番外の話。――仲良くなってからのある一幕の話。
えー、本編の続きに少々手詰まってまして、タイミングがなくてやれなかった話を番外編として投稿しまっす。
軽い気持ちでご覧ください。
続きを待ってらした方、いらっしゃいましたら申し訳ありませんです。
ある日夜羽が唐突に言ってきた。
「シュン、お風呂、入ってみたい」
「…………え?」
えぇっと、夜羽さん。それは、前にお話致しませんでした?
とりあえず詳しく話を聞くと、どうやら今日、矢島さんとの会話の流れでお風呂の話になり、夜羽が入りたければ、一人で入ればいいのではないかという結論がでたらしい。
「……シュン、だめ?」
上目づかいで頼んでくる夜羽。
俺は妙に照れてしまい、顔を背ける。
……しかし何だろう、この行動、意図的に夜羽がやったように見えたが。
夜羽が意識して上目づかいとかやるとは思えないし、誰かの策略性を感じるな。
…………まあ、誰かにやらされてるとわかってても、照れるものは照れるが。
「いや、別に駄目じゃないけど、やり方とか一人じゃわからないだろ。前も言ったけど、俺が入るわけにもいかないし」
「む…………」
「……あーいや、水浴びならぬ、お湯浴び……まあ湯に浸かるだけなら俺が準備すればいける、か……? んー……夜羽、今日はもう遅いから、明日でいいか?」
「ん、わかった」
どうせなら一人で体とか洗えるようになれば楽なんだがなぁ……。
次の日、学校にていつものようにボーッとしていると、やはりと言うべきか、東城さんが近づいてきた。
「おはようですの、神尾くん」
「おはようございます、東城さん。最近俺に話しかける回数増えてません?」
「気にすることはありませんの」
いえいえ、東城さん。気づいてないのか、忘れてるのかはしりませんが、あなたに話しかけられる度に、私に嫉妬と羨望の目線を送ってくる生徒が、結構いるわけですよー。
……まあいいや。
「それで、今日はいったいどんなご用件ですか(※訳 どうからかってくるつもりだ)?」
「ええ、どういたしましょう? お話したい(※訳 からかいたい)ことは、沢山ありますの」
……ふむ、矢島さんと会わせてから、以前の恨みを晴らすかのようにからかってくるな。
……面倒くさい。
「ああ、そういえば、神尾くん。最近夜羽さんに頼み事をされました?」
「? 何で知ってるんだ?」
夜羽に頼み事されたのは昨日だぞ。
「ふふふっ、前にわたくしが夜羽さんに頼み事をするときのやり方を教えてさしあげたことがありましたの。……どうでした? あっさり頼み事を聞いてしまいましたでしょう? わたくしも教えながら、夜羽さんの上目づかいの破壊力にやられてしまいましたのよ」
そうかい……思った通りかい。
でも、普通に頼まれても、よっぽどじゃ無い限り断りはしないけどな。
それに夜羽、たまに本当の無意識に上目づかいしてくるし。
にしても、頼み事か……とりあえず帰ったら風呂洗わなきゃ。
と考えたところで、俺をからかうネタを選んでいる東城さんが目に入り。
……………………おお。
「東城さん」
「はい、どうしましたの?」
「うちのお風呂に入らない?」
「…………はい?」
「だから、うちの風呂に」
「い、いいいいいいいいきなり、何を言い出しますのっ!!!!!? あれですの!? わたくしが最近からかってばかりだから仕返しですの!!?」
「いや、じゃくて」
「ではなんだと言うんですの!!」
どうしたんだ? 東城さん、いきなりテンパりだして。
「実は、か「かくかくしかじかとか言ったら本気で怒りますのよ!!」……はい、ごめんなさい。ちゃんと説明します……」
むぅ、すっかり手強くなってしまった。
結局、昨日の経緯を一から説明した。
――もちろん、以前に勃発した『一緒にお風呂』うんぬんの騒動は省いて、だ。
そして東城さんが一言。
「……最初からそう言ってくださいの……」
そう、疲れた表情で呟いた。
「言ったよ」
「あんな誤解を招くような言い方では何もわかりませんの!!!」
「……? どう言うことだ?」
誤解とは、一体?
