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 世界の始まりを告げるように青い鳥が鳴いて、今日の演習が終わった。汚れきった両手を見ると、うっすらと汗に濡れていて、まだまだだなと思って、ひとつ溜息をつく。こんなんじゃ、ダメだ。そう思う。

 遥かの水平線に、おもむろに太陽が姿を沈み隠していく。まるで交差点で別れを惜しむように。ゆっくりと、沈んでいく。そして、東の空から夜が這い寄ってくる。青黒い風と共に。どこか懐かしい匂いがした。

 子供の頃、風邪で寝込んでいると、遠くから夕方を告げる鐘の音が聞こえてきた。しんと静まり返った部屋の中にまで、優しく入り込んでくる音が、やけに心地良かったのを憶えている。『施設』に入る前に煤で汚れた手を洗い、ぼんやりとそんなことを考える。

 後ろから足音が聞こえて振り返ると、仲間の冥奈がいた。演習に邪魔になるだろう長い髪を、一本にきちんと結って背中に垂らしている。夜の風が、その黒髪を惜しげもなく揺らす。輝き出した星の下で、冥奈はとても美しかった。

「ひどい事故だったね」

 小さな唇で、冥奈が呟いた。まるで階下で聞こえる母親の声のように優しい声で、そう呟いたのだ。

 何と返事をして良いか分からずに、私は黙ったまま手を洗う。もうすっかり綺麗に見えたけれど、生憎薄暗くてよく分からない。

「でも、仕方がなかったのかもね。これは戦争だもの。敵はなんだってしてくる。そう思わなくちゃ――」

 死んでしまうわ。

 冥奈は恐ろしく冷たい声で言う。私の心が震える。

 死んでしまう。

 そうだ。死んだんだ。

 詩が好きだった紗奏。向日葵が好きだった紗奏。私の、妹。


 妹の紗奏が死んだのは、先週だ。私の乗っていた戦艦が、彼女たちの乗った戦艦を敵船だと思い砲撃してしまったのだ。

 ちょうどその一時間前に敵軍が私たちの戦艦を奪ったという情報が入ったのだ。あとで調べたら、その情報自体が誤りだったのだけど。

 何にせよ、紗奏は死んだ。遺体も見つかっていない。戦艦は木端微塵だった。私の目から見ても、良い砲撃だった。これ以上ないくらいにうまく仕留められたと思った。

「元気、出してね」

 冥奈が泣きそうな顔で、思い出したように笑う。すっかり日も沈んでしまって、その表情が私にはもうあまり分からなかった。

 私もきっと、泣きそうな笑い顔で答えたのだと思う。

「ありがとう」

 って。



 夕食を食べ、夜間の訓練が始まる。風の中で空を見上げれば、星を食い尽くすかのような星々が空に蔓延っている。人は死んだら星になるという。あの中に紗奏もいるのだろうか。ちょうど隣には冥奈がいた。すっと通った鼻梁が、どことなく月のような冷たさをたたえている。冥奈は、人が死ぬとどうなると思っているのだろう。

 ふと、隊長が歩くのをやめた。全体がそぞろに止まっていく。

 演習場まではまだ少し距離があるはずだ。

 誰も口を開かない。ただ、空を見上げていた。

 私もつられて、見上げた。

 そこには、星が流れていた。青白い軌跡が多数、流れ落ちていく。夜空にシャワーを当てたらこんな感じだろうな、と目の前の光景に考えが追いつかない頭で、そんなことを思う。

 星が流れる。

 あれは、きっと人なのだ。

 人は死んで、星になる。そして、いつかまた、流れ星となって地球に還ってくるのだ。輪廻だ。

「紗奏……」

 気づけば、彼女の名を呼んでいた。

 流れ星に願い事をすれば叶うという。

 私は彼女の名を呼び続ける。

 願い事だなんて、乙女なことを、信じて。

 今この時だけは、戦場にいる私でも、ひとりの女の子に戻れることを信じて。

 私は、紗奏のことを、呼び続けた。


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