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自想砲部隊  作者: フィッシャー
カイエン
5/6

それぞれの想い

焼け焦げたマフラーをなびかせながら息吹は芝生の上に膝をつく。

対して見鶴来は装展せずに両手剣を片手で振り回していた。

「着かず離れず逃げ回るのもそろそろ限界なんじゃないか。俺には無差別に人を殺す趣味はない。だが今回は手段を選ぶつもりはない。あいつの居場所を突き止めるためならなんだってやってやる」

「閃!」

息吹は見鶴来の頭上へと瞬間移動する。

「旋風!」

周囲に発生した竜巻の中で無数の真空波が見鶴来に襲いかかる。

見鶴来はこれを頭上へと跳躍して回避、そのまま息吹の腹に強烈な蹴りを叩きこんだ。

息吹の内部にさらに血が溜まる。

しかし息吹は空中で加速し見鶴来よりも早く着地した。

「旋風!」

滞空している見鶴来を疾風怒濤が飲みこむ。

直後、息吹の膝から力が抜ける。

背後に回った見鶴来が息吹の膝裏を崩したのだ。

【別に空中で動けるのはお前さんの専売特許じゃないわな】

そして息吹のふくらはぎに剣を突きたてる。

「ぐぅっ」

【装甲貫通。即時撤退を】

「そこそこの動きだ。今日が新月だったらいい線いってたな。だがこれ以上ちょこまかされても困る。もう諦めろ」

「いいや、まだだ」

「お前にはあいつの居場所を教えてもらわないといけないからな。どこかでゆっくり話をしようか」

「お前に教えることなどなにもない」

「心配すんな。俺は気が長いんだ。どれほどのあいだ、あいつを探し回ったことか」

見鶴来は腕のブレスレットを見つめる。

「ようやく掴んだ手がかりだ。無くさないように用心しないとな」

ふくらはぎから剣を引き抜き、もう一方の足の甲を狙う。

「隊長ッ!」

火炎を伴って飛来したバークが剣を刃ごと片手で掴んだ。

火花と火の粉と血飛沫が舞い散る。

「ディーディー、今だッ」

息吹が膝をついている地面が割れ、ディーディーが息吹を救出する。

「逃がすかっ」

見鶴来はディーディーを狙って剣を突き刺す。

しかしその切っ先は寸でのところで届かない。

ディーディーはそのまま地中へと潜っていった。

バークが両手で刃を握りしめ止めたのだ。

血がバークの掌から滴り落ちる。

(こいつッ、どんだけ握力ありやがる)

8課でもっとも膂力のあるバークの全力をもってしても剣は微動だにしなかった。

「じゃあ次はお前だ」

バークごと剣を持ち上げると地面めがけて一気に振り下ろす。

(馬鹿なッ)

