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黒い鳥さんと一緒。  作者: 蛇真谷 駿一
夏休みで一緒。
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獣医の驚きと理解と彼の考えの話。


 僕は、神尾君を待っている。

 落ち着かない。


 それもそうだろう。昨日、電話での神尾君の様子は明らかに妙だった。何かに困惑している様子で、なんと言うか彼らしくなかった。


 神尾君は昨日、「明日話しましょう」と言っていた。

 それはつまり、あのとき状況を整理できていなかったと言う事になる。いつもの彼から考えると、とても珍しいことだ。


 何時ごろ来るんだろうか。時間までは聞いていない。


「先生、もうお昼の時間ですよ。」

「! ……ああ、すまない」


 気づけばもう昼過ぎだった。ずっと考え込んでいたらしい。


「……失礼しまーす」

「あら? こんにちは、神尾君。いらっしゃい。……えーっと、その……」

「こんにちは、春川さん。あーっと、これは、その、後で話しますよ。あはは」


 どうやら神尾君が来たらしい。でも、わざわざ昼休みの時間に来るってことは、あまり聞かれたくないのだろう。


「や、神尾君。よく来――って、え?」

「……あははは。……どうも……」


 昨日、電話先で神尾君が戸惑った理由が少しわかった気がする。

 どうも昨日から驚きっぱなしだ。



 神尾君の腕には、昨日ここから消えたカラスが抱えられていた。



「……で、いったいどういうことか説明してもらえるんだろうね。神尾君」

「えーっと、まあ、俺が説明できる部分は」

 今、ここには僕と、神尾君。――それと、一羽のカラスがいるだけだ。


 ちなみに、他の皆は、基本的に外食しているのでここにはいない。春川さんはお弁当だったのだが「私は邪魔になりますから」とわざわざ外出し、公園で食べるそうだ。本当に空気の読める人で良かった。


「……簡単に言えば、そのカラスがここを脱出して、俺の家のベランダまで飛んできたって事なんですけど……」

「いや、でも、あのわずかな時間でカラスがここを脱出できるなんて考えられないし、この傷で、空を飛んで、わざわざ神尾君の家まで行くなんて……」


「……そんな事言われましても、実際、ここを抜け出して、俺の家のベランダにいた。それは事実です。それに、俺もよくわかってない、ですよ……」


 なんとなくだが、わずかな違和感を覚えた。まるで何かを隠しているような。

 それはほんの少しの違和感で、気のせいだったと言えばそれまでだ。


 でも、もし何かを隠しているなら、今はそっとしておくべきのように感じた。

 それに僕が今聞いても神尾君を困らせるだけだろう。


 いや、彼の事だから、嘘だとばれた時の対処法も考えて来ているかもしれない。


 何にせよ彼は、いずれ全て打ち明けてくれる。それまで待ってみるのも悪くない。


「……んー、まあ、何はともあれ、カラスが帰ってきた事には変わりはないさ。これで治療も出来るしね。よかった、よかった」

「あ、その事なんですけど、俺に簡単な治療の仕方を教えてくれませんか?」

「え? どういうことだい?」


「えっと、ほら、もう手術も終わったし、後は安静にしていればいいみたいだし。だったら俺の家でも出来るんじゃないかと。それに、昨日矢島さん、カラスが暴れたって言ってましたよね。でも、俺が触っても暴れたりしないんで、しっかり休めるかなって思って」

「もしかして、このカラスを飼うつもりなのかい?」


「……まあ、一緒に住むつもりではあります」

「……野生動物を飼うには申請が必要だったはずだけど」


「…………………………ばれなければ」

「ああ……めんどくさいんだね? 獣医として、と言うより大人としてそういうことはしっかりしてもらいたいところだけど、友人として君の性格は知っているからね。申請のほうはこっちでやっておくよ。コネとかもあるし」


「ありがとうございます」


「とりあえず。まずは基礎から教えるけどいいかい? それと飼うのが無理そうだったり、怪我が悪化したりしたら、すぐにこの病院に連れて来てもいいからね」

「はい」



 本当に珍しい事もあるものだ。


 神尾君がこのカラスを、動物を飼おうとするなんて。

 いや、「飼う」って言葉はやめたほうがよさそうだ。




 神尾君はわざわざ、「飼う」を「住む」に言い直していたのだから。


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