電話の話。
と、とうとう九十九話目になってしまった……。
「…………さて、すっかり遅くなってしまった」
改めてこちらから掛け直すと、高嶺母に言ってある。
少々遅くなってしまったが、まだぎりぎり電話をかけても大丈夫な時間……だと思う。
「……うん、失礼は承知だ。元々こっちから掛け直すって言ったわけだし」
そう自分に言い訳し、俺は受話器を取って、電話をかける。
プル、ガチャッ!
『はい、もしもし? 高嶺ですけど』
はやっ!
「あ、神尾です。夜分にすみません」
『ああ、神尾君。待ってたわ。……そっちはもう大丈夫なの?』
「ええ、無事に」
『そう。……じゃあ、早速で悪いけど、いいかしら?』
「…………ええ」
高嶺母は真剣な口ぶりで話し始めた。
『実は――――……』
『これで、私の話、聞きたい事は終わり。……それで神尾君、何かあるかしら?』
「………………………………」
――弱ったな。
高嶺母の話とは、夜羽の事だった。
高嶺から夜羽との出会いと、そのときの状況、そして夜羽が自分の事を話そうとしないことを聞き、その原因を考えて、尋ねてきたのだ。
そして、相談に乗る――力になろう、と。
あの時、飯田と高嶺には曖昧な、誤魔化すような態度ではあったが、こちらの家の事情があるかもしれないと、二人に思わせて、引き下がってもらった。
だが今回は、その事情があるかもしれないと言う事もひっくるめて、相談に乗りたいと言うことだ。
もちろん本当は家の事情も何もありはしない。
何かあるかもしれないと、勘違いしてもらっただけ。
それでも勘違いしている方にとっては、真剣に夜羽を心配し、力になろうとしてくれている。
…………さて、どうしたものか。
本当は心配なんて必要ないんだが、それを説明するには、夜羽の事を話さなければならない。
……あれはホイホイ人に話していい事でもない。――どうにか引き下がってはもらえないか……。
俺の沈黙を、言えない事を聞かれて困っていると判断したのか、高嶺母はさらに続けた。
『あなたの家にどういう事情があって、それをあなた自身がどう解決しようとしてるのかはわからないけど……少しは大人に頼ってもいいんじゃない……? あなたの周りに、頼れる大人はいるのよ?』
うー……まずいな、夜羽だけじゃなく、俺まで心配されてる気がする。
「……はい、それは重々承知してます。俺だって頼れる方はいますよ。高嶺さんも含めてですけど」
『…………本当に? 無理はしてないかしら?』
「ええ、高嶺……じゃなくて、蛍さんから聞いてるかもしれませんが、俺が良く顔を出してる動物病院の人たちとか……いざとなったら、以前に遺産相続の問題でお世話になった弁護士の先生もいますし」
咄嗟に口に出してしまったが、それなりに説得力のある返しに出来たかもしれない。
……もちろん、ここしばらくあの先生には会ってないが。
『……遺産……? もしかして、その……「いえ、だいぶ前の事ですし、気にしないで下さい」……そう、ごめんなさい。…………でも、その、夜羽ちゃんの話だけでも聞かせてはくれないかしら……? 力になる大人は何人いてもいいと思うわ』
一応、弁護士につてがあると知って、少し安心はしてくれたようだけど、やっぱり引き下がってはくれなかった。
……当たり前か。夜羽が心配でわざわざ俺に電話をしてくるくらいなんだから。
少しだけ考え、俺はゆっくりと口を開く。
「……その、話すかどうか色々相談してからでいいですか? 夜羽自身の事もありますし」
その言葉に高嶺母は、
『……そう、ね。確かに本人のいないところで勝手に話していい事じゃないわね。……なら、待ってるわ。じゃあ、またね』
「はい、また」
そう言って受話器を置く。
そしてそのまま夜羽の元に――は行かず、もう一度受話器を手に取った。
……これから、色々相談しなければならない。
そして俺は電話をかける。
「もしもし、矢島さんですか? ……はい神尾です。……えっと、一つ聞きたい事があるんですけど……――――って知ってますか……?」
むむ、飯田と高嶺家の話、内容が違いすぎて軽く別な話書いてる気分になる……。
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