表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pastel Quest  作者: 月影 零
全ての始まり
7/7

7.雑踏の中で

レイの手を取り、ノゾムに連れられて。

シキは初めて里ではない街の中にいた。

里とは違う、人の多さ、物の多さ。そして色んな種族。

フードのついた服で目立つ姿形を隠しても、見られているような気持ちにシキは駆られた。

レイはどこ吹く風で、シキの手を引きながら歩いていく。


「お、レイちゃん。帰ってきたかい。」


「うん、ただいま。」


「また寄ってね。」


「ご飯たべたらねー。」


行く先々でレイが声をかけられていることにシキは戸惑う。


「意外だろ。」


戸惑っていたら、ノゾムがそう言った。


「最初はそうじゃなかったんだけどな。レイのなせる技なのか、周りの意識が変わったのか、俺には分からんが。」


「不思議ですね。」


異種族は受け入れられないはずなのに。

ハーフや混血児は、嫌われるはずなのに。

嫌われもせず、むしろ受け入れられている、その現実を、シキはそこで見た。


「オレも…ああなれるんですかね。」


「本人の努力次第だろ。」


確かにその通りなのだが。

それだけではないことを、シキは感じ取っていた。


「ねぇ、ノゾム。レイの出生の話を、この前してくれたよね。」


「おぉ?あぁ、レイが作られたって話か?」


「そう、それ。たぶんだけど、その過程の中で、レイには魔法がかけられた。…と思う。」


「おう、知ってた。」


ノゾムのさらっとした言い方に、シキもさらっと話を続けた。


「その結果もあるんだよ。レイがみんなに受け入れられるのは。だって『魅力チャーム』の魔法なんだもの。」


「そうなのか?なんだそりゃ?」


ノゾムの反応はごく一般的だ。

普通の市民なら、魔法に触れる機会はごく僅か。

その魔法も『明かり《ライト》』や、『火炎ファイア』程度。

魅力チャーム』や『治癒リカバリ』のような精神に反映される魔法は、聞いたこともないだろう。


「聞いた通りの効果だよ。周りの人…種族関係なく色んな人に、魅力を振りまく。レイが作られた過程を考えたら、他にも色々されてる可能性はあるよね。」


「まぁ…そうだわな。」


当の本人であるレイは何を話しているのか分からず、ぽけっとしている。


「そしてそれを消すことも出来ない…。レイは本当に謎の子、なんだね。」


シキの言葉に、ノゾムは笑った。


「その通りさ、出生さえ謎だ。どこで生まれて、どこで育って、どうしてここに来たか…、レイも知らない。」


ノゾムの言葉に、今度はレイが笑う。


「レイの記憶はね、ママが話してくれたこと以外…ノゾムに拾ってもらったところからしか記憶はないよ。でもいいんだ。」


シキとつないでいる手と反対の手で、今度はノゾムと手をつなぐ。


「ノゾムは色んなことを教えてくれたよ、だから今のレイがいるんだ。レイはそれでいいって教えてくれるから。」


「シキ。」


レイには聞こえないように、ノゾムがそっと耳打ちする。


「レイの過去が知りたきゃ、レイが聞いてない時に教えてやる。ただし…覚悟だけはしとけ。」


ノゾムの言葉に、シキはうなずく。

覚悟しとけということは…レイの過去にも何かがあるのだろう。

その耳打ちは一瞬で、レイは気づいていないようだった。


「おっし、着いたぞ、ここだ。」


ナイフとフォークの看板のついた家のドアを開ける。

中は閑散としているわけでもなく、かといって混み合ってるわけでもなく、それなりの混みようだった。


「あら、いらっしゃい。帰ってたの。」


「おう、いつものな。」


すっかり顔なじみなのか、席についたノゾムがそう声をかけた。


「お兄さんもそれでいい?」


「あ、はい。」


尋ねられて、シキもそう答える。


「ごっはん、ごっはん。」


漂ってくる匂いをくんくん嗅ぎながら、レイはご機嫌だ。


「さて、買い出しだけど…、シキはなんかいるものはあるのか?」


「んー…。」


シキはしばらく考え込む。


「例の場所に行くのなら、傷薬とかが欲しい。あと、この街にも魔法ショップはあると思うから、そこかな。」


レイの魔力を強化したり、発動させるための魔道具もいる。


「レイが場所を知ってると思うから、一緒に行ったらいい。俺は飯食ったら、王宮行かないかんし。」


げんなりした顔で、ノゾムはさらに付け加える。


「言われることと、せないかんことが分かってると…なぁ。」


「あらノゾムさん。呼び出し?」


両手にお皿を持って、ウエイトレスさんが登場する。


「はい、お待ちかねの御飯だよー。」


お皿を受け取りつつ、ノゾムがウエイトレスに尋ねる。


「最近、何か聞いたか?」


「んー、そんなには…。あ、旅をしてきた人たちが、やたらモンスターの出現率が増えたって言ってたかな。」


料理を渡し終えても、ウエイトレスは話に付き合う。


「この前の人はハーピーの群れに、その前の人はゴブリンの群れに、さらにその前の人はグリフォンに出会ったって。みんな同じ方向から来た人だったよ。」


「まさか…、あれか。滅びの森、か。」


「さすがノゾムさん、詳しいわね。」


そこでウエイトレスは他のテーブルに呼ばれて、去っていった。

後にはもぐもぐとご飯を食べるレイと、ボー然としたノゾムとシキ。


「やっぱりあれ、ですか。これ。」


「だろうな。」


滅びの森で、何かが起きている。

ノゾムの呼び出しも、そういうことだ。


「今までそんなことなかったんだがな…。何が起きているんだか。」


レイに食べられないうちに、とシキもノゾムも料理に手を伸ばす。


「よし、考えてても仕方がねえ。王宮行ってくるわ。」


行きたくはないけど、と付け加えるのを忘れないノゾム。


「これ渡しとくから、いるもの仕入れてきてくれ。それとここの支払いとな。」


じゃらじゃらと音がする袋を机に置いて、ノゾムは立ち上がる。


「レイ、シキの言うこと、聞くんだぞ。」


レイの頭をなでて、ノゾムは店を出ていく。


「いってらっしゃい。お土産待ってるね。」


残っている料理を片付けながら、レイがノゾムに手を振る。

その姿を見送りながら、シキはちょっとした不安を感じていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