Charge15:緋の閃光
「ヴァン様、四つの結界が破られました」
部下からの報告を受けたヴァンは物言わぬまま、全体を見回している。その、優雅な姿勢は窮地に追い詰められていることを楽しむかのようにも見える。
「どうした、続けて言ってよ」
「レイザ達がこちらへやって来ますわ。このままでは、フィリカが崩れてしまいます。フィリカの礎が破壊された以上、奴らが元の世界に帰るのも時間の問題でございます」
「……ふふ、そうはさせない。させないよ……長い間、ずっとこの為に生きてきたのだからね……それより、その口調、鳥肌が立つからやめて欲しいな」
ヴァンはそう言って部下──金髪の少女に下がるよう目で指示を送る。しかし、彼女はヴァンと向かい合ったまま動かなかった。
そのうちにヴァンは彼女に対して何らかの感情を持つようになった。
「ティアナ……君は僕を裏切ったりしないよ、ね?」
部下──ティアナと呼ばれた少女にすがる彼を、彼女は無に近い表情で見つめている。否、何かを睨むような強い視線がヴァンを射抜く。
淡々と彼女はヴァンに言った。
「ヴァン様が約束を守って下さるなら、私は従うつもりよ。それに、ヴァン……この国はいずれ現実世界となるの。そう、アルディになんて二度と負けたりしないわ。ライハードが、私と兄の国が復活するの……アルディの者達を誘き寄せたのもその為。許さない、ライハードを滅ぼしたエルヴィスだけは絶対に許さない。アルディを冒涜したエルヴィスだけは……!」
抑揚のない声はやがて憎悪の籠った凄みのある声に変わり、ヴァンは彼女の肩を撫でる。
「ふふ、ティアナ、君も辛かったね……レディンとアベルをアルディに引き渡したばかりに、君達の理想を打ち砕いたエルヴィスに利用されるなんて……でも、レディンはどうして僕達に共感してくれなかったんだろう?」
レディンがヴァンや彼女を止めようとしたことを彼は思い出す。しきりに──ディールを呼んでいたことも序に思い出しながらティアナを見つめる。
すると、ティアナは吐き捨てるように答えた。
「私のことなんて、忘れたのよ。レディンが死んだのは罰よ。罰なの。ふふ、話を聞いたらびっくりするかしら? まあいいわ。次はディールよ。私からレディンを奪い取った罪、償ってもらうわ……ヴァン、私は詠唱を始める。その間、レイザ達を止めて」
「任せておいて。奥で儀式を始めてくれ」
「ユリウスを奪うのも忘れないで」
「……分かってるよ」
一瞬間を置いて、ヴァンは答えた。
「もうひとりも忘れないで。あいつは危険だわ」
「……大丈夫だ、奴はもう持たない……ユリウスを解放して、ゼーウェルを元に戻した影響で力を失っている。所詮、オリジナルには敵わないよ?」
せせら笑うヴァンにティアナが眉間に皺を寄せる。だが、勝利に酔う彼にはティアナのことなど眼中にないのだろう。
カツカツとヒールの音を響かせ、ティアナはその場から離れた。
「ふふ、楽しみだなあ……」
そう言ってヴァンは入口を見つめていた。
****
「何だ、この異様な空気は……」
「凄まじい魔力が流れているよ……さっきまでこんな魔力はなかった……どうしたんだろ?」
「ヴァンの奴が何か仕掛けているのかも知れませんよ。気をつけていかねば……」
城に流れる空気がどんどん澱んでいる。肺を圧迫しそうな重たい空気感にゼーウェルは警戒し、ディールは怯え、リデルは怪訝そうに辺りを見やる。
「きゃっ! なにこれ……!」
「ばか、アイーダ……見るんじゃないよ」
アイーダが指を指した先には赤い血がこびり付いていた。
「……いや、何処も彼処も血だらけだな……ヴァンはいったい何を考えているんだ」
「ルディアス、冷静に解説するなよ……それにしても薄気味悪いな」
「……みんな、ちょっと聞いて」
それぞれが思い思いに話していたところをユリウスの声によって沈黙する。
「……ヴァンだけがフィリカを操ってるわけじゃない……」
「!?」
「他にもいるのか……?」
「可能性は高いわ……みんな、ヴァンだけに捉えないで……貴方達と近しい人間がフィリカを操ってる……そんな気がするの」
「私たちと、近しい人間……」
だが、思い出せない。近しい人間の誰がこのような惨劇を引き起こしたのか、想像もつかないのだ。
何かを思い出そうとするも、今は過去の映像が流れてこない。自分の感情が掻き立てられるばかりである。
「ごめんね、引き止めて……さあ、行きましょう。多分この先に、ヴァンがいるわ……」
歯切りの悪い言葉で締めて、ユリウスは先を促した。
****
鮮血が流れ落ちた床を歩いていく。その間は誰も話さなかった。重たい空気ではあるが、敵の気配はなかった。相手が相手だけに余計な詮索をしてしまう。
広い空間があるだけで、直線上に走ればすぐそこに階段がある。
「……行きましょう」
パタパタと音を立てて階段まで走り出す。
バタン!
