飼い主さん家の話。
プルルルルルルルルルルルルルッ!
電話だ。
誰だろ、こんな時間に。て言うか最近は携帯ばっかりで、家の電話はあんまり使ってないから、セールスかな?。
私が出ようとしたけど、その前にお母さんが出た。
「はい、もしもし? ああ、ええ、今代わります……でもその前に……あれ以来一度も家に遊びに来て無いけど、いつ頃来れるのかしら? …………ふふふっ、そうやって誤魔化すのね? ……まあいいわ、それについてはまた今度。ちょっと待っててね? ……蛍ー、電話よ。愛しの神尾さんから」
「ふぇっ!? 神尾さん!? 何だろ……って、お母さん!! 愛しのって!」
神尾さんに聞かれたらどうするの!?
私は急いで電話口に。
ちょっと焦ったけど、お母さんはちゃんと保留ボタンを押してた。
……やめてよ、ほんとに焦ったんだから……。
「えっと、もしもし、代わりました。蛍です……」
『あーもしもし。神尾です。ごめん、こんな遅くに』
「い、いえ! 大丈夫です。それよりどうされたんですか?」
『ああ、大したことじゃないよ。明日、夜羽が高嶺の家に遊びに行きたいって』
「あ、もちろん大丈夫です。神尾さんもご一緒ですか?」
『……いや、ちょっと用事があるから夜羽だけだな』
「そうですか……」
って、ちょっと残念に思っちゃったけど、それじゃ夜羽ちゃんに失礼だよね。
「……あれ? それならどうして神尾さんが電話を?」
『あー、何か夜羽、電話が苦手なんだと。顔が見えないのに声だけ聞こえるってのが慣れないらしい』
「そうですか。では夜羽ちゃんに三時半頃にはいると思うので、と伝言お願いします」
『任された。夜遅くにすまなかったな。それじゃ、おやすみ』
「…………は、はい! おやすみなさいです!」
ゆっくりと受話器を下ろす。
ガチャ!
受話器を戻した状態で固まってしまった私。
……か、神尾さんに『おやすみ』って言われちゃった。
ただの挨拶なんだけど……普通に話すだけじゃ使わない挨拶なだけあって、何か、嬉し恥ずかし!
「なーにニヤニヤしてるのよ」
「うきゃっ! ……お母さん! 脅かさないでよ!」
いつからいたのかわからないけど、ちょっと呆れ顔のお母さんにツッコまれてしまった。
「あなたが妄想ばっかして私に気づかなかっただけでしょ。それより、彼の用件は何だったの?」
「あ、別に大したことじゃないよ? 明日夜羽ちゃんが遊びに来たいって。なんか夜羽ちゃん、電話苦手だからって神尾さんが代わりにかけてくれたみたい。……一応言っておくけど、来るのは夜羽ちゃんだけだからね」
「あら、そ? ニヤニヤしてたから、てっきり彼も来るものだと思ってたわ。……それにしても………………」
「? お母さん?」
お母さんは、少し真剣な顔で考え込み、
「……ねぇ、夜羽ちゃんって確か、あなたと違う学校で、夏休み中に彼の家で預かってたって言ってたわよね? ……もう夏休みが終わってずいぶん経つけど、夜羽ちゃん、学校はどうしてるのかしら。彼の家から通えるくらいの学校なの? 何か聞いてる?」
「あ…………」
確かに言われるまであんまり考えてなかったかも。
……違う。無意識に考えないようにしてたんだ。
私は悩んだ挙げ句、初めて夜羽ちゃんに会った日のことをお母さんに話した。
ほんとは話したらまずかったのかもしれないけど、夜羽ちゃんの為に何か出来ないかって思った。
今までは、神尾さんに聞かないでほしいと言われた……とか、夜羽ちゃんが話そうとしてない……とか、自分に言い訳して、踏み込まないようにしてたから。
……私、夜羽ちゃんの友達なのにね……。
でも、友達だから、何かつらいことがあるなら、一緒に解決したいの。
「……どう思う? お母さん……」
「ん……そう、ね……普通に考えれば……虐待とか、イジメとか……もちろん、それも憶測の域をでないけど。ただ……程度にもよるけど、怪我するなんて、よっぽどの事があったのかしらね……」
「……………………」
お母さんにそう言われて、夜羽ちゃんの笑顔が浮かんできて……。
……夜羽ちゃん……。
コツンッ!
「いたっ!」
そしたら、お母さんに頭をこづかれた。
「こら。今あなたがそんな顔して何になるの? それに憶測の域をでないって言ったでしょ。……とにかく、少し話を聞きたいわ」
痛む頭をさすりながらも、お母さんに感謝していた。
――そうだよね。今私が暗くなっても意味ないや。
「あ……でも、お母さん。その、夜羽ちゃんに直接は……」
「わかってるわよ。聞かない。本人も多分……話したくはないだろうし。とりあえず、まあ、彼に聞くのが妥当かしら」
「……うん、神尾さんは、何か知ってると思う。……でも、他人の私たちに教えてくれるかな?」
「難しいかもしれないけど……夜羽ちゃんの力になりたいんでしょ? だったらまあ、任せておきなさい」
「……うん、ありがとう、お母さん」
瞬の誤魔化しで、高嶺家がシリアスな話をしちゃいました。
でもまあ、あの誤魔化し方ならいずれこうなりますね。
感想お待ちしてます!
……しかし、瞬の話と夜羽の話、全く毛色の違う話を同時進行できるのか? 自分は……。