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Pastel Quest  作者: 月影 零
全ての始まり
3/7

3.続出会い

目的の村まで、日が暮れる前にはたどり着いた。

レイが興味のあるものを見つけてはどこかに行き、迷子になることがなかったら、きっともっと早かっただろう。

おかげでシキはだいぶ疲れていた。


「いつもこうなの?ノゾム。」


探しまわったりする間に打ち解けたのは、ほんのおまけだろう。


「もう慣れた。今日は大人しいほうだぞ、シキがいたから。」


ここまでの道中、レイはシキに飛びついたり、ノゾムに登ったり。

そのレイはすでにノゾムの背中で眠っている。


「宿屋はないが、知り合いが部屋を貸してくれるはずだ。」


ノゾムが示す方向には、家がひとつ。

シキがノックをすると、ドアが開いた。


「はーい。」


「よう、ミユキ、世話になる。」


開いたドアの向こうには、細身で鎧姿の女性が一人。

さらにその後ろに、普通の女性が一人。


「なんだ、アカネもいたのか。」


「なんだとは失礼ね、レイちゃんは寝ちゃってるの?」


ノゾムの背中を覗きこんで、アカネは隣の部屋を指差した。


「あっち使って、支度なら済んでるから。」


「おう、さんきゅ。」


レイを寝かせに行くノゾムを見送って、アカネはくるり、とシキのほうに向きなおった。


「…ふーん…。」


意味ありげな笑いを浮かべるアカネ。

ミユキはにこにこしながら、シキを見ている。


「レイちゃんは、彼に何を見たんだろうね、ミユキ。」


「それはレイちゃんにしかわからない。でも、読みは当たってたでしょ?」


「そうだねぇ…、はいはい、早く入って、目立つのは嫌でしょ?」


背中を押すようにして、アカネはシキを家に入れ、ドアを閉めた。

家の造りは、里と変わらない。

ただ、机においてある大きな鏡だけが、普通の家には不釣り合いだった。


「せっかく来たのに、レイちゃん寝ちゃってるし…、彼を質問攻めにしてみようかな。よし、まず名前は?」


「え…あ、はい、シキです。」


「どこの出身で?」


「グリーンウッドです…。」


「ほうほう、親御さんは?」


「えと…。」


「はい、そこでストップな。」


シキの答えは、レイを寝かせてきたノゾムによって遮られた。


「あのなぁ、シキ、言いたくないことは言わなくていいんだぞ。」


「いいじゃないの、あのレイちゃんが選んだ相手だから、気になるのよ。」


膨れているアカネを見て、ミユキが口をはさむ。


「どうせ見てたんだろう?アカネがここにいて、部屋まで用意してあったってことは。」


背中の剣をドアの近くに立てかけて、ノゾムは椅子に腰を下ろす。

それに倣って、シキもノゾムの近くの椅子に腰かけた。


「まぁ、見てたけどね。気になる予言もあったしね。」


ミユキが鏡に手をかざしたのを見て、アカネは簡素なキッチンへと消える。

ノゾムはシキに手招きをすると、ミユキの鏡を覗き込んだ。

シキもつられて、覗き込む。


「予言は、シキさんのことと…、こんなことを告げてたの。」


鏡には、靄がかかっている。

しばらく見つめていると、それは一つの光の球を映し出した。

光のそばには、人が二人。

見覚えのある猫科の耳と、銀の髪。


「シキと…、レイ?」


「そう、だから気になったの。」


ミユキが手をかざすのをやめると、鏡は元の景色を映した。


「最初に見たときに、銀の髪の君が気になってね、ちょっと探してみた訳。その謎が解けた後は、あの光が気になって、調べてみるけど返事はない。何か知ってる?二人とも。」


「光…ねぇ。」


ノゾムもシキも考え込んだ。


「本当かどうかは知らないけど、一つだけ言い伝えがあるよ。」


料理が盛られた皿を両手に、アカネがふと、つぶやいた。


「この世界が作られた時に、一緒に作られたモノがあって、『虹』っていうらしいんだけど。」


キッチンとテーブルの間を行ったり来たりしながら、アカネは大量の料理を運んでくる。


「虹か…、ありゃ伝説だろ。実際見つけた奴もいなけりゃ、そんな話も聞かないし。」


「聞いたこと、あるよ。」


寝ぼけ眼をこすりつつ、レイがシキの膝に這い上がってきた。


「あら、レイちゃんおはよう、いつ起きたの?」


「ご飯のにおいがしたから…、ついさっき。」


シキの膝の上を陣取ると、レイはテーブルの上のコップを手に取る。

中身は、ミルクだ。


「虹はね、『あること』に気が付いたら、その姿を現すって…、小さい頃、ママが言ってた。」


コップの中身をこくこくと飲み干して、レイは続ける。


「『あること』は、自分で見つけなさいって…、ママも昔、見つけたから、レイにも見つかるって。そう、聞いた。」


テーブルの上の料理が気になるのか、レイは鼻をひくひくさせている。


「ねーぇ、もう食べてもいい?」


はっとしたように、アカネがあわててうなずいた。


「いいよ、どうぞ。」


「わーい、いただきます。」


シキの膝の上からは降りずに、レイはフォークを手にする。

残った四人はしばらく黙っていた。


「オレも…聞いたことがあります。」


沈黙を破るように、シキが口を開いた。


「エルフの里に残る言い伝えに、一つだけ。虹は種族を超える、と。」


「種族を超える…か。」


つぶやいたノゾムは、酒の入ったコップを手にする。

シキは膝からレイが落ちないように、抱えなおした。


「まぁ、でも、あの光が『虹』だと決まったわけじゃないしさ。予言だって外れるかもしれないでしょ?」


アカネは笑いながらそう言うと、椅子に腰かけた。


「伝説やら、言い伝えやらの話は、これでおしまい。さっさと食べないと、レイちゃんが一人で全部食べつくしそうよ。」


その言葉に反応したのは、ノゾムだった。


「うぉっ、レイ、待て!」


「いーやーだ、お腹すいてたし、アカネの料理はおいしいもん。」


「せめて膝から降りてくれないかな…。」


シキがぼやく。

アカネとミユキは笑っていた。


「レイちゃん、こっちにいらっしゃい。」


苦戦しているシキを見て、先に食事が終わっていたミユキがレイを抱えあげた。


「シキさんがご飯食べられないでしょ?」


もぐもぐと口を動かしながら、レイがうなずく。

ノゾムとアカネは、二人で酒の入ったコップを傾けつつ、話し込んでいた。


「ミユキさんは…。」


「私?私はね、簡単にいえば、占い師。ノゾムさんにもアカネさんにも助けてもらった身。」


連れてきたレイを、自分の隣の空いていた椅子に座らせると、ミユキもコップを手に取った。


「予言や神託は、時に人同士が争う火種になるのよ、種族間もね。私も何度もその争いに巻き込まれた。その度に、二人に助けられた…。だから、恩返しのつもりで、こうやってるのよ。」