「!?」
大きな音がして振り向くと、退路である扉が閉まっていた。
「もう、後には退けないってことなのね」
「そうだな……さあ、行くぞ!」
ユリウスとレイザが真っ先に走り出したので、残りの者も後に続いて走り出す。
後にはもう何も残されていない。先には強大な敵が待っている。
それでも大丈夫だと思った。だから走り出す。
「レイザ……」
一番始めに入口に到着したレイザに続けて到着したゼーウェルが呼び掛ける。
ゼーウェルはレイザが言ったことを気にしているのだ。彼は素敵な理想を持っている。それの重さを知っているからこそ、ゼーウェルはレイザを心配しているのだろう。
「ゼーウェル、言いたい事は分かってる。だけど、あんたがついていてくれるんだろう?」
「……」
「俺は、剣を振ったり走ったりする事はできる。だけど、人を癒したり、火を放ったり、水を浴びせたりするような魔法は持っていない。だからさ、俺は、一人じゃないんだよ。俺にはあんたが必要なの」
──敵わない。
かなわないなんて烏滸がましいかもしれない。あっさりと自分の気持ちに対して答えを言ってしまったレイザにゼーウェルはただただ苦笑するしかなかった。
「……どうやら杞憂だったみたいだ。さて……この先にヴァンはいる」
「ああ……ゼーウェル」
「俺達のことも忘れないで欲しいんだけど」
「水を指して申し訳ないですわ。でもそういうのは二人の時にやって欲しいですわ」
ルディアスとアイーダに咎められ、二人は苦笑した。
この先に、この先にヴァンがいる。彼は自分達が来るのを待っている。
レイザとゼーウェルは左右の取っ手をそれぞれ引き、扉をゆっくりと開いた。
「さあ、行くぞ!」
ギィィィ……。
音を立てて扉は開かれた。
****
真っ暗な中で、灯りだけがついている。だが、変化はすぐに起こった。
一歩歩く事に灯りの数が増えていく。一歩また一歩と前進すると灯りは点けられる。
「よう、こそ……賢明なる諸君……」
瑞々しくも威厳のある声とともに灯りが一斉に放たれる。
「ヴァン!」
緋色の炎の髪を持ち、片目を隠した青年──炎を体現したかのような髪色を持つ彼こそが正しくこの場所での全て。
「やあ……レイザ、ゼーウェル……よく来てくれたね……」
主はクスクスと笑いながら訪問者を歓迎した。
「君たちが来るのを待っていたよ。まずはここまで来てくれたことを褒めて差し上げよう……だが!」
ヴァンは高らかに笑いながらゼーウェル達を見下ろす。
「もうすぐ、ここは崩壊する。フィリカが真の姿を見せるんだ。どうだ、見てみたいだろう? だけど、君たちはフィリカを否定するのだろう、どうせ」
「当たり前だよ。あたしたちは何の不自由なく楽しく生きてきたんだ。こんな息苦しい世界に閉じ込められるなんてごめんだよ」
「何故? 何故、否定する。ここには、悲しみも苦しみもない世界があるだけなのに。エルヴィスの目指した理想通りの美しい世界が待っているだけなのに」
ルイズの答えにヴァンは更なる疑問を提示した。確かに、エルヴィスは争いのない、苦しみのない世界を目指そうとしていた。間違いない、間違いないはずなのだ。ヴァンの提示した疑問に反発したのはルディアスだ。
