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Pastel Quest  作者: 月影 零
全ての始まり
5/7

5.街へ

平坦な道がひたすら続く。

アカネやミユキと別れた後、一行は街へ向かう道を急いでいた。

もちろんレイはしっかりと捕まえている。ここ数日でシキが学んだことの一つだ。

凶暴化したモンスターに襲われることもなく、4人は街まであと少しの所までたどり着こうとしていた。

不意にレイが鼻をひくひくさせる。


「どうした?」


レイが何かの匂いを嗅ぎつけるのは、珍しいことではない。

シキを見つけた時がそうだったように。


「んー…。」


しばらくんくんと匂いを嗅ぎまわったレイは、ぽつりと言った。


「バンリねぇの、匂いがする。」


ヤツキやバンリがノゾムの知り合いであるということは、レイも二人を知っている。そういうことだ。

レイの言葉に慌てたのはヤツキだった。


「ま…マジで?」


ヤツキはバンリに黙ってここまで来ている。

それがばれたらどうなるか…、それはヤツキが一番よく分かっていることだった。


「ノゾム、聞き忘れてたけど、バンリさんとヤツキの関係ってなんなの?」


「ん?よく言えば恋人、悪く言えば幼馴染。ついでに言えば、間違いなくバンリのほうが強いな。」


レイはもう一度くんくんと嗅ぎまわり、街に向かう道の先を指した。


「こっち。たぶんそう遠くない。」


反対を向いて逃げ出そうとしたヤツキの首を、ノゾムが捕まえる。


「どこへ行く?感動のご対面、だろ。」


ほどなくして、道の先から走ってくる人影が見えだした。

まとわりつくであろう服の裾をたくし上げ、息を切らせている。

その人影はみるみる大きくなると一行に飛び込み、ヤツキの胸倉をつかみ上げた。


「ヤツキっ!あんたは一体…。」


「ひぃっ!ごめんなさい、ごめんなさい。」


とたんに小さくなるヤツキ。

あまりの剣幕に、あっけにとられたシキはぽかんとする。


「バンリねぇ、バンリねぇ。」


今にも絞め殺しそうな勢いのバンリの服の裾を、レイがちょいちょいと引っ張る。


「ん?レイちゃん?」


「バンリ、仕事は?」


たたみかけるようにノゾムが問いかける。


「仕事なら、ちゃんと休みをもらってきたよ。レイちゃんはちょっと待っててね。ここをこうして…。」


バンリはヤツキの首を締め上げながら、レイに笑いかける。


「迷惑かけなかった?こいつ。」


「うん、ノゾムが深夜の訪問は迷惑だーって言ってた。そのくらい。」


「ん、ありがとね。」


「バンリ、そろそろ離してやらないと、マジでヤツキの奴、危ないぞ。」


ノゾムの声に、バンリはやっとヤツキを離した。

けほけほ言いながらへたりこむヤツキ。

その頭に、さらにバンリの言葉が突き刺さる。

「ほんっと毎回毎回、懲りないよね。本気で、私が心配してるの知らない訳?」


「だからごめんって…。」


「ごめんで済んだら、楽でいいわよね。私の気持ちはどうなる訳?」


シキがちらっとノゾムを見ると、ノゾムは笑いながら頭を振った。

放っておけ、そういうことである。

レイも笑いながら、二人を見ていた。

そしてシキにちょっとだけ囁いた。


「大丈夫だよ、シキ。二人はね、いっつもこうなの。いっつもこうで、最後はヤツキがバンリねぇと仲直りするから、見てて。」


二人の掛け合いはまだ続いている。

それでもさっきほどの勢いはない。

バンリが伸ばした手を取ったヤツキが、バンリをそっと抱き締めた。


「だから、ごめんなさい。」


「もぉ…、ちゃんと言ってよ。今度言わなかったら、許さないんだから。」


「これで終わったかな。」


レイがそっとまたシキに囁いた。


「さて、お楽しみのとこ、申し訳ないんだが…。」


こほん、と咳払いをして、ノゾムが切り出す。


「俺らは早いとこ街に帰りたいんでね。道の真ん中でいちゃこらされてたら、周りの人にも迷惑だし、移動を始めてもかまいませんかね?」


「わっ、ごめんなさい。どうぞ、どうぞ。」


