Escape1:再び、戦いの始まり
窓から外を覗くと一面が白銀で彩られていた。
所々にぽつんと立っている木も雪を被り、白銀に染まっている。
「ずっと、雪が降っているのでしょうね、ルイズさんから聞きました」
暫くベッドの上でじっと窓を見ていたが、ゼーウェルがゆっくりとベッドから降りるのを見て引き留めた。
「……ゼーウェル、もう大丈夫なのか?」
「ええ、元より身体は特に何も。ただ、レイザさんのこととか、自分のことも全然覚えていないという位で」
「そう……か」
「本当にすみません……でも、覚えていないのです」
「そっか……でも、怪我がなくてよかった」
――本当はそんな風に思っていないくせに。
(何で忘れてしまったんだ……俺を助けたから?)
今はこうして動くことも確認できて、怪我もないしちゃんと歩けている。
それだけで十分な筈なのに。
(何で、何も話してくれないんだ……俺では力になれないのか?)
いつもそうだ。
彼は常に一歩引いて自分と接する。
どこか遠くから話しているような、そんな気がしてならなかった。
そんな彼の態度に腹を立てたこともたくさんあった、あったけれど――今の彼には自分の思いが届かないこともレイザには分かっていた。
それに――自分も、何か大切なものを失くしたような、何か空っぽになったような、虚しさが心の中に広がる。
(何で、ダークは俺を狙うんだ? 何で――あいつは俺に敵意を向けるんだ)
今思ってもダーク――ハーディストタワーで君臨した闇の存在が自分に向ける敵意は、目的を達成するための邪魔者として捉えるだけの淡々とした感情からなるものではなく。
ダーク自身が心から思っている強い感情である。
対峙した時に、彼は明確な殺意を既に向けていた。
その前からも――もしかしたら、フィリカに足を踏み入れた時からも……。
「……っ」
不意に鈍痛が走る。
(この痛みは何だ? 何もない筈なのに、どうして痛むんだ? 何か、殴られたような……何故?)
もう、耐えきれないと膝をつくとゼーウェルにもレイザの異変は目に映っていたようで慌てて駆け寄った。
「レイザさん?」
(……今のゼーウェルに、弱さを見せちゃいけない。あいつは不安な筈なんだ……俺が、しっかりしないと、それなのに……)
こんなにも自分は弱かったのだろうか――彼に心配かけてはいけないと、分かっていながら……。
「……あの、大丈夫ですか?」
「……」
たった一言、ぶっきらぼうに投げかけられたものだけど。
(……あんたに助けられてばかりだよ)
とても悔しくて、どう足掻いても同じ立ち位置には行けない。
これは、せめてもの強がりだった。
「何だよ、相変わらず湿気臭い顔するなあ。それより自分の心配をしないと。本当に大丈夫なのかよ」
「ええ、大丈夫ですよ。記憶だけみたいですね、大丈夫じゃないのは。レイザさんって随分心配性な方なんですね。見た目と全然違うので驚いちゃいました」
「あん? どういうことだよ」
「そのままです」
「それじゃあ何か? 俺が冷たい人間にしか見えなかったということかよ」
「そうとは言ってませんよ」
「さっきの前後の会話からそうとしか受け取れないよ!」
「誤解されるなんて悲しいです!」
じゃれあいのような会話を続け、お互いにため息を吐く。
「そんなに口が悪かったら勘違いされますよ……」
「あんた、意外と口が立つんだな……それならもっと話せばいいのに」
どうでもいい会話はできるのに、どうして大事なことは話せないのだろう。
やはり、先ほどの鈍痛をゼーウェルに話すことはできなかった。
(俺ってこんなに不器用な性格だっけ……なんかこう、思ったことを言えないんだよな……何でだろ)
会話を中断したところで広がる緩やかな沈黙。