「お前、相変わらず狂ってるな、ヴァン。俺達は誰も苦しまない世界を欲してた。それは本当だ。だが、それはこんな歪んだ形じゃない。俺達は毎日苦しみ、悩みながら自分の人生を生きてきた。俺達の人生は俺達で決める。俺達の人生を何でお前なんかに決められないといけない?」
「……残念だ。ルディアス、君なら分かってくれると信じていたのに」
神々しい灯りを一身に受けながらヴァンは呟いた。光はヴァンに同意するようにキラキラと輝いている。
「レイザ……君の言葉を聞いたよ。誰もが幸せになれる世界を目指している、と……その幸せのために、誰かが犠牲になるというのに? それでも理想を突き詰める気かい? 君の正義は誰かの悪かもしれないのに?」
究極の問いかけだ。だが、レイザに迷いはなかった。
「……人は、愚かな生き物だ。だが、自分の人生は自分で決める。自分に与えられた権利をどう使うかは自分で決める。自分の果たすべき義務は自分で与えるもの。他人が推し量るものじゃない。それを無視したフィリカの世界は、やがて崩壊する。思い通りにならないから、藻掻いて生きている。俺の人生だってフィリカからすれば効率の悪い生き方かも知れないが、俺が決めたことだ……」
そして、レイザは剣を抜く。
「お前の好きにされてたまるものか!」
「……ああ、愚かな……愚かな。ならば、フィリカの真の力、お見せするしかない。こうすれば……こうすれば」
ヴァンは両手を広げ、灯りを己の周りに纏わせる。
「さあ、見るがいい! 偉大なる力を! お前達などフィリカの力の前ではかなわないのだ!」
****
炎が波風を起こし、その瞬間、硝子の破片が飛んでくる。
「か弱き者に裁きを与えよ……フレイムインフェルノ!」
「ライトガード! みんなを守れ!」
「レイザ、回り込むぞ!」
「俺は、右に行く」
「じゃあ、私は左だな……ゆくぞ!」
「ルディアスと私は正面から行きましょう!」
「おう、リデル……ルキリス……力を貸してくれ!」
レイザは右に向かって走り出す。一方、レイザの動きを見たゼーウェルは反対側の方向へと走り出す。
ルディアスとリデルは後方にいるルイズとアイーダ、ユリウスを守るべく正面からヴァンと対峙する。
「うわあああっ!」
「ディール!」
ゼーウェルを支援しようと動いたディールが悲鳴を上げる。
「ディール君、悪く思わないでくれ……」
ドオオンッ!
ヴァンの力によって身体を浮かされたディールが投げ飛ばされる。
「次は君達だ……全てを薙ぎ払え、ワームウィンドウ!」
凄まじい轟音を響かせながら風がゼーウェル達を薙ぎ払う。
「くそっ!」
「ちいっ……うまくいかないか……!」
ヴァンから大きく距離を離したところにゼーウェルとレイザは投げ出される。
「……! なに」
「お前を倒してみせる! アクアフレイムサークル!」
炎と水が混ざりあった円状の波動がヴァンの方向に飛ぶ。
「ルディアス!」
「隙あり! くらえ、垂直昇降!」
ヴァンからほど近いところで投げ出されていたディールがヴァンに蹴り技を放つ。だが、ディールの攻撃はすんなりとかわされ、ヴァンは笑いながらディールに向かって風を放つ。
「ふふ、ワームウィンドウ! そして、君の足掻きは無駄になる」
ヒュイン!