バンリはあわててヤツキから離れると、ぱたぱたと服を整えた。


「あ、シキです。」


バンリの視線が自分に向いたのを感じて、シキはあわてて頭を下げる。


「あ、バンリです。ヤツキがお世話になりました。」


「何やってんだ、二人とも…。」


その姿を見て、ノゾムがあきれている。


「バンリはな、王宮の神殿に仕える神職者さ。魔力はないらしいから、魔法は皆無だが。」


バンリにヤツキ、シキにレイ、そしてノゾム。

レイに出会った時には想像もつかなかった大人数である。


「神職者なんて言うほど、神には仕えてないけどね。どっちかって言うと、雑用係?」


それぞれの荷物を持ち、移動を開始しながら、バンリは首をかしげる。


「それに私の階級よりも、ノゾムさんのほうが上じゃない、『騎士』なんだし。」


「いや、それは言わないでくれ…。」


バンリの言葉に、ノゾムは頭を抱える。


「俺に宮仕えは無理なんだよ。だからこうやって遠征を買って出てるってぇのに…。」


「ノゾムが王宮の『騎士』だったとはね。意外なことを聞いた。」


「そうだよー。だからたまに呼ばれて、正装して王宮へ…、なんてこともあるよね。」


気が重そうなノゾムを見て、バンリは笑いつつ、こう付け加えた。


「ついでに伝言。王宮が『騎士』をお呼びのようよ。」


さらに頭を抱えるノゾム。


「街に帰りたくなくなってきた…。」


げんなりするノゾムにレイが飛びつく。


「ね、ね、ノゾム。お城に行くなら、いつものあれをもらってきてね。」


「あれって?」


ノゾムからレイを引きはがし、抱き上げながら、シキが問いかける。


「甘くて、白くて、ふわふわなの。」


抗いもせず抱きあげられたレイは、シキを見上げて話を続ける。


「街には売ってないから、ノゾムがお城に行った時だけもらってきてくれるんだよー。その間、レイはお留守番、なんだけど。」


「なぁバンリ、呼び出しの用事はなんだと思う?」


げんなりしたまま、ノゾムはバンリに問いかける。

それでも足が止まることはなかった。


「モンスターの討伐、じゃないかな。滅びの森の近くの村が最近襲われて、うちの神殿からも何人か派遣されたから…。」


「そういや、アカネも討伐に行ったとか言ってたな。最近やっぱり多いな。」


「そうだね、多いかも。アカネさん元気?」


「おう、元気だったぞ。」


バンリとノゾムは、そこからアカネの話や王宮の話になる。

ヤツキはそんなバンリを見つつ、何も言わずについてくる。

レイはシキに抱きあげられたまま、シキの髪を一生懸命三つ編みにしていた。

それをたしなめる訳でもなく、時々引っ張られてちょっと顔をゆがめながらも、シキはレイにされるがままである。

そうしておけばレイが大人しい事を、シキはよく知っているからだ。


狭かった道が、少しずつ広くなっていく。

それに伴って、人通りも少しずつ多くなっていった。

人通りといっても、その種類は様々だ。

人間、エルフ、獣人…、明らかにモンスターと分かる種族の者。

人間が半数、残り半数がその他の種族といった感じだろうか。

レイもシキもその外見を隠すことはしなかったせいか、道行く人々は二人を振り返っていく。


「慣れろよ、シキ。」


少し遠くから聞こえてきた、ノゾムの声。


「レイは慣れっこだから平気でいるだろ?シキも慣れろ、この先街で暮らしていくなら。」


「慣れろ、か。」


きっといつまでたっても慣れることはないだろう。

この、見世物になっているような奇妙な感覚には。

でも、気にしないようにすることはできる。

同じ目にあってきたレイが、その手を引いていこうとする限り。

シキはレイを抱くその腕に、少しだけ力を込めた。


「シキ。」


その腕からレイは飛び降りると、シキの手を握り締めた。


「行こう?シキ?」


「うん。」


レイが帰るところが、ここであるように。

シキの帰るところも、これからここになるのだ。

シキはそう覚悟を決めた。


「ようこそ、ヨマルシティへ、シキ。」



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