お互いに何も言わず肩を並べて座っていたのだが、この沈黙が心地よく、一方で少しだけ気恥ずかしさも感じていた。
過去も力も何もかも失って、覚えていない筈なのに今もまだ変わらず漂っている穏やかな空気が、すがることを許してくれると思ってしまった。
「……怖い」
原因は何なのか分からない。
(ゼーウェルを追いかけてここに来ただけなのにな……何で……ラルク、ルディアス、ルキリス――ダーク……)
自分を敵視する者の中には親しい者もいた。
(フィリカって何だよ、何でこんなものの為に戦わないといけないんだよ……何が関係してるって言うんだ)
この世界が与える理不尽さにいつしか怒りを覚えて吐き出すけれど、誰も聞いてはくれなかった。
****
(いつだって、面白いくらいに平坦な風景だな)
白銀の世界、雲が覆う灰色の空、自由自在に空を飛ぶ水鳥。
いつ見ても綺麗だ。
その上に自分たちがいることをとても誇りに思うが、どうにも片隅にある不安は拭えない。
「何でこの風景は綺麗なんだろうな。美しいのに、綺麗なのに、そればかり見てるのに。綺麗なものを見る方が、楽しいのにな」
パッと頭に思い浮かんだものを、ふと目の前に視線を移せば。
「剣も魔法も自由に扱えるのに、何だろうな。何か、スッキリしないんだよ」
いつからこんな思いを抱くようになったのだろう。
「俺の願いは、俺とルキリス……皆がもう一度笑い合える世界だ。だから間違ったことはしていないんだ……セティ、そうだろ」
セティ――ディールを逃がすために捨て身で駆けてきた親友。
彼は自身を以て警告した。
それを自分は、排除した筈だ。
「何で迷うんだよ、俺は間違っていない、間違っていないんだ。それなのにどうして」
「……ルディアス?」
「わわっ! ……何だよ、ルキリスかよ、どうしたんだ」
「その反応はないでしょ。さっきから物凄く思いつめていたから心配したのよ。どうしたの……あんたらしくない」
「俺だって色々悩むこともあるんだよ……相変わらず俺の扱い酷いよなあ」
「だって、私からしたらルディアスって弟分みたいなものなのよね。何か放っておけないのよ」
「あーはいはい……ありがとな」
相変わらずというか何というかである。
ルディアスにとって隣にいる女性――ルキリスは頼れる姉貴分でもあったが、こんな風に弟扱いばかりされるのは何だか納得がいかない。
(俺じゃあ頼りにならないのかなあ……はあ)
悩みは増えるばかりである。
「何悩んでいるのよ。もうすぐなのよ、もうすぐで元通りになるの。日常も家族も風景も何もかも……可笑しかったものが全て元に戻る。だから……今、苦しむことにも意味がある。私は信じているわ」
それは、セティを排除してでも、だろうか。
芽生えた疑問にルキリスの顔を見ると。
「こうすれば私たちの為にもなるのよね」
恐怖を滲ませながら彼女は震える声で問いかける。
(俺たちは一体どれだけの犠牲を増やしてきたんだ……ヴァンの言ったことが間違いなのか、エルヴィスのやったことが間違いなのか……それとも、どっちも間違いなのか)
目を閉じて、思い出す。
『俺たちは下らない理想のために犠牲になったんだ!』
ヴァンが叫んだのを、思い出す。
恐怖や不安は何の前触れもなく足音一つ立てずに忍び寄るのに、どうして何もできないのだろう。
「やるしか、やるしかないんだよな」
立ちはだかってきた人を押しのけて進んできた。
もう今更後ろ向きで歩くことは許されない、だから。
「間違っているのはあいつらなんだ、俺たちはそれを正すために戦っている。邪魔をするなら排除するしかない」
「そうよ、それ以外方法なんてない。分かり合えるはずなんてないもの」
言い聞かせるように、これで歩いていけるように。