「ぐっ……」
ヴァンの剣技を受けたディールが呻きながら膝をつく。
「ディールを癒して、フォースヒール!」
暖かな光がディールを包み込む。
「はあ、はあ……何とか持った……」
「ディール、前に出過ぎるな……あくまで私達は引き付け役だ」
「うん、リデル、頑張るよ!」
体制を立て直したディールが詠唱を始める。
「よし、合わせるぞ!」
ルディアスとリデルもディールに続いて詠唱を始める。
「喰らえ、ウィンドウスラッシュ」
「怯むな! 続けるぞ!」
ヴァンが刃を放ってくる。だが、リデル達は詠唱を続けた。
「ヴァン、私のことも忘れてもらっては困る! ネイルシャドーハンド!」
ゼーウェルの放った黒き欠片がヴァンを襲う。
「ふふ、このくらいで何になると? ブラッティソード!」
鮮血の刃がいくつもゼーウェルとレイザに降りかかる。
「ふたりを守ってください! シャドーウォール!」
淡い光がゼーウェルとレイザを包み込む。
「アイーダ!」
アイーダの支援によって二人は助けられたのだが。
「射抜け、ブラッティアロー!」
血濡れの矢がゼーウェルに向かって放たれる。
「ううっ……! しまった……」
「ゼーウェル!」
「……心配するな、レイザ、離れろ……」
「何度でもいくよ。ブラッティ」
「黒翔雨!」
危険を顧みずゼーウェルは黒い雨を降らせてヴァンの攻撃を妨害する。
「ゼーウェル、レイザ! ムーンライト!」
月のように澄んだ光が二人を包み込む。ユリウスがこの機会を狙っていたのだろう。
「……な、何故……この術は……」
既視感のある光にヴァンが呆気に取られていたその瞬間だった。
「ミラージュスプラッシュ!」
炎と、雷と、風と、光が混じった火柱がヴァンを包み込む。
色を吸収し、雷の刃を併せ持ち、全てを焼き尽くす炎と呑み込む水の前では誰もかなわない。
「……まさか、そんな、私の負けだとは……」
抵抗しようと魔力を操ろうとするも、既に底尽きていた。
スッ。
レイザの突きつけた剣を見て、敗北を悟る。
「……ふふ、ふふふふ……」
だが、ヴァンは狂ったように笑い出し、高らかに叫ぶ。
「いでよ! 古き良き歴史よ! 侵略せよ、愚かなる国を!」
《ディザスター!!》
誰かの声とヴァンの声が合わさった。
ドドドドッ!
地響きが、揺れが一瞬で広がっていく。
「ヴァン、終わったわ……」
奥から少女がやって来てヴァンに報告する。
「ティアナ、凄い。凄いよ。これで、これでフィリカは現実のものとなるんだね!」
「そうよ、ヴァン……あら、来ていたの、あなた達」
少女──ティアナは呆然と立ち尽くす一行を見て、クスリと笑った。
「私の名前はティアナ……ゼーウェル、レイザ、ルディアス、リデル、ルイズ、アイーダ……それから、ディール。みんな覚えているわ……だって」
彼女はディールを指差し、声高に叫んだ。
「古の時、私の国、ライハードを滅ぼした張本人でしょう!」
彼女の叫びと同時に散らばった破片がそれぞれ合わさり、映像を生み出す。
映っているのは、炎と、それから……。
「……父さん……」
ディールはへなへなと座り込み、愕然とする。
映っているのは炎に焼かれる人々の姿。悲鳴を上げ、許しを乞いながら逃れようとする人々。
『……誰一人逃がすな。全てを焼き尽くせ。そうすればアルディは豊かな土地が手に入る……何、なくなったら再建すれば良いだけだ……』
抑揚のない父の声にディールは顔を覆う。
だが、ティアナがさっと近づき、ディールの顎を持ち上げて映像を見せる。
「よく見なさい、ディール。あなたの父の悪行を。ふふ、笑わせてくれるわ……あなた達さえ良ければ他の人はどうでもいいのね?」
「……違う……こんなの、違う……」
ディールは泣きながらティアナから逃れようと身をもがく。
「何が違うと言うの? それならもっと見せてあげようか? でもそれじゃ……エルヴィスと同じよね……だけど、私は絶対に許さないからね……?」
そう言ってティアナはディールを突き飛ばす。
「私の国を奪って、あなた達は私の愛する人……レディンも奪ったのよ! 許せるはずが無いわ! ふふふ、全部全部滅ぼしてやる……全部、滅びてしまえ! 罪深いものは消え去ればいいんだわ!」
そう言ってティアナとヴァンの姿が消える。
「待って、待って……ヴァン!」
ユリウスがふたりを追いかけようとするが、二人は光に包まれて消えていく。
「……君は……」
ヴァンは目を見開き、ユリウスを見たが、彼女に声は届かなかった。
「……! 崩れる!」
地響きの音が激しくなっていく。激しく、甲高く唸る。
「……レディン……僕は、間違っていたの……?」
