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黒い鳥さんと一緒。  作者: 蛇真谷 駿一
夏休みで一緒。
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獣医の困惑と彼の困惑の話。


 電話の相手からの返事がない。やはり戸惑っているのだろう。



 電話の相手――神尾君があのカラスを連れてきたとき、ちょうど患者さんが居なくなった直後だった。

 神尾君はいつも、面倒くさがりながらも、周りに気を配り、何か起きれば、感情に左右されず、正確な判断を下せる冷静でとても頭の良い子だ。

 その神尾君が動揺し、焦っている。


 僕にとって衝撃だった。


「神尾君! 落ち着きなさい! とにかくそのカラスをこちらへ!」


 僕は驚きつつも、治療を始めるようと必死に状況を説明しようとする神尾君から、怪我をしたカラスを預かった。


 神尾君はどこかそのカラスと離れたくなさそうに見えた。


 カラスの怪我は酷く、かなり危険だ。

 手術か必要のようだ。


 手術が終わるまで、神尾君は頑なに残ると言っていたが、たとえ一人暮らしとはいえ、高校生である彼を、遅くまで外出させておくわけには行かず、必死に説得し、何とか帰宅させた。




「……先生、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様。君は着替えたら先に帰っても良いよ。あとは僕一人で十分だ」

「はい。……結構時間かかりましたね」

「……そうだね、でももう大丈夫だ」


 傷が多かったのでさすがに手術は時間がかかったが、何とか成功した。後は安静にしていれば問題ないだろう。

「では先生、お先に失礼します」

「ああ、お疲れ様」


 スタッフを見送った後、椅子に腰を下ろした。僕はかなり疲れていた。だから少し休憩を取っていただけで眠ってしまったのは、仕方ないと僕は強く言いたい。



 物音が聞こえ、目を覚ますと、一時間ほど経っていた。

「神尾君に連絡も入れず、悪い事をしたな……」


 ともかく、物音が聞こえた方を見に行くと、カラスすでに目を覚ましていた。

 容態を見ようと、触ろうとした瞬間、激しく抵抗された。

 術後すぐだと言うのにこのカラスの暴れ方はものすごく、本当に怪我をしたのかと思ったくらいだ。


 しかしいくら元気でも、このカラスは怪我をしていて、手術したばかりだ。安静にしていてもらわなければ困る。


 少し離れれば、カラスも大人しくなった。

 やはり野生動物。人間慣れはしていないのだろう。


 とにかく神尾君に連絡してあげるべきである。

 あのときの彼は必死だった。


「……きっと心配しているはずだ」


 どうせなら携帯のテレビ電話で元気な姿を見せてあげようと思った。連絡が遅くなってしまった事のせめてものお詫びだ。


 しかし、携帯を探すのに思ったより手間取ってしまい、急いで戻る。




 だが、そこにカラスの姿はなかった。





『……あー……えーっと……そう、ですか……』

「……神尾君?」


 やっと返ってきた電話の返事は、何かに困惑しているようだった。

『……はい。わかりました。えーと明日そちらにお邪魔します』

「ごめんね神尾君。こちらの不手際だ。どうやって出たのかまったくわからないんだ。――やっぱり怒っている……よね?」


『あ、いえ。……あの、手術は成功したんですよね』

「……ああ。……後は安静にしていれば問題なかったんだけど……」

『えーっとだったら大丈夫です。大丈夫……だと思い、ます』

「? え、怒ってないのかい? それに大丈夫って、何が大丈夫なんだい?」

『あー……っと、……明日! 明日いろいろ話しましょう!』

「あ、ああ……わかった……。明日だね……。待ってるよ。本当にごめんね」

『はい。また明日』


 電話を切った後も、残りの仕事を片付けている時も、ティッシュの袋に絵を描いてる時も、カラスのことと、神尾君の言葉が頭から離れなかった。


 あのカラスはどうやってあの場所から出たのだろう。


 神尾君が言った「大丈夫」とはいったいどういう意味だろう。




 どうしよう。疲れているのに気になって眠れない。

「ヤバイ……明日も早いのに……」


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