第3話
帰り道、僕はトボトボと歩きながら色々と考えた。
続けられるだろうか。
言業屋の検証は世の中にどのように役に立つのか。
なんで、お給料がドルなのか。
葦くんはどうして。
あ! 葦くんの野郎!
ハカセさんを僕に任せっきりにしやがりやがって!
ひとこと文句を言ってやりたい気分になった。
周りをキョロキョロすると、ベンチのない公園があった。
ちょっと、そこの公園で電話をかけてやろう。
ベンチがないので、僕は豚の形をしたまたがるタイプの遊具に腰掛けた。
電話をかけると、しばらく呼び出した後、留守電になった。
なんか言ってやらないと、気が済まない!
「えぇとー。葦くんの携帯でしょうか? また、かけ直します」
ちくしょー!
僕のバカ!
大介の弱虫!
などと心の中でイソ○プのモノマネをしていると、僕の携帯からマイウェイが流れた。もちろん布○明バージョンだ。
ポチッ。
「もしもし? 葦くん? あのさ……」
「あー、先輩。すみません、ちょっと野暮用で……」
野暮用で僕の電話をとらなかったのか!
「で? ハカセさんのことでしょ?」
しかもいきなりタメ語……。
「う、うん」
「実はあの人ですね……」
「う、うん」
「ああ見えて、ボケてるんですよ」
「え? それって、認知症ってこと?」
「認知症ってなんでしたっけ? ま、いいや。あの人の発言や行動は、全部ボケなんです。だから適度な所で、つっこんであげないといけないんです」
「は?」
「あの人、むかし一世を風靡したお笑い芸人だったらしいんですよ。
芸名は確か“コスモ星丸”だったかな……
で、全盛期の時に一生分ぐらい稼いじゃって、今はあんな所で隠居生活をしてるっていうことなんです。 言業屋も別に独立行政法人でもなんでもなくて、あの人が趣味でやってるお遊びなんですよ」
は? は? は????
気がつけば僕は豚の遊具から立ち上がり、その頭を叩いていた。
「で、先輩気に入りました? 言業屋」
「気に入るも何も、ちょっとワケがわからないんだけど……」
「先輩も頭が硬いなあ~。ようするに、金持ちの道楽に付き合えば、お金がもらえる。そういうことです」
「じゃあ……じゃあ僕の……僕たちの役割っていうのは?」
「一緒にボケたり、たまにノリツッコミすればいいんですよ。むしろ、何もしなくてもいいくらいです。ただ検証に付き合ってあげればいいんです。あとさりげなく、僕たち的な事を言いましたけど、僕はもう、コレがコレなもんで、まっとうな仕事に就こうと思ってますから」
「おいちょっと! “コレがコレ”って小指立てたあとに、お腹の前を手で撫でる仕草?
いや、そんなことはどうでもい!
今後、言業屋のアシスタントは誰がやるっていうの?」
「もちろん、先輩と……」
「誰?」
「誰になるんでしょうね……」
「おーい! おーい!」
「まあ、そういうことなんで! じゃあ、野暮用に戻りまーす」
「待って!」
プープープー。
生まれて初めてプープープーに話しかけてしまった。
ふと我に返りあたりを見回すと、近所のおばちゃんと警察官がこちらを見ながらコソコソ喋っていた。
僕は、アメリカ人がよくやる“W”みたいな形を両手で作って、肩をすくめて首をひねるポーズをした。
さて、どうしたものか。
一日300ドルだろ?
それが30日だったとしたら?
9000ドル!?
ちょっと待て!
落ち着け!
ざっと円に換算しようと思ったが、顔がニヤニヤしていまい、全く計算にならない。
とりあえず、1ドル100円で換算しても、ひと月90万円!
今は100円よりかなり低いけど、どう考えたって今僕がやっているシュレッダー係の係長より高給だ。
もし本気でやったら、ミニチュアシュナウザーを20匹ぐらい余裕で飼えるだろう。
すごく悩む。
これがいわゆる、後は野となれ山となれ、なのか……
ちょっと違うか。
そして、翌日。
僕はこれを本業にするか、それとも副業のままにするか悩みながら、言業屋へ行った。
ビーっと呼び鈴を鳴らすと、今日は白髪のリーゼント頭でハカセさんが僕を迎えた。
「あのー。ハカセさんにお話が……」
「やあ! キミ! よく来たね!
さて! 今日はまず“河童の川流れ”から検証するから、近所の川に行ってカッパを探して来てくれたまへ!」
「はい! 喜んで!」
意識せずに、言葉が出た。
まるで、呼吸をするようだった。
僕は玄関に置いてあった虫取り網と虫籠を手に取り、颯爽と玄関を飛び出した。
「キミー! 待ってくれよー!」
ハカセさんが楽しそうな声を出しながら後からついてくる。
「先に行って、カッパを探しときますよ!」
向かうは近所のドブ川だ。
カッパって獰猛なのかな……
そんな事を考えながら、僕はドブ川へ向かって走り続けた。
おしまい。
言業屋。本当にあったら僕も働きたいですw