お嬢様のツッコミ疲れと今後の彼の憂鬱の話。
案内された場所に腰掛け、東城さんに興味の眼差しを向ける矢島さんに、俺は言う。
「実は、かくかくしかじかと言う事になってます」
「またそれですの!? いい加減にしなさい、神尾くん!」
「なるほど、大体わかった」
「わかりましたの!? 何故ですの!? 一体どこで理解しましたの!」
うーん、いい感じにツッコミ頑張ってるなぁ、東城さん。
俺も矢島さんも笑いをかみ殺す。
「それにしてもさすが矢島さん。即座に被せてくるとは」
「うん、まあね。何となくだけど。でも紹介より先に、からかうことを優先してくるとはね……」
「わたくしも初対面でからかわれるとは思いませんでしたのっ!!」
俺と矢島さんの会話に全力でツッコむ東城さん。
すでに若干息が切れはじめてるので、本題に入るか。
「矢島さん。こちらはクラスメートの東城ゆりかさん。矢島さんに会いたいってことなんで連れてきました」
「僕に? 理由は?」
「その辺は東城さんに聞いてください」
矢島さんが東城さんの方を向く。
東城さんは本編に入った事を悟り、静かに深呼吸して、話し出した。
「本日訪ねたのは、矢島獣医に聞きたいことがあってですの。でもその前に知っていてもらいたいのが……
わたくしも夜羽さんのことを、知っていますの」
……まあ、そのことを知ってもらわないと話は出来ない、か。
矢島さんもすぐにその言葉の意味を察し、軽く目を見開いてこっちを見てくる。
俺はその視線に苦笑いで返し、話の補足をする。
「……色々ありまして、まあ、偏に東城さんの観察力の賜物、ですかね。あ、でも東城さんに話したのは夜羽も納得してのことですんで」
「……うん、君らが話すことを選択してのことなら、僕からは特に言うことはないよ。……それで、東城さん……だったね? その上で聞きたいこととは?」
矢島さんが真剣な表情で東城さんを見る。
東城さんはその真剣な視線に応えるように、口を開いた。
「ええ……聞きたいことはただ一つ……」
矢島さんが息をのむ。
「神尾くんが夜羽さんにしたプロポーズまがいの行為についての真偽を確かめたいですの!!!」
「…………へ?」
矢島さんの真剣な表情が、ポカンとした表情に変わる。
ちなみに俺は、一瞬その緊迫した空気に呑まれそうになったが、学校での会話を思い出し、この会話を真剣に聞くのをやめていた。
東城さんは俺や矢島さんの様子にかまわず、話を進める。
「神尾くんの話だと、聞きようによってはプロポーズに聞こえるとのことですけれど、実際はどうなんですの? 神尾くんも夜羽さんも内容については教えてくれませんでしたし」
「……………………」
矢島さんはしばらく、黙って東城さんの話を聞いていたが、その後チラリと俺の方を見て……ニヤリと笑った。
……あんまり良い予感がしない。
もちろん、そんな俺の不安は的中する。
「そうだねー……僕に話せることなら、教えてあげてもいい」
「本当ですの!?」「ちょい、矢島さん……」
俺の声は無視され、矢島さんは東城さんとの会話を続ける。
「本当だとも。ただかわりに、東城さんからは神尾君の学校での話を聞かせてもらおうかな?」
「なるほど、情報の交換ですのね。いいですのよ」
あー……何か本人の許可なしにいろいろ話が進んでる……。
そろそろ止めないと、
「ああ、神尾くん。もう帰ってもよろしいですのよ? 後は矢島獣医と二人でお話いたしますので」
……止めないと、
「神尾君、そろそろ帰らないと夜羽ちゃんに怒られるよ」
…………もう、面倒くさい……お好きにどうぞ。
別に矢島さんに学校でのこと聞かれるのは問題ないし、ここでの話も特に聞かれて困るものじゃないからいいんだけど、何か釈然としない。
なので部屋を出る直前、かなり念を込めて言う。
「ハゲてしまえ」
……うん、矢島さんのテンションが、がた落ちしたから良しとしよう。
しかしまあ、今後は逆に東城さんにからかわれることも増えるだろうな……。
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