ある休みの日の午後の話。
家に帰り、昼食を作っていると、夜羽がそっと近づいてきた。
「ん、シュン……それ、どうやるの?」
「んあ? それ……って?」
「ご飯作るの」
「あー……やってみたいのか?」
そう尋ねると、夜羽は何も言葉を発さずにコクコクと首を縦に振る。
その様子になんとなく和んでしまい、無意識に夜羽の頭に手を置いた。
「ん…………?」
夜羽は特に抵抗を示さなかったが、不思議そうな顔を俺に向けていた。
夜羽の表情を見て、自分が無意識に行なった行動に気がついた。
若干動揺したものの、それを隠しながらスッと夜羽の頭から手を下ろし、話を続ける。
「と、とりあえず今はもう大分出来上がっちゃったから、明日な?」
「ん」
その言葉に納得したようで、夜羽は元いた場所に戻っていった。
夜羽がいなくなった後、こっそりと息を吐く。
「……ふぅー、いきなり何をしてるんだ俺は……」
昼食後、当初の予定通りにヤジマ動物病院に足を運んだ。
中をのぞくと、相変わらず、患者さんはいなかった。
――この町の人間が飼っている動物を大切にしているということなのだろうか?
「ちわす」「ん、おじゃまします」
そう言い、二人で中に入ると、すぐに矢島さんが姿を現した。
「(……んー……なんだ……? 今日の矢島さん、ずいぶんニヤニヤしてるな……)」
「やあ、待ってたよ? 神尾君」
「……はあ……え、待ってた?」
矢島さんの一言に俺は疑問符を浮かべる。
「まあまあ、話は座ってゆっくりしようじゃないか?」
いつもと違う矢島さんの様子に、俺は口元を引きつらせた。
ちなみに夜羽はポカンと二人の様子を見ていた。
出された椅子に座る俺と夜羽。
矢島さんは常に顔をにやけさせていた。
「……それで、待っていたってなんですか?」
「それは、ほら。夜羽ちゃんに聞いたらどうかな?」
「夜羽に?」
矢島さんの言葉に、隣に座っている夜羽を見た。
「……ん、ワタシ?」
当の夜羽は自分の名前を呼ばれて、目を見開いていた。
夜羽は少し首をかしげ、考え込み、
「む、前に遊びに来たとき、今度は瞬と二人で来るって言った……から?」
とりあえず思い出したことを口にした。
その言葉に、前に聞いた夜羽の報告が頭に浮かぶ。
「ああ、そう言えば前に遊びに来たって言ってたな」
「そういうこと。……色々聞かせてもらったからね」
そう言い、俺を意味ありげに見つめる矢島さん。
「……色々?」
「そ、色々」
「…………夜羽? 矢島さんに何言った?」
「ん? 大した事は言ってない。怪我は大丈夫って事とまだシュンの家にいるって事。後は、ワタシは話さないでイチロウにシュンの事聞いただけ」
「俺の事? って、ちょっ! 矢島さん、何話したんですか!?」
さすがに矢島さんには色々知られている俺は、若干焦りながら問いかける。
しかし必死に説明を求めるも、矢島さんはそれを置いて話し出す。
「まあまあ、その話はまた後。今はそれよりも……」
「……それよりも?」
「夜羽ちゃんの怪我が治った後、夜羽ちゃんに、一緒にいたいって。いなくなると寂しいって言ったんだって?」
「!? ――――――っ!!!!」
矢島さんの問いかけに、言葉をなくし、みるみる顔が赤くなっていき、慌てて夜羽のほうを見た。
「よ、よよよよ夜羽さん!? 何を、言って!!」
激しく動揺中の俺を不思議そうに見る夜羽。
「ん? 何って、前に言ってくれたことをそのまま教えたの。……それよりも顔が赤い。大丈夫?」
「だ、大丈夫だ!」
「ん、そう」
そんな俺たちの様子を可笑しそうに眺めていた矢島さん。
笑いを堪えようとせず、俺をなだめる。
「ぷくくく……まあ、落ち着きなよ、神尾君。君らしくないね? ……まあ、仕方ないか。あんなプロポーズみたいなこと言って、それを別の人に聞かれちゃったわけだから」
「プロッ!?」
矢島の一言に、俺は言葉が詰まってしまった。
そんな俺の様子を矢島さんは、呆れた顔で見ていた。
「やれやれ、やっぱり自覚なしか。……鈍感な上に天然のたらしの才能でもあるのかな……?」
この間夜羽は、プロポーズの意味がわからず、疑問符を浮かべていた。
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