彼女とお嬢様と店員さんによる、言葉遣い議論の話。
続きになります。
言ったとおり、アイスを購入していると、東城さんがアイスを真剣に選ぶ夜羽を、食い入るように見つめていた。
「………………ぱり……じ……」
何かを呟く東城さん。
よく聞こえなかったこともあり、俺は声をかける。
「東城さん? 何か言った? それに、どうしたんだ、そんなに夜羽をガン見して」
「い、いえ!? なにも言ってませんし何でもありませんの! さて、これからどうしますの?」
「あー……なんとなく、ここで話すことになりそうです」
俺の目線の先には、いつの間にやら用意された椅子とテーブル、そして笑顔で椅子を引く店員のお姉さんがそこにいた。
東城さんも特に反対することなく、アイスを片手に自己紹介が始まった。
「コホンッ! まずは自己紹介ですの。わたくしは、東城ゆりかと申しますの。あなたのお名前は?」
東城さんの話し方が若干、子供に対しての話し方のような気がしたが、夜羽はいくつに見られているのだろうか?
「ん、夜羽。よろしく、ユリカ」
「よろしくですの……って、いきなりタメ口で呼び捨てですの!?」
「ん……?」
今までに無い反応だった。
確かに言われて見れば、誰に対してもこんな感じだったな。
「……シュン……? ワタシ何か間違った?」
俺は、若干不安がる夜羽に軽く首を振り、東城さんに向きなおした。
「東城さん、その辺はいいと思う。……さほど気にするとこでもないだろうし」
「神尾くん! 幼いときからちゃんとした教育を施さなければいけないんですのよ!」
「幼い……って、ほんとにいくつだと思われてんだか……。そこにつっこんだのは東城さんだけだよ。あの志戸塚でさえ受け入れたんだし」
「――っ!! し、志戸塚くんが……名前の呼び捨てを受け入れた……! ってそんなに驚くことでも無いじゃありませんの。単に面倒だっただけですの」
志戸塚の性格を完璧に理解してる……。
いつの間にそんな仲良くなったのやら。
「あいつもそんな嫌がってる顔はしてなかったけどな。まあ、東城さんが嫌だって言うなら、名前の呼び方ぐらいは、変えてもらえる。……ただ、話し方はずっとこうだから無理だと思うけど」
「わかりましたの。それで我慢を「ちょっといーですかー?」……はい?」
東城さんが妥協案を受け入れようとした時、予想外の横槍が入った。
アイス屋のお姉さんだ。
「いきなりなんですの!?」
「えっとー話を聞く限り、この子、夜羽ちゃん、ですがー、会う人みんなに同じ様に話してるんですよねー?」
東城さんは軽く怒っていたが、まったく気にする様子なくお姉さんは話を続けた。
「ん、そう」
「それで、ゆりかちゃん、あなたはそれが嫌だとー」
「嫌だなんて言ってませんの! ただ、しっかりとした言葉遣いを」
しかしまたもお姉さんは東城さんの言葉を遮り、
「でもそれだとゆりかちゃんだけ別扱いになっちゃいますねー?」
と指摘した。
「え?」「ん?」「……ああ」
東城さんと、夜羽は疑問符を浮かべていたが、俺はなんとなく納得していた。
「だってー、夜羽ちゃんはみんなに分け隔てなく一緒の態度をとってるわけですー。どんなに目上の人でも夜羽ちゃんは変わらないでしょー。でも、今ゆりかちゃんが自分だけ呼び方を変えさせたら、ゆりかちゃんは一生、夜羽ちゃんとの距離は縮まらないですー」
「……えっと、言ってる意味がちょっと良くわかりませんの」
「……ん、わからない」
二人ともよくわかってなかったので、俺が多少付け足す。
「例えば、俺が東城さん以外クラス全員とタメ口の呼び捨てで話してて、東城さんだけ敬語でさん付けだったら、俺と東城さんは仲良いと思う?」
「……その場は状況にもよりますけど、傍から見たら一人だけ馴染んでないように見えますの」
「そういうこと。……夜羽が会う人全員に口調を変えないのは、それが仲良くなるために必要なことだと思ってるからかもしれない」
思い返せば、夜羽が初めて人と……俺と会話したとき、俺が敬語を使ってなかったから、夜羽もそうしてるのかもしれない。
東城さんはチラリと夜羽を見て、
「ふぅ……わかりましたの。今までどおりで良いですの」
「そりゃ良かった。……だってよ、夜羽」
「ん…………そもそも、何の話?」
ああ、そこから良くわかってなかったのか。
「とりあえず解決したからいいよ」
「ん、わかった」
「……………………」
俺と夜羽が話している所を東城さんは、何かを考え込むように見ていた。
言ってる事ちょっと訳わからなかったですかね……。
とりあえず、感想等お待ちしてます!
それにしても、アイス屋の店員さん、名前とかどうしようかな。