表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pastel Quest  作者: 月影 零
全ての始まり
4/7

4.小さな一歩

差し込む朝日の光で、目が覚めた。

抱えていたレイを離すと、レイも目を覚ます。


「おはよう。」


「んにゃ、…おはよう…。」


目をこすりながら、レイが起き上がる。

シキもつられて起き上がる。


「…ノゾムはぁ?」


レイに言われて見渡すが、この部屋の中にはいない。


「向こうの部屋じゃないかな。」


レイはベッドからぴょんと飛び上がると、パタパタと向こうの部屋に走っていった。

そして聞こえてくる騒ぎ声。

シキもベッドから立ち上がると、みんながいるはずの部屋へ向かって歩き出す。


「よう、シキ。起きたか。」


その部屋は大変な騒ぎになっていた。

レイがヤツキを追いかけまわし、逃げるヤツキを見て、アカネが笑っている。

でも、誰も止めようとはしていなかった。


「今日中に、街にはたどり着きたいもんだな。最近何かと物騒だし、凶悪モンスターが出回ってるなんて話も聞くし。」


「そうそう、この前も依頼で討伐してきたばっかり。おかしいのは、本来なら凶悪化しないはずのドラゴン種だったことかな。」


アカネにもらったコーヒーをシキも飲みながら、話に加わる。


「何かが起きてる…ってことですか。」


「さぁな。起きてたところで、俺たちには関係ねぇよ。世界の仕組みも、何がどうなってるのかも、俺は知らないし。」


カップに残っていたコーヒーを飲みほして、ノゾムがぼやく。


「それよりか増えた同居人の分の生活費をどう稼ぐかがな…、アカネ、仕事ない?」


「討伐依頼なら何件か出てるわよ。でもそれじゃレイちゃんは連れていけないでしょ。」


「レイなら、新しい同居人が見ててくれるよ、なぁ、シキ?」


「はぁ…まぁ…。」


手に負えれば、とシキは心の中で付け加えた。

追いかけっこをやめたレイがシキの膝へと、当たり前のように戻ってくる。

その手には、古い紙切れが一枚。

昔の物のためか、今でいう『紙』ではなく、何かの皮をなめした物のようだ。


「レイ、何持ってるの?」


「ヤツキから取ったー。」


見せて、という間もなく、レイがその紙を開く。

取られたヤツキは床でのびていた。


「…地図?」


どこを描いたものかはわからないが、確かに地図だ。


「レイちょっと貸して。ノゾム、これ、どこの地図?」


レイの手から地図を奪うと、シキはノゾムにそれを見せた。

里からあまり出たことのないシキには、それがどこだか分らなかったのだ。


「んー、この地形からすると…、『滅びの森』だな。」


「滅びの森?」


「洞窟が多くて、捕食植物がはびこってて、肉食生物が闊歩してて、入ったらまず出られないといわれてる、いわば立ち入り禁止の領域。」


アカネの一言に、シキは唖然とする。


「でもなんでそんな地域の地図が?」


「持ってた本人に聞くのが一番早いだろ、おい、ヤツキ。」


ノゾムに呼ばれて、ヤツキはようやく起き上った。


「この地図、どうした?」


「盗賊にそんなこと言われても…、うーん、忘れた。」


「そんな事だろうと思ったよ…。なんか聞いてないのか、この地図のこと。」


シキから受け取った地図を眺めながら、ノゾムはさらに問いかける。


「滅びの森の詳しい地図なんて、地形を知らなきゃ描けない。しかもこの地図はかなり古いだろ。ってぇことは、昔、誰かが、かなり詳しくこの地を調べたってことになる。もしかしたらその時代は、『滅びの森』じゃなかったのかもな。」