コップの中身を飲み干して、ミユキは続ける。


「二人のおかげで、私は生きてる。いろんなことも教わった。だからシキさんもレイちゃんも受け入れられるの。」


空になったコップを手に、ミユキは立ち上がると、シキを見つめて笑った。


「だからシキさんも、自分のこと、嫌わないでね。…アカネさん、おかわり頂戴。」


「ミユキ、飲みすぎると、あとがきついわよ。」


アカネも笑いながら、ミユキに酒を注いでいる。


「たまにはいいじゃない、二人ともそろってここにいるなんてこと、今は年に一回あるかないか、でしょ?」


「そうだねぇ…、昔はいやってほど一緒にいたけど、ね。」


「思い出したくない過去だな。」


ぐいっと酒をあおると、ノゾムはシキにもコップを差し出した。


「飲むか?」


「い…。」


いらない、と言いかけた時だった。

そのコップをすごい速さで、横から取っていく影がひとつ。


「?」


「やばい、飲むな、レイ!」


「レイちゃん、駄目だって!」


ノゾムやアカネがなぜあわてているのか分からないシキは、レイを振り返った。

こくこくとコップを空にしていくレイ。

背後から聞こえる、ノゾムとアカネのため息。


「誰が面倒みるのよ…。」


「シキ、まかせた。俺はアカネと朝まで飲んどくわ。」


後ろから肩を叩かれても、いまいち理解はできない。

レイに変化は見当たらない。


「なんで…。」


ノゾムに理由を聞こうとした時だった。

コップをきちんとテーブルに戻したレイが、シキに飛びついた。


「うにゃうにゃにゃにゅにぇにぃにゃー!」


何を言っているのか、さっぱりである。

ノゾムを振り返ってみるが、首を横に振るだけだ。

飛びついて崩れかけたレイを、あわてて受け止めるシキ。

アカネがくい、と酒をあおってつぶやいた。


「レイちゃんはかわいいんだけど、お酒には弱いからねぇ…。しかも酔うと、もれなくわけが分からなくなるおまけ付き。」


レイはふにゃふにゃ言いながら、離れようとしない。

昼間と同じ状況である。

あきらめたシキは、ノゾムを振り返って、尋ねた。


「どうしたらいいの?」


「寝かしつけてこい。そうなったら離れないし、俺でもどうにもできん。まぁ、寝かしつけても離れるかどうかは微妙だが。」


しかたなくシキはレイを抱えあげる。


「俺もやっとお役御免かな。」


ノゾムのつぶやきが、かすかに聞こえた。


抱えあげたレイを、ベッドへ運び込む。

レイはまだふにゃふにゃ言ったまま、シキにしがみついていた。

抱き上げたレイは、見た目よりずっと軽くて、小さい。

フワフワしたスカートの下から生えた尻尾が、ゆらゆらと左右に揺れる。

頭に生えたネコ科の耳が下を向いていて、ピンクの髪が首のあたりをかすめていく。


自分とは、明らかに違う、その外見。


「自分の外見も、周りとはだいぶ違うけどな…。」


そう呟いて、ベッドの上で手を離すものの、レイは離れない。

離れようとしても、追いかけてくる。それを何度か繰り返して、シキはようやくあきらめた。


「一緒に、寝るか…。」


つまりはレイの抱き枕。そういうことである。

とうの本人は、寝ているのか、酔っているのか、時折くすくす笑いながら、シキの服を引っ張っていた。


「…レイは、寝たか?」


微かな光の筋と、静かな声。


「離してくれないけどね。」


微かに笑いながら、でも静かにシキも答える。


「朝まで飲むんじゃなかったの?」


レイの方を向いているから、顔は見えない。

でも声で、ノゾムだと分かる。


「ミユキが潰れたから、お開き。なぁ、シキ。」


ドアを背に床に座り込んだノゾムは、持ってきていたコップに酒を注ぎながら、尋ねる。