驚愕の事態の連続にバークは判断が一瞬遅れる。

バークが叩きつけられる寸前、地中から飛び出したディーディーがバークを受け止めた。

そのまま見鶴来から距離をとる。

「さっきのやつか。傷ついた仲間はどうした?地面の下に置いてきたのか?」

見鶴来は言いながら目を細める。

バークとディーディーの背後には息吹に肩を貸す生身の晄の姿があった。


「『作戦を伝える。エージー、マーク、晄の3名で勇大を救出に向かえ。隊長はエージーだ。暁美と兎田は堕悪獣及びアルマの捜索に当たれ』」

「泉課長、そいつァ」

「『ことは一刻を争う。質問はなしだ』」

「了解しました!」

「本殿の守りは任せてください。わたしこれでも結構強いんですよ」

皆葉が腕のサイズにあわないゆるゆるのブレスレットを誇らしげに掲げた。

晄は力強くうなずくと社の外へと向かった。

「了解、です」

「……了解ッ」


「どうして、お前がここに?」

「話は後だよ、父さん。今は逃げるんだ」

「そうか。そういうことか」

勇大は息吹を解除した。

全身が血に染まっている。

「父さん?」

「あまり時間がない。手短に言うぞ。自想式強化服の装展は1人1着が原則だ」

8課の残りのメンバーで新たに装展できるのは泉と晄だけ。双子のアネットとアブツは1魂2体の特殊体質のために装展は不可能であった。

「本殿の守りは固い。東京地下街を移動すれば俺でさえ特定はできない。それでも泉課長はお前を寄こした」

「父さん、何を言って?」

「後はこいつがお前を導いてくれる」

勇大は晄の腕に無理やりブレスレットをはめた。

「息吹っ」

【名称、認証ネームチェック

「【装展】」

勇大の意外な行動に晄は言葉が出ない。

光とともに自想式強化服、息吹が現れる。

「お前は弱いし強い。だが、これからは息吹と二人で一人だ。父さんの戦歌を覚えているか。いっしょに詠んでくれ」

血だらけの勇大の手を息吹は握りしめる。

『『風は去り みなもに揺れる 善と悪

   わがことのはを たよりと思え』』

戦歌認証コードチェック 戦闘態勢移行バトルレディ

真っ赤なマフラーがはためいた。


「よしッ、晄が装展したな」

「予定通り息吹の回収は済んだ。バーク。息吹。急いで撤退を!」

「ディーディー。馬鹿なことをいうもんじャねェぜ」

バークはファイティングポーズをとる。

『回収済み? そんなこたァ 関係ねェ

  迷わず進むぜ (おとこ)の花道』

「バーク。だめだ。命令違反だ」

「命令違反?俺たちが言われた任務は息吹の回収じゃなくて隊長の救出だ。それに」

バークの横に息吹が並び立つ。

「これで2対1だ」

「兄さんには呆れ尽くしたよ」

「なんだ?まだだッたのか?」

『前むいて 君の背中の 後を追う

  孤独をせおう ことを爪弾き』

息吹の横にディーディーが並び立つ。

「これで3対1。見鶴来ィ。晄と隊長の借り、3倍にして返すぜッ!」

見鶴来は頭をかいた。

「面倒になってきやがった」


アルマは気を失った黒白を肩に担いで移動していた。

イー14を監視する別働隊と合流する途上である。

緊急連絡の通信を送っているにもかかわらず別働隊からの応答がないため直接合流しなければならなかった。

高層ビルの屋上に跳びうつったアルマが見たのは凄惨な光景であった。

一面の血の海。

監視用のレーダーもろともばらばらに引き裂かれた隊員。

(イー14の仕業か?しかし監視隊はイー14から十分な距離を保てたはず)

なにがあったにせよアルマはイー14を見失ったのだ。

「本部へ連絡しろ。面倒事が増えた」


「晄。ぶッつけ本番、最大のピンチだ。ビビッてションベンちびれよッ」

ディーディーとバークが見鶴来へと突っ込む。

【自己紹介は後回し。二人の後に続いて隙を窺ってください。敵への牽制にもなります。よろしく。8代目】

一呼吸置いて息吹も加速する。

ディーディーが連撃を繰り出す。

ショートフック、左ジャブ。

スウェーで回避する見鶴来は突如せり上がった土壁に背中をぶつけた。

渾身の右ストレート。

ディーディーの右腕は空を切り土壁を粉砕する。

その破片の死角を利用してバークが背後から迫る。

見鶴来はディディーの腹に強烈な膝を入れながら回転、ディーディーを巻き込んだままバークを蹴り飛ばした。

吹き飛ぶ2着を息吹が空中で両手を広げてキャッチ。

【旋風!】

2着は風となって見鶴来を攻め立てる。

さらに息吹も旋風の中をくぐりたたみかける。

正面からの3着同時攻撃。

これを見鶴来は片手で構えた剣で正面から受け止めた。

「ちくしョうがッ。これでも足りねえかッ」

「お前みたいに気が短いやつは早死にするもんだ」

大きく振りかぶった必殺の一撃がバークに迫る。

「だったら、僕が兄さんを守る!」

ディーディーが己の身を盾として立ちふさがった。

刃が深く装甲に食い込み鮮血が噴き出す。

息吹はディーディーの脇をすり抜け正拳を放つ。

見鶴来はそれを蹴りでいなすと3着から距離をとる。

「1着ずつだと時間がかかるな」

剣が炎を纏う。

「炎環」

剣より放たれた炎球が3着を飲み込む。

炎が収まると3着は炎の輪に拘束されていた。

動きを封じられた3着を尻目に見鶴来は勇大を肩に担ぐ。

「俺を捕まえても何の意味もないぞ」

「言っただろ。俺は気が長いんだ」

「父さんを離せっ」

息吹が拘束を引きちぎろうと力を込める。

「お前ら程度じゃ千切れねえよ」

「だったら」

晄は息吹を解除する。

炎環が絞られる前にその場を逃れた。

そのまま生身で見鶴来に殴りかかる。

見鶴来は晄の拳を剣で受け止めた。

「父さんは僕が守る」

見鶴来は晄を冷ややかな目で見つめた。

携帯のバイブレーションが鳴る。

「呼び出しか。じゃあな」

「息吹!……息吹っ!」

【現状で目標達成は不可能。帰還してください】

「そんな。待てっ。父さんを返せ!」

月を背にして夜空に消えていく見鶴来に晄は何度も吠えた。


晄は失意の中でうなだれていた。

「マークッ。しッかりしろ。マークッ」

背後ではエージーがマークの名前を繰り返し呼んでいた。

「大丈夫。僕の傷はすぐ治るよ。それよりも晄の傷を」

「……あァ。分かった」

エージーはマークを地面に寝かせるとに歩み寄った。

「隊長は連れて行かれちまッた。だがまだ殺されたわけじャねえ。こッちには姫さんもいる。隊長は必ず取り返す」

「エージーさんたちは泉課長が僕をだましたことを分かってたんですよね」

「そうだ。泉課長の判断は正しいと思ッた。実際あと少し遅かッたら隊長は息吹ごと連れ去られていた」

「そんな綺麗事は聞きたくない!どっちにしても父さんは連れ去られたんだ。父さんを助けるつもりなんてはなからなかったんだ!」こんなもののために、と晄はブレスレットを地面に投げつけた。