迷っているうちに時間はどんどん迫ってきて。
「ルディアス、ルキリス」
二人の元へ黒い鳥が駆けてきて名前を告げる。
「――ヴァン!」
ヴァンと呼ばれた者が、黒に包まれたまま素顔を晒すこともなく。
「もう直ぐ動き出す。徹底的に排除するのだ。奴らは間違いなく来る――何としても奴らの動きを止めるんだ」
「――分かっている」
冷淡に戦いの始まりを告げていた。
****
「レイザ達はうまくいってるかなあ。あの二人、口下手だから何か心配なんだよねえ」
扉の前で退屈そうに欠伸をしながらぼやくのはディールである。
レイザにゼーウェルの無事を知らせたものの状態を知ったら少なからずショックを受けていると思うのだが、部屋から出てこないということはそれなりにうまくいっているのだろうと勝手に解釈することにはしたのだが。
だが、心配なものは心配である。
「まあ、俺には言われたくないか。でもあの二人の方が口下手だと思うんだけどねー、あ、レイザに聞かれてないかな? 聞かれたら間違いなくボコられるじゃん、短気だもん!」
言いたいように言っているから仕返しをされるということには気づいていないのか、見ない振りをしているのか、兎に角当人に聞かれたらとても失礼なことを平気で並べながら見張りをしていた。
「あああ、人の心配してる場合じゃないよな! いつあいつらが来るか分からないのにハラハラしているなんて」
ディールはオロオロしながらも扉の前で警戒態勢をとっていた。
というのも、ゼーウェルが目を覚ます僅か数分前のことである。
『ディール、いいかい。奴らは必ずゼーウェルやレイザを狙ってくる……』
『何の目的か分からないの?』
『……さあね、兎に角、あの二人を早く逃がさないと。まあ、この箱庭を作り出したお偉いサンから比べたら私らのできることなんてたかが知れているけどねえ』
『大丈夫、やってみせるよ! それにレイザに示したいんだよね、俺だってやればできるってことを!』
『……ディール』
『何、まだ何かあるの?』
『……困った時は必ず、助けに来てくれると思うよ』
『……大丈夫だって』
そんな会話をして、今に至る。
「セティを助けて見せるんだ。俺たちの代わりになってしまったセティのためにも……」
ハーディストタワーの一歩手前、自分に毒を吐いたセティが身代わりとなってしまったことをディールは悔いていた。
「もっとセティのこと、わかっていればよかったんだ。なのに、結局――もうあんな想い、するの嫌なんだ」
だから、負けない。
扉から一歩も動かずに待機していると、バタバタと足音を立ててアイーダがやってきた。
「ディール!」
「あ、アイーダ、どうしたんだ!」
彼女の様子から、ディールは最悪な予感に胸をざわめかせた。
「ルディアスとルキリスがやって来たの! 姉さんとフィーノで止めてるけど……っ……来たわね!」
アイーダが前方を向くと黒装束を纏う者が何人かやって来るのが見えた。
「ディール、ゼーウェル達に知らせて!」
アイーダは走りながらディールに向かって叫び、集団に呑まれていく。
「アイーダ!」
ディールは叫ぶが彼女は振り返ることなく応戦している。
必死に止めているが、ここを突破されるのは目に見えている。
「アイーダ……」
不安から、ディールは思わず彼女の名前をそっと呟いたが、すぐに彼は己を叱咤する。
「追い付かれないようにしないと!」」
不安に苛まされてどうするのか。
自分の役目は――奴等を近付けさせないようにしなければならないことだ。
「逃げて……逃げて、レイザ!」
扉の前にたどり着いたその時、彼は敵に追い付かれた。
多勢に無勢。その上、相手は武器を持っている。
それでも、それでもだ。
「レイザ、逃げて!」
****
バタン!
