始まりは人助け
と言う名の勘違い!
ファーストコンタクトです、ヴァイスが失礼にも程がある。
「(………………………)」
ずる、ずる。
「(………?)」
ぱちりと目を開けると、地面が見えた。「何故…?」と覚醒したてで霞がかるぼんやりとした頭で考える。そう思っていると半身がなにやら暖かいのを感じた。
「(……人…?)」
少しだけ視線を横に向けると、飴色の長い髪が見えた。どうやら自分は誰かに抱えられているらしい。そして半身が暖かいのは抱えている人(だと思う)に触れている部分だと知った。
「(……俺は、何をしてたんだった?)」
そこまで考えてから、やっと男は自分自身に問いかけてみた。
3分くらい考えて、ようやく自分は草原で寝っ転がって寝てしまっていたことを思い出した。自分を運んではいるものの、身ぐるみを剥いだり傷つけられてもいないようなので追剥ではないと思う。となるとこれは多分、自分が病人か何かだと勘違いして今まさに助けられている最中なのだろうかという事に辿りついた。
だとしたら些か申し訳ない勘違いをさせてしまった、とゆっくりと顔を上げて今まさに自分を抱え歩く人をちらりと見る。そこで自分を抱えているのは男だということに気付いた。髪の長さと色からして一瞬女かとも思ったが、今考えてみれば自分のような男を担ぎあげられる女なんている訳がないのだ。こっちが見ていることに気づいていないのか、男は前を向いたままほんの少し息を切らして歩き続けている。
「…おい。」
静かに呟くと男は弾かれたようにこちらを振り向いた。そしてぱちりと目を合わせると、ぱあっと向けられた方も自然と笑顔にさせるような笑みを見せた。
「! 気が付いたんですかー!ああよかった…何の反応も無いからてっきり、」
「……あんた、誰だ。」
特に他意は無かったのだが、ただ純粋に疑問だったので本当に嬉しそうに話かける彼の言葉を遮ってしまった。悪い事をしてしまったかとは少し思ったが、様子を見てみると彼は気を悪くしなかったようだ。
完全に覚醒してしまった今、もう支えられる必要は無いなとそっと自分の足に力を込めて立つ。心配そうに見つめる男を手で静かに制した。「ああ、これはすいません。」と彼は少しだけ申し訳なさそうに言う。非があるのはむしろ自分だったと思うが、今から弁解するのも面倒臭かったので止めた。
「アンバーと申します。失礼ながら、貴方の名前は?」
そう言うとアンバーと名乗った男は、夕陽に閃く赤の目を細めて微笑んだ。
「……ヴァイス。」
微笑まれると反応に困るが、黙って目を見つめたままぶっきらぼうに答える。それを知ってか知らずか、彼はまた微笑んで「とにかく無事でよかったです。」と嬉しそうに言った。そうして唐突に、こう切り出した。
「そうだ、お腹空いてませんか?」
「………あ?」