「馬鹿野郎ッ!綺麗事なんかじャねェ!それに隊長は連れ去られてなんかいねェ!」

バークの一喝に晄は言葉を詰まらせた。

バークは晄を立ちあがらせ額同士を突き合わせた。

「よく聞けッ。自想式強化服は超肉弾戦の理論をもとにして開発されたものだ」

前世紀。

超戦略兵器の製造にかかるコストと超肉弾戦を実践する兵士を一人訓練するのにかかるコストは同程度であった。

卓越した身体能力の獲得は容易であったが敵を分析するのに必要な戦闘経験を積むことは至難だったからである。

どんな屈強な兵士も超戦略兵器の前に生き残ることは不可能であった。

「人のちッぽけな脳みそなんかじャ想像できねェ数の死体の上に自想式強化服は立ッてるんだ。もとから血まみれで汚れちまッてるんだよ」

人の死とともに失われいく戦闘経験。

これを引き継ぎ蓄積するための方策が模索された。

それが自想式強化服に戦闘用模擬人格が搭載された理由である。

「それに息吹は隊長そのものだ。隊長は連れ去られてなんかいねェ」

そして戦闘用模擬人格は人の想いを受け継ぐ。

それが自想式強化服に搭載された戦闘用模擬人格の本質である。

「どうだ。まだなにか下らねェことを言いてェか」

「それでも、父さんと息吹は違う」

「てめェ」

「兄さん。もうそのぐらいで」

マークが脇腹を押えながら2人に近寄る。

「晄の言うとおり。隊長と息吹は違う。僕ら装着者は使い捨ての消耗品。でも隊長と息吹の想いは同じだ」

「そんなことわからないよ」

マークは力なく笑う。

「きっと君にもわかる時が来る。そのときが来るまで隊長が君に託したこいつを身に着けていてもいいんじゃないかな」

拾い上げたブレスレットを差し出す。

血で薄汚れたブレスレットに輝きはなかった。

晄は勇大の血が付いたブレスレットを見つめ、迷いながら手に取った。

「お前ェはどうして俺の言うことは聞かないでマークの言うことは聞くんだ?あァ?」

「それは兄さんの柄が悪いからだよ」

「てめッ」

「だから兄さんの代わりに僕が兄さんを守る。それが僕の想いだ」

「マークさん。ありがとうございます。あとでお話を聞かせてください」

「そうだッ、あとだあと。エージー隊は任務中目標人物を見失ッた。一旦拠点に戻り指揮を仰ぐ必要がある」

そのときパトカーのサイレンが聞こえてきた。

「付近で新たな連続殺人事件が起こりました。犯人が近くに潜伏している可能性があります。近隣住民の皆さんは外出を避け身の安全を確保してください。繰り返します。」

エージー、マーク、晄の3人は互いに顔を見合わせた。

「聞いたな。帰還の必要はなくなッた。エージー隊はこれより暁美隊の堕悪獣の捜索任務に協力する」

「そういえば堕悪獣ってどういう意味ですか」

「命名したのは兄さんだよ。堕悪獣(ダークじゅう)だってさ」

「ああ。なるほど」

「隊長の命令が聞こえたかッ、馬鹿野郎どもッ」

エージーは2人のこめかみをまとめてげんこつでぐりぐりした。


街中に響くパトカーのサイレンの音をアルマと見鶴来は件のビルの上から聞いていた。

二人の周りでは本部から派遣された後方部隊が監視隊の遺体と痕跡を消去している。

「イー14を研究所へと連れ帰る。この女を素材として使えば長年の課題だった知性の獲得について多大な成果が生まれるだろう」

「そうか。勝手にやってくれ。俺は別の用がある」

「アンタにはイー14の捕獲を手伝ってもらいたい。イー14は研究所にいたころのスペックをはるかに上回る結果を残している。手持ちの戦力だけでは不安だ。これを手伝ってくれれば僕はアンタのすることに口を挟まない」

「アルマ、どうして俺がお前の言うことを聞かなきゃならないんだ?」

「うちの組織もその隊長さんには拷問して聞きたいことが山ほどあるんだ。四六時中、組織の刺客からそいつを守りながら尋問するのは些か面倒じゃないかな」

「そうかい。もしそんなことになったらその女が研究所に着くことは永遠になくなるな」

2人の間の空気が張り詰める。

「ちっ、しょうがねえな。これが最後だぞ」

「ありがとう。頼りにしてるよ、見鶴来さん」

血の匂いを嗅ぎつけたカラスがビルから飛び立った。

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