扉一枚隔てた大きな音で振り返る。
「やっぱり来たのか……」
応戦しようと身構えていたところ、ゼーウェルも只ならぬ騒ぎに警戒する。
「レイザさん……敵ですか?」
「ああ、来たんだよ。奴等が、お前を狙って」
「私を……」
「そうだ、だから戦う」
ゼーウェルは一瞬だけ顔をしかめながらも一息吐いて落ち着かせていた。
(……どうしても、どうしても)
彼を巻き込みたくなかった。
(ここに来た人の目的が分からない。レイザさんの言う通りなら……戦うよりこの方がずっといい)
ディールもアイーダもルイズも傷つくだけだ。
人が傷つく姿を見るのは彼にとって耐えがたい苦痛である――理由はわからないけれど。
「レイザさん、退いてください」
「は……」
「私が話をつけてきます」
「な、お前、何考えてるんだ!」
焦るような声だが、それでもゼーウェルは彼の前に出るのをやめなかった。
「無茶するな!」
「でも、彼らの狙いは私でしょう! 私が行けば……」
「……! アホか! そんなこと絶対させないからな!」
「何故! 私一人が行けば丸く収まるんですよ!」
「……くそっ、何で……何でお前はいつもそうなんだ!」
頑なに敵の元に行こうとするゼーウェルに痺れを切らし、レイザは怒鳴って強引に引き止めた。
「私はあなたが分かりません……」
(何でそこまでして……私は)
金属音のぶつかる音がする。
アイーダやルイズでは止められなかったことが予想出来る。
それでも、レイザは自分を行かせてくれなかった。
「絶対行かせないからな! そんなことしたら、またあんな思いするんだ……俺のためにも……絶対行かせない!」
強気に言っているように見えるが、弱々しくなって、今にも泣きそうにさえ見える。
「……レイザさん……」
「……逃げて……二人とも、逃げて!」
「……ディール!」
ドア越しからディールが必死に叫び、ドンドンと激しい音がする。
「レイザ、早く逃げて……!」
必死に叫んだ後、ディールが咳き込む音を聞いたゼーウェルは思わずドアから目を逸らした。
「レイザさん……」
「行くぞ!」
「えっ?」
敵の元へ行こうとするゼーウェルを無理矢理引っ張り、レイザは窓を開けた。
「よし、飛び降りても大丈夫な高さだ。急ぐぞ!」
「レイザさん、待っ……」
「それっ!」
「えっ!? うわああああああああ!」
驚き、悲鳴を上げるゼーウェルを無視して彼は本当に飛び降りた。
「何であなたはそんなに冷静なのですか!」
彼の突っ込みも空しく、レイザに掴まっているしかなかったのである。
****
ドサッ。
雪の上に重たいものが沈むような音を響かせて着地した。
ここが岩のような硬さだったらと最悪の想像を働かせてしまうが、当の本人は終わり良ければ全て良しのようで。
「上手く着地できたな、我ながらなかなかやるじゃないか」
鼻歌を歌いながら自画自賛するレイザだが、巻き込まれた側からすればたまったものではない。
「顔と発言と行動力が合いません……合わなすぎる」
「何か言ったか?」
「あっ……いえ、何も」
レイザと目が合い、ゼーウェルは慌てて笑顔を作り、返答するが彼は怪訝そうな表情のままだった。
「分かりやすいな……」
「そ、そうですか?」
呆れるように呟くレイザにゼーウェルは苦笑を交えながら返すしかなかったのだ。
項垂れるゼーウェルにレイザは少しだけ寂しそうに笑うだけである。
(でも、この方がいい)
表情をころころと変え、飽きさせない。
昔は、大丈夫だろうかと思うぐらいには表情がなかった気がする。
何もないから、だったのか。
「レイザさん、本当に……」
「ん? どうした?」
考えているとゼーウェルが躊躇いがちに声を掛けた。やはり、ディール達に申し訳ないと思っているのだろう。
「本当に良かったのでしょうか?」
彼等は間違いなく捕まってしまった。
その後、いったいどうなるのかと、考えただけで申し訳なく思う。
「……助けにいくぞ」
「……!」
