一方、少女とその周辺の話。
学校が終わった後、掃除のために私は残っていた。
そして唸っていた。
一応掃除も終わって、後は帰るだけなんだけど。
「うぅ……気になる……」
藤森君のおかげで、妙な勘違いは解けたけど、その後待ち合わせの約束をしてた気も……。
「んな、気にすることじゃないと思うけど? 何か知り合い紹介するだの言ってたし」
「知り合い……? んー、でも何か家に行くとかも聞こえたし……」
「神尾が人を招き入れるとは思えんけどね。てか、俺なんか家の場所すら知らないし。……飯田さんはあいつん家は入ったことあるの?」
「え? あー、何回か。でもあんまりいい顔されなかったから……。」
「いや! 落ち込むこと無いって。あいつの家に案内されただけでも信頼はされてるってわかるし、今回も待ち合わせしたって事は、家に招くつもりは無いってことだろ?」
「そう……かな?」
うーん、そう言われるとそう思えてくる。
「そうだよ! それにどうしても気になるなら明日委員長に聞いてみればいいさ」
「そう、だね……うん、そうする!」
そして、私と藤森君は二人で笑いあう。
「それはそうとさ、飯田さん」
「んん?」
「どうして、彼を捕まえてるの?」
そう言って藤森君は私が掴んでいる人物を指差す。
「………………………………」
特に抵抗するでもなく、ただ黙ってる志戸塚君を。
「え? いや、志戸塚君にも相談に乗ってもらおうかなって思ったから」
今日は志戸塚君も掃除当番。
いつもは掃除後にそそくさと帰ってしまうのを止めて、捕まえておいたのだ。
「えっと、俺は志戸塚とあんまり……って言うかまったく話したことは無いんだけど……見る限りすごく嫌そうな顔してるけど」
「そんな事無いよ! 私たち友達だし、ね? 志戸塚君?」
「………………………………」
「…………人間、諦めの境地に至るとこういう顔するのか……」
藤森君がよくわからないことを言ってるけど、まあいいや。
すると、志戸塚君がやっと声を発した。
「……………………相談、とやらは解決したと見える。ならもう帰して……」
「うぉ!? お、俺……志戸塚の声初めて聞いたかも」
「えぇ!? ついでだから三人で一緒に帰ろうと思ってたのに」
「…………人間、絶望の淵に立つとこういう顔するのか……」
む、藤森君がまたよくわからないことを言ってる。
「…………いや、急いで帰らなければいけない用がある」
「そうなんだ……なら仕方ないね? あ、ゴメンね、引き止めて」
「……………………いいよ……どうでも……」
志戸塚君は早足で帰っていった。
「行っちゃった……。ほんとに急いでたんだ……悪い事したな……」
なにも考えずに引き止めてたけど、志戸塚君にも予定はあるよね……。
今度から気をつけなくちゃ。
ちなみに私が反省してる間、
「うーん、志戸塚も結構、面白い性格してるなぁ。苦労人っぽいし。よし、今度から話しかけよう」
藤森君は妙な決意を固めていた。
「それじゃあ、藤森君一緒に帰る?」
「いーよ」
その後は二人で他愛も無い話をしながら歩いていたら、ちょっと遅い時間になってしまった。
「お、俺はこっちだ。飯田さんはそっち?」
「うん」
「そろそろ暗くなるけど、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ。近いし」
「そっか、じゃあ……って、あれ神尾か?」
藤森君が別れの言葉を言おうとしたところで、近くをスーパーの袋を持った瞬君が歩いていった。
まあ、瞬君はこっちに気づいてなかったみたいだけど。
「ほんとだ。ゆりかちゃんとのお話終わったのかな?」
「じゃないか? にしても買い物の量、多っ!!」
「あ、多分纏め買いじゃないかな? それに二人暮らしだしね」
「あ、そうか。一人分で考えてた……って、ん!? 飯田さんは二人暮らしって知ってるんだ」
藤森君が驚いた表情で見てきた。
私にしたら藤森君がその事を知ってるのにびっくりだよ。
「藤森君こそ、夜羽ちゃんの事知ってるの?」
「夜羽ちゃん? いや、名前までは知らないけど、一人増えたって事だけは。……飯田さんは……あ、家に行った事もあるからか」
「うん。その子は神尾くんの遠い親戚で、夜羽ちゃんって言うんだけど、いい子だよ?」
「へぇ、今度紹介してもらお」
無理だと思うけど……。
「それにしても、買い溜めには少なかった気もしたなぁ。……もしかして、家で委員長にご馳走する分だったりして?」
「え……?」
「…………いや! 冗談だよ!?」
「あ、うん。わかってるけど……」
まさか、ね……?
志戸塚君は夏休み以降いろんな人らに目を付けられてます。
これからも彼の受難はあまり語られず、続くでしょう……(笑
ちなみに、まだ飯田さんのターンではありません……。
もうちょっと先です。