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Pastel Quest  作者: 月影 零
全ての始まり
6/7

6.出生

ヨマルシティはこの大陸で、1、2を争うくらいの大きさの街である。

大きい街になれば、それなりに人も集まる。そして物流が盛んになり、さらに街が栄えていく。

そもそもヨマルシティは城下街である。栄えないはずがなかった。

そんな街の中に、ノゾム達の住む家はあった。

古びていると言え、それなりに大きな一軒家。そのドアを開けると、大きな犬がレイめがけて飛びついた。


「ただいま、キリ。いい子にしてた?」


小柄なレイは押し倒されそうな勢いだが、レイもノゾムもさして気にはしてないらしい。

キリと呼んだその犬の、ふかふかした毛に顔をうずめてレイはごきげんである。


「さて、シキの部屋をどうするかな…。空き部屋はあるっちゃーあるんだが。」


「どこでもいいけど。」


「掃除してねぇんだよ。自分で掃除してくれるんなら、どこでもいいぜ。」


と言った具合に、話はまとまり。


「シキの部屋は、レイと一緒。」


ということで。

レイに連れられて、シキはレイの部屋のドアを開けた。


「…広っ。」


無駄に広い部屋の片隅に、ベッドが一つ。

きれいなところを見ると、あまり使われていないらしい。

そしてその部屋は、ベッド以外にはさしたるものもなく、殺風景そのものだった。


「レイはいつもどこで寝てるの?」


「ん?ノゾムの横で、キリも一緒だよ。今日からはぁ、シキと寝るっ。」


ハートが飛びそうなその発言に、シキは思わず頭を抱えた。


「ノゾムに頼んで、ベッド広くしてもらおーっと。」


キリを連れて、レイはノゾムの元へと走っていく。

里から持ってきたそうは多くない荷物を下ろし、シキはそれからフードのついた服と、一つの物を取り出した。

そしてそれらを手に、シキもノゾムのいるところへ戻っていく。

ノゾムはレイにまとわりつかれて、約束をさせられているところだった。


「ノゾム。」


ここにヤツキやバンリはいない。

いるのは自分と、これから自分を知ることになるであろうレイと、その親であるノゾムだけだ。


「これがなんだか…宮仕えのノゾムなら分かるよね。」


シキは手にしていた短剣をノゾムに差し出す。

飾りが多く、実用には決して向かないであろうその剣には、一つの紋章が刻まれていた。


「おまっ…それっ…。」


ノゾムが固まるのも無理はないだろう。


「オレの父親の手掛かりは、それだけ。」


母親にも、そう聞いた。


「ノゾムなら…、王宮で『騎士』務めしてるノゾムなら分かると思って、今持ってきた。」


まとわりついていたレイを離し、座らせると、ノゾムはシキの手から短剣をそっと取り上げた。


「抜いていいか?」


「どうぞ。」


カシャンと微かな音を立てて、剣が抜かれる。

鈍く光る刀身は銀製で、それがかなりの価値があることを物語っていた。

鞘についている飾りや装飾も、かなり値の張るものである。


「…率直に言おうか。お前の父親は、かなり王族に近いやつだな。」


刀身を丁寧に鞘に戻して、ノゾムはシキに短剣を返した。

そして自分を挟んで二人を座らせると、唐突に話し出した。


「王宮の中で、そんな話があるのは知ってた。人の口に戸は立てかけられないからな。噂が噂を呼んで、一時期は手が付けられない状況になってた。世継ぎの話や、現王の話にまで話が及んだ時に、初めて城内だけにお触れが出た。王がその話を全否定する、おかしなお触れだった。俺が覚えているくらいだから、バンリやアカネはもっと詳しく覚えているかもな。」


ノゾムはそこで話を切ると、シキの膝をぽんと叩いた。


「聞く覚悟はできたか、シキ。」


「…教えて、ください。」


「お前の父親はな、次期王の王子だよ。誰も認めないだろうが、その剣は次期王にしか渡されない。無くしたとかで大騒ぎしてたが、まさかこんなところにあったとはな。」


ノゾムはうっすらと笑うと、シキに尋ねた。


「どうする?それを持って、王宮に乗り込むか?大変な騒ぎになるだろうけどな。」


「いや、いいや。」


今更出てったところで、どうなる訳でもないだろう。

むしろ騒ぎになるのなら、聞かなかったことにした方がいいのかもしれない。


「向こうが何かしてくる気がないのなら、それでいい。」


「それはないだろうな。王宮としてはスキャンダルだろうし。次期王が異種族と交わって、しかも子供までなしてました、なんてな。」


「だったら、出ていく必要もないじゃん。オレ自身も騒ぎは好きじゃないし、いまさら何って感じ。ただ…。」


「ただ?」


「ただ、親は知りたかった。どんな人で、どうしてこうなったのか…。」


ノゾムはちょっと考え込んでから、ふと呟いた。


「どうしてかは知らんが、次期王はいい奴だぞ。種族なんか気にしないような。だから、かもな。」


「なら…いいや。」


自分の親であろう人が、いい人なら。


「さて、街へ買い物へ行くかな。レイ、レーイ、起きろ。」


シキと話をしている間に、レイは寝てしまったらしい。


「んにゃ…、お話、終わったぁ?」


「終わった、終わった。シキと寝るベッドを買いに行くんだろう?」


その言葉にレイはパッと跳ね起きた。


「いく、いく!」


ノゾムとシキは顔を見合わせて、苦笑いをする。


「そういやシキは初めてか。迷子になるなよ。」


「努力します。」


言われる前に、レイの手をそっと握りしめる。


「ついでにメシ食うか、よし、行くぞー。」



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