抱き寄せた君、押し寄せる夕陽。 [千文字小説]
悲しみで明け暮れる俺の所に、スルスルと流れるように夕陽が近づく。
それはまるで君が俺の所から去って、その悲しみを埋めるかのように…。
そんな風に俺は感じた。 そんな風に俺は感じてしまったんだ―――。
「私のこと、好き?」 ――それは前の彼女が、俺によく言ったセリフ。
だけど、今の彼女は俺に向かって「大好き! あなたのことが大好き!!」と言う。
果たして、その違いは何なのだろうか?
――俺に求められているモノは、君に注ぐ“無償の愛”なのか?
――それとも、君と二人で過ごす“自由”というモノなのだろうか?
俺は多くの時間と犠牲を経て、そんなことを考え続けてきた。
で、わかったことがある。
それは、俺には誰かを愛す資格なんてなかったということ。
なぜなら、前の彼女には「好き」と言い続けた結果、フラれてしまった。
そして、今の彼女には、俺がわざわざ「好き」と言わなくても、愛されている。
だから、俺には誰かを愛す資格なんて必要なくて、ただ誰かに愛されるためだけに生きていけばいいのだ。
そして、そんな今の俺には、この俺を至極愛してくれる彼女がいる。
そりゃあもう、大好きさ。 だけど、それを口に出して言ったことはない。
だって、また「好き」と言ってしまうとフラれてしまうから。
だから、俺には君を本気で愛すことなんてできない。
ただ、俺には君の愛をひたすら待っていることしかできないのだ。
でも、その想いが通じているのか、君は俺に必要以上のことを言わない。
それは愛が故なのか? ただ単に、興味がないだけなのか?
そんなことはわからないけれど、俺達の関係は上手くいっている。
俺達の恋は、太陽のように鮮やかに冴え、
俺達の愛は、夕陽のように燃え盛っている。
だけど、沈まない太陽なんてこの世には存在しない。
薄暗く、やっと前が見える程度の月明かりが、いつかはやってくる。
そう、 白夜が美しいなんてことは、ありはしない。
代わりにどこかで闇が産まれているということなだけ。
ただ単に、俺の所が明るいだけ。 それだけのことなんだ。
だから、次は もしかしたら俺の番かもしれない。
君との亀裂はすぐそこに。 君との別れはすぐそこに。
何処かで大地が裂けるように、 君は俺を避けていく…。
それが俺達の未来を示すモノで、今まで過ごしてきた俺の過去でもある。
だから、今は笑っていようと思う。 君と笑えるだけ笑っていようと思う。
それが思い出に変わるまで―――。 いつかきっと来る、別れまで―――。