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 夕暮れが迫っていた。名も知らない群青蝶たちは、ひっそりと森の奥深くへと帰っていく。

 帰る場所があるのは、羨ましい。

 といっても、私に寝る場所がないわけはない。訓練を終えれば『施設』へ帰ることになっている。そこが私の居場所なのかは、分からない。

 隊長が長い笛の音を響かせて、『施設』へ戻る合図をする。まるで空を引き裂くかのようなその音に、私は思わず身体をびくんとすくませる。

 隣にいた白波は、心配そうに私を見る。

「なんでもないわ」

 私の言葉は、夜が迫る強い風に飛ばされた。果たして白波の耳に届いたかは不明だ。それでも、彼女は怪訝そうな顔をしながら、こくりと頷いた。

 白波は言葉を話せない。戦争のショックで言葉を話せなくなったのだと、冥奈先輩がこっそり教えてくれた。

 白波の肩口までの、黒い髪が風に揺れる。対照的に白い彼女の肌は、まるで雪解け水を溶かして作ったのではないか、と思う程だ。

 『施設』への道は、遠くはない。日没までには辿りつける。

 そもそも、私たちの訓練は、『施設』の近場でしか行われない。もっと遠出しても良いのに、と思うこともあるが口にはしない。

 だいぶ『施設』に近づいた時だった。轟音が大地を揺るがし、空を震わせた。藍色に染まりつつある大空が、思い出したかのように、大きく身震いをする。振動がお腹の下にまで伝わってくる。白波は咄嗟に私の腕に抱きついた。周りを見ると、みんな寄り添って固まっていた。

 こんなことは今までにはなかった。橙色と群青色が狂騒する空に、大きなキノコ雲が見えた。どこか遠くの街が消し飛んだことは、想像に難くない。私たちは身を震わせた。まるで、あのキノコ雲が私たちを見下ろして、次はお前たちの番だ、とでも言っているみたいで。

 ぎゅっと私の腕を握り締めている白波は、捨てられた子犬みたいに、ぶるぶると震えている。昔の記憶が蘇っているのだろう。

 彼女と初めて出会った、あの炎に包まれた街を思い出すだけで、私の身体にも震えが走る。

 空の轟音が止み、再び隊は進みだす。

「もう、大丈夫だから」

 白波を諭すように、私は告げる。

 それでも、白波は目に涙をいっぱいに溜めて、私を見るのだ。

 ――彼女を、ここに連れてくるべきじゃなかった。

 私は後悔した。けれど、後悔しても、もう遅い。

「大丈夫、大丈夫だから」

 ゆっくりと、白波は微笑む。私の言葉に安心したのだろう。

 春の花がほころぶように笑う白波を見るたびに、私は戦争を恨む。あの火事にやられた街を思い出して、恨む。

 そして、この重い、重い、白波のことを、私は、


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