ディールは座り込んだまま、泣いていた。エルヴィスは確かに炎を放ち、人を殺めていた。彼は素晴らしい理想のために心を砕いていたと信じていた。
だが、実際は違う。彼はティアナの言う通り許されないことをしたのだ。
信じていたものが崩れる。
「……もう、どうでもいいや……」
レディンも、エルヴィスを恨んでいただろう。ならば、ディールのことも好ましく思っていなかった。
彼を慕っていたのは、自分だけだった。絶望し、気力を失っていく。
「違うよ、ディール」
「……レディン?」
ディールの思いに呼応したのは、黒水晶に呑まれて消えたレディンだった。
「違うんだ、話を聞いて……ディール」
レディンはディールに呼びかける。
「……僕は、君を愛してた」
憎きエルヴィスに故郷を奪われ、エルヴィスの気まぐれで拾われ……最初は恨んでいた。憎しみもあった。
「ライハードとアルディは戦争をしていた。エルヴィスは終わらそうとしてあんな強行に出た……でもね、エルヴィスがヴァンに刺され、部下から見放されたことで、もうエルヴィスへの罰は済んだんだ。僕は、そう思った……」
レディンはにっこりと笑ってディールの頬を軽く摘んだ。
「君には笑顔が似合うよ、ディール」
「痛い……」
「ほら、もっと大袈裟に」
「痛い!」
「もっと大きな声で」
「いーたーいー!」
パチン。
「よく出来ました」
レディンは漸くディールの頬から手を離し、背を向ける。
「今から上空へ君達を飛ばす。まだ間に合う。フィリカはまだ十分な力を手に入れていない……だけど、時間の問題だ……さあ、ディール、いくよ」
レディンの掌から青い光がディールを包む。
「約束してくれ。もう誰も泣かないような、素晴らしい人生を生きると」
彼には悲しい顔は似合わない。ディールには笑顔が似合う。その無邪気な笑顔に惹かれたのだとレディンは思った。
「約束する! もう泣かない。もう負けないよ! だから……だから、レディン!」
これで、最後。今言わなければもう二度と言えないだろう。
「俺も、レディンが好きだった。憧れだった! レディンみたいになりたいと思ってた! ずっと変わらない。ずっと好きだよ!」
光がどんどん強くなる。
今はただ、レディンを信じようと思った。
****
ドサッ!
「いてて……ってあれ?」
「ディール!」
目が覚めた瞬間、天井があって、自分はベッドに寝ていて、それからアイーダに抱き締められている。
「鳥がさ、俺達を拾ってくれたんだ。今はロックレンブレムの麓にいるんだよ」
ハーディストタワーから逃れた時にも乗っていた鳥。大きくて綺麗な羽を持つ鳥。颯爽と現れて颯爽と消える。
レイザに状況を話してもらえたおかげで把握することができた。
「ディール……無事だったか?」
ガチャリと扉を開けて入ってきたのはルイズだった。
「ルイズ……心配かけてごめんね」
「いや、いいよ。謝るならアイーダに謝っといてな」
そう言ってルイズは颯爽と出て行った。確かにアイーダには心配ばかりかけているとディールは思う。
「じゃ、そういうことで」
状況を察したレイザも部屋を出ていく。アイーダとディールだけが残された。
「ばか……ディールのばか」
「うん、そうだねー。流石に反省するよ」
「本当よ……今度無茶したらもう知らない……」
「それは困る……アイーダがいてくれないと困るよ」
「本当にばかなんだから……」
そう言ってアイーダはディールに身を預ける。
ずっと支えてくれたアイーダへの感謝の念を表しつつ、ディールはアイーダをそっと抱き締めた。
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「……上空に妙なものが浮いてるな……」
外にいるゼーウェルが怪訝そうに呟くとリデルが冷静に分析した。
「恐らくあそこから現実世界を侵略するのではないでしょうか。空からの攻撃では抵抗できないと読んでいるんでしょう」
「あの鳥を使えばいいんだけどなあ……」
いつも急に来ては急に去っていく。そのことを知るルイズは頭を抱えた。あの鳥ならば上空を飛べるだろう。
「ん? 小鳥がいるなあ」
ルディアスが屋根の上を見ると白くて小さな鳥が止まっている。次の瞬間だった。
「見ろよ!」
白い鳥が上空に向かって羽撃く。ここから真っ直ぐと上空に浮く要塞へと飛んでいく。
「何だったんだ……って、うわあ……綺麗だな」
鳥が飛んだ軌跡をなぞる様に虹ができている。
「もしかしたら!」
次の瞬間、水晶が現れる。この水晶に触れれば、虹を渡れるのだろう。
「よーし、これからが本番だよ! さ、ディールたちを呼んでくる」
そう言って、ルイズはディールたちの部屋へと向かって走り出した。