「おまえ、レイのこと、どう思う?」


唐突な質問だった。

唐突すぎて、シキはしばらく考え込んだ。

シキの返事を待たずに、ノゾムは続ける。


「レイはな、ただの半獣人じゃねぇ。実験やら、研究やらの果てに生まれた…、それがレイだ。おまえは見たことないかもしれないが、半獣人の外見はもっと獣に近いことが多い。それに…。」


そこで言葉を切ると、ノゾムは酒をあおった。

そして、黙り込む。


「愛玩用に作られた半獣人、か。」


シキもぽつり、と呟いた。


「俺も作られた人間さ。戦闘用に…、戦争や護衛のために改造されて、生まれてきた。血縁を辿ると、巨人族がいるらしいからな。」


こんなところで、ノゾムの過去を聞くことになるとは、シキも思わなかっただろう。


「言いたくないことは言わなくていいとは言ったが…、気にはなるな。シキ、おまえは?」


「オレ?父親が人間で、母親がエルフ。それ以上のことは聞いたことがない。母親も話してくれなかったし、聞くこともなかったし。」


その母親も、もうこの世にはいない。

父親は生まれてこのかた、見たことはなかった。


「おまえは本当のハーフなんだな。ある意味、うらやましいよ」


ノゾムの声が、静かに響く。

そうは言われても、どう返したらいいかわからないシキは、答えに戸惑っていた。

ノゾムがコップをことりと床に置く。


「おしゃべりはここまでだな、来客だ。」


「こんな夜中に?」


「レイを頼んどく。それとなるべく静かにしてろ。」


シキの問いかけには答えずに、ノゾムは立ち上がると窓の方へ向かう。

その手には細めの縄が一本、握られていた。

窓の横、壁を背にして立ったノゾムは、そのまま息を潜める。

シキもノゾムに言われた通り、レイを抱き寄せて息を潜めた。

微かな音と、入り込んでくる夜風。

窓が開けられたのだ。

音も立てずに入ってきた侵入者に、ノゾムは平然と声をかけた。


「ヤツキ、なにやってんだ、おまえは。」


あわてたのは、侵入者だ。


「いっ…えっ…あっ…、ノゾムさん!?」


「盗賊気取りもいい加減にしないと、バンリが泣くぞ。」


やれやれといった感じで、床に座り込むノゾム。

ヤツキと呼ばれた少年は、進みかけた格好のまま固まっている。


「シキ、知り合いだ。…とはいえ、夜中に訪問は受け付けてないんだが。」


手に持っていた縄を放り出して、ノゾムは酒を取りに戻る。


「だいたいヤツキよぅ、なんでここにいる?」


「いや…その…。」


ヤツキはしどろもどろだ。


「まさか、ここに盗みに入ったと?」


酒の瓶を傾けながら、ノゾムは楽しそうである。


「前から言ってるだろ、おまえに盗賊は向いてないって。第一、気配を消すことすらできないんじゃ、すぐ気が付かれるだろうよ。」


「ノゾム、さっきの輩は?」


ドアの向こうから、アカネの声。

彼女もしっかり気がついている。


「俺の知り合いだ、気にすんな。」


「そう、じゃおやすみ。」


ほらな、といった感じでノゾムはヤツキをちらりと見た。


「今夜はレイが酔っ払ってるから、気がつくのも遅かったけどな。レイならおまえが家に近づく前に気が付いてるな。」


「ノゾムさぁーん…。」


散々な貶されようである…。

シキにも口をはさむ隙がない。

抱きしめているレイのぬくもりで、シキはだんだんと眠くなる。

後ろでわーわーと騒ぎ出した二人を無視して、シキは寝ることにした。


「寝るから、静かにしてねー…。」


もちろん釘をさすことも忘れなかった。


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