的にはあんまり聞こえちゃいけないような音が聞こえてきたような…ま、気のせいですかね。木の精、森の精なんちゃって!』
とある少年と少女が《屍鬼》に襲われたのとちょうど同時刻。
少年と少女との現在地にそう離れていないとあるシャッター商店街で一人の少女が華麗にスベっていた。
もう、それは見事なズッコケである。
『全く不動さんもこんなところに私を呼び出してどうする気ですかねぇ?…はっ!まさか強姦⁉︎嫌ですねぇ。私はまだ健全な高校生ですのに』
嫌々言いながらわりと満更でもなさそうに身体をくねくねとくねらせながら少女は寂れたシャッター商店街を進む。
かつてはここも活気に溢れた商店街だったのだろう。
すべてシャッターが降りているが果てしない長さの店並みが軒を連ねている。
これも都市への人口集中や少子高齢化が原因だろうか。
だとしたら、悲しいことだ。
人によって生まれた物が生みの親によって廃れていくなんて。
理不尽だ。
『なーんて、これは不動さんからの受け売りですけどね。私は別にこんなのどうも思いません。紅葉ちゃんは毎日の髪の手入れの方が大事ですから』
少女ーー枷色紅葉はそう呟いて自らの短めの軽くパーマのかかった茶髪を弄る。
薄桃色の風翼学園の制服に上手く合うように髪を切ったのだ。
いつまでも、あの人が振り向いてくれないから。
これははあの堅物なのか軟派なのかわからない刑事に振り向いてもらうための伏線なのだから。
『しかも、それはもうそーだいな!』
少女はまた一人でに騒ぐ。
それはまた楽しそうに。
世界の裏側なんて知らない。
まるで小鳥のように。
だが、非日常と言うものはそんな事などお構いなしに訪れる。
トイレに行こうとしたらギリギリで割り込んでくる父親のように。
新車の自転車に問答無用で糞を落としてくる鳩のように。
訪れるのだ。
『はて?なんだか人が多くなってきましたねぇ。何か始まるんでしょうか?』
少女の言う通り確かに人は多くなってきた。
だが、なにかがおかしい。
少女はそう感じた。
当たり前だ。
商店街にいる人全員が死んだような虚ろな目で少女を取り囲むように近付いてきているのだから。
『はっ…はれ?なっ、なんで私を囲んでるんですか⁉︎私、まだ悪いことバレてませんよ⁉︎』
何処かお気楽そうな彼女も流石にヤバイと思ったか焦りで地味に自白しながら駆け出し始めた。
目の前にいる群衆を掻き分け走る。
捕まったらなにをされるかわからない。
怖い。
怖い。
怖い。
少女は走り続ける。
恐怖心に支配されながら。
走り続ける。
この不気味な現状から逃げるために。
だが、逃げられない。
少女が走り始めた瞬間。
次々に人々も駆け出し始めた。
まるで少女を捕まえようと追いかけるかのように。
一斉に。
『はっ…はっ…はっ…いったい…なんなんですかぁ⁉︎』
少女は走りながら叫ぶ。
恐怖心を振り払うために。
だが、その声も商店街に無残に反響するだけである。
『あっ!あれは‼︎』
何かを見つけたのか少女は突然速度を上げる。
今まで手を抜いて走っていたかのように。
少女のいる方向にいるのはこれまた少女。
こちらの少女も風翼学園の制服を着ている。
紅葉の知り合いだった。
たしか名前は…
『立花ちゃん!』
紅葉に呼ばれて少女はゆっくりと振り向く。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
紅葉の方向に。
正面から向く。
『ひっ⁉︎』
『あら、紅葉さん。ご機嫌よう』
『りっ…立花…ちゃん?』
『ええ、そんな慌ててどうかしたの?』
そう言って少女は紅葉に向けて上品に微笑む。
下腹部にまるで物凄い力で引き千切られたかのような空洞を残しながら。