彼が正す友人の勘違いの話。
東城さんの話はそれだけだったようで、からかわれたことに若干憤慨しながら席に戻っていった。
「ふぅ……なんか、面倒くさいことになってきたな……」
軽く息を吐きながら、呟くと、何やら大きく顔を引きつらせた藤森が近づいてきた。
「神尾……さん? 君は委員長と一体どんな話をしてたのかね……?」
「ん? なした? そんな変な顔して」
「そりゃ……ねぇ? ちょくちょく聞こえてきた話し声のせいで」
「なんだ、盗み聞きか」
「違うわ!! 会話の内容は聞こえなかったが、時折委員長の叫び声が聞こえてたんだよ!!!」
俺が何の気なしにそういうと、ものすごい勢いで否定された。
「そうか」
「………………そもそも、なんでそんな冷静なんだ?」
「何がだ?」
「………………冷静ってことはそんな深い話じゃなかったのか……? いや、それにしてはさっき聞こえたセリフの数々は怪しすぎるが……」
藤森はブツブツと何かを言いながら、考え込み始めてしまった。
何を言ってるのかは聞こえないが、恐らくさっきの東城さんとの会話でも深読みし過ぎてるんだろう。
「東城さんとは別に大したこと話して無いぞ。ちょっと俺の知り合いに会わせろとかそんなん」
「……さっき聞こえたセリフでは、まったく違うことを想像させられたが」
何を言ってるんだ、こいつは。
……セリフ……?
「ああ、軽く東城さんをからかって遊んだだけだ」
「からかって……遊んだ……? …………はっ! まさかさっきの、私のことは遊び、うんぬんってのは!! ……っく! よく考えればこいつがそんな遊びなんてありえるわけも無い……!」
「お前は一体なに言ってんの……?」
「うかつ! 俺!」
もうつっこむの面倒くさくなってきたな。
寝よ……。
「それにしても、そんなに委員長と仲良かったっけ? お前」
寝ようとしたが、藤森に阻止された。
いつの間にか、いつもより高いテンションの頭がおかしい奴から、通常の頭がおかしい奴に戻ったようだ。
とは言え、テンションが通常でも、おかしい奴なのは変わりないようで、また妙なことを言い出した。
「いや、前に比べて特別仲良くなったっていう感覚は無いな。元々たまに話す程度だったし」
「……神尾が俺をどういう風に思ってるのかは置いといて、俺が見た限り、お前が誰かと、特に女子と会話が長続きしてるのは、飯田さん以外には見た事がなかったが」
またなんか心の中を読まれた気がする。
顔に出てたか?
まいいや。
「飯田ともそんなに話してるつもりもなかったんだが、前と違うってんなら、お前が言うとおり、俺が変わったって事だろ」
「んー……まあ、そうだろうな。とりあえず、あんまり委員長と仲良くしすぎると、飯田と喧嘩になるから
気をつけろよ? 同棲してるって言う女の子の件もな」
「……? 飯田と喧嘩? 何で」
「何でって、付き合ってんだろ? お前ら」
……ああ、そういえばこいつそんな風に勘違いしてたんだっけ。
「いや、付き合って無いよ」
「はぁ!? え!? 何、別れたってこと!?」
「いや、もともと付き合って無いって」
「だって、お前否定しなかったし!」
「面倒で。肯定もして無いだろ?」
藤森の顔が面白いように驚愕に変わった。
「おまっ、え!? じゃ、何でいつも飯田さんと一緒に」
「さあ? それは俺に聞かれても……あいつが付きまとってきただけだし。なんて言うか……懐かれたって感じ」
「それは……予想外だったわ……」
「そうかい。もういいか? 俺はちと……眠る……」
休みの日は、あんまり休めなかったから、まだ疲れが残ってるんだなぁ……。
寝落ちる寸前、藤森がなんか言うのを聞いたような気がした。
が、今度は阻止されてたまるか……。
――おい! 寝るな! 付き合ってないのはわかったが、とりあえず教室前で委員長のセリフを聞いてた飯田さんのフォローはしろよ!!
気の……せい……だな……。