ノゾムの話に、アカネが身を乗り出した。


「もしかして、お宝ザクザク?」


「いや、どうだろうな。この印も気にはなるな。」


光に翳したり透かしたりしていた地図を元に戻すと、ノゾムは地図を握ったまま、ヤツキに笑いかけた。

ただしその笑いは、かなり黒かったが。


「ヤツキ、この地図、貰うな。」


「ノゾムさん、返してよ…。」


「どうせお前が持ってても、探しに行く気はないんだろう?だったら、俺とお前とシキとレイで探しに行けばいいことじゃねぇか。」


ノゾムの言葉に焦るのはシキだった。


「オレはともかくレイまで?」


「俺もお前もいなかったら、誰がレイの面倒見るんだよ。そういうことだ。」


「あの…、僕が行くんだったら、バンリもたぶん行くと思う…。」


おずおずと控えめに、ヤツキがノゾムに問いかける。


「それでもよければ…、大丈夫じゃないかな。」


「ってぇと…、何人になるんだ?」


ノゾムは指折り数えている。

シキもつられて数えてみる。


「オレとレイとノゾムとヤツキとバンリさんと…、5人?」


「おう、そうだな。アカネは?」


「私は行けないよ。依頼もあるし、あんまり大所帯じゃ、身動き取り辛いでしょ?」


「ま、確かにそうだわな。」


今度は悪意なくノゾムは笑うと、手にしていた地図をヤツキに差し出した。


「そういうこった。バンリは?街か?」


「うん、ってか、僕がここにいること、知らないかも。」


ノゾムが差し出した地図を受け取って仕舞いながら、ヤツキは続ける。


「この地図の謎を解いてくれたノゾムさんのほうが権利はあるし、僕はついていくだけで、役には立たないと思うし…、どうするの?」


「そうだな…。」


ヤツキの意見に、ノゾムはしばらく考え込む。


「シキはハーフエルフだったよな。魔法は?」


この世界で魔法を使えるものは限られている。エルフか、小さい頃から英才教育を受けた一部の魔道士だ。

その魔法も攻撃回復問わず、すべてひとくくりにされている。


「うーん、そんなに高等なのは無理だけど。」


純血のエルフとは違うから、とシキは笑いながら付け加える。


「レイは戦力外だな。戦闘回避能力は高いけど、役には立たない。ヤツキは見ての通り。バンリも戦闘となったら、なぁ…。」


そこまで言って、ノゾムは頭を抱えた。


「決定的に戦力不足だよな…。」


「まぁ、なんとかなるんじゃない?」


あっけらかんとシキはノゾムに返して、膝のレイを抱えなおした。


「昨日思ったんだけどさ、レイは教えたら、魔法使えるようになると思うよ。その素質はあると思う。その間にノゾムはヤツキに剣を教えたら、少しは戦力の足しにならない?」


抱えなおされたレイは、きょとんとしてシキを見上げている。

ノゾムもきょとんとして、シキを見返した。


「ね、レイ、こんなこと、してみたくない?」


シキはレイを片手に抱えたまま、指先に小さな明かりを灯す。

その明かりをピンっと弾くと、その光はふよふよとレイとシキの周りを漂いだした。


「したい!したい!」


「じゃあ、やってみる?」


レイを背中から抱え込んで、シキはレイの手を取った。

そんな様子をノゾムやアカネは微笑みながら見守っている。

ヤツキはあわあわしながらノゾムの服を引っ張ったが、うるさそうにその手を払われただけだった。


「ノゾムさん、あれ…。」


「黙っとけ。街に帰ったら、お前には俺の指導が待ってるからな。楽しみにしてろよ。」


みんなが見守る中、レイの指先にも小さな明かりが灯る。


「できた!」


「お、上手、上手。それをこうやって…。」


レイに魔法を教えるシキは、楽しそうである。

教わるレイも楽しそうである。

その様子を眺めながら、ノゾムは小さなため息をつく。この後の苦労が目に見えるようだった。

それと同時に寂しさを感じざるを得なかった。


「娘を嫁に出すって、こんな気持ちなのかなぁ。」


「なによ、ノゾム、おっさん臭いわね。レイちゃんが成長してるの、嬉しくないの?」


「嬉しいけどさ、こう…なんか寂しいよな。」


「そうね…、私も寂しいわ。」


ノゾムの肩をぽんと叩いて、アカネは台所へと立ち上がる。

ノゾムも頬杖を突いていた手を元に戻すと、立ち上がった。


「さて、街へ向かいますか。もちろんついてくるよな、ヤツキ。」


目の前の状況をぽかんと眺めていたヤツキはあわてて返事をする。


「はいっ…てあの二人は?」


「ほっとけ、大丈夫だから。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