核心に迫る話。
少し真面目な話になってます。
東城さんの放った一言は、俺と夜羽を硬直させた。
「夜羽さん。あなたは一体誰なんですの……?」
それはあまりにもまっすぐな質問。
夜羽はまだ固まったままだ。
下手に動揺して妙なことを言うよりはいいのかもしれない。
東城さんがどういう意味で言ったのかはわからないが、俺は出来るだけ平静を装って返す。
「……自己紹介は済んだはずだろ。こいつは家で預かってる遠い親戚で」
しかし俺の言葉を遮るように、東城さんはしっかりと目を合わせて答えた。
「言いましたの。下調べは済んでいると」
「……なんだって」
下調べ……さっきの夜羽が質問したことに対して、答えたときに使った言葉。
それが意味するのは……。
次に東城さんがなにを言うのかを予想できてしまった。
だが俺は、その予想が外れることを願いながら東城さんの言葉を待つ。
だが、
「神尾くん、失礼だとは思いましたが、まずあなたの事調べさせていただきましたの」
「――――っ!! …………」
やはりそうだった。
願いもむなしく、俺の予想が当たってしまう。
そして東城さんは話を続ける。
「あなたに夜羽さんという親戚の方は見つかりませんでしたの。と、言うよりまず、親戚と呼ばれる人があなたにいること自体が確認が取れませんでしたの」
「…………調べが足りなかっただけだろ?」
「……本当に、そう思いますの?」
「…………………………………………」
正直、思ってはいない。
それは東城さんの実家がどれだけ金持ちで、どれだけの情報を手に入れる事が出来るか……などはまったく関係ない。
元々、取って付けたような適当な設定。
誰かが調べれば簡単にわかってしまう事も想像はついてた。
「シュ、シュン……?」
黙ってしまった俺を気遣い夜羽が声をかけてくれた。
夜羽自身もだいぶ動揺して、オロオロしていた。
「……大丈夫だから」
気休めにしかなら無いだろう言葉を吐いて、夜羽の頭に手を乗せ、落ち着かせる。
それを見ていた東城さんが、また少し考え、改めて口を開いた。
「わたくしがこのことを知ったとき、まず最初に、家出少女を人のいい神尾くんが匿っている、と思いましたの。実際、その可能性が最も高いですし、現実的ですの」
「…………」
「倫理的にも問題ありますし、隠すとしたらそういう事情があるとも思ってますの」
今の時代ならそういう事もあるのか……。
でも、それならそれで通すか。俺がどう思われようとも。
「……ですからわたくしがこれから話すことは、さっきまでとは関係ない、妄想とか夢物語と思って聞いてくださいの」
「…………え?」
唐突な言葉に俺は、少し動揺していた。
「わたくし、夜羽さんに会うのはこれで二回目、ですの」
「……ああ、そう、だな」
「ですが、わたくし夜羽さんの雰囲気を別の所でも感じた事がありますの」
「……? それは、散歩中に会ってたとかそういう?」
東城さんは首を横に振り、否定した。
「わたくしが夜羽さんと同じ雰囲気を感じたのは……学校で、ですの」
「なにを言って…………?」「…………?」
俺も夜羽も話を理解できていない。
だが、東城さんは俺たちの疑問を気にせず話を続ける。
「少し前に、教室にカラスが入ってきた事がありましたね」
「っ!!!」「あっ……」
俺が声を出さずに、夜羽は少し声を漏らしながら驚いた。
そして思い出す。
そうだ、あの時一度だけ夜羽がカラスの姿で学校に来ていた。
「改めて今日、夜羽さんと会って事で、ハッキリとわかりましたの。夜羽さんはその時のカラスと同じ感じがするんですの」
「……東城さん……そ、それは、勘違いじゃ?」
「そう、思いたいですけど、多分、違いますの。……わたくしは動物と会話が出来るわけではありませんが、他人の表情を読むことは得意ですの。それが動物にも通用するのかはわかりませんけど、あの時の神尾くんはしっかりとカラスと意思疎通が出来ていたように見えましたの」
「…………っ!」
俺もなんとなくだが、カラスのときの夜羽が何を言いたいかがわかるようになってきていた。
だが、たった一度学校に来ただけで、東城さんはそれがわかったと……。
俺の動揺をよそに、東城さんは言いづらそうに目線を下げ、話を続ける。
「わたくしだって、おかしなことを言ってるのはわかってますの。でも学校にカラスが来たときに感じた違和感は、この答えじゃないと落ち着きませんの」
「…………東城さん」
「夜羽さん! あなたは……!」
「東城さんっ!!!」
「っ……! な、なんですの……?」
このまま自分で結論を出そうとする東城さんを制止する。
大きな声を出してしまったせいか、東城さんは少し動揺している。
「……でかい声出してゴメン。……さっきは断ったけど、やっぱり……俺の家で話そう」
俺の言葉に東城さんの表情が、動揺から驚きに変わった。
「え……? それは…………」
「…………夜羽……いい、よな……?」
俺はあいまいな言葉で夜羽に提案した。
恐らくこれだけで何が言いたいのかはわかっていると思う
「……………………ん」
夜羽はしっかり考え、俺の提案を承諾した。
「じゃ、東城さん。行こうか」
「…………ええ、行きますの」
そして、ゆっくりと俺の家に向かい歩き出す。
夜羽のことを教えるために。
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