俺がそう言うと、東城さんは目を見開き、
「ま、まさか、先程のセリフはワザと言って、からかったとかではなく、真面目に言いましたの…………!?」
「からかい……? 今日は一方的にゆっぴーからやられたと思ったけど」
「……多少鈍いところがあるとは思ってましたが……ここまでとは思いませんでしたの……!」
いや、俺はどちらかと言えば物事には鋭い方だと思うが……。
「それよりゆっぴーさんや、結局受けてくれるのかい?」
「…………神尾くんがよろしいのでしたら……か、かまいませんの」
「ん? 俺がってどゆこと?」
「自分で考えてください!!」
そう言って、ゆっぴーは自分の席に戻っていった。
てか、途中からずっと『ゆっぴー』って呼んでたのに、ツッコミをくれなかった……。
ふむ、にしても一体なんだと言うんだ。
その時は全く気づかなかったが、家に帰って夜羽に、東城さんが風呂の入り方教えてくれる、と説明した後、ちょっとしてから来た東城さんが顔を真っ赤にして、
「か、かか神尾くんは決して自分の部屋から出ないでくださいの……!」
と、ややどもりながら言ってきたときに、唐突に気がついた。
――……あれ? 俺、学校で東城さんにとんでもないこと言った?
あー、俺は……あれか?
女の子に?
男の自宅で?
風呂に入ってくれって?
…………そりゃ、ああいう反応見せるわ……。
全面的に俺が悪い。
よく受諾してくれたもんだ。
俺は言われたとおり、大人しく自室に籠もる。
流石にからかうとかそう言う次元の話じゃないし。
……たまに風呂場のほうから聞こえてくる二人の声は、妙な色っぽさを感じ、かなり居心地が悪かったが、何もかもが完全に自業自得なので、テレビなどで、必死な気を紛らわせた。
そして約一時間後。
「神尾くん」
「ん、んー……?」
部屋のドア越しに東城さんが話しかけてきた。
「終わりましたの。……いいお湯でしたの。夜羽さんにはちゃんとお風呂の入り方を教えましたので」
「そ、そっか、わざわざありがとう。それと……その、すみませんでした……」
「ああ、やっと気がつきましたの。…………本当に恥ずかしかったんですのよ……」
「本気ですみませんでした!」
東城さんは呆れたようにため息をつき、
「もういいですの。今後さえ気をつけていただければ。……それではわたくしはそろそろお暇いたしますの」
と言った。
「本当にありがとう、東城さん」
「ですから、いいですの。夜羽さんも楽しそうでしたし、何より私も楽しかったですから」
「……そう言ってもらえると助かる」
「ふぅ、でも頑張ったんですから、埋め合わせを期待してますの。では、失礼します」
埋め合わせ、か。
なんか考えとかなきゃな。
しかし、これでやっと夜羽は一人で風呂に入れるな。
ただ、次の日の夜。
「ん、シュン。体洗って?」
そう言って、夜羽はいつも、体を洗うときに使っているタオルを俺に差し出してきた。
「あれ? 東城さんに入り方教えてもらったから、一人で入れるだろ? それとも風呂は好きじゃなかったか?」
「んーん、確かにユリカとのお風呂、楽しかったし、さっぱりもしたけど」
「けど?」
「ん、ワタシはシュンにしてもらう方が好き」
「そ、そうか……」
東城さんの頑張りを割と無駄にしてしまう発言をした夜羽だった。
ちなみに、この発言で俺の顔は真っ赤になったのは、言うまでもない。
「ん、でもたまには一人でお風呂入るの」
…………だそうだ。東城さん、無駄にならなくてよかったね。
またしつこく風呂の話を引っ張ってしまいました!
一応、ゆっぴーが夜羽の事を知った後すぐにやろうかなって考えてましたが、本編の都合上入れられませんでした。
感想お待ちしておりますっ!