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間話一 連合会議


ほら、お嬢さん。

俺のショーを見ていきなよ。

赤い紅い、俺のショーをねェ。




エトワール王国、王都エトワールは、王城を中心の円錐形に広がった大都市である。環境にも作物にも恵まれ栄えるこの都市は、城下、王城ともにレンガを基調に造られ、夜になれば人工的な明かりがなくとも出歩けるほど星々と月に愛される都市だった。

だがそんな都市の城下は現在、一人の男に恐れおののき、人々によって人工的な道が作られていた。男は部下を数人従え、上質な真紅のマントに身を包んでいる。金糸で縁取られたマントが靡き、その度に男の足は王城へと向かっていた。部下達も男に習い足を進める。

その内の一人の手には大きな旗が握られていた。漆黒の生地を金で縁取り、中心には真紅でシルエットが描かれている。そのシルエットはまるでサーカスの道化師のように、怪しく微笑んでいた。そしてまた、深く被ったフードから垣間見える男の口元も薄く、しかし凄絶な笑みを浮かべていた。


そう、それはまるで

サーカスの道化師のように――――




エトワール王国、王城。第三会議室。


「またか」


呆れたようにため息を吐き、傍らに剣を携えた屈強な男——労働系ギルドトップ『聖剣の騎士(ナイト・オブ・デュランダル)』のギルドマスター、マスター=バロックは、会議用の円卓に我が物顔で足を乗せた。気だるそうに椅子に腰かけ、太い腕と焦げ茶の頭をだらりと垂らす。

その様子に、反対側に座っていた物腰静かな男はため息を混じりに口を開いた。


「バロック、もうすぐ女王陛下がお見えになる。はしたない行為は慎め」


紫の髪を後ろで束ねた商業系ギルドトップ『イカレ帽子屋(マッド・ハッター)』のギルドマスター、マスター=クロイツェルは、生気の抜けたようなバロックを冷めた目つきで見据えた。

しばらく辛辣で鋭い視線を紫紺の瞳から送る。結局、耐えかねたバロックはぼさぼさの頭を掻いた。


「そうは言ってもよぉ、裏ギルドの長がいねぇんじゃ話し合いのしようがねーだろ?」

「それとこれとは別。お前は女王陛下の御前に出る者として、それそうの態度を取らねばならん。それが当然の事だ」

「かったいねぇクロイツェル。流石は良い子ちゃん。育ちが違うってわけだ」

「……少なくとも、貴様の様な野蛮人とは似ても似つかん」


クロイツェルが喧嘩腰に言い放った瞬間、電流のような音と共に両者の視線が交わり室内に火花が散った。バロックは立ち上がり今にも飛びかかりそうな勢いで円卓を叩き、クロイツェルは凍てつくような冷酷な瞳でバロックを見据えている。

先にバロックが口を開いた。


「何だぁ? ほっそいモヤシっ子がやろうってのか?」

「貴様の様な能無しに負けるとでも?」


挑発に挑発を重ね、一触即発の空気が会議室に漂う。王城の中だと言うことも忘れ、両者は武器を構えようと手をのばした―——が、その手は同時に止まった。

扉が開く音と同時に、待ち侘びた…しかし、望んでいなかった声が聞こえたのだ。


「おや? 三大ギルドの要ともあろう方々が、随分と粗末な遊戯をお好みのようだ」


言葉に笑みを乗せるように楽しげに語り、声の主は会議室へと足を踏み入れる。ぞろぞろと、真紅のマントに身を包んだ集団も後に続いた。


「ッ!? お前!?」

「……随分と遅いご登場だな、マスター=ジョーカー」


目を見開き驚くバロックとは対照的に、平常を装ったクロイツェルはマント集団の長、ジョーカーの言葉に棘を混ぜて対応する。しかしジョーカーは余裕を崩さなかった。


「いやァ、何分忙しかったもので。すみません、マスター=クロイツェル」


円卓に歩み寄り、クロイツェルとバロックの間の席に立つと、ジョーカーはクロイツェルに体を向けて低頭した。その態度はいやに恭しく、冗談めかしている様にしか見えない。クロイツェルは一瞬だけ眉を顰めた。


「抵抗も見せずに連合に入った割には、悪あがきを見せていた貴様が忙しい? 一体何をしていた。首輪の付いた狂犬は」

「ハハッ、手厳しいなァマスター=クロイツェルは。けど、ひとつ訂正させてもらいましょうか。―———悪あがきも無駄にはならなかった」


言下に、ジョーカーは雰囲気を変えより一層言葉に笑みを乗せる。狂気染みた、怪しい薄笑いを。


「ッ、どういう事だ?」


一瞬、クロイツェルは不覚にも怯み、けれど果敢に問いを投げかけた。

ジョーカーは笑う。



「女王陛下はおっしゃった。



―———『暗殺を容認する』と」


「な!? 馬鹿な……ッ!?」

「ありえないとは言えない筈だ、マスター=バロック」


瞳孔を開き驚愕するバロックに、しかしジョーカーはぴしゃりと言い放った。その言葉は重く、バロックは言い返せずに瞳が揺らぐ。クロイツェルは先を促すようにジョーカーを睨んだ。


「女王陛下の放った魚が終に任務を蹴って反抗しだした。だからもういいとおっしゃった」


楽しげに、まるでサーカスの道化師のようにジョーカーは卑下に笑う。その言葉に思い当たったクロイツェルは、瞳を細めジョーカーを見据えた。


「……魚とは例のアレか?」

「おや? 管轄違いなのにご存知のようで。さすが、女王の忠犬」


馬鹿にしたようにけたけたと笑いながら、ジョーカーはなおも狂気染みた雰囲気を放つ。クロイツェルとバロックが嫌悪を抱いた時、再び会議室の扉が開いた。そこに、


「女王陛下!?」


漆黒の衣装に身を包み、暗幕のような黒い布で顔を隠した女王陛下が立っていた。静かに、優雅な足取りで入室すると、女王陛下はジョーカーの元へと向かう。説明を求めるようなクロイツェルの視線も、しかし女王陛下は取り合わなかった。


「マスター=ジョーカー」

「は、女王陛下」

「お前に命を下す。報酬は五千ベルク。今から十日以内に、あの人魚を討伐せよ!」


静かに、しかし厳格に告げると女王陛下はジョーカーを見据える。騒然とする雰囲気の中、裏ギルドトップ、暗殺ギルド『道化師の嘘(クラウン・ア・ライル)』のギルドマスターは答えを述べた。


「仰せのままに―——女王陛下」


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