彼の声にレイザは強い意思を見せる。
「ゼーウェル、この山を突っ切ればハーディストタワーという巨大な塔がある。そこが奴等の本拠地だ」
「……攻めるのですね」
「そうだ。どのみちハーディストタワーに行かないといけなかった。だから奴等は攻撃したんだ。それに、奴等はまだディール達を始末するつもりはないだろうな」
そこまで言い切るレイザにゼーウェルは安心感よりも恐怖心を覚えた。
「……あなたは、何者ですか?」
恐る恐る、彼に問いかける。
するとレイザはゼーウェルを見て「何となくな」と言って微笑むだけだった。
レイザ自身も分からないのだ。
ここまでサッグのことを知っている理由が。
虫食いのように所々欠けている記憶に、二人は愚かなまでに翻弄されていた。
****
壊された家具や物。
刺さった、破壊した、ぶつかった。
戦闘の名残がまだはっきりと残るこの部屋で、三人。
そこに、凍てついた冷気が吹き込み、頬を撫でる。
「リーフグリーンの残党がいたのは驚きですねえ」
「ハワード!」
「おやおや、リーフグリーンの番人もいらっしゃいましたか」
漆黒の中から嗄れた声を発し、鋭い爪をちらつかせながらフィーノを見る。
「ただ一人、生き残ったフィリカの天使。私は貴女が憎いですよ、フィーノ」
「私だって、簡単に闇の手に落ちた貴方が憎い」
フィーノも負けじと言い返す。その様子はレイザをからかっていた時の彼女とはとても思えなかった。
「まあ、今はその姿でいるべきでしょう、リーフグリーンの番人。大体貴女にも私にも罪はない。あるなら召喚魔術を発掘したエルヴィスでしょう……おっと、これは失礼」
ハワードはディールに向かってニタリと笑い、身を翻した。
「ルディアス様、早速移動しましょう」
「ああ、そうだな」
後ろからやって来たのは真紅の髪の青年。
「ルディアスさん!」
ディールは呼び掛けた、必死で。
「ルディアスさん、ルキリスさん、もういいだろ」
懇願するように、すがるように。
しかし、ルディアスは悲しそうに笑うだけだった。
「ディール・クラヴィア……君とは分かり合えない。君が、エルヴィス・クラヴィアの息子である以上」
「……でも、でも」
「それに、俺達でも、もう止められないから」
どこか悲しそうに、諦めたように、それでも与えられた道を行くように、ルディアスは決然と答えた。
「ヴァンですら、もう止められない」
「ルディアス、そろそろ行くわよ」
ルキリスはハワードとルディアスに先を促し、外へ出させる。
「あなた達も来るのよ。私達に刃向かえば裁きを受ける。ディール、分かるでしょう?」
ルキリスはルディアスとは違い、全く迷いがない。
そして、言葉の節々から憎悪を漂わせていた。
「……ルキリスさん」
「気安く呼ばないで……!」
ディールの瞳からルキリスは目を逸らし、怒鳴り付けた。
「準備ができたようですよ?」
そこへハワードがまたやって来た。
「フィーノは任せたわ。暴れるようなら切り刻んでしまいなさい。ルイズとアイーダはルディアスに、ディールは私が連れていくわ」
「畏まりました、ルキリス様。さて、行きましょうか、フィリカの天使」
ハワードはフィーノを手で掴んだ。彼女にとってこの身体がどれほど忌まわしいか分からない。
屈辱に顔を歪めながらも黙って耐えている様子はとても痛々しい。
「ルイズ殿、アイーダ殿」
「誰かと思ったら竜騎士かい……やれやれ」
「余裕綽々、ですね」
「そうでもしなきゃやってらんないよ」
「姉さん……私、姉さんが羨ましいわ」
相変わらずのルイズにアイーダは呆れ、ふと彼女の目を見る。
唇を一文に引き締め、双眼ははっきりと怒りを露にしていた。
「……ディール、来なさい」
淡々とした様子でルキリスはディールは引っ張るようにして無理矢理歩かせた。
縄は頑丈。身体を締め上げ、僅かな痛みに声にならない声を上げる。
壊された小屋はそのまま、三人は成す術無く捕らえられたのだった。